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第20話 まだ、パーティーじゃなかったらしい

 朝食のパンとスープを食べ終えて、ミグレナとギルドへ向かう。


【所持金】750リル


(昨日より増えたとはいえ、これじゃ今日の宿代にも届かない)


 三食きちんと食べて、黒字を残す。その方針は、まだ始めたばかりだ。


 ギルドに着くと、掲示板の前にいつもの位置取りで立つ。俺が全体を見渡せる位置、ミグレナが掲示板に近い位置。


「これ、危険度も低いですし、悪くなさそうですね」


「ああ」


 報酬、距離、危険度、必要時間。頭の中で条件を並べていく途中、ふと引っかかった。


「……この依頼、二人でやる前提で考えてるな」


 一人なら受けられるか、ではなく、二人ならどこまでいけるか。いつの間にか、そういう基準で見ている自分がいた。


「今さらか」


 ミグレナが、依頼票から目を離さずにそう言った。


「今さらですね」


 否定する材料もなかった。




 依頼票を受付へ持っていくと、女性職員が書類を確認しながら、少し首をかしげた。


「お二人、共同受注も増えてきましたし、そろそろ正式にパーティー登録されますか?」


「……ん?」


「パーティー……ですか?」


「そうです。これまでは、その都度共同で受注されていただけなので」


 言われてみれば、そういう手続きをした覚えは、確かに一度もなかった。


「あの、正式登録すると何か変わるんですか?」


「共同での受注管理がしやすくなる程度ですね。報酬配分の記録も残せますし。それと、正式なパーティーの場合は、上位ランクの方が同行するなら、下位の方も一つ上のランクの依頼まで受けられるようになります」


「一つ上?」


「はい。ナオキさんは現在Eランクですから、今まではEランクまででしたが――ミグレナさんが同行するなら、Dランクの依頼まで受注できますよ」


「ミグレナさんって、何ランクなんです?」


「Cだ」


「……C?」


 思わず隣を見る。


「ミグレナさん、Cランクだったんですか!?」


「言ってなかったか?」


「そりゃ強いわけだ……でも、ミグレナさんには、あんまりメリットなさそうですけど」


「そうでもない」


「そうですか?」


「ああ」


 それ以上説明する気はないらしい。


「じゃあ、パーティー、組みます?」


「ああ」


 ずいぶんとあっさりしたものだ。でも、ミグレナならそう言ってくれると思っていた自分がいたことも確かだ。


「では、こちらにご記入ください。パーティー名はいかがされますか?名称は後からでも登録できます」


「パーティー名かぁ……なんだかラノベっぽくなってきたな……!」


「なにかおっしゃいましたか?」


「ごほん、なんでもありません。考えておきます」


 隣に立つミグレナを、思わず横目で見る。魔物の話になれば急に饒舌になるこの人が、パーティー名についてはどんな反応をするのか、少しだけ気になった。


「名前、何かあります?」


「特にない」


「……だと思いました」


 書類にサインをして、受付へ提出する。


「これで正式にパーティー登録完了です。おめでとうございます」


「……で、何か変わりました?」


「いや」


「ですよね」


 感覚としては、昨日までとほとんど変わらない。だが、ギルドの記録の中に、確かに「二人組」として名前が刻まれた。




 せっかくなので、最初に持ってきたものではなく、正式パーティーとして別の依頼を選ぶことにする。


「これなんかどうです?」


 差し出したのは、ハルム近郊にあるダンジョン浅層での素材採取依頼だった。


 受注条件Dランク以上。昨日までの俺なら、そもそも選択肢に入らなかった依頼だ。


「浅層での採取が中心ですし、ミグレナさんもいる。これなら……いけますかね」


「問題ない」


 あっさりとした返事だった。


「正式パーティーになった途端、行ける場所が増えたな……ダンジョンかぁ」


 宝箱。罠。階層構造。未知の素材。ボスらしき何か。ゲームで散々見てきた光景が、頭の中を勝手に駆け巡る。長年積み重ねてきたゲーマーとしての血が、こういう単語一つで簡単に騒ぎ出す。


 だが、すぐに自分で訂正した。


(……いや。ゲーム通りだと思わない方がいいな)


 これまで散々、ゲーム知識を外してきた身だ。期待しすぎて痛い目を見るのは、もう慣れている。


 だが、ワクワクする気持ちまでは消えなかった。警戒しているのに楽しみで仕方ない。


「浅層での魔物の痕跡にも興味がある」


 ミグレナの目が、いつもとは違う輝き方をしている。理由は違えど、この人もダンジョンを楽しみにしているらしい。


「ダンジョンの中って、外とは違う個体もいるんですか?」


「地上とは異なる環境に適応した種が出ることもある。詳しくは、行ってみないと分からない」


 同じダンジョンを見ているはずなのに、興味の向きがまるで違う。俺は仕掛けや構造、未知の素材の方に気を取られているし、ミグレナは中にいるかもしれない魔物のことしか頭にないらしい。


「二人とも、結局は自分の好きな理由で行きたいだけですよね、これ」


「否定はしない」


「俺もです」


 似た者同士、方向は違えど、というやつなのかもしれない。並んで同じ場所を見ていても、見えているものはまるで違う。それでも、悪くない組み合わせだと思った。


「行きますか、明日にでも」


「ああ」


 依頼票を受付へ提出し、受注を済ませる。準備に半日、出発は明日の朝ということで話がまとまった。




 ギルドを出ると、隣にはいつも通りのミグレナがいる。


 それなのに、『正式なパーティーになった』と考えると、余計に心強く感じた。


「どうした?」


「いや、俺にもちゃんと仲間ができたんだなって思いまして」


 剣の柄に軽く触れながら、ミグレナがこちらを見る。だが、それ以上追及する気はないらしい。


「そうか」


 書類の上でパーティーになったからといって、やることが急に変わるわけでもない。昨日までと同じように依頼を選び、同じように動けばいい。それが妙にしっくりきた。


「正式パーティーになったその日に、ダンジョン行きを決めるとは思いませんでしたけどね」


「今さらだろう」


「……それもそうか」


「その前に、準備しないとな」


「ですよね。今日はやることが山積みです」


(明日、ダンジョンか)


 ゲーム通りではない。危険もある。戦闘技術もまだ未熟。


 だが、楽しみだった。


 正式なパーティーとして選んだ、初めての依頼。行き先は、ダンジョンだった。

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