第25話 仕様変更
北欧神話に登場する、主神オーディンの宮殿と、その周辺をモチーフにしたステージは、フィールドに、狼と鷲が配置され、プレイヤーを感知すると、攻撃する、厄介なエネミーとして彷徨っていた。
さらに、直近の大型アップデートで、アトラスの仕様が、大幅に改変された影響も大きい。
それは、今まで、装備品は、自前のアイテムで構成するスタイルが当たり前だったのを、初期装備を除き、フィールドで自身が使うアイテム、分かり易い例では、シューターの洋銃、SCARで言えば、5.56mm口径の弾を拾わなければ、攻撃をすることすら出来ない、と言ったように、従来の、ゲームバランスの大幅な変更に、旧来のライセンスマッチに慣れていた、古参のプレイヤーにとって、青天の霹靂の出来事であった。
この、1on1のクランによる、ライセンスマッチの他に、四人構成のクランを、百チーム集めて、同じフィールドで競わせ、最後のクランを決める、バトルロイヤル『ニル・ヴァーナ・アトラス・イクステェンシィヴ』も、同時期に、新規に実装されたが、総勢四百人を、同時に処理する、演算能力を持つシステムを、たった、一人の人間によって、立案・開発した神業に、ネットニュース他でも、大きな話題となった。
その人物こそ、ニル・ヴァーナの創始者、サムス・ギルバードであった。彼が、インタビューで、記者からの質問に、
「何となく、面白そうだったからね~」
と、大きなペロペロキャンディーを舐めながら答えて、『そうそう』と、付け加えるように、
「昔さ、韓国のゲーム会社が作ったオンラインゲームがあったじゃない。あれ、面白かったよね♪百人で、最後の一人が勝つっていうの!あれ、嵌まったなぁ。それ、思い出してさ、だったら、クランを、百組集めて遊ばせたら、面白いんじゃないかと思って、作っちゃった」
「……つ、作ちゃった……ですか」
思い付きで作れるほど、容易でないプログラミングを、難なく実行する天性の才能に、記者は、開いた口が塞がらなかった。
イクステェンシィヴの報酬は、通常のアトラスと比べて、比較にならないほど、破格な報酬が手に入るため、参加人口は、日に日に、爆発的に増えていった。
如何に、完璧なプログラムで構成された世界でも、それを支えるサーバー環境は、サムスの管轄外であり、その負担は、フレイヤ達の運営チームが、一手に引き受ける形となってしまった。
最近の、パンプキンエラーが出る要因の、大きなファクターを、管理者の許可なく、実行したことに、楪葉は、
「あのクソ親父、なに勝手なことしてんだよ!ざけんな、ゴラァ!」
と言って、その場にあった、高価な機材を破壊しようとして、琴音と夏希、周りのスタッフが、必死になって止めに入るほど、激昂して暴れ狂った。
何とか、楪葉たちの尽力もあって、ニル・ヴァーナは、完全にシステムダウンをすることは無かったが、早く、修正パッチを作るように、サムスに、催促のメールを執拗なまでに、半ば、嫌がらせのように、楪葉は送信し続けていた。
この仕様の変わった、アトラスでの戦いは序盤、自分の装備を整えることが、最重要であるため、最初から、交戦することを避けるのが定石であった。
そんななか、シオンが、
「もぉ、7.62mm弾とか要らないし、せめて、鏑矢があれば、相手の位置に打ち込めるのに!」
一般的なシューターの武器は、洋銃が主流のため、それに準じた弾薬が、多く落ちている。
日本人ではないサムスは、日本向けの武器に関する知識が、いい加減なため、日本式の和弓に使用する、矢の出現率を、低く設定するという、杜撰さが仇となり、それを使用する、シオンにとっては、他のプレイヤー以上に、鬼畜使用となっていた。
余りの冷遇ぶりに、和弓を諦めて、慣れない洋銃に、鞍替えする流れがあるなかでも、シオンは、頑なに、和弓を使うことを辞めなかった。
「シオンさん、鏑矢がありましたよ」
「マジか!久遠、転送して!」
ボイスチャットで、久遠が、シオンに必要な武器を発見すると、シオンのアイテムストレージに、鏑矢を転送した。
サムスが嵌まったゲームでは、アイテムは、クランの人間の地面近くに、ドロップして渡すため、常に、周囲を警戒する必要があった。
その辺は、サムスも不便に感じたのか、転送処理を行うだけで、遠くにいる仲間に、アイテムを渡すことが出来るよう、自分好みに、ブラッシュアップしていた。




