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おまけの3


(なんで私がこんなことを……)


 街の中、前を歩く妖精騎士タームと黒のメイド隊のひとりを隠れて尾行しながら、黒のメイド隊隊長のアネッサさんは呟く。

 黒のメイド隊のひとり――今日はロナ――は町娘のような格好で妖精騎士タームと腕を組み、デートを楽しんでいる。

 屋台で飴細工を売ってるおっちゃんが二人に声をかける。

「おい妖精騎士! まーた違う女を連れて歩いてんのかよ? おとといは背の高いねーちゃんだったよな?」

「おとといはおととい。今日は今日、だ。そこの蝶の飴をひとつくれないか? ロナ、ここの親父は口は悪いが作るものは繊細で美味しいよ」

「そうなの? じゃターム、二人で食べよ」


 飴屋の親父は呆れながら、

「いや、いいのかよお嬢ちゃん? 前のねーちゃんもそうだけど、ジャネット王女の旦那と腕を組んでデートとかって」

「その王女様から『妖精騎士との1日デート券』をいただいたのよー。だから今日1日は妖精騎士は私のものなのよー」

 ニコニコ笑顔のロナに微笑むターム。

「その通り。今日はロナが私のお嬢様だよ」

 タームの差し出した蝶の形の飴細工を嬉しそうに舐める黒のメイド隊のロナ。

「うぇへ、えへへー」

 なんかもう、にやけて緩みっぱなし。


 アネッサさんはそんな二人を離れてコッソリと監視している。

 なんでこうなったか、というと。

 アネッサさんがジャネット王女に呼び出されたときに遡る。

「ジャネット王女、このリストは?」

「ターム探索において活躍した黒のメイド隊、その貢献度の順に並べたものだ」

「なるほど、この者たちに報酬を与えるということですね」

「うむ、そして全員がタームとの1日デートが報酬で良いということになった」

「え?」

「スケジュールについてはタームに任せることにしたが、上から順にこなすことになってる。1日デートというが1泊2日コースで内容は当人任せにした」

「いいのですか? ジャネット王女。タームが他の女を相手にしても?」

「黒のメイド隊は騎士タームファンクラブでもある。タームは余のものだが、だからと言って独り占めするほど余は狭量では無いぞ?」

「はぁ、ジャネット王女の恋愛感は、私には理解できませんが」

「アネッサが腰が抜けて立てなくなってたのには驚いたが」

「あれはもう忘れて下さい」


 夜中に物音が気になってうっかりジャネット王女とタームの夜の生活を覗き見たアネッサさん。

 そのふたりのアクロバティックでジャネット王女の趣味全開の淫靡で壮絶な光景、これを目の当たりにしたアネッサさんは腰が抜けて立てなくなった。扉の隙間を覗く格好でペタリと座り込み石化したように固まってしまった。

 そんなことがあったわけで。


「ジャネット王女は、その、特殊では無いですか? いろいろと」

「アネッサはそこは理解してくれないか。タームは余の希望に応えてくれるのだが」

「タームが浮気すると思わないのですか?」

「本気ならば許さんが浮気ならば許す。それに妖精女王の呪い、荒々しき情欲と回復の泉が残るタームを、残念ながら余ひとりでは満足させられんのだ」

「まだ妖精の呪いが残っていたのですか?」

「余はタームのことは信じている、が、相手の女が本気になってややこしくなることは望まん。孕まずの呪いが生きている内ならば後腐れも無い。リストには割りきったつきあいができる者を選んだが、念のためにアネッサはタームのデートをコッソリと見張って欲しい」

「はぁ」

「相手の女がタームを誘拐しようなどとすれば邪魔をするのだ。まぁ、黒のメイド隊にそんな輩はいないだろうが」


 ということでアネッサさんはタームのデートを見張るはめになった。ジャネット王女に報告するために見てるんだけど、23人目のロナでアネッサさんも頭がクラクラしてきた。


(妖精騎士、絶倫過ぎでしょう……)


 霧の森で200を越える乙女を相手にしてきたターム。百戦錬磨の妖精騎士。

 戦闘とは変化するもの、常に剣だけで戦うものでは無い。

 剣、槍、斧、短剣、素手、戦い方だって流派があり、更には個人で戦法も違う。

 速さを主体にする者、力任せの一撃をいかに当てるかに工夫する者、相手の反撃を赦さない乱撃を得意にするもの、持久戦で焦れた相手にカウンターを入れるやり方を好む者。

 それこそ千差万別、人によって違うもの。

 しかし、リャナンシーに鍛えられた妖精騎士はありとあらゆる相手に対応する。

 考えうる戦況の全てに応えられる。

 いかなる技も状況も妖精騎士の敵では無い。

 なによりジャネット王女より『褒美としての1日デートなので相手を満足させるように』とタームは指示されている。


 タームは己を森から救い出そうと尽力してくれた黒のメイド隊に全力で恩返しするつもり。

 相手の願望をその目の奥を覗いて見抜き、Mっ気のある乙女には俺様モードで苛めっ子に。

 Sっ気のある乙女にはまるで初心(うぶ)な少年のように目に涙を浮かべて、その情欲を引き出す。

 相手の要望希望に合わせて、夜だけでは無くときに昼にも、屋内、野外に時も場所も問わず相手の望むシチュエーションに応え、更には相手の想像を越えるひとつ上のプレイをもって返す。

 妖精騎士に死角無し。

 今のところ黒のメイド隊は全員がご満悦。

 それをずっとこっそり隠れて見続けて来たのがアネッサさん。


(タームに女装させるのはジャネット王女がやってるのを見たことありますが。タームを女装させてデートだとか、タームもよくやるものです。おとなしそうな子が野外露出で人目につかないギリギリプレイだとか、卒が無くてできる娘が、縛られて首輪つけられて無理矢理されたいだとか、俺様節で卑猥な言葉でなじられたいとか。清楚な感じなのに、昼間から一戦してタームと酒場で夕食を食べて、帰りに路上で一戦、宿に戻ってから更に一戦と底無しだとか、皆さん変態ですね)


 タームと黒のメイド隊のデートを見続けて、その乙女の要望丸出しのスペシャルな一夜を22人分見せられた。

 これから23人目を見ることになる。

 タームの身体から出る魅惑の香りにも当てられて、流石のアネッサさんも最近ちょいとヤバイ。

 モヤンモヤンする。ムラムラする。

 宿屋の天井裏とかに潜み妖精騎士のデート、夜のエクセレント編を観察し続けて、それが記憶に残って寝不足気味に。


(男なんてどいつもこいつも飢えた雄犬のくせに……。ジャネット王女も、女騎士レヴァンも、黒のメイド隊も、みんな幸せそうに、満足そうにして……。ジャネット王女が言う通りに、タームは別格というのは本当なのですか?)


 昔に男のことでちょいとヤなことあったアネッサさん。それで男が嫌いに。

 だけどそれで同性愛に走るとかは無い。

 心の中では敬愛するジャネット王女を女王にして、王国の女達の地位向上とか密かに考えていたアネッサさん。

 最近ではジャネット王女の兄のミハイル王子とか、妖精騎士タームのことは、男にしてはなかなかやる、なんてこれまでの見方を改めてたり。

 

(だけど、これはキツいです……)


 宿屋の隣の部屋から穴を開けて隣を覗き見るアネッサさん。その部屋では。

「やぁん、タームのエッチ」

「ロナが魅力的過ぎるんだよ」

 どうやら明るく楽しくイチャイチャプレイが希望のようだ。


(わりとフツーですか? なら安心できますか)


 アネッサさん、それで安心って、もういろいろと毒されてないか? 


「あぁん、ターム、そっちの穴はちがうのー」

「何が違うんだい? その口で教えてくれないか? 可愛いロナ?」

「やぁん、は、ず、か、し、いー」


(フツーじゃ無かったのです! どいつもこいつも一皮剥いたら変態です! チクショー!)


 どんなことをしたかジャネット王女に報告するために見なければならないアネッサさん。

 仕事とはいえ、ごくろうさまです。

 上から下から右から左から、ロナの希望の明るく元気で楽しくイチャイチャ変態プレイ。何ラウンド目か解らないところでロナはふみゅー、と満足そうに寝てしまう。


(やっと終わりですか、黒のメイド隊はタフですねぇ)

 二人が寝たところでアネッサさんは覗き穴から目を離す。無意識に股間に伸びてた手に気がついてため息をこぼす。

(この頃、自分でしてもスッキリしない……。また今日も眠れなさそうです)

 しばらくひとりでモゾモゾとして、その後、悶々とする気分から意識を逸らそうとして酒瓶を開けてウィスキーを口にするアネッサさん。

「ふぅ」

 脳裏に浮かぶのは違う穴になんかされるロナの姿。それを消そうとウィスキーを一口呑んでもう一口、


「お疲れ様です、アネッサ」

「ぶふしゅっ?!」

 霧状のウィスキーを口から噴射するアネッサさん。背後に立つのは妖精騎士ターム。

「お、あ、ターム、いつの間に?」

「足音を消して忍んでみましたが、気がつかないとはアネッサらしく無いですね」

「な、何故ここに?」

「それは……」

 

 タームが取り出したのは紙、そこには黒のメイド隊の名前が書いてある。これまでタームがデートしてきた例のリストだ。

 タームがその紙をひっくり返すと裏にはジャネット王女の文字で。

『最後にアネッサ』

 と、書いてある。


「は? どういうことです? ターム?」

「ジャネットが言うにはアネッサにも男の良さを教えてその男性嫌悪を治して欲しい、と。ただ、アネッサの方から求めることは無いだろうから……」

 確かに黒のメイド隊の中ではアネッサさんはジャネット王女のファンであって、妖精騎士タームのファンでは無い。

 そこはジャネット王女も知っている。


 タームはアネッサの顔色を伺いながら、

「なので黒のメイド隊とのデートの様子をアネッサに見せつけて、モヤンモヤンとムラムラを溜めに溜めた欲求不満状態にして私にアネッサの相手をするように、と」

「謀られたッ!」

「これでアネッサとも聖剣姉妹だと」

「ジャネット王女……、お気持ちは嬉しいのですが、これは……」

「どうします? アネッサ。私は望まぬ乙女を相手に無理強いはしません」

「ど、どうします?と言われても……」


(下劣な欲情丸出しの男なんて大っ嫌いだ。だけどこれまで見てきたのはまるで逆。女の欲望にまじめに応えてなんでもするターム……)


「タームは嫌じゃないのですか? こんな、女に玩具にされるようなことは、その欲情を解消するために使われるようなことは」

「それでジャネットの役に立てるのなら。それに憧れと共に求められて、それに応えるというのも、今では不思議と満足できるので」

 ニコリと微笑むターム。

「恥ずかしい思いもしますが、それでも霧の森でのことに比べるとたいしたことはありません」

「……変わった男ですね」

「妖精騎士ですから」


(霧の森での情けない様子からは随分と変わったものですね。これもジャネット王女の力でしょうか。それともジャネット王女は最初からこれを見抜いて……)


「それで、どうします? アネッサ」


 目の前で優しそうな目で微笑むターム。惨めな目にあい不様な姿を晒し、見せ物にされる情けなさも悔しさも虚しさも全て飲み込んで、今は微笑みながら堂々と立つ。

(私もこんなふうになれるのでしょうか。過去の屈辱すら己の糧として笑えるような)


 アネッサさんはひとつ深呼吸して。

「では、妖精騎士が私を満足させられるかどうか、試してあげましょう」

「よろしくお願いします」

 タームは頷いてアネッサさんをそっと抱きしめる。


 こうして黒のメイド隊は全員が聖剣姉妹になっちゃった。

 アネッサさんは久しぶりにグッスリと眠れてスッキリしたみたい。

 アネッサさんの報告を受けたジャネット王女は、

「これは使えるッ!」

 と、タームを相手に更にハッスルするプレイを開発していく。

 これもハーレム展開というのだろうか?

 なーんか違うような。

 みんなが幸せならいいか。

 

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