第一話 面白いを見つけに
お久しぶりです。前の作品はありふれていてつまらなく書く気力を失ったので打ち切りにします。要望が多ければ復活させます。
砂漠の国だった。
昼は灼けるほど暑く、夜は骨まで冷える。
空には二つの月。
風が吹くたび、古い遺跡の砂が音を立てる。
その国の冒険者は、大きく二種類に分かれていた。
名誉のために剣を振るう者。
金のために命を賭ける者。
そして、ごく稀に。
“退屈しないため”に旅をする者がいた。
クラウィスは、そのタイプだった。
王都南区画。
酒場【ブルー・ノート】の隅で、
彼は椅子を後ろ向きにして座っていた。
黒いジャケット。
銀髪。
耳には小さなピアス。
足元には長剣。
でも本人は、
いかにも強そうな顔をしていない。
どちらかというと、
夜更かししすぎた音楽家みたいな空気だった。
"で? 今回は何やらかしたんですか"
向かいの席で、ニュイが呆れたように言う。
黒髪。
白シャツ。
眠そうな目。
魔術師にしては軽装すぎる。
「別に何も」
“嘘”
「……闘技場でちょっと」
“また賭け試合?”
「今回は勝った」
ニュイは深いため息をつく。
「金欠だったんだって」
“だからって剣闘士みたいなことしないで”
でもその声に、
本気の怒りはあまり無かった。
慣れているのだ。
この男は、
無茶をする。
そして妙に生き残る。
初めて会ったのは半年前。
遺跡探索の即席パーティだった。
当時のクラウィスは、
罠解除もせず突っ込んでいくし、
敵を見つけると笑うし、
明らかに危険人物だった。
ニュイは、
「絶対組みたくない」
と思っていた。
なのに。
気づけば半年も一緒にいる。
“次の依頼は”
「んー……北かな」
“寒いの嫌”
「じゃあ南」
“暑いのも嫌”
「わがままだなぁ」
酒場のランプが揺れる。
夜の喧騒。
カードゲームの音。
酔っ払いの笑い声。
その全部の中で、
二人だけ違う温度で喋っていた。
クラウィスは突然立ち上がる。
「決めた」
“なにを”
「ドラゴン見に行こう」
ニュイは真顔になる。
“馬鹿?”
「いや、最近目撃情報あるらしいんだって」
“死ぬよ”
「死なない死なない」
“その軽さで毎回死にかけてる”
クラウィスは笑う。
その顔が妙に楽しそうで、
ニュイは少し黙る。
本当に理解できないと思う。
危険な場所へ向かう時ほど、
この男は生き生きしている。
まるで、
“死に近い場所”で初めて呼吸できるみたいに。
三日後。
二人は砂漠を走る列車に乗っていた。
窓の外には赤い砂嵐。
車内には古いジャズが流れている。
「いいなこれ」
“なにが”
「旅してる感じ」
“実際してるでしょ”
「いや、そうなんだけど」
クラウィスは窓に肘をつきながら笑う。
「なんか、退屈じゃないのがいい」
ニュイは本を閉じる。
“退屈嫌いだよね”
「そっちは違うの」
少し考える。
そしてニュイは静かに答える。
“……私は”
列車が揺れる。
赤い光が横顔を流れていく。
“面白いもの見たいだけ”
その言葉に、
クラウィスは少し目を細めた。
「へぇ」
“なに”
「いや」
少しだけ笑う。
「やっぱお前、変わってる」
“あなたに言われたくない”
夜。
列車が停車した小さな駅で、
二人は外に出る。
風が冷たい。
空には二つの月。
遠くで誰かが口笛を吹いている。
クラウィスが缶酒を開けながら言う。
「なぁニュイ」
“ん”
「もし明日ドラゴンいたらどうする?」
“逃げる”
「即答じゃん」
“あなたは?”
少し沈黙。
それから彼は笑った。
「多分、ちょっと戦う」
“本当に馬鹿”
でもニュイは、
その答えを少しだけ好きだと思った。
世界は広い。
危険で、騒がしくて、理不尽だ。
でも。
退屈じゃない。
そしてその旅の隣に、
いつの間にか当たり前みたいに、
この男がいる。
ニュイはまだ気づいていなかった。
これは静かな恋じゃない。
もっと厄介で、
もっと自由で、
人生をめちゃくちゃにするタイプの出会いだということに。




