第15話 嵐の予感
納得の行かない様子のフレイヤに、
「楪葉ちゃん、落ち着きましょう。仕方がありませんわ」
「シャラップ、琴音。本名で呼ぶなって、何度も言ってるじゃん、フレイヤ、フレイヤなの!」
「キャラに合わんと思うで、北欧神話の女神の、お姉はんの神名を名乗るにゃ、ちんちくりんの楪葉には、ハードルが高すぎやわ」
「そこ、五月蠅い、夏希!」
ビシッと、人差し指を夏希に向けると、
「ぐはぁ!」
と、銃弾に打たれたマフィアの小者のように、大袈裟に倒れ込むと、
「そうゆうのいいってば、これだから関西人は」
「何ゆうてん、ノリと笑いをなくしたら、死ねって、宣告されるようなモンやで。吉本の『わろてんか』文化は、ウチらの魂、そのモンなんやで!」
軽い身のこなしで、身体をスッと起こすと、胸に拳を当てて、得意げにフフンと、鼻を鳴らす。
「流石ですわ、夏希」
ポッと赤くなり、琴音が、夏希に熱い視線を向ける。
「はぁ、琴音まで、もういいよ」
一頻り騒いで、落ち着いた楪葉は、席に着くと、グチャグチャになったヘッドマウントディスプレイのケーブルを、几帳面にほぐして直して行く。
「何や?もう終わりか、つまらんのう」
「まぁまぁ」
夏希と琴音も、椅子に座ると、夏希がキーボードを操作しながら、琴音は、席に備え付けられた、コーヒーサーバーを操作して、人数分を用意していた。
「ミルク多めにね」
「はい、あとハチミツもですね」
勝手知ったる、楪葉の注文を、琴音は笑顔で答えると、ガラスビンを開ける。
「ウチは」
「ブラックですね」
「イエース!」
グッドサインを高らかに掲げ、パソコンの画面を見て、琴音に返事をする。
「さぁ、どうぞ」
二人は、何時ものように、黙って飲み始める。
琴音も、ナプキンを丁寧に、膝の上に掛けると、コーヒーの匂いを上品に嗅ぎ、一口づつ、味わうように口に含んでいった。
しばらく、マッタリとした時間が流れていたが、唐突に夏希が、
「あ~あ、今日は、一段と荒れてるなぁ」
「え、何ですか?」
琴音が不思議そうに、夏希に尋ねるように近くに寄って行くと、夏希が見ている、パソコンの画面が目に入った。
「ニル・ヴァーナ関連の、大手掲示板のスレッドやよ」
「ああ、何時ものですね」
「そう、何時もの」
5チャンネルと書かれた、ユルいアスキーアートで書かれた、猫が手招きしている、国内最大の掲示板の中で、最も賑わってるスレッドには、一秒単位で、膨大な書き込みが更新されていた。
リアルタイム表示では、滝のような文字列が、上から下へと流れていく。
「相変わらず、好き勝手に書いておるわ。まぁ、オモロイからええけど」
ネット耐性が、カンスト済の夏希には、自分達の誹謗中傷は、美味しいオカズだったが、琴音は、全く耐性がなく、一度、夏希が見せたコメントを見て、心に、大剣が突き刺さる思いをしてからは、進んで見ることは、二度となかった。
画面をチラッと見た琴音は、スッと視線を反らし、夏希の目を見て、
「夏希、よく平気で、私達が槍玉にされてるスレッドを見れますね……私、とても、真似が出来ませんわ」
ハァっと、ため息をつく、琴音を見ながら、夏希は、
「まぁ、耐性のない子には、劇物見たいなもんやけど、慣れると、クセになってもうて、もうたまらんわ、はっはっは」
「夏希のメンタル、本当に強いですね」
「おおきにな」
何か夏希が、面白いコメントを発見したのか、それをコピペして、別ウィンドウに表示する。
「プッ、これ、ウケるわ」
「何、さっきから盛り上がってるの?」
コーヒーを飲み終わり、満足そうな顔している楪葉が、画面をグィっと覗き込む。
その一文を見てしまった琴音は、しまった、という表情を浮かべる。
「これや、これ」
「うん?なになに……」




