表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電書第3巻(完結)配信中 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/78

第18話 ダグラス・リード

ご愛読、ありがとうございます。誤字報告も、いつも大変助かっています。

さて本作、このお話あたりから、シリアスかつミステリー要素が加わります。ですので、感想を書く際、本文のネタバレを避けていただきたく、お願い申し上げます。感想はいつもありがたく拝見しております。どうか、よろしくお願い致します。



 その日は霧が出るのが早く、空が群青色に染まる頃には、周囲はすでに薄く霞みがかっていた。


 俺は私服に着替えて帰宅途中だった。霧の爆弾魔から、挑発するような予告状が警ら隊本部に届いてからは、隊員はまっすぐ帰宅することも禁止されている。自宅を特定されないように、という用心のためだ。


 尾行を警戒しながら時間を潰していると、見知らぬ少女に呼び止められた。


「ねぇ、これ。渡してくれって頼まれたの」


 一通の手紙を差し出される。


「誰に?」

「あの、おじさん……あれ? いなくなっちゃった」


 振り返って少女が訝しげに言った。

 ぞくりと寒気がした。得体の知れない相手に、後ろから肩を叩かれた気分だ。


 少女に礼を言い、その場で封を開く。

 

――霧を払う騎士様へ


時計の修理をお願いしたいんだ。頼めるかい?

開演時間に遅れたら困るからね


案内人は霧の深い夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい



 俺の母親は時計職人だ。

 反射的に走り出した。考え込んでいる時間はない。夜はすぐそこまで迫っている。


 工房へと到着すると、ドアの前に母が立ち尽くしていた。


「ダグラス、ドアの鍵が開いているんだ。出掛ける時に戸締りしたはずなのに」

「母さん、下がっていて」


 慎重にドアを開けると、作業机の上に不自然に大きな木箱が置かれている。


「出掛ける時には、あんなのなかったよ」


 警ら隊に届いた予告文から、俺が霧の爆弾魔のターゲットになったことは、母も承知していた。


「ダグ、これなら解除できる。さっさとやるよ!」


 箱からは秒針の時を刻む音が、規則正しく聞こえている。

 母は腕のいい職人だ。時計を使ったカラクリの専門家だ。知識も技術もスペシャリストと言っても過言ではない。


「猶予はどのくらいだ?」

「40秒よりは長い。この部分がフェイクじゃないなら、あと6分40秒」


 警ら隊へ知らせるには時間が足りない、人気のない場所へ移動するか?


「俺が走って人気のない場所……河川敷にでも持って行く」

「いや……、思ったより手が込んでるね。振動に反応する仕掛けがある。持ち上げたらドカンだ」


「……どうする?」

「ここで、あたしがやるしかない。腹をくくるよ」


「わかった。近所の住人を避難させる。3分で戻る」

「戻らなくていいよ。ハリーとエレンのところに行ってやんな」


「……2分で戻る」


 俺の不用意で挑発的な発言が、母を巻き込んでしまった。この状況は明らかに俺の責任だ。

 こんな場面で俺だけが安全地帯に逃げてしまったら、死んだ親父に顔向けが出来ない。


「マーサの時計工房で爆発物が見つかった! 今すぐこの場から離れてくれ! 時間の猶予がない! 何も持たずに、全力でこの場から遠ざかれ!!!!」


 間を置かず、付近の住人が飛び出して来る。


「ダグラス! どうした?!」


「霧の爆弾魔だ! 逃げろ! 走ってここから遠ざかれ!」


 あちこちから、阿鼻叫喚の声が上がる。

 詳しい説明を求める声や、掴みかかってくる者もいたが、問答無用で追い立てた。


「時間がない! 走れ!」


 幸いにも、この付近には若い夫婦が多く、足の弱い年寄りは住んでいない。


 住人たちは大切な家族の手を取り、着の身着のままで走り去って行った。それを確認して、俺は急いで工房へと戻った。


「来るな! ダグ、罠だった! あたしはこの手が離せなくなった!」


 母が爆発物の箱に手を突っ込んだまま叫んだ。


「どういうことだ?」


「箱の底にカードが入っていた。いいか、読み上げる。


“この爆弾は手を離した瞬間に爆発する二重構造だ。それと……時計は、特殊捜査隊の若きエース殿の自宅に仕掛けた爆弾と、同じ時を刻んでいる”


 ダグラス、自宅に……! ハリーとエレンの元へ走れ! あと……2分15秒だ!」


 状況を把握する前に身体が動いた。走りながら叫ぶ。


「くそったれがぁっっ!!!!」


 自宅までは通りを挟んで徒歩五分程度の距離だ。走れば間に合う!


 頭が真っ白になった。残して来た母がどうなるのか。間に合わなかったら、エレンとハリーがどうなるのか。何も考えられない。二分間、ただただ、全力で走った。


 足がもつれる。

 喉が焼ける。

 世界から音が消える。


 はじめてハリーを抱いた時の、頼りない重さ。エレンの髪の匂い。


「えれーんっっ、逃げろっっ! ハリーっっっ!!!!」


 最後に見たのは、窓から手を振るエレンだった。腕にはハリーを抱えて、笑っていた。


『ズガーン!!!!』


 爆発音は目の前と、後ろから……。同時に鳴り響いた。




読んでいただきありがとうございます。

面白かったら☆評価をいただけると、とても励みになります。

次話はエバンス視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すごい迫力でした。 胸がドキドキしています。
 あまりの脅威にギョっとしました……あとネタバレ防止ですね。なるべく考慮します。
解決回まで感想欄を閉鎖…… あ〜本当にそう思います。 うっかりしたこと、書きそうになります。 しかも的外れなくっそ恥ずかしいヤツw 続きがとっても楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ