第22話 霧の爆弾魔の匂い
皆さまこんにちは。
寝不足幼女、エルシャ・グリーンフィールズ七歳です。
ゆうべは真夜中にこっそり走り回っていたので、今朝は寝坊してしまいました。今日は学校がお休みなので、ヘンリーと匂いの特定を頑張ります。
ヘンリーが、霧の爆弾魔の手紙から嗅ぎ取った匂いは全部で七つでした。
①飴
→ エルシャちゃんが作った飴みたいじゃなくて、お店で売っている飴の匂い
②コーヒー
→縄の姉ちゃん(ジェーンさん、三つ編みが縄と似ているから)の家のコーヒーショップで嗅いだ
③接着剤(予告文を新聞紙で切り貼りしている)
→ 師匠(トーマスおじ様)の家で嗅いだのと似てる。くっつけるための匂い
④香水
→ キラキラおじさん(エバンスお父様、金髪だから)が、シュってするやつ(香水)の匂い
⑤植物
→葉っぱの匂い。この辺(王都)では嗅いだことがない。辺境にはたくさん同じ匂いの葉っぱがあった
⑥機械油
→ボス(ダグラスお父さん)の家の、時計おばさん(マーサおば様)の工房で嗅いだ
⑦火薬
→火をつけると、空に飛んでいくやつ(ヘンリーの救助犬バッグには、救助要請のための打ち上げ花火が入っている)
この情報を、更に絞り込みたいと思います。ですが、まずは形から入りましょう。
ソフィアさんの送ってくれた衣装の中に“ちびっ子探偵シリーズ”があったはずです。
「ありました! 探偵帽子に、ショートケープ、帽子とお揃い布のジャンバースカート。虫眼鏡まであります。完璧ですね、ソフィアさん……!」
ちょっと恥ずかしいですが、これなら誰も、真面目な捜査だとは思いませんよね。ちびっ子警ら隊の制服を着ている時と、印象も変わるはずです。
『幼女が、変な格好で遊んでいるだけ』――そう思われた方が動きやすいです。
* * *
「おじいちゃま、お出かけしてきますね」
おじいちゃまはお庭で薬草畑の手入れをしていました。わたしがトーマス師匠から渡された薬草の種は、いくつかの芽を出しています。
「ああ、構わないが……。その格好はどうしたんじゃ?」
「気合いを入れるために着替えました」
「そうか。では、出掛ける前に写真を撮ろう。うむ、なかなか似合ってるおるでな!」
写真ができたら辺境へ送るのです。おじいちゃまはトーマス師匠やソフィアさんと、頻繁に手紙のやり取りをしています。
「その服はソフィアさんのお手製じゃろう? 着たところを見たら喜ぶぞ!」
おじいちゃまも嬉しそうで、何よりですね。
「さて、ヘンリー。ビリーくんの家へ行きますよ」
撮影が終わったのでお出かけです。ビリーくんの家は、大きな雑貨屋さんなので、お菓子も接着剤も売っています。
「あれ、エルシャ。なに、その格好……探偵?!」
ビリーくんが店番をしていました。日曜日にお店のお手伝いをしているなんて、意外です。
「はい。今日のわたしは、ちびっ子探偵です。協力して下さいね」
「も、もちろんだよ! でも、何の捜査なの?」
「ヘンリーの匂い調査です」
お店のお菓子コーナーに、飴はたくさんの種類がありました。ヘンリーにひとつひとつ、嗅いでもらいます。
「わふっ!」
「えっ、これ? 間違いない?」
「わう」
ヘンリーが選んだのは棒付きのロリポップキャンディでした。子供の食べる飴です。あまり大人が食べているのは、見たことがありません。
「うーん……」
念の為に、全部のロリポップキャンディを買いました。
「次は接着剤ですね」
これはあまり種類がありませんでした。
「わふーん」
「えっ、ここにはないの?」
「わふ」
「ビリーくん、接着剤がたくさんあるお店はありますか?」
「それなら……工務店かなぁ。一本裏の通りの交差点の角に……。あっ、待って。俺も一緒に行く!」
「でも、ビリーくんは店番でしょう?」
「協力するって言ったろ? 兄ちゃんに代わってもらうよ。待ってて」
ビリーくんはすぐに戻って来ました。工務店も歩いてすぐの距離です。
工務店には、接着剤がたくさんありました。でも棚には塗料やニスやアルコールもあって、その匂いはヘンリーには刺激が強すぎたみたいです。
鼻を押さえて「キュゥーン」って子犬みたいに鳴いてます。“鼻、痛いよぉー”ですって。
かわいそうなので、鼻の根元をモミモミしてあげました。
仕方ないので、お店の人に『試したい』と申し入れて、全種類をほんの少量ずつ小分けにしてもらいました。
機械油と火薬も、工務店にありました。なかなか順調に進んでいます。
次は、ヘンリーが“キラキラおじさん”と呼ぶ、エバンスお父様の家へ向かいます。
「エルシャ、お帰りなさい。お友だち?」
「はい、ビリーくんです」
シャーリーお母様が聖母のような微笑で迎えてくれました。
ビリーくんが、あまりの美しさにぽかんと口を開けています。そうでしょう、そうでしょう! シャーリーお母様の美貌は世界を制するかも知れません。
「ヘンリー、香水の匂いを嗅いでみましょうね」
エバンスお父様はお洒落さんなので、いくつかの香水を使い分けています。メイドさんに頼んで、全種類を用意してもらいました。
またヘンリーの鼻が痛くなったらかわいそうなので、あらかじめ紙にほんの少し吹きかけて、香りが少し飛んだものを用意します。
先ほど工務店で買った接着剤は、どうせなら予告状を再現する形にしてみましょう。それぞれの接着剤を使って、紙に新聞の切り抜きを貼りつけます。
匂いが紙に馴染むまで、少し時間を置きたいので、他の匂いを探しに行きます。
次はヘンリーが“縄の姉ちゃん”と呼ぶ、ジェーンさん家のコーヒーショップへ行くことにしましょう。
ビリーくんは、お兄さんが連れ戻しに来て、店番へと戻って行きました。色々手伝ってもらえて助かりました。
「こんにちは」
「おや、お嬢さん。いらっしゃい」
先日雨宿りでお邪魔したばかりなので、マスターであるジェーンさんのお父様も、わたしのことを覚えていてくれました。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあって……」
「はい、なんでしょう」
「コーヒー豆と、淹れたコーヒーの匂いは同じですか?」
「ふむ……。お湯に成分が溶け出すので、全く同じではないですね。コーヒー豆は、ナッツっぽい香りがしますよ」
「そうなんですね……。では、お店にある、全種類のコーヒーを淹れてもらえますか?」
「構いませんが……飲み切れないですよ?」
「実は、調べていることがあって……。それにわたしはコーヒーは……苦くて飲めないんです。ごめんなさい」
「なるほど……」
お店の人としては、せっかくのコーヒーを無駄にするような気持ちになりますよね。
「料金はちゃんとお支払いします! それで、必要な香りのコーヒーが特定できたら、それ以外はここにいるお客様に飲んで頂けたらと……」
精一杯の提案です。受け入れてもらえるでしょうか?
「ふふ。お嬢さんはずいぶんと、気遣いのできる方ですね。今日は常連さんが多いですから、喜ばれると思いますよ」
「ありがとうございます!」
マスターが丁寧にコーヒー豆を挽き、何種類ものコーヒーを淹れてくれました。
「こちらが砂漠商会の深煎り、こちらが西海岸航路のブレンド、こちらは少し酸味のある南洋豆です」
ヘンリーを呼んで、匂いを嗅いでもらいます。
「わふっ」
「これ?」
「わふん!」
砂漠商会の深煎りです。
「おじ様、この瓶に入れて、持ち帰ってもいいですか?」
「もちろん。あっ、危ないですから、私がやりますよ」
ジェーンさんのお父様……素敵なジェントルマンです。残りのコーヒーは、常連のお客様が飲んで下さいました。良かったです。
「あとは……植物ですか。辺境にはたくさんあって、王都では見かけない植物。たくさんあり過ぎて、難しいですね」
一応、公園を通って帰りましたが、それらしい植物は見つかりませんでした。
「エバンスお父様の家に戻りましょうか」
そろそろ香水と接着剤の匂いが、紙に馴染んだ頃合いでしょう。戻って嗅いでみましょう。
* * *
「ヘンリー、どうですか?」
「わふ」
香水は“フロリスのオーデコロン”ですか。オレンジみたいな爽やかな匂いです。
「接着剤は?」
「わふ」
アラビアゴムの接着剤です。天然成分なので、切手や食べ物にも使われているそうです。もちろん、紙や布にも使えます。
これで六つの匂いが集まりました。あとは、植物さえ特定できれば。
わたしが……“霧の爆弾魔の匂い”を、作ることが出来るようになります。
読んでいただき、ありがとうございます。
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