挿話:その頃、神殿では…。神殿の裏舞台② 『愛の迷宮調査報告書は、特級呪物よりも重い』
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――愛の神殿・神官長室。
コンコン
「……神官長は居ません」
神官長アードニスは、静かに言った。
静かに。静かに言ったが、
「いらっしゃるようなので開けますね」
ガチャ
副神官長シィーウェルに、容赦なくドアを開けられた。
持ち込まれた報告書の量も容赦がない。
「……もう要らない……お腹いっぱい………」
げっそりと言うアードニスに、
「ご自分で『迷宮に関する、全記録を洗え』とおっしゃたんじゃないですか。お陰で私を含め、他の神官達もブラックな日常になってますよ。元凶であるご本人が被害者ぶらないでください」
「すいませんでした!でも3人を助ける為だから!」
「分かっていますよ。だから誰も文句言わないんじゃないですか。むしろ率先してやってくれていますよ」
「ウチの神官達は何て優しくて優秀なんだ!!流石は愛の神殿の神官達!愛に満ち溢れているね!!素晴らしい」
感動しているアードニスをよそに、シィーウェルは、アードニスの机に容赦なく書類を積み上げながら、心の中で密かに呟いた。
『……まあ、被害者がリリア様とレオニダスだからな……。そりゃみんな躍起になる。……ましてや、あの‟御子様”も、だからな。最近は神殿内でも噂が―――』
‟御子様”の噂について思考を巡らせていると、ノックが鳴った。
コンコッ ガチャン!
「ウェーイ☆」
「ますます不敬になっていくなお前は!」
「サトゥール、ノックは最後まで叩いて、返事を貰ってから、ドアを開けなさい。神官長室だからいいようなものを」
「いや、だから!一番礼儀欠いたらダメでしょって、何回言ったら分かってくれるの!?」
「大丈夫っす、神官長室以外はきちんとしてるんで☆」
「いや、だから!何でいつも会話そこにループするんだ!?」
ツッコみを入れるアードニスだが、サトゥールの後ろに台車があることに気付く。
その台車にはもちろん、報告書が容赦なく積まれている。
絶句するアードニスだが、サトゥールが『アレもコレもソレもドレもぜーんぶ神官長の分~フウ~☆』と、アードニスの机に容赦なく積んでいく。
もはやアードニスの机の上は、書類の山だらけ。
いや、もう山脈だ。
「…………」
アードニスは静かに目を閉じた。
「……私も、付いて行けばよかった……」
「ああ、封筒に掛けられていた"拘束”と"転移”を解く、エネルギー変換の展開が間に合わなかったんでしたっけ?」
「そうなんだよ……寄る年波には勝てないね……」
ガックリと肩を落とすアードニス。
「神官長ドンマイ☆」
「本当に軽いなお前は!」
「……寄る年波には勝てないのなら、付いて行かなくて正解だったと思いますよ」
報告書に目を通し始めていたシィーウェルが、冒険者ギルドからの解答報告書を読みながら掻い摘んで報告していく。
――――――――――――
・過去の生還者は極少数(深く入らず、すぐ引き換えして来た者に限る)
・迷宮構造の証言がバラバラ(構造が定期的に変わる可能性)
・生還者の証言もバラバラで、そのせいで噂もバラバラ
『運命の相手に出会える』、『凄いお宝が眠っている』、『存在しない恋人と結婚したと証言した者もいる』など
・しかし実際、恋愛系の試験があった者もいる
・仲間が帰ってこない。
・凄腕の冒険者に調査を依頼したが、未だ帰還せず、生死不明
――――――――――――
「……うおわ~やばいっすね~(笑) いやでも俺は神官長を信じてマッス☆神官長、行くならガンバッ☆」
「絶対思ってないだろうそんなこと!簡単に軽く言うんじゃない!……しかし、愛娘の救出に――」
「詳しい情報も知らず、何の対策も無しに行くのは感心しませんね。と言うことで、早く情報(報告書)、頭に叩きつけてください」
シィーウェルが、報告書の山脈をバシバシ叩きつける。
「うう……結局シ事……。こうしてる間にも愛娘がピンチかもしれないのに……!」
「レオニダスが居るので大丈夫でしょう。私は噂の"御子様”にも、期待していますよ」
「それはそうなんだけど……え、噂って何?」
「御子様カッケ~!スゲ~!パネ~!って話っす」
「そんな軽い話じゃないだろ絶対!」
二人の話によると、泉に現れた"御子様”の容姿はもちろん、襲い掛かった群衆を、レオニダスと"御子様”自身が、次々と華麗に倒していく雄姿や、決闘を挑んできた神の血を継ぐ子孫の筋肉ゴリラ(ガルヴァンドラ)を、一撃でノシてしまう圧倒的強者感、
回避して来た者達のアフターケアをする優しさや、レオニダスやリリアが出会ってすぐ慕ってしまうほどのカリスマ力など、
実際見聞きした者達から噂は徐々に広がりつつあるらしい。
「……まあ、あの"御子様”だからな。物凄い天然人たらし(褒め)だから……。そのうちファンクラブとか出来そうだ」
「既にその話も出てますが―――」
「やっぱり!?本当に凄くない!?"御子様”のカリスマ(魅力)性!」
「でも現時点では、御子様ファンクラブ結成に、レオ様がどんな反応を見せるのか読めないし、怖いので結成には至ってないんすよ(笑)」
「……ああ……」
納得。
「では、報告書の続きを。………………」
「?……どうしたんだい?副神官長君?」
スッと無言でアードニスに報告書を渡してくるシィーウェル。
「?」
不思議に思いつつ、報告書をパラパラと捲っていくアードニス。
『愛の迷宮調査報告書』
『愛の迷宮生還者証言集』
『愛の迷宮失踪事例』
『愛の迷宮被害報告』
『愛の迷宮追加被害報告』
『迷宮関連追加書』
『追加追加追加書』
「どんどんテキトーになってってる!!普段温厚な神官長の私もビックリな報告書タイトル!!!」
「サトゥールです」
「やっぱりか!!やっぱりお前か!!」
「ウエ~イ、頑張っちゃいました☆」
「褒めてないし、頑張り具合が垣間見えないタイトルなんだが!?」
「男は中身で勝負っす!俺、今、上手いこと言った上に超~名言~☆」
「……頭と胃が痛くなってきたような気が―――」
額とお腹を押さえながら言い出したアードニスに、
「気のせいです」
と、セリフの途中でぴしゃりと切るシィーウェル。
「サトゥールの報告書のタイトルはテキトーですが、きちんと時系列順になっていたり、種類ごとに分類されていたり、分かりやすく要約されていたり、専門用語や外国語の翻訳、補足などが付け足されていたりと、かなり分かりやすくて読みやすい内容になっています」
「………はあ、分かっている。仕事に関しては優秀で、いつもそうだからな。しかし、タイトルとその性格は初見で損するぞ」
「大丈夫っす!神官長以外にはちゃんとしてるんで☆」
「やっぱりそこにループするのか!?」
このやり取りが更にループしないように、シィーウェルが報告の続きを再開する。
「続いてこちらは、古文書や伝承をまとめた民俗資料からの調査結果です。保存状態が悪かった為、一部の解読しかできなかったようです」
そこには、「王族の血」「神罰」「閉ざされた娘」などの記述が表記されていたが、詳しいことは分からなかったらしい。
「………地域の新聞記事や公共施設に保管されている蔵書に、似たようなものがないか調べたら、何か繋がる物が出て来るか……?」
顎に指を添えて熟考している姿はイケオジだ。が―――、
「更なるブラックを重ねろと、そういうことですね」
「えっ、あっ、そういうつもりじゃ―――」
「神官長パネ~!(笑)」
「違うからこういう時でもその軽いノリやめなさい!」
側近たちのせいで、イケオジバージョンは長くはもたないのだ。
それが、この神殿の日常でもあった。
―――しかし、
その日常に、静かに、しかし確実に、変化が起きていった。
「あの筋肉ゴリラ倒したの見た?」
「私、ちょうど、棘の茎に絡まった女性を助けた時に、切り落としたロードン(薔薇)の手入れが終わって、神殿に戻る時に見たわ!」
「俺は泉から現れた時に見た!!すっごい美形で、しかも群衆を華麗に倒していくとこもカッコ良くて―――!」
「襲って来た相手の将来を心配するところも―――」
お互い"御子様”について知っている情報を共有し合い、話が盛り上がる。
「……まあ、みんなの話をまとめて、簡潔に要約すると……」
「「「 心身ともにイケメン!! 」」」
満場一致だった。
「ファンクラブ作る?」
「………いや、レオニダス様が……」
「……確かに、どうでるか……怖い」
「……でも、レオニダス様や聖女様のファンクラブ(非公式)も密かにあるから……"御子様”も……」
「……絶対レオニダス様にバレそう……」
「……確かに……」
「……とりあえず……様子見の保留で……」
「「「 …………(コクン) 」」」
ここでも満場一致だった。
―――こうして、本人のあずかり知らないところで、本人が予想もしない展開が、
静かに、しかし、確実に、広がりつつあるのであった。
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