第21話 エルシャの夜更かし
皆さま、こんばんは。
夜更かし幼女、エルシャ・グリーンフィールズ七歳です。
現在、真夜中。相棒ヘンリーの背中にしがみついて、人気のない王都の夜道をひた走っております。
今夜も霧が出て視界が悪いです。ガス灯の明かりがぼんやりと霞んで見えます。でもヘンリーは、そんなのへっちゃらです。目指すは西区八番街警ら隊詰所。
今夜の夜勤はジョンソン副長とピートくんの二人体制です。
明日の朝、霧の爆弾魔から送られて来た声明文が、証拠品として警ら隊本部に移送されてしまいます。今夜が最後のチャンスです。
何としても、犯人のにおいをヘンリーに覚えてもらいたいのです。
「あれ? エルシャ? こんな時間に出歩いちゃダメじゃないか!」
哨戒に立っていたピートくんが、わたしを見つけて言いました。ヘンリーから飛び降りてピートくんに頭を下げます。
「ピートくん、お願いがあります」
「えー、それって隊長には内緒のお願いだよね? 参ったなぁ」
「はい……」
「とりあえず話を聞くよ。ほら、寒いから入って」
ピートくんは優しいです。そして、わたしに弱いです。ジョンソンさんも、わたしには甘い。今夜は最高の布陣です。
詰所は立ち入り禁止になっているので、少し久しぶりです。中に入るとすぐにジョンソンさんがやって来ました。
「エルシャ? なんでこんな時間に……! ハドソン先生は?」
「寝てます」
「黙って出て来たのか? 悪い子だ! めっ!」
『めっ!』ってされました。でも、わたしはもう知っています。『めっ!』ってされた時、大人はそんなにも怒っていないのです。
「はい……悪い子です。でも、どうしても今夜じゃないとダメなんです」
「もしかして、霧の爆弾魔の、証拠品が見たいのかい?」
「見たいというか……封筒やその中身のにおいを、ヘンリーに嗅がせて欲しいんです」
「においを?」
「お二人も、犬は鼻がいいって、知っていますよね?」
「そりゃー、人間よりは……」
ジョンソン副長とピートくんは、顔を見合わせて頷いています。
「犬の鼻の性能は、人間の100万倍以上です」
「ええっ! すごいな!」
「ヘンリーは、三日前にピートくんが制服にこぼした、飲み物のにおいも嗅ぎ分けられます」
ヘンリーがピートくんの膝の辺りを、フンフンと嗅いでいます。
「わふ」
「ピートくん、ミルクティー、こぼしましたね? はちみつ入りです」
「えっ、ちゃんと拭いたのに、わかるの?!」
ピートくん、あわあわしてます。
「わたしとヘンリーには、たくさんの合図が決めてあります。吠え方とか、尻尾とか、目線の動かし方です」
ジョンソン副長もピートくんも、真剣に聞いてくれています。
「ヘンリーなら霧の爆弾魔の、においを特定できると思うんです。そしてわたしはそれを共有して、皆さんに伝えることができる。試させて下さい。お願いします!」
「……ヘンリーがベロベロ舐めたりしないか?」
「大丈夫です。言って聞かせます」
「まあ、ダメ元で、やってみよう。今はほんの少しでも情報が欲しい」
「……! ありがとうございます!」
「エルシャもピートも、それからヘンリーも……。くれぐれも隊長には、今夜のことはバレないようにな。隊長、今は大変な時期だし、エルシャのことをとても心配している」
「はい、わかりました」
「ピートは悪いけど、哨戒に戻ってくれ」
「俺もヘンリーがにおい嗅ぐところ見たいのに……」
ピートくんは、ぶつぶつ言いながら哨戒へと戻って行きます。わたしとヘンリーは、ジョンソンさんと資料室へと向かいます。
ドアの鍵を開けて、奥の棚から金庫を持って来てくれました。ダイヤル錠をカリカリと回します。
左右の順番とカリカリの数を、念のため覚えておきましょう。この先、何かの役に立つかも知れません。
金庫から、文書サイズの箱を取り出します。
「エルシャは手を出すなよ」
わたし、持って逃げたりしませんよ?
箱の蓋を開けて、早速ヘンリーににおいを嗅いでもらいます。
「中身を出してもらえますか?」
ジョンソン副長が封書から、中身を取り出して開いてくれました。
「新聞を、切り貼りしているんですね」
ミステリーでよくある手法です。
ヘンリーは、ずいぶんと長いことフンフンと鼻を鳴らしていました。
「わふっ!」
「終わりました。ヘンリー、おつかれさま」
「これで、何がわかるんだ?」
「明日は学校がお休みなので、ヘンリーと一緒に、この紙からの情報を特定します。さっき、ピートくんの膝の匂いから、“はちみつ入りミルクティー”を特定したみたいに」
「そんなことができるのか……?」
「やってみます。ジョンソンさん、ありがとうございました」
読んでいただきありがとうございます。面白かったら☆評価、よろしくお願いしますね。




