挿話:その頃、神殿では……。『神殿の裏舞台①被害報告書は、特急呪物よりも重い~パン女&ホラー女のその後~』
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蓮達が、迷宮に強制転移され、数日経った。
――愛の神殿・神官長室。
「……報告を、どうぞ」
神官長アードニスは、静かに言った。
静かに。静かに言ったが、机の上の書類は“静か”ではなかった。
山だ。
むしろ崩落寸前だ。
アードニスの前に置かれた机の上の「山」は、崩落寸前を通り越し、完全に地盤沈下を起こしそうなほどの質量へと成長していた。
「こちらになります」
副神官長のシィーウェルが、新に作成された分厚い資料と報告書を手渡す。
シィーウェルは、最年少で副神官長の座に就いた、異例中の異例、超優秀な青年だった。
レオニダス同様、見た目も爽やか好青年なのも相まって、引き抜きや婚約など、いろいろな話を持ちかけられるが、一蹴して取り付く島もないレオニダスと違って、彼は要領良く、風のように流している。
「……これが、御子様とレオニダス、それからウチの娘に関する『被害報告書(苦情含む)』の全てか」
アードニスは、現役時代のナンパ師の眼光を失い、虚ろな目で書類の束に手を伸ばす。
「えーと……まず、“パンを咥えて衝突を試みた結果、痴女になった女性”の件ですが……」
「言葉の時点でおかしいが、続けろ」
アードニスは、一番上にあった『被害報告その①:パンを咥えた痴女』の書類をめくった。
『被害報告その①:パンを咥えた痴女』。
―――― 供述 ――――――――――――――――――
私はただ、運命の曲がり角でパンを咥えて突進し、御子様と美しい衝突を果たそうとしただけです。……御子様用のクロワッサンには、惚れ薬と媚薬を仕込みましたけど……。
それなのに、御子様は、私の突進のベクトルと慣性を一瞬で見抜き、残像を残して回避してしまいました。
その後、……なんやかんやあって……この黒歴史が、深い傷や今後の生活の妨げになる前に、御子様が気絶させるように指示を出してくれて、
される側の気持ちも学ぶようにと諭の慈悲もくれて……心身ともに超絶イケメンで……次は『心も体もいろイロな意味で完璧にぶつかれる』ので、抱いてほしいです♡』
――――――――――――――――――――――――――――
「……ちょっと待て。ツッコミどころが多……まず、突進してくる女を、残像を残して回避って何? 御子様、能力高すぎない!?しかも気絶の指示って何?」
「気絶させたのはレオニダスで、手刀で綺麗に一発だそうです」
「……あの子も能力値高すぎだからな。……しかも塩対応されたのに最終的に抱いてほしいとか、おかしくない!?書記、誰!?」
「サトゥールです」
「やっぱり!!なんであんなテキトーな奴に書記任せたの!?」
「神官長だって、ご自分の侍従にして身の回りのお世話させてるじゃないですか」
「だって、仕事は優秀なんだもの!ただ、テキトーな性格なだけで」
「そういうことです」
・・・・・。
「……ということは、この内容は、ほぼ合ってると……」
「はい」
「……抱かれたいと?」
「さすがにそこまでではないと思いますが、淡い想いを抱いているのは確かなようです」
「御子様の魅力の威力、高すぎじゃない!?」
「はい、天然モノですからね、天井値を予測できません」
……はあ。
「……で、その女性は?」
「現在、牢にて保護……いえ拘束されています。まだ薬の影響が抜け切れていないらしく、時折、思い出したように興奮しながら、“石像に対して強い愛情と行為を示そうと脱走を試みるようで――」
「拘束強化」
即答だった。
「……それ以上言うな。なんとなく分かる」
「……はい。では次の報告です」
アードニスは冷や汗を流しながら、次のページをめくる。
『被害報告その②:行き倒れホラー女』。
―――― 供述 ――――――――――――――――――
私は行き倒れを装い、「お労しい……♡」と介抱してもらうフラグを待っていました。
しかし御子様は、私の本質を見抜き、一切躊躇なく「助けない方がお互いの為だ」と言い放ち、鬼畜従者に指示を出し、傷口から血を流している可哀想な美しい私に、『ガチの塩と医療用消毒液(少し滲みるやつ)』を、私の傷口に浴びせてきました。でも最終的には私の将来を心配してくれていました。
あのドSな塩対応と真の隠れた優しさの飴と鞭……最高に痺れます、抱いてほしいです♡』
――――――――――――――――――――――――――――
「……怖い!御子様普通に怖い!! 恋愛フラグを『ガチの応急処置(物理殺菌)』で強制終了させてる!! しかもこの女性たち、塩対応されてるのに全員漏れなく御子様に惚れ込んじゃってるじゃん!御子様の人たらし力(魅力)怖い!」
アードニスは額を押さえた。御子様のいろいろな能力値の高さに脱帽しかけている。
だが、その次の『被害報告その③:御子様専属従者・レオニダスに関する周囲の苦情』を開いた瞬間、神官長室の氣が完全に凍りついた。
『――苦情内容:レオニダス様が、御子様の後ろを歩く際、歩幅、角度、距離をミリ単位で計測しながら、四方八方へ『御子様の半径3メートルに近づく不届き者は全て排除する』という絶対零度の殺意の波動を撒き散らしています。
半径3メートルは結構な距離なので、移動が不便になってしまいます。
さらに、密かに、御子様のお姿を逐一、網膜に焼き付けながら狂ったようにスケッチ、念写しており、神殿の隠し倉庫に【御子様・美の全集】などを大量に量産した物を保管しようと、画策しています。怖いです。誰かあの有能な不審者を止めてください。』
「………………」
アードニスは、静かに書類を閉じた。
「……神官長? どうされましたか?」
「……もうこれ以上、見るの怖い……」
「レオニダス並みに網膜に焼き付けて、押印量産してください」
「御子様並みの塩対応!辛い」
わあーっと両手で顔を隠して泣きのジェスチャーをするアードニス。
「遊んでないで仕事してください」
「御子様以上の塩対応!むしろレオニダス並み!」
「綺麗に手刀一発決めればいいいですか?」
「私は真面目に仕事しているぞ(キリッ)。……ていうか、ウチのリリーちゃんが
レオニダスのせいで存在薄くなっちゃってない!?頑張れウチの愛娘ー!」
「はい。リリア様は毎日、頑張ってレオニダス様に向かってツッコミでキレ散らかしております」
「…………」
アードニスは、窓の外を眺める。
「で、肝心の3人の行方は?」
「消息不明です」
――沈黙。
その場の空気が、一瞬だけ静まり返る。
「……最後に目撃されたのは?」
「……目撃ではありませんが、あの曰くつきの、“愛の迷宮”付近で、転移のエネルギー波動が観測されたと……」
アードニスは、天井を仰いだ。
「……エイローシス様、また厄介ごとを……」
「対処はどうされますか?」
しばしの沈黙の後、アードニスは言った。
「迷宮に関する、全記録を洗え」
「はい」
「あと……」
「はい?」
神官長は、静かに覚悟を決めた。
「……うん。この被害報告書(書類の山)、全部綺麗にファイリングして、アルテミア様に提出しよう」
「えっ!? よろしいのですか!? 愛の神エイローシス様のやらかし(悪ノリ)の証拠にもなりますが……」
「もちろんさ♡ウチの愛娘を危険に晒したんだ。どのみち妻もアルテミア様も黙ってないよ。……私もね。それに、御子様も命がけで頑張って護ってくれてるだろうしね」
エイローシス様に迷惑をかけられた『被害者データ』を叩きつけて、有罪判決をもぎ取ってやらないとね!
「パパ、こういう裏工作と書類仕事だけは現役時代から100点満点に有能だからさ(決め顔)」
「……神官長、顔はチャラいですが、やってることが完全にエイローシス様を社会的に抹殺するためのガチの裁判準備です」
「ウチの愛娘を危険に晒す輩は、全てギルティだよ」
――こうして、アードニスが静かにまとめた『被害報告書(特急呪物)』は、のちに天界を動かすのであった。
「(……よし、仕事一区切りつけて、可愛い女性神官ちゃんたちを誘って、3人が戻った時のお祝いパーティーの買い出し&食事にでも行こ〜っと♡)」
「……神官長、考えが顔に出ています。奥様とリリア様に報告書提出しますね」
ひっ……!
「 君の私への扱いが一番理不尽すぎない!?」
「そもそも被害報告書がまだまだてんこ盛りのままですよ」
「……辛みが深み……」
「遊んでないで仕事してください」
「……やっぱり 君の私への扱いが一番理不尽すぎだと思うんだけど、どう思う?」
「何とも思いませんね。早く仕事を終わらせて、神官長から解放されたいです」
「……辛みが深み……」
そんなやり取りをしていると、
コンコッ ガチャン!
「神官長ウェ~い!!」
「相変わらず不敬すぎるなお前は!」
「サトゥール、ノックは最後まで叩いて、返事を貰ってから、ドアを開けなさい。神官長室だからいいようなものを」
「いや、一番礼儀欠いたらダメでしょ!!!」
「大丈夫っす、神官長室以外はきちんとしてるんで☆」
「君たちは神官長を何だと思ってるの!?」
「 (元)伝説のナンパ師。 」
「 (元)伝説のナンパ師。 自分、神官長リスペクトなんで。ウェーイ☆」
「お前は本当に軽くてチャラくてテキトーだな!絶対そんなこと思ってないだろ!しかも若いころの私も、そんなに酷くなかったよ!優秀じゃなかったら絶対傍に置かない」
「すいませんね、自分、優秀なんで、ペロッ☆」
神官長と神官とは思えない会話のやり取りの中、黙々と書類整理&仕訳をしている副神官長シィーウェル。
「聖地巡礼の旅という名の追放でもしてみるか」
「ていうか、御子様超ーカッコいいっすね!!!」
「話そらすな」
「見たのか?」
「レオ様が瞬殺した群衆を運び終わった時に見ました!筋肉ゴリラ倒してましたよ!まじカッケー!!パネーッ!その後、声かけられて、筋肉ダルマの事とか事後処理とか任されました!ヤフ~!」
「それでお前はどうしたんだ?」
「一緒に居た同期に任せました!俺は別件があって忙しかったので☆ペロッ」
「「 ……はあ~~~…… 」」
思わずため息を漏らす二人。
「…それで、何しに来たんだ」
「勿論、手伝いに来たんすよ!ほら、これ俺の報告書です!」
「そういうところ、本当に要領も調子もいいな」
「では、サトゥールが目撃した、御子様に筋肉勝負を挑んだ男の件ですが――」
この後しばらく、愛の神殿では、神官長達が、被害報告の事後処理の対応に追われるのであった。
読んでいただき、ありがとうございます!これからも、蓮達を応援してくださると嬉しいです。ご意見や感想、お待ちしております!!




