第27話 猛る戦意
ノルンは、ロイの顔を思い浮かべると、自然と笑顔になる。
その頃、久遠は、足を止めて、シオンの安否を確認する、
「大丈夫ですか、シオンさん!」
インカム越しにも分かる、ノイズに混じって、シオンの音声が聞こえる。
「ハァハァ、何とかね」
「怪我はねぇか、シオン!」
ロイも、シオンを気遣うように、慌てた様子で返事を待つと、
「危うく、一発で退場する所だったぜ。まったく、とんでもないシューターがいたもんだな、ロイ!」
その声は、恐怖心よりも、圧倒的な高揚感に満ちた口調で、シオンのテンションが、急激に上がっていることが、インカム越しの音声からも分かるほど、子供のような無邪気さを感じたロイは、感心したように、
「相手に取って不足なし、か」
「上等、上等!」
そう言うと、土塗れになった身体を、ブルブルと犬のように振って、パンっと、両手で顔を叩くと、
「開幕一番は、相手がブチ上げたんだ、次は、アタイらのターンだよ、みんな!」
気合いを入れた、シオンに呼応するように、三人も、後に続いて声を上げる。
久遠たち前衛は、臆することなく、宮殿へと続く平野を、駆け抜けていく。
最後方のカナンは、目を瞑り、フィールド全体に、意識を集中させると、
「えっ?前方、三百メートルに、敵影確認!前衛のソーディアンと、リフレクターが来ます、信じられません!」
ヴァルハラ平原に於いて、宮殿を拠点とする、アドバンテージは計り知れない。
宮殿に設置された、古代兵器を使えば、籠城しながらでも、相手の体力ゲージを、有効に削ることが出来る、好環境であるため、進んで、前衛が出る必要などなかった。
ノルン達は、そう言った定石を、まるで無視して、だだっ広い平地を、戦闘の場所に選ぶことに、カナンは、自身の経験の外側にある行動パターンに、警戒心を抱かずにいられなかった。
「やっこさん、面白すぎだぜ」
「信じられません、攻城戦をシミュレーションしていたのですが……」
「そんなの頼らなくても、勝てると思ってるんだろ、相手はよ」
僅かに困惑する久遠を、ロイは、勇気づけるように、
「頼りにしてるぜ、銀翼の魔術師!」
「は、はい」
久遠は、ロイの発破に答えるように、剣の柄を強く握ると、気合いを入れ直した。
「はっ、速い!距離二百メートルまで接近!」
グングンと距離を縮める、ノルンを注意深く監視する、カナンの視界が、突然、黒一色となり、何も見えなくなる。
「え?」
それは、ヘルメスによる、思考妨害の詠唱によるものだった。
この攻撃は、効果が出る確率は極めて低く、本来、相手の注意を引く、牽制にもならない程の、子供騙しの攻撃だった。
その攻撃を、ピンポイントで成功させる、ヘルメスのスキルレベルにカナンは、
「……信じられません」
「どうしたの、カナン?」
全体の状況を知るための要となる、ディーヴァからの情報が、共有されなくなり、心配したシオンが、カナンを気遣う。
「状況確認が出来ません」
「そんな。あんな、子供騙しのスキルが、発動したっていうの?」
「そのまさかです。相手のディーヴァ、レベルが……違い過ぎます」
何も、見えなくなったカナンは、項垂れるように、斎場に膝を落とした。カナンを励ますようにシオンが、
「大丈夫、心配すんなって!」
シオンは、サポートがない状況を、悲観することなく、その場で、矢を番えると、上空に蟇目矢を放った。
四つの穴が開いた矢に、空気が通ると、澄んだ音が鳴り響いた。
本来は、破邪の効果がある矢を、空高く放つと、その音は、斎場にいる、カナンにまで聞こえた。
シオンなりの、カナンを勇気づける行動に、
「ありがとう、シオン」
「目が見えなくても、出来ることはあるぜ、頼りにしてるよ、『イセの歌巫女』!」
「はい!任せてください」
カナンは、その場に立ち上がり、大きく息を吸って、自分が出来ることに、意識を集中した。
静かに、語り掛けるような歌声は、久遠たちの不安を、柔らかく、氷を溶かすように、温かな春の日差しのように、包み込んでいった。
「久遠、ロイ!アタイが、カナンの替わりに、あんた達の目になるから心配すんな。二人は、自分の役割を頼むぜ!」




