第3話 ゲームみたいな能力、ください
『……はい?』
「だから、ゲームみたいな能力だよ。分かるだろ、ゲーム」
『申し訳ございません、"ゲーム"というものが、具体的にどのような概念なのか、私の方では正確に把握しておらず……』
神様が、初めて本気で困った顔を見せた。
「まあ、いいや。順番に説明する」
38年分のゲーム知識を総動員する時が来たらしい。
『先に確認させてください。強大な魔力、あるいは強力な武器といった、ごく一般的な要望であれば、すぐにでもご用意できるのですが』
「いや、それは要らない」
『……要らない、のですか』
「ああ」
神様が、心底不思議そうな顔をする。無理もない。普通、こういう場面で最強の武器を断るヤツはいないだろう。
「たとえばさ、フィールドで木の枝とか石とか拾えるだろ。それを集めて、道具を作る。斧を作れば木がもっと切れるようになって、その木でまた別のものが作れる。そうやって、できることがどんどん増えていくやつ」
『……素材を集めて、加工し、行動範囲を広げていく、ということでしょうか』
「そう、それ! 分かってるじゃん」
『いえ、"ゲーム"については依然として何も分かっておりません』
「じゃあ今の理解力はなんだったんだよ」
『恐れ入りますが、もう少し具体的にお願いできますか? "ゲーム"というものの特定の機能を再現する、ということでよろしいのでしょうか』
「いや、特定のって言われると、ちょっと違うんだよな」
俺は少し考える。頭の中で、これまでプレイしてきた無数のゲームがぐるぐる回る。
「素材からいろいろ作れる感じもいいし、素材や作り方を変えたら違う性能のものができるのも好きだし、コツコツ積み上げた分だけ結果が出るあの感じも捨てがたい。全部を混ぜたような、俺のためだけの『いいとこ取り』が欲しいんだよ」
『それは、いくらなんでも欲張りすぎでは?』
「贅沢言える立場じゃないのは分かってるけど、死んだこっちの身にもなって、多少の要望くらい聞いてほしいわけよ」
『……それもそうですね』
神様が、ふっと苦笑のようなものを浮かべた。そんな顔もするらしい。
『では、特定の作品の完全な再現ではなく、あなたが好んでいた要素をいくつか組み合わせた、独自の仕組みとして構築してみましょう』
「それだよ、それ!」
『つまり、剣や魔法のような単一の力ではなく、行動そのものを支援する仕組みが欲しい、ということですね』
「そうそう。強い武器を一本もらって終わり、じゃなくてさ。自分で素材集めて、試行錯誤して、少しずつできることを増やしたいんだよ」
説明しているうちに、自分でも少しテンションが上がっていくのが分かった。
「今までできなかったことが急にできるようになる瞬間って、単純にめちゃくちゃ楽しいんだよ。新しい道具ができて、それで新しい場所に行けて、そこでまた新しい素材が見つかって……そういうのが、俺は好きなんだ」
言いながら、我ながら熱くなりすぎているのは分かっていた。だが、長年好きだったものについて語るのに、遠慮する理由はない。
さすがに熱く語りすぎた気がして、俺は一度咳払いした。
「――まあ、そういうわけで。ゲームみたいな能力、頼めるか?」
『……なるほど』
神様が、何かを考えるように目を細める。
『それは一つの能力というより、複数の機能を組み合わせた仕組みに近いのですが』
「そこをなんとか! 一個の『ゲームシステム』ってことで」
『一個、ですか』
「一個で」
押し切る形になったが、神様は特に反論せず、静かにうなずいた。
『分かりました。あなたの求める形を、私の方で一つの能力として構築いたします』
神様の周囲に淡い光の粒子のようなものが集まり始めた。文字とも図形ともつかない、見たことのない光の模様が、空間に何重にも重なっていく。
さっきまでの頼りなさが嘘のようだった。これが神様の本領というやつなのかもしれない。素直に少し感心した。
光の粒子は、まるで意思を持っているかのように形を変え、絡み合い、やがて一つの複雑な紋様となって空間に浮かび上がる。門外漢の俺には仕組みなど分かるはずもないが、それでも「ものすごいことをしている」というのだけは伝わってきた。
『概ね形にはなりました。所持品を保管する機能、素材を使って物を作る機能、そして成立した作り方を記録・管理する機能――この三つを軸に構築しました』
「おぉ……」
胸の奥が、子供みたいにワクワクしていた。
『名称については、いかがいたしましょう。何か特別な名称をお望みですか?』
「いや、そこは別にシンプルでいい。ゲームシステム、みたいな感じで」
『分かりました。では、そのように』
名前一つとっても凝り出したらキリがない。ここは実用性重視でいくべきだろう。
『ただし』
神様の声のトーンが、少し落ちる。
『万能ではありません。あなた自身が素材や方法、この世界の仕組みを知り、実際に試していくことで、使える範囲も広がっていく形になります』
「……え、最初から全部使えないの?」
一瞬、残念な気持ちになる。
『はい』
「……いや、待て」
俺は考え直す。
「それって、むしろゲームっぽいな」
最初から何でもできる能力より、条件を満たして少しずつ解放されていく方が、よっぽどゲームっぽい。
『満足いただけたようで何よりです』
「ああ、最高だよ。それでいい。むしろそれがいい」
我ながら現金なものだと思うが、テンションは完全に持ち直していた。
『では、この能力を、あなたの魂に定着させます』
光の模様が、すっと俺の胸の中へ吸い込まれていく。特に痛みはなかったが、何かが自分の一部になった、という妙な実感だけはあった。
「そういえば、体も26歳になるんだったよな」
『はい。若く健康な肉体をご用意いたします』
若返るのもありがたいが、今はそれよりも、胸に定着したばかりの新しい力の方が気になって仕方なかった。
『これで準備は整いました。今度こそ、安全な場所へお送りいたします』
「その『今度こそ』が、一番不安なんだけど」
『……善処いたします』
「サラリーマンかよ……」
全裸で殺された前科がある相手に善処と言われても、まったく安心できない。だが、この期に及んで駄々をこねたところで、状況が変わるわけでもない。
そうこうしている間にも、周囲の光が強くなっていく。
「せめて、今度は服だけは……!」
願いが届いたのかどうかは分からないまま、視界が真っ白に染まっていった。




