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摩訶不思議食堂のほっこり飯  作者: 修羅観音


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第36話後編:阿倍野晴道の戦闘狂なほっこり飯

###〜貴船の清流に集いし大妖怪と、戦闘狂が捧げる和解のシュークリーム〜


摩訶不思議食堂での、あの忘れられない夜から明けた、翌日の土曜日。

晴道はまだ薄暗い早朝にパチリと目を覚ますと、昨夜に地蔵店長から諭された言葉の数々を反省と共に思い返し、自身の内面を鍛え直すかのようにいつものロードワークへと繰り出した。

京都の澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながらしっかりと身体を動かした後、マンションに戻ってシャワーで汗を綺麗に流し、軽く朝食をとって体調を万全に調える。


それから晴道は、大切な和解の準備のために朝一番のバスへと飛び乗り、多くの観光客で賑わい始める前の京都駅へと向かった。

駅に到着するなり、朝から開いている老舗の和菓子屋や人気の洋菓子店を必死に回り、昨夜に才狐からメッセージで教えてもらった怪異達の好物の情報を何度も確認しながら、それぞれの好みにぴったり合う極上の御土産を真剣な表情で購入していく。

大きな手提げ袋を大切そうに抱えた晴道は、ここからさらに電車に乗って京都の街を北上し、終着駅からバスへと乗り換えて、山々の深い緑と清らかな水流に包まれた神秘的な貴船神社へとついに到着した。


約束の集合時間よりも少し早めに到着した晴道が、厳かな雰囲気が漂う鳥居の辺りを見渡すと、そこには既に涼しげな作務衣姿の才狐と綱江の二人が、並んで静かに待ってくれていた。


「おう、才狐、綱江、おはよう。朝早くから、わざわざありがとな」


三人はお互いに「おはよう」と短い朝の挨拶を交わし、晴道の表情に昨日のような不遜な傲慢さが消えているのを確認すると、二人に案内される形で晴道もその後に付いて境内を進んだ。

本殿への参拝客の姿がまばらな境内から、さらに一般の人間が立ち入らないような、静まり返った人気のない山奥の敷地へと足を踏み入れていく。

やがて、現世の喧騒から完全に切り離された、瑞々しい自然豊かな緑の木々に3方が囲まれた開けた場所に辿り着くと、そこには規格外の強者達が一堂に会して待ち受けていた。


木漏れ日が差し込む美しい空間には、数日前に御池通で出会ったあの筋肉質でごつい羅生門の鬼、神泉苑の鳥居で出会った朱雀門の鬼、そして圧倒的な美しさと強さで晴道を地面に沈めた鬼女紅葉が堂々と佇んでいた。

さらにその横には見たことがないような、厳かな巫女装束を完璧に着こなした見知らぬ美人女性が、興味深そうな視線をこちらに向けて立っている。

それらの大妖怪達と共に、大柄な羅生門の鬼の大きな身体の後ろに隠れるようにして、あの小さな袖引き小僧が恐る恐るこちらの様子を窺っており、そのすぐ近くには一本脚の唐笠お化けと、火の鳥のようなぶらり火も静かに浮遊していた。


そして、その怪異達の一番中心に優雅に佇む、紅の着物を艶やかに着こなした、狐色の長い髪を朝風に靡かせる長身女性の姿を捉えた瞬間、晴道は本能的な恐怖と圧倒的な美しさにゴクリと息をのむ。

その女性は、狐色の長く美しい髪の間から本物の立派な狐耳がピンと生え出ており、すべての真実を見透かすような美しい釣り目を持っていて、目の覚めるような深い朱色の着物を見事に着こなしている絶世の長身美女。

頭の狐耳やその身から放たれる神聖な神気からして、どれほど術者の目が未熟であっても、どう見ても現世の普通の人間ではないことなど一目瞭然であった。


三人がその神聖な空間へと足を踏み入れると、才狐は一歩前に出て、その狐耳の美女に向かって深く腰を折りながら言葉をかける。

「妖古さん、皆さん、お約束通りに阿倍野晴道君をお連れしました」


才狐が無表情ながらも至極恭しくお辞儀をすると、その隣に立つ綱江もまた、礼儀正しく綺麗にお辞儀をして後に続く。

大妖怪達の視線が一斉に自分へと集まるのを感じ、晴道はこれまでにないほど激しく緊張しながらも、慌てて二人と同じように深く頭を下げて声を張り上げた。

「お、お早う御座います!えっと、東京から新しくやってきました、阿倍野晴道っす!本日はお時間を頂き有難う御座います!」


昨日の戦闘狂としての態度からは想像もつかないほどに、言葉を正した晴道の挨拶を観て、巫女服女性は自身の袖で口元を隠しながら、楽しそうにクスクスと声を立てて笑った。

「ほう、この若いのが噂の阿倍野の小僧か。確かに、紅葉が言うておった通り、血気盛んじゃなあ。しかし、こうして見ると案外素直そうな顔付きをしておるではないか」


すると、才狐から妖古と呼ばれた狐耳の長身美女は、才狐達の優秀な仕事ぶりに満足したように、その美しい釣り目を細めてコロコロと鈴の鳴るような声で心地よく笑った。

「ご苦労さん、才狐、綱江。連れてきてくれてありがとうのう。ほな、今回はこの坊主がどうしても直接話したいことがあるって言うんやし、じっくりと腰を据えて話を聞こうかの」

妖古はそう言うなり、紅の着物の裾を全く乱すことのない流れるような美しい所作で、傍らにあった大きな岩に静かに腰を掛けた。


その妖古の促しを受け、晴道は抱えていた大きな手提げ袋を胸の前に掲げ、少し震える手でそれを差し出した。

「あ、はい!えっと、これは皆さんに昨日のお詫びとして持ってきた、心ばかりの土産っす!受け取ってください!」


晴道が差し出した袋の中には、京都駅の名店を朝一番で回って必死にかき集めた、それぞれの怪異達が普段から好きだという伝統的な和菓子や、甘い洋菓子の類が綺麗に詰め合わされていた。

そして晴道は、昨日までの一方的な暴挙を最も深く反省するべき相手である、羅生門の鬼の後ろに隠れている小さな怪異の元へと、一歩一歩ゆっくりと恐る恐る近づいていった。

怯えさせないようにその場に優しくしゃがみ込むと、京都駅の洋菓子店で真剣に選んだ、特製の大きなシュークリームを自身の両手でそっと差し出す。


晴道は袖引き小僧の小さな目線を真っ直ぐに見つめながら、自らの傲慢さを恥じるようにして、一言一言に誠心誠意の気持ちを込めて謝罪の言葉を口にした。

「えっと……袖引き小僧。こないだは、俺がいきなり酷い乱暴なことをしちまって、本当に悪かった。ごめん。……これ、良かったら食うか?袖引き小僧は甘い洋菓子がめちゃくちゃ好きだって、昨日の夜に才狐からメッセージで詳しく教えて貰ったからさ、一番美味そうなやつを選んできたんだ」


晴道が真摯に頭を下げてお菓子を差し出すと、羅生門の鬼の背後から様子を窺っていた袖引き小僧は、そのシュークリームの甘く香ばしい香りに目の輝きをガラリと変えた。

そして、先ほどまでの恐怖の表情は一瞬にしてどこかへと消え去り、

「うん、有難う!」

と、小さなパッと明るい満面の笑顔を浮かべながら、晴道の手から嬉しそうにシュークリームを両手で受け取ると、そのまま近くの平らな岩場にちょこんと腰を掛けた。


目の前で小さな怪異が自分の謝罪を素直に受け入れて笑顔になってくれたのを見て、晴道は胸の仕えが取れたかのように、心の底からホッと安堵の息を漏らす。


晴道が立ち上がると、それを見届けていた羅生門の鬼や紅葉達の大妖怪や、唐笠お化けにぶらり火といった怪異達も、晴道の誠実な態度に納得したように、それぞれが手近な岩にゆっくりと腰を掛けていく。

その静かな調和の光景を見つめながら、晴道は自分の犯した過ちを正し、『こっち側』の世界の住人達と真の和解を果たすための対話の準備が、この貴船の山奥でようやく完璧に調ったのだと確信した。


---


###〜誠心誠意の全力土下座と、貴船の山奥に響く和解の笑い声〜


怪異達がそれぞれ晴道の持ってきた好物の和菓子や洋菓子を実に美味しそうに楽しむ様子を目の当たりにして、晴道はひとまず胸の奥でホッと安堵の息を漏らした。

昨日までのあのピリついた険悪な空気が、甘いお菓子の香りと共に少しずつ和らいでいくのを、作務衣姿の才狐と綱江の二人も御土産の阿闍梨餅を食べながら、温かい目で見守っている。


しかし、晴道はただお土産を渡すだけで終わりにするつもりは毛頭なかった。

地蔵店長から説かれた己の浅ましき傲慢さと真っ直ぐに向き合うため、晴道は皆が腰を掛ける岩場の中央へと一歩前に力強く踏み出すと、一切の迷いのない動きでその場に勢いよく両膝と両手をつき、地面に額を強く擦りつけるようにして盛大な土下座を敢行した。

静まり返った貴船の山奥の空間に、晴道のこれまでにないほど真っ直ぐな謝罪の声が響き渡る。


「この度は、俺の身の程知らずな傲慢さゆえに、皆様に対して大変な御無礼を働いてしまい、誠に申し訳ありませんでしたー!」


そのあまりにも見事な全力の土下座を正面から受け止め、大きな岩にどっかと腰掛けていた羅生門の鬼は、その厳つい顔をこれでもかと嬉しそうに綻ばせた。


「がっはっは!いやあ、実に見事な、気持ちええ程の土下座やんけ!自分の仕出かした不始末に対して、こうやって男らしく正面からちゃんとけじめをつけられて、実にええこっちゃ!」

羅生門の鬼は豪快に笑い飛ばすと、晴道が持ってきたペットボトルの御茶を大きな手で掴み、喉を鳴らしながら美味そうにガブガブと飲んだ。


その隣で優雅に和菓子を口に運んでいた鬼女紅葉も、地面に伏せる晴道の姿を美しい切れ長の目で見つめ、その不遜さが消え去ったことを確認してフッと妖艶に微笑む。

「まあ、我としても、昨夜の神泉苑の一件については、少々大人げなく小僧を揶揄い過ぎてしまったと思わんでもない。そなたがそこまで深く己の非を認めるのであれば、我との間にあった小競り合いについては、すべて綺麗に水に流そうではないか」


大妖怪からの寛大な言葉を聞き、晴道は伏せていた顔をバッと上げて目を輝かせた。

「あ、有難う御座います!」


紅葉からの赦しを得た晴道は、そのままの姿勢で、今度は自分のせいで怖い思いをさせてしまった袖引き小僧と、いきなり喧嘩を吹っ掛けてしまった唐笠お化けとぶらり火の方向へと向き直った。


「それで……俺が一方的に酷い目に遭わせてしまった袖引き小僧と、空手の技を叩き込もうとしちまった唐笠お化けに、ぶらり火も、本当にこの通りです!すみませんでしたー!」

晴道は反省の意を示すため、怪異達の前で再び深く深く頭を下げて謝罪の誠意を示した。


一本脚でバランスを取りながら美味しそうにお菓子を食べていた唐笠お化けは、晴道のその真摯な態度を真っ直ぐに見つめ、うんうんと満足そうに何度も大きく頷いた。

「ほぅ、口先だけやなくて、本気で反省して心を入れ替えとるようやな。まあ、お互いに致命的な怪我を負う前の小競り合い程度で終わったんやからのう。そんで、これだけの御馳走を貰ったことやし、俺どんもこんくらいで綺麗に勘弁しとくでな」


その唐笠お化けの言葉に同調するように、空中をゆらゆらと優雅に浮遊していたぶらり火も、少しだけ顔を引き締めながら晴道を優しく諭した。

「これに懲りたら、これからは京都の街中で怪異の姿を見かけたからって、やたらと見境なく喧嘩を売るんは絶対にやめるんですのよ」


「はい、本当に心の底から反省してます!」

晴道は頭を下げたまま、二人の言葉に対して実直に返事をした。


すると、大きなシュークリームを両手で大事そうに食べている袖引き小僧が、少しだけ晴道の顔を覗き込むようにして、小さな声を響かせた。

「お兄ちゃん、もう、痛い事とか怖い事は絶対にせえへん?」


「しないしない!絶対にしない!マジで悪かったと思ってるから、これからは絶対に指一本出さねえって神にも仏にも誓うよ!」

晴道は伏せていた身体を少し起こすと、胸の前で両手をぴったりと合わせる合掌のポーズを作り、必死になって約束の言葉を重ねる。


その晴道の必死な様子を見た袖引き小僧は、安心したようにその小さな顔にパッと明るい笑顔を咲かせた。

「そっか、よかった!」


小柄な少年怪異が笑顔を見せてくれた瞬間、晴道も心の底からホッと安堵してゆっくりとその場に立ち上がることができた。


そんな晴道の一連の全力の謝罪劇をすぐ近くで眺めていた巫女装束の美人女性は、その厳かな衣服の袖で口元を隠しながら、ふふふと楽しそうに鈴の鳴るような声を漏らした。

「ふふふ、実に元気がええことじゃ。これほどまでに真っ直ぐに頭を下げて謝る姿が見られるとは、わざわざここまで見物に来た甲斐があったというものじゃな」


妖古もまた、紅の着物を美しく靡かせながら、晴道の様子をからかうようにコロコロと心地よく笑う。

「ほんまやねぇ。もしも晴道が摩訶不思議食堂へ行く前に、京都の街中で我と出会うとったら、我の狐耳を見た瞬間に、問答用で自慢の札を勢いよく投げつけたりしとったかのう?まあ、普段は耳も尻尾も消しておるから、正体を見破られる事はないじゃろうがの。」


「……それは……ぶっちゃけ否定できねえっす……」

妖古から核心を突くような悪戯っぽい質問を投げかけられ、晴道は完全に言葉を失い、冷や汗を流しながら視線を激しく泳がせた。


もし昨日までの自分がこの圧倒的な大妖怪に出会っていたら、その真の強さを見抜くこともできずに、調子に乗って襲いかかっていたに違いない。

晴道は己の戦闘狂っぷりの痛さを突きつけられ、返す言葉もなくガックリと肩を落としてその場にうなだれるしかなかった。


そのあまりにも分かりやすく落ち込む晴道の情けない様子を見て、横で静かに見守っていた綱江が、くすっと小さく笑いながら、どこか親しみを込めた優しい声をかけた。

「あはは、晴道君、そこはどんまいやね」


綱江のその絶妙なタイミングでの優しい励ましの言葉がきっかけとなり、張り詰めていた貴船の山奥の空間には、羅生門の鬼達の豪快な笑い声をはじめとする怪異達の和やかな笑い声が次々と響き渡り、戦闘狂の少年と京都の怪異達との間には、今度こそ本物の温かい和解の絆が静かに結ばれ、皆の笑いを大いに誘うのであった。


---


###〜貴船に集う大妖怪の雑談と、戦闘狂が省みる浅はかなる過去〜


皆からの温かい笑い声に包まれる中、晴道はようやく恥ずかしさから気を取り直すと、地面の土を払って立ち上がった。

そして、未だに緊張感を残したまま、ずらりと並ぶ大妖怪達を見渡し、特に異彩を放つ美しい女性達へと視線を向けた。


晴道は「ところで……えっと、こちらの綺麗なお方々は?」と、少し声を潜めながら隣に立つ才狐と綱江に尋ねると。


「こちらの妖古さんは、僕の師匠で天狐や。そして、その隣にいてはる巫女服の方が、橋姫さん」

才狐は、まずは中心に座る狐耳の美女を示して淡々と紹介する。


才狐の言葉を引き継ぐようにして、綱江が晴道の顔を覗き込みながら尋ねた。

「天狐についての知識と、橋姫さんの伝説については、何か知ってる?」


晴道は腕を組んで記憶を呼び起こそうとしたが、やはりピンと来ない様子で首をかしげる。

「いや、天狐がどれだけ格の高い狐の妖怪かってのは一応わかるけど、妖古って言う名前の天狐については初めて聞いたな。それにさ、その橋姫伝説ってのは一体どういうもんなんだ?」


晴道が素直に知識不足を白状すると、巫女装束をまとった美しい橋姫は、その厳かな衣服の袖で上品に口元を隠しながら笑う。

「まあ、我はそれほど世間に広く名が知れ渡ったメジャーな存在やないからのう。お主のような若い術者が知らぬとしても、無理もなかろうて」


橋姫が謙遜してそう言うと、綱江は納得がいかないといった様子ですぐに反論の声を上げた。

「うーん、そうでしょうか?鬼や怪異に関連する古い文献を調べたら、ほぼ確実に掲載されるレベルの非常に有名な方やと思いますよ、橋姫さんも、紅葉さんも。それに、朱雀門さんかてそうやし、羅生門さんに至っては小説のタイトルにもなってはりますやん」


綱江が熱弁を振るうのを聞いて、羅生門の鬼がその厳つい顔をご機嫌そうに形を変えて笑う。

「そりゃまあ、文献の世界じゃ確かにそやけどな。なんや晴道、今時の若いもんやのに、才狐と綱江とおんなじで、スマートフォンのソーシャルゲームとかは全然せえへんタイプけ?」


羅生門の鬼から予想外の現代的な単語が飛び出し、晴道は面食らったように目を瞬かせる。

「ああ、まあ、中学の頃にちょっとだけ友達に勧められてやったことあるけど、すぐに飽きてから、それ以降は全くやってねえっす。でも、なんでこんな古い怪異の集まりで、ゲームアプリなんて言葉が出てくるんだ?」


晴道が不思議そうに首をかしげると、羅生門の鬼はさらに声を大きくして豪快に笑う。

「がっはっは、そうかそうか!実はな、紅葉も橋姫も、そういったゲームの中にキャラクターとして登場するらしいからな。しかも、どのゲームでもごっつスタイルが良くて美人なグラフィックで描かれとるんや。ま、本物の二人の持つ恐ろしい色気と美しさには、画面の中の絵なんか足元にも及ばんがな!」


羅生門の鬼から盛大に揶揄うように紹介され、鬼女紅葉は少し困ったようにその整った眉を下げて苦笑いを浮かべる。

「まさか我の生きた証や名前が、現世の若者達が指先で遊ぶゲームのキャラクターになるとは、夢にも思わなんだ。面白い時代になったものじゃ」


紅葉がしみじみと呟くと、隣の橋姫も巫女服の裾を小さく整えながら不思議そうに首をかしげた。

「ゲームだけやなく、現世のインターネットとやらでは、色々なイラストでも我らは綺麗に描かれておるようじゃし、意外と世間一般ではメジャーな存在なのかのう?我は鬼の中でも、マイナー側に分類されるとしか思うておらんかったのに」


大妖怪達が現代の文化について語り合う中、一本脚で器用に立っていた唐笠お化けが、負けじと自身の胸を張るようなポーズを取って大声を上げる。

「イラストっちゅうたら、俺どんを忘れてもらっちゃ困るでな!俺どんは、都子の姉ちゃんが担当しとる地域誌にある妖怪コーナーの、記念すべき第1回の解説キャラクターとして大抜擢された実績があるんや!」

唐笠お化けが誇らしげに自慢の声を響かせると、そのユーモラスな姿と微笑ましい主張に、貴船の山奥の空間にはどっと温かい皆の笑いが広がっていく。


地面に立ち尽くしていた晴道は、怪異達がまるでお互いを古い友人のように扱い、笑顔を交わし合っているこの和気藹々とした交流の光景を、じっと静かに見つめていた。


摩訶不思議な世界に生きる者達にも、こうして確かに温かい日常があり、誰かを大切に想う心がある。

そんな当たり前の事実を知ろうともせず、ただ自分の力を誇示するためだけに一方的な戦闘を持ち込もうとしていたこれまでの自分の浅はかさと無知の恐ろしさを、晴道は周囲の笑顔に包まれながら、胸の奥底で改めて深く深く省みるのであった。


---


###〜怪異達の甘味談義と、美しき鬼への熱き恋心の宣言〜


晴道は、目の前で繰り広げられる怪異達のどこまでも和気藹々とした楽しげな様子をじっと見つめながら、胸の奥から何とも言えない深い感慨が一気に湧き上がってくるのを感じていた。


昨日までの自分であれば、彼らの姿を見た瞬間に、戦うべき恐ろしい敵としか認識していなかったはずなのに、今こうして同じ空間に座ってみれば、そこには現世の人間と何も変わらない温かい時間が確かに流れている。

晴道はしみじみとした表情を浮かべながら「物の怪とか鬼とか……怪異も普通に菓子が好きなんだな。それに、こんなに人間みたいに楽しそうに笑うんだ」と、心の底からの本音をぽつりと呟いた。


晴道の素朴な呟きを耳にして、大きな岩にどっかと腰掛けていた羅生門の鬼が、その厳つい顔をガハハと豪快に歪めて笑う。

「おうよ、晴道!俺ら怪異の連中かてな、現世の美味いもんには目がないぞ!蛸薬師通にある喫茶店の特製シュークリームとか、出町柳にある有名な餅屋の豆餅とか、ごっつ好きやからな!」


羅生門の鬼が嬉しそうに京都の具体的な甘味の名前を挙げると、それを聞いた綱江が、思い出すようにしてその美しい目を輝かせて楽しげに笑

う。

「豆餅と言えば、実は私らも昨日の夜、摩訶不思議食堂で小豆洗いさんと小豆婆さん特製の美味しい豆餅を頂いたんですよ。小豆の風味がしっかりと生きていて、本当に凄く美味しかったです。」


すると、才狐が思いついたように呟く。

「いつもお腹を空かせてそうな雲外鏡さんやったら、あの大きな豆餅を一体何個くらい食べはるやろ?」


才狐がそう疑問を口にすると、腕を組んで佇んでいた朱雀門の鬼が、その太い眉を少しだけ上げて愉快そうに鼻を鳴らして笑った。

「雲外鏡か、あいつの底なしの胃袋は本当に凄まじいからな。いつやったか、儂らで集まった時なんか、あいつは大きな羊羹一本を丸々そのまま美味そうに食うとったな」


朱雀門の鬼の目撃談を聞いて橋姫も、ふふふと楽しそうに笑う。

「羊羹一本くらい、雲外鏡にしてみたら、口寂しい時のほんの気休め程度じゃろ。あの小豆コンビ御手製の豆餅とか、出町柳の豆餅の大きさやったら、あやつにとっては百個くらい集めて、ようやく前菜レベルの量じゃろな」


大妖怪達が口々に雲外鏡の甘味好きを語り合う中、優雅に和菓子を味わっていた鬼女紅葉も、その美しい切れ長の目をさらに細めて艶やかに笑った。

「ふふ、確かにとんだ甘味好きじゃからな、雲外鏡は。それにしても、皆がそこまで絶賛する出町柳の豆餅か。我も今回の用事をすべて済ませて長野に帰る前に、ぜひともその店へ立ち寄って、一つくらいは食しておくとするか」


怪異達が大いに盛り上がる京都の甘味談義を特等席で聞いていた晴道は、ここでふと、自分の胸の中でずっと燻っていた一番気になる大きな疑問を解決する絶好のチャンスが巡ってきたことに気づいた。

晴道は少し緊張で喉を鳴らしながらも、前のめりになって大妖怪達へと声をかける。


「あのー、ちょっと皆さんにお聞きしたいんすけど……。さっきから色んなお菓子の名前が出てますけど、女鬼ちゃんも、そういう和菓子とか洋菓子とかって大好きなんすか?」


晴道から突然「女鬼ちゃん」という具体的な名前が飛び出した瞬間、それまで賑やかに笑い合っていた鬼達は動きをピタリと止めて一斉に晴道の方を凝視し、中心に座る天狐の妖古はすべてを察したように「ほう」と言って、その美しい釣り目を三日月のように細めてニヤニヤとした笑みを浮かべる。


突然の静寂と周囲からの無言の視線に晴道がタジタジとなっていると、羅生門の鬼がその厳つい顔全体にこれ以上ないほどのニヤニヤとした笑みを浮かべて語りかけた。

「そやなあ、女鬼ちゃんは基本的に出されたものは何でも美味しく食べる好き嫌いあらへん良い子やし、和菓子も洋菓子も、どっちも大好きやぞ?」


羅生門の鬼に続くようにして、鬼女紅葉もまた、晴道の様子をからかうように、その妖艶な笑みをニヤニヤと深くする。

「なんじゃ、そなた。昨日の夜に初めて出会ったばかりだというのに、まさかあの美しき女鬼ちゃんに一目ぼれしよったか?」


「な、なんなんだよその顔は、みんなして……!い、いいだろ別に!誰が誰に一目ぼれしたって、俺の勝手だろ!」

大妖怪達から一斉にニヤニヤとからかわれ、晴道は自らの精悍な顔付きをみるみるうちに林檎のように真っ赤に染めながら、照れ隠しに大声を上げた。


すると、その隣で様子を見ていた綱江が、待ってましたとばかりに悪戯っぽい笑みを浮かべて、さらに追い打ちをかけるようにニヤニヤとする。

「あはは!晴道君、摩訶不思議食堂から方輪車さんの牛車に乗せてもろて一緒に帰ってる時に、私らに対して『彼氏いるかどうか』をすっごく真剣に聞いてたもんねー♪」


「あ、おい綱江、バラすんじゃねえよ!……いや、でもせっかくの機会だから皆さんにお聞きしますけど、実際のところ、女鬼ちゃんって今現在、彼氏とかいたりするんすか!?もしいねえんだとしたら、あの子の好みのタイプって一体どんな男なんすか!?」

晴道は恥ずかしさを開き直りで完全に吹き飛ばすと、今度は妖古や鬼達の元へとさらにグイッと肉薄して前のめりになって問い詰めた。


そんな晴道のあまりにも分かりやすすぎる熱烈な態度を見て、それまでずっと静かにお茶を飲んでいた才狐が、無表情の顔を僅かに傾げて不思議そうに首をかしげた。

「えっと……今の話の流れからして、晴道君は女鬼さんの事が本気で好きなん?」


才狐からのそのあまりにも天然で真っ直ぐな質問に対し、隣に座る天狐の妖古は、紅の着物の袖を大きく揺らしながら、お腹を抱えるようにして愉快そうに大笑いした。

「そのようじゃのう。女鬼ちゃんも、おもろい坊主に本気で惚れられたもんじゃな。まあ、あの子の類稀なる美貌と優しい性格を間近で見せつけられたら、現世の男連中がそうなってしまうのも、仕方なしっちゅうところじゃろうて、カカカ!」


妖古から盛大に笑い飛ばされた晴道だったが、彼の心の中にある熱い恋の炎は、大妖怪達の笑い声くらいでは一ミリも消え去ることはなかった。


「へへ、あんなに可愛い子なんだから、ライバルがめちゃくちゃ多そうだもんな。よっしゃあ!皆の話を聞いてたら、俺の中でますます男としてのやる気がガンガン沸いて来たぜ!俺はこれから死ぬ気で修行して、絶対に有象無象のライバル達を全員完璧に出し抜いて、いつか女鬼ちゃんの方から俺に本気で惚れるような最高の男になってやる!」

晴道は貴船の山奥の美しい空に向かって、自らの熱き決意を証明するように右拳を力強く突き上げて高らかに宣言した。


「がっはっは!実に若いもんらしくて気持ちのええ勢いやんけ!まあ、なんや、その大言壮語に見合うだけの男になれるよう、これから死ぬ気で気張って精進せえや、若いの!」

その晴道のあまりにもブレない圧倒的なポジティブさと威勢の良さを正面から浴びせられ、羅生門の鬼は手を叩いて再びガッハッハと豪快に笑い飛ばした。


そんな晴道のどこまでも賑やかで騒がしい様子を間近で見ていた綱江は、

(はあ、これから私らの学校生活も修行も、ますます騒がしくなりそうやなあ……)

と、未来の苦労を予感して内心で少しだけ呆れながらも、彼の持つどこか憎めない真っ直ぐな人間性を、これからは仲間の一人として温かく見守ろうと心の中で静かに思う。


そんな目の前で繰り広げられる現世の若者達の微笑ましいやり取りのすべてを、楽し気に眺める妖古。


「才狐にも、おもろい友が出来よったの」

妖古はコロコロと笑いながら、傍らに立つ才狐の短い髪をその白い手で愛おしそうに優しく何度も撫でてあげつつ、どこまでも深く温かい慈悲の眼差しで若者達の輝かしい未来を静かに見守り続けていた。


---


###〜新天地の日常と、地獄に咲く美しき鬼への誓い〜


貴船神社の山奥で繰り広げられた京都の怪異達との和やかな交流を無事に終え、慌ただしかった週末が過ぎ去った翌週の月曜日。


晴道は朝、いつもより少し早めに学校に登校し、新天地での心地よい疲れを感じながらもいつも通りに一日の授業を全て終えた。

転校してきたばかりの頃のあの異様な騒ぎに比べると、流石に物珍しさからくる人だかりや、女子の取り巻き達が四六時中まとわりつくような事こそ無くなっていたが、彼の端正な容姿と独特のオーラは相変わらず女子生徒達の間でモテモテであり、クラス内でも気さくな男子の友人が少しずつでき始めていた。


放課後のチャイムが鳴り響くと、クラスメイトの空手部男子達が晴道の席の周りにやって来て、熱心に部活へと誘いの声をかける。

「なあ晴道、空手部の事は前向きに考えてくれたか?お前ほどの腕前があれば、ウチの部なら即レギュラー間違いなしやぞ」


熱烈な勧誘に対し、晴道は机の上の荷物を手際よくまとめながら、申し訳なさそうに首を横に振った。

「悪い、せっかく誘ってくれたんだけどさ、放課後はバイトとか、他にも色々やりてえ事が山ほどあるから、高校の間は部活はしねえって最初から決めてんだ」

晴道はそう言って断ると、通学鞄を肩にしっかりと掛けて教室を後にしようとする。


晴道が教室を出て廊下へ進んだところで、ちょうど同じように家へ帰るために教室を出てきた才狐と綱江の二人とばったり出くわした。

お互いの姿を認めると、二人は晴道の顔を真っ直ぐに見つめながら、自然な声音で声を揃えた。


「「それじゃあ、また明日、晴道君」」

同級生からの親しみを込めた名前での挨拶に対し、晴道もどこか照れくさそうにしながらも、白い歯を見せて「おう、またな」と力強く手を振って二人を送り出す。


それまで少し離れた場所からその様子をジーっと伺っていたクラスの女子達が、二人が歩き去ったのを見計らって、すかさず晴道の元へと一斉に近寄って来た。

女子達は興味津々といった様子でその目をキラキラと輝かせると、晴道の顔を覗き込むようにして尋ねる。

「ねえねえ晴道君、綱江ちゃんの事は、もう狙ってへんの?」


「おう。正直に言うと、この学校に転校してきた最初の日に見かけた時は、本気で狙ってたけどな。でも、今は才狐と綱江の二人の関係を心から応援してるんだよ。あいつら、さっさと付き合っちまえばいいのにな。あの距離感でまだ付き合ってねえとか、マジでありえねえぜ」

女子生徒からの直球の質問に対し、晴道は隠すこともなくあっさりと笑って答えた。


晴道のそのあまりにも潔い回答を聞いた女子達は、一瞬にしてその表情をさらにパッと明るく開かせた。

「そうやんな!」「晴道君、めっちゃ分かってるやん!」

女子達は、晴道が美少女である綱江をこれ以上狙わなくなった事により、自分達が晴道の新しい彼女候補として選ばれるチャンスが一気に広がった事に対する喜びを隠しきれず、その場で大きくはしゃぎだす。


すると、その中の一人の女子生徒が、期待を込めて一歩前に出ながら尋ねた。

「ほな、晴道君の彼女募集は今も変わらず続いてるんやね?」


「まあ、転校初日には勢いで彼女募集とか言っちまったけどさ。悪いけど、今はもう彼女の募集はしてねえよ」

晴道が何気なくそう言い放つと、期待に胸を膨らませていた女子達は一斉に「「「えー!?なんで!?」」」と驚きの声を上げてブーイングを飛ばす。


「他に、心の底から惚れた女の子がいるんでな」

晴道は、自らの胸の奥に宿る金髪の美しい鬼の姿を思い浮かべながら、これ以上ないほどに爽やかな満面の笑顔で言い放った。


その言葉を聞いて、女子達はますます色めき立ち、晴道の周りを取り囲んで激しく質問攻めにする。

「えー!?一体どんな子よ!?」「ウチの学校の子なん!?それとも他の学校の子なん!?」


「どこの学校って言われてもな……。まあ、しいて言うなら、地獄、でいいのか?」

女子達の凄まじい剣幕に圧倒されそうになりながらも、晴道は自らの頭を少し掻きながら、楽しそうに笑って答えた。


「えー、何よそれー!意味わからん!」

全く要領を得ない晴道の回答に対し、女子達は納得がいかないといった様子で口々にブーブーと言い出し、不満の声を上げる。


「とにかく、今の俺には命懸けで惚れた最高の女の子がいるからさ。悪いな、そんじゃ!」

晴道はこれ以上の追及を免れるようにそう告げると、食い下がる女の子達を自慢の俊足で見事に振り切り、そのまま学校の校門をくぐって勢いよく帰って行く。


そして、日差しが差し込む帰り道。

晴道は京都の美しい街並みを歩きながら、自らの拳をぐっと力強く握りしめ、自身の新しい未来に向けて気合を入れ直す。


「さてと、今日もこれからガッツリとバイトだ。汗水垂らしてしっかり稼いで、またあの摩訶不思議食堂に行って、大好きな女鬼ちゃんに会いに行かなきゃな!」


晴道は胸の中に宿る新たな目標と、美しき鬼への熱い恋心に胸を躍らせながら、夕日に照らされる京都の道を、少し小走りになって未来へと元気いっぱいに駆け抜けていくのだった。


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