第58話 盟友の誓い
興奮が収まらない場内の雰囲気を察し、めぐみが、
「本日の会議は終了致します。皆様、お疲れ様でした」
と言うと、各々がグループごとに集まり、今後の対策や、アイディアをディスカッションしていた。
特にエンジニアは、公開されたサムスのコードを見て唸ると、その妙技を舐めるように隅から隅まで凝視する。
自分達でこのプログラムを如何にブラッシュアップするか、その明晰な頭脳を働かせる、知的遊戯に思いを馳せていた。
「ったく、お祭り騒ぎだな」
英一郎はそう言うと、その雰囲気を楽しむように椅子に凭れ、大きく背伸びをすると、
「パパ!」
楪葉が英一郎のいる席へ、勢いよく走って行くと、
「楪葉、どうした?」
楪葉はクリスマスに、プレゼントを贈られた子供のように、嬉々とした表情を浮かべ、
「ボクにも、アイツが作ったプログラムの最適化、やっていいよね!」
懇願するような眼差しは、断ることを許さないという、確固とした意志が込められていた。
英一郎はフッと笑うと、
「当たり前だろ、楪葉」
楪葉の頭をポンと撫でると、
「ありがと、パパ!」
英一郎に抱きつくと、楪葉を見ていた夏希と琴音が、
「こりゃ、大仕事になるな」
「ええ、でも楽しみです」
二人は楪葉の、今までにない太陽のような笑顔を見ると、これからの作業が楽しみで仕方がなかった。
「首相」
めぐみが英一郎の横に立つと、
「うん?どうした、めぐみ」
これからのスケジュールを、大まかに纏めたデータを英一郎の機器に転送すると、
「相変わらず、仕事が早いな」
「サムスの発言で、斜線を引いた箇所が多々ありますけどね」
「はは、そりゃ難儀だな」
めぐみを労うように、温かな視線を向けると、
「いえ、そうでもありませんよ」
そう言って一礼し、会場を後にした。
「めぐみ、楽しそうだね」
「ええ、いい顔をしています」
遊と一樹が、めぐみが立ち去る姿を見て、後に続き、退出しようとすると、
「遊、一樹!」
英一郎が二人を呼び止めると、
「めぐみを頼むぜ」
めぐみが仕事に対する、潔癖なまでのスタンスを知っていた英一郎は、二人に頼むと、
「大丈夫です。私がちゃんと見ていますから」
藍がスッと、英一郎の横に立って微笑むと、英一郎は頼んだぞ、と力強く頷く。
ケルベロスのメンバーは、肩で風を切るように堂々と出て行くと、
「ほなら、ワイらもボチボチいこか」
夏希の言葉に、
「ええ」
「うん!」
琴音と楪葉は夏希に促されるように、自室へと戻って行く。
戻り際、
「楪葉」
「なに、パパ?」
楪葉の顔を見て、英一郎は、かつての瑠璃子の姿を重ねると、
「いや、何でもねぇ、無理はするなよ」
「パパもね」
テトのメンバーも会場を後にすると、英一郎は目を閉じて、亡き瑠璃子に語るように、
(……あの馬鹿。お前との約束、マジで叶えようとしてやがるぜ)
暫くの間、瑠璃子と語り合うように、会場の喧噪から切り離すように、深く、自身の心と対話する。
そして、
「さて、俺も行こうかね」
椅子から立ち上がり、会場を出ると、警護の二人が、
「何があったのですか?」
「すごい歓声が上がっていましたが」
二人を見て笑うと、
「後でな」
と言って、それ以上語らず、赤坂インターシティAIRの玄関まで出ると、計ったように首相専用車が横付されており、外で又吉が煙草を美味しそうに吹かしていた。
「よお」
南雲を見て、又吉は手を軽く挙げると、
「待たせたかい?」
「んなことねぇよ」
又吉は運転席に回ると、オートドアのスイッチを押して扉を開く。
南雲は席に着くと、又吉が、
「じゃ行くぜ」
と言って、ステアリングを切ると、何も聞かずに車を発進させた。
車中で警護の二人に、先程あった出来事を話すと、二人の驚きようは凄まじかった。
「あのアンちゃん、相変わらず、とんでもない花火をブチ上げやがったな」
又吉は口から煙草が飛び出るんじゃないかと思うほど、大笑いすると、
「こりゃ、暫くの間、お前さんを護るのに難儀するぜ」
「あん?」
煙を勢いよく吸って、煙草を灰皿へ粗雑に突っ込み、
「さっきの情報だけどな、もう漏れてるぜ」
その一言に、警護の二人は狼狽える。無理もない。
現在の日本国に於ける、トップレベルのセキュリティを誇る、施設からの情報漏洩など、限りなく不可能、いや、考えられるものではなかったからだ。




