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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第二章

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第12話 エルシャ、捜査を開始する

 ヘンリーに入り口で待っているように言って、ビリーくんと図書館へと入ります。尻尾がへにょっと垂れていますが、さすがに連れては行けません。


「あねさん、何を調べるんで?」


 ビリーくんの話し方は助手というよりは、子分とか手下とか、そんな感じですね。ちょっと遠慮したいです。


「貴族名鑑で、メイベルさんのご両親を調べます。ビリーくんは、これを読んでおいて下さいね」


「これは?」


「貴族のゴシップ専門誌『宵のランプ』のバックナンバーです。48ページに仮面夫婦の記事があります」


「かめん夫婦ってなんだ?」


「えっと……仮面をかぶるように、仲良しを演じている夫婦のことです」


「おまえ……子供のくせに、なんでそんなことに詳しいんだ?」


「苦労してるから……ですかね?」


 あねさんが、おまえになりました。普通に名前で呼んで欲しいです。

 ビリーくん、最初は興味なさそうにしていましたが、しばらくすると夢中なって読みはじめました。ゴシップ記事は刺激的ですからね。

 何度か単語の意味を聞かれたので、辞書を渡しておきました。


 さて。


 わたしは貴族名鑑で、メイベルさんのご両親を調べます。“貴族名鑑”は、この国の貴族を写真付きで紹介している、図鑑のように立派な本です。

 家の成り立ち、領地の特徴や特産品、職業や家族構成……。走馬灯の記憶の『個人情報』とやらが満載です。


 アッシュフォード男爵家は……。

 

 ありました……! 当主は、フレデリック・アッシュフォード。ああ、これは……! 一目瞭然ですね。

 色の薄い金髪に、青みのある茶色の瞳……太くて短い特徴的な眉。メイベルさんにそっくりです。


「あっ、でも……、お父様の血筋ならその特徴を受け継ぐこともあるのかも……」


“似ている”だけでは、実子と断定は出来ませんね……。


 夫人はヴィヴィアンさん。旧家のモントローズ家の三女で“社交界の華”ですか……。確かにとても美しい人です。少し神経質そうではありますが。


「ふう……。すげぇ記事だった……。メイベルの父ちゃんと母ちゃん、本当に仲が悪いみたいだな……」


 ビリーくんの表情は、暗く沈んでいます。自分の“当たり前”が、通用しない世界があることに、ショックを受けているのでしょう。


「何とか、してやりてぇな……」


「はい……」


 難しい問題です。メイベルさんが、アッシュフォード男爵家の実子でないことが判明したとして、彼女が望むような暮らしができるのでしょうか。


「まずは真実を……明らかにしましょう」


 次にわたしたちが向かったのは、ハドソンおじいちゃまの家です。

 おじいちゃまは貴族の診察はしない主義ですが、何か知っているかも知れません。


「おお、エルシャや。よく来た! 腹は減っておらんか? ハンナの焼いたチェリーパイがあるぞ」


 チェリーパイと聞いて、ヘンリーとビリーくんがわかりやすく尻尾を振りました。

 いえ、ビリーくんには尻尾はありませんでしたね。見えた気がしただけです。


「おじいちゃま、今日のわたしは“子供特別警ら隊員”です。市民からの歓待は遠慮させて頂きます」


 キリッと顔を引き締めて、敬礼をします。


「おじいちゃまとハンナさんに、聞きたいことがあります」


 わたしはメイベルさんとの出会いと、彼女の依頼をかいつまんで説明しました。


「六年前の、アッシュフォード男爵夫人の出産について……か?」


「メイベルさんは、ご自身が両親の子供ではないと言っていました。本当の両親を探して欲しいと……」


「うむ……。夢見がちな子供が、本当の自分はお姫様に違いないと妄想するのとは、ちと話が違うようじゃな……」


「はい……。親は子供を愛するのが当たり前だという、夢を見ているとは言えますが……」


 そんな当たり前はないのです。ですが、それを子供が求めて悪いはずがない。


「エルシャも、難儀じゃなぁ……。そんな顔をするでないぞ」


 おじいちゃまが気遣うように、わたしの頭をポンポンとしてくれました。知らず、眉間に皺が寄っていたようです。


「患者の情報を漏らすのは、本来は御法度なのよ。でも、そうね……。ご近所のおばあちゃんの噂話だと思って聞いてちょうだい」


 ハンナおばあちゃまが言いました。職業倫理に反する質問です。申し訳ないです。


「六年前、アッシュフォード夫人は、男爵にそっくりな可愛い女の子を出産したわ。お産の手が足りなくて、私も手伝いに呼ばれたの。だから、間違いないわ」


 走馬灯の記憶にある『遺伝子検査』等が出来ない現状、わたしに集められる情報はここまでです。


「エルシャ、次はどうするんだ?」


 ビリーくんが、ワクワクした様子です聞いてきます。あとは、本人に……アッシュフォード男爵にぶつかってみようと思います。


「男爵から、任意で聞き取り調査をします」


 ビリーくんが「すげぇ! ホンモノみたい!」と、歓声を上げました。


「ビリーくん。遊びのつもりなら、ここで遠慮して下さい。ここからは、メイベルさんの人生にかかわる問題です」


「そんな、大げさな……!」


「大げさではありませんよ」


 わたしの真剣な様子に、ビリーくんが黙り込みました。


「また後日、良かったら一緒に道案内の仕事をしましょう」


 これから、わたしはまた少し無茶をします。それにビリーくんを巻き込む訳にはいきません。


 何か言いたそうなビリーくんと別れて、詰所へと戻ったわたしは、辞書を片手にアッシュフォード男爵の勤務先へ手紙を書きました。


 西区警ら隊の封蝋を、こっそり借りて温めて――小さく息を吸います。これを押したら、もう後戻りはできません。


 ちびっ子警ら隊員エルシャ、やってやります!


――――――――――

王宮内務省 庶務局 文書課 御中

アッシュフォード男爵閣下


拝啓

突然のお手紙にて失礼いたします。


本日、私はメイベル・アッシュフォード様と面談し、本人より依頼を受けました。依頼内容は、下記のとおりです。


【依頼内容】

自分の出生の経緯と、その真実について。


つきましては、当詰所にて、アッシュフォード男爵閣下およびご夫人に対し、任意の聞き取り調査を実施いたします。

誠に恐れ入りますが、下記日時に西区八番街警ら隊詰所までお越しください。


【日時】〇月〇日(〇) 〇時〇分

【場所】西区八番街警ら隊詰所


なお、差出人の役職名から、いたずらやごっこ遊びを疑われることがあるかと存じます。

ですが、私は警ら隊員の名において、本件に真剣に取り組んでおります。

閣下のご理解とご協力をお願い申し上げます。


敬具


――――――――――

西区八番街警ら隊

子供特別警ら隊員 エルシャ・グリーンフィールズ




読んでいただきありがとうございます。


本作は『屋根裏のエルシャ』というタイトルで電子書籍化しています。全3巻、コミックシーモアさん他で好評配信中です。良かったら、そちらもポチッと応援、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ちょっとゴシップ紙の記事を読んでみたいです。 子供特別警ら隊員には任意出頭させる権利は基本的には無いような気がしますが、エルシャ、やりますね。頑張ってほしいです。
 好奇心となりきりでスリルをただ楽しんでいたはずが、いつしかメイベルちゃんの事情を遊びとは別に真剣に向き合おうとし始めるビリーくん……根はまっすぐかもしれませんね。  ゴシップ誌なので信憑性は微妙で…
産業革命期のイギリスでは、労働者階級の子供たちが工場へ駆り出されてしまい、貧困層の識字率が低下したと言われていますが、この世界のビリーくんは、口は悪いですがゴシップ誌を読める程度の読解力を備えているよ…
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