合唱団とポエマーの愛語り(騒音公害)の混沌交響曲を強制サイレントした件
今後の勉強のために、ご意見や感想を頂けると大変助かります!
ヘミコン山の緑豊かな裾野から、テスピアの街を見下ろす高台の聖域――。
雲一つない青空の下、そこに白亜の神殿がそびえ立っていた。
建物を囲むのは、優美な列柱。
幾重にも並ぶ柱廊は荘厳で、柱の頭部には、愛の神にふさわしい薔薇の浮き彫りが美しく施されている。建物の破風には、軽やかに空を舞う翼を持った愛の神エイローシスのレリーフが精緻に彫り込まれていた。
祈りの日には、神殿へと続く緩やかな大理石の階段は巡礼者たちが途切れることなく続くが、今は、違う何かが途切れることなく続いていた。
――「♩♩♪♬♩♩♪♬~~~」
神殿から、漏れ出てきて響き渡っている合唱……のようなナニか。
…………行きたくない。けど、行かなくちゃだよな……。
「!! 御子様だ!御子様が御出でになられたぞ!」
あー………見つかってしまったな……。
バターーーン
幾重もの精緻な彫刻が施された巨大な扉を、衛兵?らしき二人が勢いよく開ける。
「御子様、御来訪ーーーーーー!!!」
ザワッッッ
「御子様、どうぞ中へ!」
すでに巨大な分厚い扉を透過して、尋常ではない不穏な空気――否、狂気の熱量(圧)の気配がじっとりと染み出していた。
……嫌な予感しかしない。
「……はぁ~………」
覚悟を決めて、入り口へと一歩踏み出す。と、一瞬ひんやりとした空気が身体を包み込んだ。
―――が、すぐにかき消された。
「御子様に愛の詩を捧げます!・・・私の心に吹き荒れた恋の嵐~~~!!」
………なんか身振り手振りでポエムをオペラ歌手みたいに詠みだした衛兵。
凄い声量でかなりうるさい。
「月明りで照らされた夜空に輝く星の様な~~~!!」
………もう一人の衛兵もオペラ歌手みたいに詠み始めた。やはりうるさい。
「森の木々を揺さぶる山風の様に~―――!」
「煌めくそのお姿を一目見た時から私は~―――!」
いやいや、分からない分からない、二人同時に叫ばれたら聖徳太子じゃない俺は何詠われてるか分からないし、うるさいだけだから。しかもたぶん、二人とも各々のポエムを詠んでて繋がりがないから、余計に分からない。
スルーしてさっさと進もうと、衛兵から視線を外して中を見渡す。
そこには、外観に負けず劣らず壮麗な空間が広がっていた。
高い天井を支える巨大な白大理石の円柱。
色鮮やかなステンドグラス。
磨き上げられた床には、桃色の光が反射している。
――本来なら、厳かな静寂に包まれているはず……なのだが。
一歩足を踏み入れた瞬間――。
「♩♩♬♪♬♩♩♪~~~!!!」
「!!」
耳を劈くどころか、鼓膜を物理的に突き破るような爆音。
音圧の塊が脳を殴りつけてくる。
まともな神経の人間であれば一歩どころか即座に気絶しかねない狂気のバイオレンスハーモニー。
「ひっ、、、!皆さんおやめなさい!(耳を覆う)」
リリーの注意もこの大音量にかき消される。
「おおお~~~!御子様に~捧げる~我らの~愛のビブラート~!♫」
「森の小鹿の様に~足が震える程の衝撃を受け~」
「いつも御子様という一番星を見つけている~」
うるさ、、、もうカオス!!!ビブラート過ぎて俺は鼓膜と脳に衝撃を受けている!
大合唱のような集団爆音叫びにオペラのような爆音叫び。鼓膜が殺られる!拷問でも受けさせられているのか俺は。こんなの騒音公害でしかない。
「リリー、俺は鼓膜の予備は持ち合わせていないのだが」
「申し訳ございません御子様!皆さん、御子様を歓迎したい一心で、、一心不乱に練習しておりまして、、、止めるようには言ったんですが、、、」
「全く、役に立たないお飾り聖女ですね!」
どさくさに紛れてレオが、後ろから俺を覆うように、俺の手の上から手を重ねて俺の耳を塞いでいる。
「なっ、御子様から離れなさい!この犬畜生!」
「お静かに!只でさえ今、御子様の可愛らしいお耳は負担を強いられています!無能なお飾り聖女のせいで!」
「なっ、わ、私だって必死に止めましたよ!」
「いろんな意味で体でも張って止めてくればいいのでは?」
「なんと最低な犬畜生でしょう!大体あなたはいつも御子様との距離や接し方が――」
「私は御子様の愛の僕ですので、これくらいは当然、、むしろ御子様のご負担にならぬよう最大限にいろいろ抑えております!本来であれば、もっとイロイロご奉仕したいところですが――」
「不要です!そもそもあなたは――」
わーわー
ここもカオス。
「あああ~~~!我らの~愛のバス(重低音)~~~!御子様に届け~~~!♫」
届きすぎてて迷惑被ってる。
「御子様の愛の海に溺れる子羊になりたい~」
言っている意味が分からない。
「御子様の~夜空に輝く星のようなブルーサファイヤの瞳にくぎ付け~」
俺の瞳は黒なんだが。
「愛の神殿に訪れた~麗しき愛の御子様に~この身を捧げ~♪」
「御子様と朝まで紡ぐ羊の数~」
「御子様は夜空に輝く一等星~」
「御子様からイロイロをして頂くのも、イロイロをして差し上げるのも、この私だけです!無能聖女様は蝉の抜け殻同然!早く土にお還りください」
「まあ!なんと唾棄すべき犬畜生でしょう!犬畜生など御子様の精神汚染の――」
「御子様の尊き御神体を~この身に~♪」
・・・・・混沌の交響騒音(死んだ魚の目)。もう、こんなのテロリズムでしかない。
しかも、外の騒音より、後ろの変態の独白の方が精神的な破壊能力が高い。
しかし、更にその上をいった衛兵。
「御子様の〇〇〇(ピーーー(規制))は○○○(ピーーー(規制))のように~」
サイテーな規制衛兵ポエマーだなコイツ。
「サイレント(強制消音)しますか?(物理) 最後の不届き物は永久沈黙でよろしいですか?」
「よろしくはないが(状況)、よろしくもない(犯罪)。てか、レオは平気なのか?」
「はい、聞き流しているので」
「これを聞き流せるのも凄いな」
「御子様以外、興味ありませんので」
レオのセリフを聞き流す。
取り敢えず、このカオスな騒音公害集団を何とかしなければ……。
合唱団の前に行き、指揮者の様に手を挙げて手を握り合唱を止める合図をする。
すると、ピタリと止まった。良かった。本当に良かった……。
「御子様!我らの愛の歌、御子様の心に響きましたでしょうか!?」
心には何にも響かないが、脳震盪起こすかと思うくらい鼓膜と脳には響いた(ウンザリ)
「騒音として神殿周辺に響いてた」
「なっ、我らの愛を騒音と、、、!?」
「騒音公害のなにものでもなかった」
「あんまりです!我らは寝る間も惜しんで三日三晩寝ずに練習していたというのに!」
三日三晩寝ずに練習してアレか……。
「・・・・・まず、ピッチ(音程)がズレている。たぶんお前たちは「ラ」の440~445㎐周辺で調律している(つもりだ)と思うんだが、微妙にズレていて気持ち悪い。」
ザワッッ
「あと、ここの石造りの閉鎖空間での共鳴周波数と残響時間の組み合わせが全く出来ていない」
合唱団全員が唖然としている。
「この神殿の壁の石材は音を吸収しにくいため、低中音域は増幅される。特に低域(125Hz〜250Hz)をよく反射し、重厚感を高める」
合唱団に構わず、淡々と説明を続ける。
「そこに4秒〜8秒以上の長い残響が発生し、前の音が次の音と重なり合い、単一の歌声が巨大な音の塊(ドローン効果)のように聞こえる。それなのに考えも無しにあの「愛のバス(重低音)」?をなりふり構わず爆音で叫んでれば、騒音公害以外の何ものでもないわけだが」
「、、、、、っ」
屈辱と恥辱を感じているかもしれないが、これは言っておいた方が本人たちの為にもなるし、周りや俺の為にもなる。だから可哀そうだが、今はっきりキッチリ言っておいた方が良い。
「まずは、基本となる周波数声帯域、男性: 約120Hz〜180Hz周辺
女性: 約225Hz〜255Hz周辺の練習(発声)を学んだ方が良い」
「しかし、愛の情熱の表現には―――」
「愛を語る前に、合唱学・音楽理論・音響学・建築音響・音楽心理学を語れ。今のお前たちは、只押し売りしてるだけの自己満足騒音集団だ」
「!」
「音楽家を名乗りたいのなら、聞き手の事も考えた、音響が美しく聞き心地の良い音楽を目指せ」
「!!」
がっくりと肩を落とす騒音公害合唱団。
「あとポエマー」
「!」
ビクリと肩が跳ねる。・・・なんか弱い者虐めしてる気持ちになってきた。
言う方も辛い。頑張れ俺。
「語彙力が無さ過ぎる。言葉も中身もぺらぺらだ。あと、最後のヤツは最低だ」
「!」
「愛の何たるかを知らない奴が愛を語るな」
「!!」
俺も知らないけど。だから語らないし語る気もない。
しーーーん
気が付けば、あれ程騒がしかった集団が魂が抜けたように静かになり、場は静まり返っていた。
「ようやく安寧の静寂が訪れた」
「流石です御子様!理知的で鋭い言葉の切れ味に、私の血潮もナニもかもが吹き出しそ―――」
「レオ、ミュート」
「! バイブ(振動)機能は可能で!?」
「サイレント」
「! ……~~~」
おお、静かになった。これは今後も使えるか?うっとりした顔が鬱陶しいが。
パチパチパチパチ
「!」
ようやく静かになった神殿の奥の扉から、一人の身分の高そうな壮年の男性が現れた。
「……この神殿に、静寂が戻ったか」
読んでいただき、ありがとうございます!この狂った世界で懸命に頑張る主人公(蓮)を、是非応援してあげてください(笑)。主人公(蓮)の今後の行方が気になる方は是非ブックマークを!(笑) 蓮の周りが益々騒がしくなってくるので(いろんな意味で)、楽しみにしていてください。




