◆ レオ視点:『邂逅』(2.5話)
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愛の泉の前は、今日も喧騒に満ちていた。
桃色に輝く泉。
――愛の神から、伝説の“愛の御子”が現れるというお告げがあった。
〖数百年に一度、神のお告げがあった3日後、愛の泉が桃色に輝きし時、
泉の底から「最も愛に溢れた者が、愛の使者の役割を持つ=愛の御子」として現る。
その“愛の御子”と結ばれると、一族一生の栄誉と繁栄が約束される〗
という伝説。
「……くだらない」
人々は皆、目を輝かせて泉を見つめている。
しかし、その一方で、欲望、期待、嫉妬、打算……、
そんな濁った目も垣間見えた。
「……どいつもこいつも、同じ顔をしている」
くだらない人間達。
俺は幼い頃から、人が纏っているオーラが見えた。
人間の本質が、嫌でも透けて見える。
神の血が濃いせいだろう。
おまけに、『最高峰の加護』と称される称号も持っていた。
持っていたからこそ――、俺はずっと退屈だった。
強すぎる力。
簡単に身につく技術。
寄ってくる人間の醜さ。
称賛も、嫉妬も、媚びも、利用も、欲目も、恐れも、
全部、飽きた。
「……どうせ今回も、愛の神のくだらない茶番だろう」
伝説の“愛の御子”の専属従者を勝ち取ったのも、退屈しのぎに過ぎない。
くだらない人間・くだらない茶番だったら、専属従者の座などさっさと譲ればいい。
そう思っていた。
――その瞬間までは。
ざぱっ。
泉の水面が割れた。
光が差し込み、
そこから“何か”が浮かび上がる。
最初は、ただの人影だと思った。
だが――
「!!…………っ!!!」
息が止まった。
透明だった。
いや、違う。
“澄んでいた”。
泉の水よりも、空気よりも、
……この世界のどんな存在よりも。
その人の“オーラ”は、
まるで磨き抜かれた水晶のように、一点の濁りもなく、
静かで、深くて、……美しかった。
「……こんなオーラ、見たことがない……」
胸が焼き切れるかと思うほど、熱く焦がれた。
その人自身も、その綺麗なオーラに見合うほど美しかった。
立ち上がる姿は凛としていて、
動きに無駄がなく、
氣の流れは静謐で、
それでいて――圧倒的な強者。
「……なんだ、この人は……」
俺が当の昔に捨ててしまったもの。
諦めたもの。
拒絶したもの。
失ってきたもの。
俺が得られなかったもの全て、その人には全部が反映されていて、
その人はずっと、色褪せることなく、曇らせることなく、何一つ失うことなく、持ち続けていた。
それがどんなに凄いことなのか、俺は身を持って分かる……。
――周囲の人間が歓声を上げる。
「お告げの愛の御子様だ!!」
「愛の御子が現れたぞーーー!!」
「結ばれれば一族繁栄だー!!」
わああああーーーー
欲望の渦。
濁った波動が押し寄せる。
だが、その中心で――
彼だけが、静かだった。
まるで、この世界の喧騒など
最初から存在しないかのように。
毅然として、周りを冷静に観察している。
その姿すらも………
「……美しい」
気づけば、
俺はその人のすぐ傍で膝をついていた。
自分でも驚くほど自然に。
『この美しい人が、美しいままでいられるように、大切にお護りせねば』
(どうか、貴方はそのままでいてください)
俺が失ったすべてを、
あなたは持っている。
それは本来、俺のあるべき姿でもあった……。
だから――
(俺が護る。この世界の誰にも、穢れさせない)
何時でも、何処にいても護れるように、この美しい人の御足に、印を結んだ。
これで、決して見失うことはないので、如何なる状況でも駆けつけて御護りできる。
「!?」
俺の存在に気付き、この行為に驚いた様だが、この人は落ち着いた波動で心地よく、俺はどこか満たされた気分になっていて、思わず御足に頬ずりしてしまった。
「…………」
瞬時に俺に敵意が無いことを理解し、しかし、俺が何者で何の目的なのかと、探るように俺を観察していた。
――真っすぐで、力強く、でもとても澄んだ瞳。
その綺麗な瞳が、俺を見ている。いまだかつてない体験。
「………」
何とも言えない高揚感。
こんな綺麗な瞳で見つめられれば、自分も綺麗な存在になっていくような錯覚さえしてくる。
そして、ふっと少し、この綺麗な瞳と顔を試してみたくなった。
「……透き通った綺麗なオーラも、精錬された美しい氣も、上品に整った容姿も、しなやかな筋肉で引き締まってる芸術の様なお体も、、しかも濡れシャツで透けてふふふ」
さて、この変態的発言に、どんな反応をするか………。
「……何か俺に用か?」
低いけど、良く通る綺麗な声。
「……(足を避ける)」
「!!」
足を避けた以外は何も変わらなかった。蔑むでもなく、足蹴にするでもなく、拒絶も罵倒も何もない。表情も態度も、何も変わらなかった。
俺の瞳の奥を覗き込むように、
ただ静かに、‟俺の本質”を見極めているだけだった。
衝撃だった。
全身が震えた。
心を揺さぶられた。
こんな反応も初めてで……すごく新鮮で………とても嬉しかった。
容姿や称号、上辺の言動や行動だけで俺の人間性を見るのではなく、俺の‟本質”を見て‟俺”と言う人間性を見てくれている。こんな人に、いや、
「‟御子様”に、お声を掛けていただけるとは!御子様の専属従者権を勝ち取っておいて本当に良かった!!」
俺はずっと虚無だった。
何にも興味がなかった。
この世界にも人間にも、自分の人生にさえも。
だが今、
初めて『ずっと傍に居たい!』と思った。
初めて知った、“執着”の意味と感情。
その感情は、
あまりにも突然で、
あまりにも強烈で、
あまりにも――深かった。
そして―――満たされた。
その瞬間、
俺の色褪せていた世界に、光が射した。
生きる意味になった。
「今日から絶対に御前を去らず、片時も離れず、身命を賭して昼夜問わず場所も問わず、常に御子様のお隣でお世話をさせていただきますので、一生よろしくお願いいたします!!」
俺は御子様の従者として、
御子様の影となり、剣となり、盾となり、
御子様のすべてを護る者となる。
世界が再び灰色に戻らぬように。
「断る」
嘘偽りの無い、真っすぐな感情と言葉。
「初めての拒絶!」
裏表の無い、真っすぐな心。
御子様は何もかもが綺麗で……。
「痺れます~!御子様!何かご命令などありますでしょうか!?」
御子様が望む限り、
俺は何度でもこの身を捧げよう。
御子様は、俺の光なのだから。
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