第31話 好敵手
宮殿に、雨のように照射された、無数の矢を見据え、アルテミスは目を閉じ、銀の矢を番えた。
月の光の力を蓄え、矢に込め、解き放った。
「シェル・ド・ルナ」
光の矢は、シオンが放った、矢を弾くように、円形上の巨大な膜となり、全ての矢が、その光の膜に当たると、力なく、消滅していった。
「!」
その防御スキルを見て、シオンは驚くが、すぐに、次の一手を打つ。
如何な、防御力であろうと、シオンが持つ、攻撃力に特化したスキルなら、突破出来ると確信し、瞬時に切り替え、矢を放った。
「弓術奥義・咬牙!」
放たれた矢を覆うように、獅子のエフェクトが、膜を食い破り、アルテミス目掛け、襲い掛かった。
「……」
矢は、アルテミスのいる場所を、僅かに逸れ、城壁の石垣を、大きく削った。
「ちっ、外したか」
「タオをチャージしますね」
「ああ、頼むぜ、カナン!」
一発で仕留めることが出来る奥義は、タオの消費量が大きく、次の発動までのチャージに時間が掛かる。
シオンは、残り少ないカナンのタオと、自身のタオを使い、覚悟を決めると、最後の一手に全てを賭けた。
城の最深部で、静観していたヘルメスが、
「大丈夫かい?」
と言って、アルテミスを気遣う。
「ええ、私の防御スキルを破るとは」
「シェル・ド・ルナの防御判定が残っていなかったら、危なかったね」
本来のシオンの腕なら、確実にアルテミスに、会心の一撃を与えていたが、僅かに残ったスキル判定が、アルテミスを、その猛威から助ける結果となった。
「素晴らしい腕前ですね」
「僕が出来ることはあるかい?」
ディーヴァの支援があれば、ここまで窮地に陥ることの無かった。
だがアルテミスは、敢えて、その環境に身を置くことを、彼女は、自ら選択していた。
「そうですね、どうしましょう?」
少し困った顔で、思案しているが、ヘルメスは、呆れることもなく、顔を綻ばせて、
「お呼びでない、かな?」
「ふふ」
ヘルメスは、斎場に座り込むと、大きな伸びをして、大の字になり、大あくびをする。
「僕だけ、仕事がないのも、みんなに悪い気がするけど、まっ、いっか」
「相手のディーヴァの、監視スキルを封じる大仕事を、完遂するだけでも、お釣りが来ますよ」
「上手くいくとは、思わなかったけどね」
天井を見ながら、満足そうに寝返りを打つと、そうそうと、ヘルメスが、アルテミスに語り掛ける。
「なぐ、じゃなかった、クラウドさん。僕達の正体、気付いちゃたみたいだよ」
「でしょうね」
「あれ、驚かないの?」
アルテミスは、一連の、久遠達の戦闘を見届け、ノルンが、とても楽しそうな表情を浮かべて、戦っているのを感じ取ると、不思議な共感力で、全てを感じ取っていた。
「ノルンさんも、大人げないですけど」
「それは、君にも言えると思うよ」
ヘルメスが楽しそうに笑うと、釣られるように、アルテミスも笑い出した。
「ふふ、これだけの好敵手、手を抜く必要がありますか?」
「と言っても、僕達のスペックは……」
「ヘルメス」
アルテミスは、静かに制すると、
「分かってる。でも、単純に楽しみだよ。これからの戦闘がね」
「ええ、よく見ていて下さい」
二人は微笑む。
アルテミスは、シオンがいるフィールドに、視線を向けると、戦闘態勢に入った。
炎龍は、久遠の頭上で、相手を威嚇すると、久遠に、
「我がマスターよ、久方振りだな」
神聖位クラスの召喚獣には、意志があり、宿主の意志と関係なく、自己の判断で、行動を行うことが出来た。
「そうだね、ウェルシュ」
久遠が、炎龍の名前を呼ぶと、首を垂らした炎龍を撫でる。
「それ程の相手か?」
「うん、桁違いだよ」
炎龍が、グルルっと喉を鳴らし、相手の二人、特に、ノルンの表情を窺う。
「……」
何かを感じたのか、炎龍は、無言になると、
「我が力、存分に行使するがよい」
「ああ、頼りにしてるよ」
久遠と炎龍は、シオンと対峙すると、久遠は構えを取り、相手の動きに、精神を集中させた。




