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電書第3巻(完結)3/25コミックシーモア配信予約開始 ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる
第二章

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第3話 エルシャと不遇姉

 皆さま、おはようございます。


 エルシャ・グリーンフィールズ六歳です。


 今朝は早起きして一番乗りで登校しちゃいました。通学用の馬車止めの脇で、さりげなく佇んでいます。

 張り込みです! ええ、ちびっ子探偵ですから。


 しばらくすると立派な馬車が止まり、ベアトリスさんが元気に飛び降りて来ました。病弱にはとても見えません。

 続いてセシリアさん。顔色が悪く、目の下に隈があります。


「明らかに寝不足ですね」


 ヘンリーと一緒に向かいます。


「ヘンリー、お二人の手を嗅いでもらえますか? 朝食以外のにおいがしたら教えて」


「わふっ!」


 トーマスおじ様から、犬の嗅覚は人間の100万倍以上と教えてもらいました。素晴らしいですが、羨ましくはないです。臭いのも100万倍だと困ります。


「おはようございます」


「おはようございます、エルシャさん。ヘンリーも、おはよう」


 セシリアさんと挨拶を交わします。ヘンリーの鼻が、ふんふんと鳴っています。


「朝から近寄らないでよ。犬臭くていやだわ」


 ベアトリスさんは、手のひらをパタパタして言い、わたしを無視して行ってしまいました。ヘンリーが揺れた手の残り香を追っています。


「エルシャさん、妹がごめんなさいね」


「セシリアさんが謝る必要はありませんよ。それより今日のランチ、一緒に食べませんか?」


 セシリアさんと、二人で話すための約束を取り付けます。


「ええ、いいわね。じゃあ、お昼休みに学校の食堂でね」

 

 セシリアさんは、パタパタとベアトリスさんを追いかけて行きました。


「ヘンリー。手のにおい、嗅げました?」


「わふ、わうっ!」


“もちろん! いやなやつはバターと砂糖のにおい。セシリアちゃんは、糸と鉄、それからインクのにおいがしたよ”


「鉄は“針”ですかね? ベアトリスさんはお菓子のにおいしかしないの? インクのにおいは?」


“美味しそうな匂いしかしない。三日くらいはペンと紙には触ってない”


 さすが100万倍。素晴らしい精度です。


「なるほど……。ヘンリー、ご苦労さまです」


 週末の課題内容は、あらかじめ調べてあります。ベアトリスさんの学年は刺繍と作文、セシリアさんの学年は刺繍と計算問題。


「……確定、ですね」


 嘘は、口より手に残るのです。



   * * *



「セシリアさーん!」


 昼食どきの食堂で、セシリアさんと落ち合いました。貴族学校の食堂は、メニューも豊富で豪華です。


 楽しくお話ししながら食べていましたが、セシリアさん眠そうに目を擦っています。


「セシリアさん、疲れてますか?」


「ちょっと寝不足なの。ごめんなさいね」


「わたしも週末は課題を頑張りました。今夜は早く寝ないとですね」


「……妹がね」


 セシリアさんが、こぼれるように口にしました。


「ベアトリスさん?」


「……昨日、また、熱があるって言って」


「今朝は馬車から元気に飛び降りてましたよ」


「あ……」


「……ごめんなさい。いまのは意地悪な言いかたでした」


「いいの。事実だもの」


 セシリアさんは、笑いました。諦めたみたいな笑いかたです。


「熱があるって言えば、私が課題をやるから」


「今までも、ずっとそうだったんですか?」


「学校に入学してからずっとなの。小さい頃は、課題も簡単だったけど、高学年になったら量も多いし……」


「ベアトリスさんは“優等生”ってことになっているから、手も抜けないんですね」


「エルシャさんは知っていたのね……。そうなの。その分、自分の課題がおろそかになってしまうの」


「ご両親は知っているんですか?」


「母はあの通りの人だから、『姉なら妹を支えて当たり前だ』って言うの。最近は、なんだか、母の言うことが間違っている気がして……」


「セシリアさん、あなたの言う通りです。お母様が間違っています。課題を代わりにやることは、支えることにはなりません」


「……妹が跡取りなの。私は地味で何の取り柄もないから、『せめて妹の役に立て』って……」


「たとえばの……未来の話をしますね。

 このままだとベアトリスさんは、嫌なこと、面倒なことは全てセシリアさんに押し付けて……“名前だけの当主”になります」


 セシリアさんが俯いて、ギュッと目を閉じます。まるで痛みに耐えているみたいです。


「当主の仕事は全てセシリアさんがやっているのに、その成果はベアトリスさんの手柄になります。

 そして――お母様は、また言います。『姉なんだから、妹を支えるのは当然だ』と」


「……エルシャさん、私こわい。ずっと考えないようにしてきたの……」


 怖くて当たり前です。考えたくないのもわかります。でもこのままでは、もっと深みにはまってしまう。


「ベアトリスさんは、ヘンリーのことも欲しがったし……セシリアさんの物も欲しがるんじゃないですか? そういうの、世間では“欲しがり妹”っていうそうですよ」


「……そうなの。ドレスもアクセサリーも、誕生日のプレゼントも……。妹は私のものを何でも欲しがるの。

 母も『ベアトリスの方が似合う』って……『姉なんだから我慢しなさい』って言うの……。でも……ふふ」


 セシリアさんが小さく笑いました。


「その“欲しがり妹”って、あれでしょう? 流行の恋愛小説に出てくる……」


「えへへ、バレました? でも、ベアトリスさん、あの小説の妹にそっくりですよね」


「あの小説……最後は婚約者まで、欲しがり妹に奪われちゃうのよね……」


 セシリアさんの顔色が、また少し悪くなりました。笑えない未来ですからね。


「ねぇ、セシリアさん。わたしは去年の秋ごろまで“ドアマット幼女”だったんです」


「ドアマット幼女?」


「はい。家族から、玄関にある汚れ落としのマットみたいに、踏みつけられていました」


「え……?」


「子供の世界は狭いです。でも、家と学校以外にも、人はたくさんいて、そこでも生きていけるんです。

 ドアマット幼女だったわたしが断言します。我慢をやめても、世界は終わりません」


「でも……地味で何の取り柄もない私は、誰も好きになってくれないわ。家族とさえ、上手くやれないんだもの」


「わたしも、“自分が悪い子だから愛してもらえない”って思っていました。

 でも違ったんです。だからセシリアさんも、家の外に目を向けて欲しいんです」


「不思議ね……。エルシャさんが私より、ずっと大人みたいに見えるわ」


「ふふ、苦労しましたから。でも今は、普通の幼女ですよ」


 今は、普通の……幸せな幼女です。


「セシリアさん、踏みつけられる“ドアマット”のままでいたらダメです。“いつか”なんて、そんな日は来ない。だから、勇気を出して下さい」


「わかった……。先生に相談してみるわ」


 そう言ったセシリアさんは、どこか肩の力が抜けたような、柔らかい笑顔を見せてくれました。



 さあ、あとは仕上げです。逃しませんよ!



読んでいただき、ありがとうございます。


続きが気になる方はブクマを、面白いと思った方は☆評価を、作者との交流は感想をお願いしますね。

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― 新着の感想 ―
本当にそうですよね教師なら妹が優秀じゃあ無いって分かりそうなものなのに…
こういうのを察するのは、本来、教師の仕事だと思うんですよ。 そこら辺も斬りたいですね。
 栄養も休養も殆ど摂れず、自分を客観的にみられずに家族からの理不尽で2人分を行いつづけ、姉が壊れ次第、妹のメッキが剥がれるか、姉の反逆で妹のメッキが剥がれるかになりますかね。  優秀な助手ヘンリー(犬…
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