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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第二章

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第16話 エルシャ、図書館へ行く

 図書館の玄関でヘンリーの足を拭いてからカウンターへと向かうと、顔見知りの司書さんがニコニコと手を振ってくれました。時々パトロールで寄りますし、元々わたしは図書館の常連なのです。


「あらエルシャちゃん、生憎の天気ね。今日はちびっ子隊員はお休みなの?」


「はい。今日は調べものです。ヘンリーも一緒で大丈夫ですか? 足はちゃんと拭きました」


「ええ。この時間は常連さんばかりだし、ヘンリーはお利口だから平気よ。ふふ。ヘンリー、こんにちは」


 ヘンリーがお座りして、尻尾をブンブンと振ります。図書館では、吠えない約束です。


「あの……、五年前の王都タイムスを、お願いします」


「いいわよ。でも、すごい量になっちゃうわよ?」


「そうなんですね。えっと……じゃあ、まずは号外を見せてもらえますか?」


 霧の爆弾魔事件は、五年たった今でも話題にのぼるほどの大事件です。必ず号外が刷られているはず。


「わかった。座って待っててね」


 窓際のいつもの席に座ると、ヘンリーがわたしの足元にぺたんと伏せました。

 しばらくして、司書さんが新聞の束を持って来てくれました。古いインクと乾いた紙の匂いがします。


「お待たせ。五年前の号外はこれで全部よ。ずいぶん多いなと思ったら、この年は“霧の爆弾魔事件”があった年なのね」


 号外は全部で8部。見出しに“霧の爆弾魔”の文字が踊っています。


「はい、辞書も使うでしょう?」


 司書さんは、わたしのいつもの読書スタイルを知っていて、辞書も持ってきてくれました。七歳になったばかりの幼女には、新聞は難しい言葉が多いのです。


「ありがとうございます」


 新聞の束を受け取り、時系列に読んでいきます。


   * * *


 最初の事件は新聞社に届いた、怪文書からはじまりました。


――断罪の舞台の幕が上がる

観客たちは震えて待て

今夜の役者は誰だ? 出し物は何だ?

泡沫うたかたの夢を観に行こう


案内人は霧の夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい



「これは……」


 とても爆破予告の犯行声明文とは思えません。まるで趣味の悪いポエムのよう。

 新聞社でもほとんど相手にされずに、いたずらとして処理されたようです。


 ところが……。


 それから二日後の深夜、最初の爆破事件が起きたのです。

 被害に遭ったのは、北区六番街にある石鹸工場。


泡沫うたかた……?」


 難しい言葉です。わたしは辞書を開きました。断罪もわかりません。


“うたかた”は、水面にできる泡のこと、すぐに消えるはかない様子をあらわす。


「“泡沫”には、あわとか、あぶくの意味もあるようですね。なるほど……それで石鹸工場ですか……」


“断罪”は、罪を裁くこと。


 石鹸工場の人が、悪いことをしていたのでしょうか?


 この怪文書と石鹸工場が関連づけられたのは、二件目の爆破事件が起きてから。石鹸工場は事故として処理されていたそうです。


――さあ、お楽しみの時間だ!

今度の舞台は悲劇か喜劇か

観客たちは泣き笑い

運命の糸が紡ぐ物語はどうだい?


案内人は霧の夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい


 二件目に爆破されたのは、川沿いにある大きな紡績工場……繊維を糸にする工場です。


「運命の“糸が紡ぐ”物語……」


 犯人が何をしたいのか、全然わからないです。なぜ、工場ばかりを……?

 それに、自分に酔ったような予告文。世間を騒がせてそれを楽しむ、愉快犯というやつでしょうか?


「演劇が関係あるんですかね?」


 二件の爆破事件について、警ら隊で捜査がはじまりました。爆発物はどちらも時限式で、時計が組み込まれた箱型。

 紙面では都民や工場の人に向けて、不審な箱や荷物に注意するよう、大きな文字での呼びかけがあります。


「箱型……」


 だからダグラスお父さんは、荷物に注意するようにって言っていたんですね。


 そして三件目……。


 とうとう被害者が出てしまいます。


――お待ちかねのカーテンコール

派手な演出が必要だ

花火を打ち上げろ

湯気で曇った客席は拍手喝采


案内人は霧の夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい


 この予告文を受けて、警ら隊は王都中の『カーテン工場』『花火工房』を封鎖し、警戒体制を敷きました。


 ところが、標的は工場ではありませんでした。


 職人街にある公衆浴場。三件目の爆破が起きた時、営業時間は終わっていました。ですが、浴室の掃除をしていた従業員が、建物の倒壊に巻き込まれて大怪我をしました。


『カーテンコール』や『花火を打ち上げろ』ではなく『湯気で曇った』にヒントが隠されていたのです。


『霧の爆弾魔』という呼名はこの頃に定まったようです。それ以前は『月影の案内人』や『霧夜の悪魔』など、さまざまな呼ばれ方をしています。


 予告通りに爆破が三度も続き、王都の住人に不安と恐怖が蔓延していく様子が、記事からひしひしと伝わります。


 新聞が飛ぶように売れ、誰もが謎解きに夢中になりました。“工場”という縛りが消えたことで、標的になる条件も犯人の目的も、謎に包まれています。


 予告文の『カーテンコール』から、これで犯行は終わりなのではないか……。そんな見方をする人もいたようです。


「あっ……!」


 記事の中に、ダグラスお父さんの名前を見つけました。


――連載開始! 特殊捜査隊の若きエース、ダグラス・リード氏への密着取材――


 ジェーンさんが、子供の頃に夢中になって読んだという、新聞の連載記事でしょうか。


 これは……わたしも読んでみたいです。五年前ということは、ダグラスお父さんは二十代後半……! 写真とかありますかね!


「いけません……。浮かれて良い場面ではないです……」


 反省しながら、次の号外を手に取ります。


――帽子を被った犬たちが

間抜けづらで嗅ぎ回る

ご主人様に尻尾を振って

無能なくせにうるさく吠える

次はどこで幕が開くか

止められるものならやってみろ


案内人は霧の夜に現れる

月が隠れたら 思い出すがいい



 これは、わたしでもわかります。『帽子を被った犬』は警ら隊のことです。ものすごく、警ら隊を馬鹿にして、挑発しています!


「犬に例えるとか……! 二重に腹が立ちます!」


 ヘンリーは関係ないと、わかっていても気分が悪いです。思わず新聞をクシャクシャにしたくなりました。


「ヘンリーも警ら隊のみんなも、間抜けづらじゃありません!」


 あれ? でも……このふざけた文章の中に、次の爆破箇所のヒントがあるのでしょうか?


「警ら隊の本部とか、詰所ですかね? それとも、本物の犬がいる場所?」


 いつの間にか、わたしも犯行予告の謎解きに夢中になっていました。犯人が注目を集めて喜んでいたなら、まんまと嵌められてしまっています。


「エルシャちゃん、なに考え込んでるの?」


 気がつくと、目の前にジェーンさんがいました。


「びっ……くりしました……」


「ふふ、目がまん丸よ! 雨が激しくなってきたけど、大丈夫? 傘はある?」


 ジェーンさんにも、空が大荒れになっているのも、全然気がつきませんでした。窓の外は土砂降り。雷まで鳴っています。


「あー、傘……ないです」


「うちで雨宿りしていく? ここからなら走ればすぐよ」





読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
 連続爆破でも補導されずに調子づいたのか、警ら隊などを挑発するとは大胆な犯人ですな。  しかし、ある人物とダグラスさんとの面会時期や犯行予告が再来した時期といい、エルシャちゃん、もしかしてピンチですか…
すっかりエルシャと同じ目線になっていました。 夢中になってなぞ解きをしてしまいます。
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