暗闇の世界・黎明の空
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みしり、と床の石畳が俺たちの足元から沈み込む。全身の血液が急速に足元へと引っ張られ、肺から空気が強制的に搾り出されるような強烈な圧迫感。
リリーの『月の加護』の光壁が、黒い重力の波に押されてミシミシと歪みを上げ始めた。
その圧倒的な殺気を前に、さっきまで俺の手を奪い合っていた二人が、滑らかな動作で同時に手を離して武器を構える。
俺もN0.83(ヤミ)と周囲の状況を観察する。
「……おかしいな。これだけの重力場が発生しているなら、No.83(ヤミ)の体重は自重で床を突き破って、地下深部まで自爆落下しているはずなんだが」
……なるほど、これは物理的な質量増加ではなく、『錯覚』を起こす脳波へのハックの類と、『精神』への干渉による威圧の類。
気が重い精神的負荷を、体が重い肉体的負荷だと錯覚しているんだな。
『……男も女も侍らせて……そんなに私に焼きもち妬かせたいの…?』
「?」
『……それとも気を惹こうとしているのかしら……?』
「?」
……言葉の意味が一つも頭に入ってこないんだが。
「侍らせているのではなく、私が一方的に吸い付いて離さないだけだ!(変態的正論)そして一生離さない!」
……ホラー予告。
『……なら腕ごと切り離せばいいわ。その後で邪魔な犬は殺処分すればいい』
……バイオレンス告知。
『……最初からずっと、ずぅーっと見てたんだから……。その泥棒猫 (リリー)に結婚の心配をされて、その犬 (レオ)には貞操の心配までされて……。挙句その泥棒猫と犬をわざわざ連れてきて私の前でイチャイチャを見せびらかすなんて……』
……怖い。そしてイチャイチャなどしていな――
『全問正解するほど私を強く求めてたクセに……!」
俺の命を守ってただけ――
『海でも激しく私を追いかけてきたクセに!そのくせ温泉でも旅館でも私を焦らして焦らして……!!』
そっちが一方的に命を人質に取って課した条件だったからな!
合格(生存)しただ――
――ズウウウン
「!」
……おかしいな。リリーの防御壁内からも重い負のオーラが……。
「……御子様とそんな旅行お泊りデートのようなことを……?」
「……御子様と、一通りのテンプレのアレやコレやを……」
「…………」
再び目のハイライトが二人から消えている。というより、なにか曲がった解釈をされてそうなんだが……。
「……二人とも、何か解釈違いを――」
「家畜の分際で……うらやま〇ねーーーーーー!!!」
『……お前が〇ね……』
――ブワッ
「!」
リリーの防御壁内に居たハズのレオが黒い靄に吞み込まれた。気づけばリリーも居ない。
……そうか、波長の同調か。レオもリリーも、N0.83(ヤミ)と似たような、ネガティブな波長を出してしまったから、物理的にも精神的にも引っ張られたのか。精神干渉を許してしまったのなら、精神汚染や洗脳などの心配も出てくる。助ける方法は――
『……これで邪魔者は居なくなった……。あなたも私の愛の檻の中に閉じ込めて、浮気なんて出来ないようにしないと……。これで永遠に二人きりの世界になるわ……』
リリーの防御壁が無くなったことにより、一斉にどす黒いオーラが俺に向ってくる。
「!」
――――暗闇の空間で彷徨うリリー。
「御子様ー!ご無事ですかー!?」
ああ~私としたことが、まんまとしてやられた!あのヤンデレの衝撃的ワードについ、引っ張られてしまった。
『だって私なんてその程度だもの……』
「!」
……幼いころの、私?
『何をやっても上手くいかないの。〖称号持ち〗の私は期待外れで…。神系譜のスキルを使わないと、何も達成できないの。私は役立たずで…お飾りで……』
…………。
『神系譜のスキルを使うとみんな喜んでくれるけど、〖称号〗の〖恩恵〗を喜んでくれているだけで、誰も〖私自身〗を褒めないの……。負荷が現れるとがっかりしたり、蔑んだりするの』
……そう。身内以外誰も〖私〗を見ていなかった。みんなの為に無理しても、心配なんてしてくれなかった。それがとても悲しくて……。
――悲しくて心が重たくなる。
『私、頑張ってるよ?いっぱいいっぱい努力してるよ?何でダメなの……?
……何が…ダメなの?……これ以上……どうしたらいいの……?……分かんない、……分かんないよ』
――辛くて心が沈んでいく。
『…誰か……教えてよ…』
それは、叫びにも似た願い。
『……誰か助けて』――――!!。
パアアアアアアアアアアア
――「リリー、何かあった時はよろしく頼む」「リリーは凄いな」
「!!」
御子様!!――
一筋の光が射し、一気に意識が浮上する。
同時に、衝動に駆られたかのように必死に探しだす。
「御子様!ご無事ですか!?」
御子様を初めて見た時は、本当に驚いた。正真正銘の、清廉潔白な魂と体、透明で澄んだオーラ。こんな人が存在しているなんて。
「御子様!」
そして案内役から始まり、お傍で御子様を御守りしていて、気づいた。
御子様は、どんな時でも自分をしっかりもっていて、決して揺るがない。
それは自分を信じ、自信と誇りを持っているから。その自信と誇りは日々の努力の結晶。だからどんな理不尽にも負けないしブレない。
「御子様!」
『…どうして……探すの?どうせ……私自身の落ちこぼれは……何も変わらないのに…』
幼いころの私の姿はもうなく、掠れた弱弱しい声だけ聞こえてきた。
……そう、私は落ちこぼれなのかもしれない。でも、御子様を見て、御子様を知って、私も、御子様の様になりたいと思った。誰に何を言われようと、どんな理不尽を突き付けられようと、逃げずに自分自身と自分の努力を信じて真っすぐ突き進むと決めた。
『…どうせ……何とも思われないよ……。結局最後は……また辛い思いするだけ……。それなら………最初から……諦めた方が…傷つかないで済む……』
……そうなのかもしれない。でも、御子様を知った今では――
弓を構える。
「…私より先に呑み込まれたレオニダスも、きっと精神干渉を受けているはず」
私より、うんと深く沈んでいるかもしれない。でも、きっとレオニダスも、御子様という光に導かれるはず!そしてきっと、御子様を思った瞬間、私と同じことを思うと思う!だから……この技にかける……!
「……御子様との思い出なら、どんなことでも……傷跡さえも……宝物になるわ!」
―――『リカウゲス・ズィズィモン・セオン(双生神の黎明)』発動!!――
「……御子様は、私たちにとっての希望……まさに暗闇の夜から、黎明の朝に変えてくれる人だから……!」
限界が近い腕で、最後の力を振り絞って矢を放つ。
――(シュンッ)。
幼いころの、隠れて泣いていた自分を思い出し、愛しい笑みを浮かべる。
「……過去の私。いっぱい、いっぱい頑張ったね。……ありがとう」
誰が見ていなくても、私だけは知っている。
「あなたは本当に、偉かったよ」
誰も褒めてくれなかった、お飾りと呼ばれた日々。そのすべてを、今の自分が全肯定してあげるように。
「……ううん。『凄かった』よ! ふふっ」
一筋の涙が零れる。
……私はもう、大丈夫。
白銀の矢は、白銀の光を放ちながら暗闇を引き裂き、
希望の光へ向かって行くように飛んでいく。
暗闇が徐々に明るくなっていく。
――それはまさに、黎明の夜明けの如く、『闇の終わり、光の始まり』であった。
読んでいただき、ありがとうございます!この理不尽な迷宮に、ストレスをかけられまくる主人公(蓮)を、是非応援してあげてください(笑)。この「愛の迷宮編」が一区切りしたら、皆さまがもっと読みやすく、面白くなるように、全話少しずつ改稿予定です。なので、少しお休み期間が出来るかもです。主人公(蓮)の今後の行方が気になる方は是非ブックマークをお願いいたします!(笑)




