第12話 冷徹なる参謀
そう言うと、議員たちは、満場一致で、渡辺を拍手で迎えた。
渡辺は、壇上で、深々と一礼し、
「このような大役を仰せつかり、荷が勝つ御役目に、身が引き締まる思いであります。しかしながら、ここにいる諸先輩方の、ご指導、ご鞭撻を賜り、この重責を、全うしたいと思います」
見事なスピーチに、満足そうに宗右衛門が頷く。
会場の空気が落ち着くと、宗右衛門が、佐々木の名を呼ぶ、
「佐々木よ」
「はい!」
周りにいる、底辺の議員を見て、優越感にドップリ浸かっている佐々木を一瞥して、宗右衛門は、持っていた杖を捨て、渾身の右拳を、佐々木の顔面に叩き込んだ。
八十過ぎの老人とは思えない、その威力に、佐々木は、気持ちがいいほど、豪快に吹っ飛んだ。
「ぐぇぇ」
余りの痛みに、その場で悶絶する佐々木を、宗右衛門は、鬼の形相で睨む。
「ヒ、ヒィイ!」
蛇に睨まれた蛙のように、ビクビクと震えていた佐々木は、思わず、その場で失禁した。
「勝基と同じ一回生で、こうも対照的な男もおらんわ、この痴れ者が!貴様のことは、以前から悪評を耳にしていたが、お前のオヤジは、政治家として、骨のある男ゆえ、目を瞑っておったが、先程の南雲に対する言葉を聞いて堪忍袋の緒が切れたわ!貴様は、今日、この瞬間を持って、我が会派から除名処分とする。次に行われる選挙では、我が党からの助力は無いと知れい!」
「な、なんで……」
先程の何気ない会話が、小泉の耳に入るなど、想定する余地がなかった佐々木は、狐につままれる思いだった。
それ以上に、宗右衛門に絶縁状を叩き突けられ、狼狽する様は、何とも無様だった。
一連のやり取りを見ていた議員は、歓迎の空気からの、宗右衛門の鉄拳制裁を目の当たりにして、どうしたらいいか分からず、渡辺を拍手して上げていた両腕は硬直していた。
そのやり取りを、落ち着いた様子で見ていた渡辺は、冷静に皆の前に立つと、
「本日の臨時集会は終了となります。皆様、お疲れ様でした」
一礼して渡辺は、宗右衛門と一緒に会場から退出すると、それが合図となり、他の議員も次々と出て行った。
その場に、一人になった佐々木は、
「嘘だ、こんなの、夢だ!バグってるだけだっての!」
佐々木は現実を受け止められず、その場で呆然としていた。
暫くして、扉が開き、渡辺が入ってくると、
「わ、渡部ぇ……」
佐々木は同期の渡辺なら、何とかしてくれるという、子供じみた期待を、臆面もなく抱き、渡辺の足にしがみつく。
その行為に何の感情を抱くことなく、渡辺は口を開く。
「先程は災難でしたね」
「お、おう、まったくだぜ、あの古狸の野郎、傷害罪で訴えてやる!」
「腕のいい弁護士を紹介しましょうか?」
「あ、ああ、渡辺、いい奴だな、お前。やっぱ、持つべき者は、同期だよな、ははは」
ふぅっと息を吸うと、渡辺の目には、氷のように冷たい感情が浮かんだ。
「先程、先生が聞いた、貴方の言葉ですがね。先生の耳に入れたのは、私なんですよ」
「!」
「理解出来ない様子ですね。確かに、あの場には、私は先生と一緒に、奥の控え室に待機していましたからね」
そう言うと、渡辺はスマートフォンを取り出し、録音アプリの機能を立ち上げる。
『ああ、あれか。ハッ、あいつも馬鹿だよなぁ。国会議事堂で酒飲んで演説、お涙頂戴の臭い芝居で、頭の悪い人間を騙せても、俺らには通用するかっての。野党の連中、人気に乗っかって、ポイントを稼ぎたいのが見え見えだっての。お笑いぐさだよ、ホント』
と、先程の自分の何気ない会話が流れた。
「え!ええっ……」
意味が分からない様子で、パニックになっている佐々木を見据え、渡辺が、
「会派の議員の素行を調べるのも、私の仕事の一部ですからね。貴方の発言は、私と共に、組織の秩序を守るために、隠密に行動を行う、人間の一人だっただけのことですよ」
スマートフォンを仕舞うと、哀れな動物を見るような視線を送り、
「と言っても、この音声がなくとも、先生は、貴方を除名にしていましたけどね」




