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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第二章

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第14話 動き出したカラクリ時計

 アッシュフォード男爵との面談の日から二週間ほどが過ぎた頃、男爵家の執事さんから手紙が届きました。家の封蝋の押された正式なものです。


 わたしはさっそく、マーサおばさまの工房へと向かいました。


「おばさま、出張修理の依頼は出来ますか?」

「モノによるね」


「以前、落とし物でカラクリの人形が持ち込まれたの覚えていますか? あのカラクリ時計の修理の依頼を受けたんです」


「面白そうだね。いいよ、引き受ける。次の日曜日はどうだい?」

「わかりました。それでお願いします」


 当日はメイベルさんからお茶のお誘いも受けています。せっかくなので、ビリーくんも誘いました。


   * * *


「なぁ、なぁ、エルシャ。おれ本当に一緒に行っていいのか? 一応、余所行きの一張羅で来たんだけどさ」


 当日、ビリーくんは意外にもしっかりお洒落をしてやって来ました。仕立ての良いベストと半ズボン、ハンチング帽というよそおいです。


「おれ、貴族のお茶会なんて、はじめてだからさー」

「大丈夫、すてきですよ。それにわたしもお茶会、はじめてです」


 わたしは今日は警ら隊の制服ではなく、夏らしくクリーム色の袖なしワンピースです。今日は、ちびっ子警ら隊員ではなく、エルシャ・グリーンフィールズとして、メイベルさんとお話ししたいのです。


「あんたら、めかし込んで来たねぇ。あたしは仕事だから作業着で行くよ!」


 マーサおばさまは、ストンとしたシルエットの灰色のスカートに胸当ての付いた大きなエプロンという、いつもの格好です。


 ビリーくんがおばさまの工具箱を持ってくれて、三人と一匹で四番街へと向かいます。普段は歩く距離ですが、おばさまは脚が悪いので今日は辻馬車を拾いました。


   * * *


 アッシュフォード邸に着くと、マーサおばさまは時計の修理へ向かい、わたしとビリーくんはお庭に案内されました。


 庭に出ると、空気がすっと軽くなりました。新緑を渡る風が爽やかです。

 木陰にテーブルセットが用意されていて、メイベルさんが座っていました。

 執事さんが椅子を引いてくれて、着席します。ビリーくん、カクカクした動きになってますね。


「本日はお招き、ありがとうございます」

「ようこそ、いらっしゃいました」


 子供のお茶会ですが、はじまりの挨拶は正式なものでした。

 冷たいレモネードと、焼き菓子が並んでいます。


「メイベルさん。ご両親の件、わたしの出来る範囲で調べました」

「うん、ありがとう。どうだった?」


「メイベルさんは、アッシュフォード男爵家の実子です」

「じっし、ってなあに?」


「この家の、おとうさまとおかあさまの、本当の子供という意味です」

「そう……。やっぱりね……。わたし、おとうさまに、そっくりだもんね」


「がっかり、ですか?」

「うん、少しね。でも、あの人……おとうさま、帰ってくるようになったの。名前を呼ばれて、びっくりしちゃった」


 メイベルさんは困ったように笑いました。


「きゅうに、どうしたのって聞いたら、今まですまなかったって言うの。わたしと、家族になりたいんだって……」


 男爵は……最初の一歩を踏み出したようです。


「おとうさまも、家族ははじめてなんだって。ふたりで、家族をやってみようって……」


 ふたり……。三人ではないんですね。


「おかあさまには、ことわられちゃったみたい。それを聞いて、ちょっとかわいそうだなって思って……」


「お父様が?」


「うん。わたしに『家族になりたい』って言ったおとうさま、すごくきんちょうしてた。手がふるえていたし、泣きそうな顔してた。きっと、おかあさまにも同じように言って、それでも、ことわられちゃったんだなって思ったら、かわいそうになっちゃったの」


「それは……なんだか家族っぽいですね」


 共感する……というのは、人間関係において大切な要素です。


「うん、そうなの。だからわたし、『わかった。やってみよう』って言ったの。変かしら?」


「変じゃねぇよ。それに家族なんて、外から見たらみんな変なんだよ」


 黙ってわたしたちの話を聞いていた、ビリーくんが言いました。


「そうなの?」


「そうですね。わたしには家が四つありますし、血のつながりのない人と、家族として暮らしています」


「ええっ???」


 メイベルさんとビリーくんが、二人ともびっくりした顔をしています。

 ビリーくんの言う通りですね。“普通の家族”なんて、わたしも知りません。


「変……ですか?」

「それはちょっと……変わってるな!」


 ビリーくんが言って、三人で笑いました。


「……じゃあ、わたしも、変でもいいかな!」


「変でいいよ。うちの父ちゃんも母ちゃんも変だし、兄貴たちも変だぞ! この間なんか……!」


 ビリーくんが、家族の楽しいエピソードをたくさん聞かせてくれました。


 おそらく、わたしが後見人の皆さんとやっていることは、外から見たら“家族ごっこ”であり、滑稽こっけいな茶番なのでしょう。

 けれど、それをわたしは……わたしたちは、大まじめにやっているのです。


 お茶会は、思いのほか楽しい時間となりました。作業が終わらなかったマーサおばさまを残して、わたしとビリーくんはアッシュフォード家を後にしました。


――それから数日後、今度はメイベルさんから手紙が届きました。


エルシャさんへ


 先日、おとうさまと、いっしょに食事をしたの。

 わたしはきんちょうして、フォークを落としちゃった。でも、おとうさまも同じで、スープのお皿をひっくり返していたわ。

 おとうさまは「二人とも初心者だから、失敗しても良いことにしよう」と言っていた。

 変でも、失敗してもいいなら、何とかやっていけるかなって思う。


 それから、あの仕掛け時計は、曲も、カラクリのうごきも、いくつもあることがわかったの。

 マーサおばさまが何日も通って、わたしでも操作できるようにしてくれたわ。


 前は、だれも見ていないのに、ばかみたいって思っていたけど、今はちがう。

 毎日、おとうさまと「今日はどれにしよう」ってきめて、時間になるといっしょに見に行くの。

 とても楽しいカラクリなのよ! こんど、エルシャさんとビリーくんも、見に来てね。


メイベルより



 ふふ……。ふふふ。


 読みながら、笑顔になるような手紙でした。


 馬車道に転がっていた小さなカラクリ人形は、今は元の時計に収まって、楽しい演奏をしているようです。


 マーサおばさまの工房の柱時計が、ボーンと一回鳴りました。おばさまの仕事が終わる時間です。

 二人で食事の支度したくをして、ダグラスお父さんが帰って来るのを待ちます。


 わたしの家族の形も、外から見たらひどく不恰好なものだと知っています。


 だからこそ、失敗しても笑ってやり直そうと思います。振り子のように……行って、また戻って。何度でも。




読んでいただきありがとうございます。

次話から『霧の爆弾魔編』がスタートです! 乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
次話から『霧の爆弾魔編』……… 爆弾と時計を関連付けるのは普通だと思うの
チクタクチクタク、ボーンボーン。 止まっていた家族の時間が動き出す。 第二章に入ってから、貴族学校の制服や小さなナース、子供警ら隊員に今回のお呼ばれコーデと、色々な衣装のエルシャが出てきてくれて嬉し…
 メイベルちゃん、家族と少しずつ距離を縮められて良かったですね。  エルシャちゃんもビリーくんも、自他の家族関係に客観的な視点を得たとともに、ある程度成長したようで何よりです。
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