第二話 街の異変
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翌朝。
列車は国境沿いの街【カルム】へ到着した。
砂色の建物。
乾いた風。
市場から漂う香辛料の匂い。
ニュイは眠そうな顔のままホームへ降りる。
“……寝不足”
「お前ずっと本読んでたじゃん」
“うるさい”
対してクラウィスは妙に元気だった。
朝日を浴びながら伸びをして、
「最高の旅日和だな」
とか言っている。
ニュイは理解できない。
砂漠を越えた先には、
“蒼骨竜”がいるかもしれない。
遭遇した冒険者はほぼ帰ってきていない。
なのにこの男は、
まるで遊園地に来たみたいな顔をしている。
宿へ荷物を置いた後、
二人は情報収集のため市場へ向かった。
《蒼骨竜》の目撃情報は、
どうやら北の峡谷付近に集中しているらしい。
ただ、妙な噂もあった。
「青い炎を吐く」
「人語を理解する」
「夜になると歌が聞こえる」
どれも胡散臭い。
酒場なら笑い話で終わるような内容だ。
でも。
「……行く?」
クラウィスは嬉しそうに聞いてくる。
ニュイは少し考えてから、
深いため息をついた。
“行かないって言っても行くでしょ”
「まぁ」
“最悪”
その時だった。
市場の奥で、
突然悲鳴が上がる。
人々がざわめく。
何かが倒れる音。
二人が振り向くと、
路地裏から巨大な魔獣が飛び出してきた。
黒い外殻。
六本脚。
鎌みたいな前足。
《サンド・リーパー》。
本来なら群れで動くはずの危険種だ。
「うわ、デカ」
クラウィスが笑う。
“笑ってる場合!?”
魔獣は叫び声を上げながら突進してくる。
市場が混乱する。
屋台が倒れ、
果物が砂の上へ散らばった。
でも。
その瞬間。
クラウィスの空気が変わる。
さっきまでの軽い雰囲気が、一瞬で消えた。
踏み込む。
剣を抜く。
速い。
魔獣の前足が振り下ろされる直前、
クラウィスは身体を半歩だけずらし、
そのまま懐へ潜り込んだ。
斬撃。
黒い殻が割れる。
ニュイは少し目を見開く。
何度見ても思う。
この男、戦闘になると別人だ。
「ニュイ!」
呼ばれる。
その瞬間にはもう、
彼は次の動きを読んでいる。
ニュイは反射的に魔法陣を展開した。
青白い光。
空気が震える。
“──縛れ”
魔力の鎖が魔獣の脚を絡め取る。
動きが止まる。
クラウィスが笑う。
「ナイス」
次の瞬間。
剣が閃いた。
静寂。
巨大な魔獣が、
砂煙を上げながら倒れる。
市場が静まり返る。
数秒遅れて歓声が上がった。
「すげぇ……」
「冒険者か?」
「誰だあいつら」
でも二人は、
その声をほとんど気にしていなかった。
クラウィスは剣を肩に担ぎながら、
いつもの調子で言う。
「朝から運動したな」
“運動の規模がおかしい”
「でも息ぴったりだったじゃん」
その言葉に、
ニュイは少し黙る。
確かにそうだった。
合図もない。
打ち合わせもない。
なのに、
自然に噛み合っていた。
まるでずっと前から、
一緒に戦ってきたみたいに。
その時。
市場の奥で、
一人の老人が二人を見つめていた。
深い青の外套。
片目を隠す古い傷。
老人は静かに呟く。
「……蒼骨竜が、動き始めるな」
風が吹く。
空の上を、
巨大な影が横切った気がした。
ニュイはゆっくり顔を上げる。
遠い峡谷の方角。
そこには確かに、
青い光が一瞬だけ見えた。




