↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
摩訶不思議食堂のほっこり飯  作者: 修羅観音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/54

第36話中編:阿倍野晴道の戦闘狂なほっこり飯

###〜えらいこっちゃ嬢の奇妙な警告と、夜空を焦がして迫る怪火〜


神泉苑の薄暗い境内の片隅に、突如として姿を現した黒いベレー帽の少女が放った、あまりにも唐突で緊張感の抜けるような一言。

その場に漂う空気の重さに反して、あまりにも独特すぎる台形の口の開き方から漏れ出た謎の言葉を受け、晴道は自慢の長身を少し屈めるようにして、不思議そうに眉を寄せて首をかしげていた。


そんな晴道の困惑を他所に、隣に立っていた才狐と綱江の二人は、その少女の正体を最初から完全に熟知している様子で、全く動じることなく息を合わせて同時に言葉を投げかけた。

「「えらいこっちゃん、今晩は」」

二人がまるでお馴染みの近所の知り合いにでも接するかのように、親しみを込めて声を揃えて挨拶を交わす。


すると、えらいこっちゃんと呼ばれたその銀髪の小柄な女の子は、二人の姿をそのまんまるな目の中にしっかりと捉えるなり、自らの細い両腕を上下左右へと風車のようにぶんぶん振って元気いっぱいに挨拶を返し始めた。

「才狐あんちゃん、綱江ねえちゃん、今晩はの御疲れちゃん!今夜も京都の街は、えらいこっちゃな大騒動!」


その独特なテンションと、現世の普通の子供とは思えないあまりにも奇妙な喋り方に圧倒されながら、晴道は少し呆気にとられた表情のまま、才狐と綱江の顔を交互に見つめる。

「おい、才狐、綱江。こいつって、もしかしてお前ら二人の連れなのか?」


晴道が少し警戒を滲ませながら尋ねると、才狐と綱江は特に表情を変えることもなく、当たり前のような様子で「「うん」」と同時に短く頷いてみせた。


その銀髪の女の子は、黒いセーラー服のズボンの裾を直しながら、台形の口をさらに大きく開けて晴道の前にトトトッと歩み寄ってきた。

「ウチは、えらいこっちゃ嬢とか、えらいこっちゃんって呼ばれてる、えらいこっちゃ嬢や」

少女はどこか誇らしげに胸を張って、自らの不思議な名前をハキハキとした声音で自己紹介をする。


その前代未聞の自己紹介を耳にして、晴道は思わずガクッとなりながらも、苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

「お、おう。えらいこっちゃ嬢、えらいこっちゃん、ねえ……。東京でも色んな奴に会ってきたけどさ、京都には随分と変わった名前の奴が普通にそこらへんを歩いてるんだな」


晴道が名前のインパクトに圧倒されている横から、綱江が作務衣のショルダーバッグの位置を直しながら、少女に向かって優しく微笑みかけて質問を投げかける。

「それにしても、えらいこっちゃんはこんな夜遅くに、一体どないしたん?今夜は神泉苑の神様に、何か特別なお願いでもあって御参りに来たん?」


綱江からの素朴な問いかけに対して、えらいこっちゃ嬢はそのまんまる目をパチクリとさせると、才狐と綱江の二人を交互に見つめて、深く納得したようにコクリと深く首を縦に振った。

「才狐あんちゃんと、綱江姉ちゃんは、毎日毎日自分の未熟なところをしっかり顧みながら、調和のために日々一生懸命に術の精進を重ねておるから、ほんまに感心感心な、えらいやっちゃ」


えらいこっちゃ嬢は、二人のこれまでの地道な努力を認め、優しく褒め称えるような言葉を口にした。

しかし、そこまで穏やかに話していたえらいこっちゃ嬢の雰囲気が、次の瞬間、突如として氷のように冷たく張り詰めたものへと一変した。


そして……。


「己の力に溺れとる戦闘狂あんちゃん、えらいこっちゃ」


少女は、そのまんまるな目で晴道の全身を足元から頭のてっぺんまで厳しく射抜くように見つめると、その小さな人指し指をびしっと晴道の鼻先に向けて突き出し、容赦のない鋭い言葉を正面から言い放った。


いきなり初対面の少女から指を差され、不名誉なレッテルを貼られた晴道は、思わず「え?なんだそりゃ?」とマヌケな声を上げながら、再び激しく首をかしげる。

しかし、その場にいた才狐は、えらいこっちゃ嬢のその的確すぎる指摘に対して、深く納得したように「ああ、確かに」と、その無表情のまま淡々と頷いて見せた。


隣に立つ綱江もまた、先ほどの晴道の暴走っぷりを思い返して、フフッと楽しそうに声を弾ませて笑う。

「あはは!戦闘狂かぁ、今の阿倍野君の猪突猛進な姿を表すには、まさに言いえて妙やね」


「おいおい、お前ら!さっきから聞いてりゃ戦闘狂、戦闘狂って、それ俺の事言ってんのかよ!?まぁでも、否定はしねえぜ!確かに俺の一族に伝わる圧倒的な戦闘能力は、この場にいる奴らの中じゃ間違いなくぶっちぎりでトップだけどよ!がっはっは!」

晴道は周囲からの揶揄いを気にする風でもなく、むしろ最高の褒め言葉だと受け取ったかのように、自慢の厚い胸板を張って豪快に大声を上げて笑い飛ばした。


すると、その晴道の傲慢で自信に満ちあふれた高笑いを完全に掻き消すかのように、目の前にいたえらいこっちゃ嬢が、突如としてその小さな身体を激しく震わせ始めた。

そして、次の瞬間。


「――えらいこっちゃーーー!!!」


少女はその台形の口をこれ以上ないほど限界まで限界まで大きく開け放つと、神泉苑の敷地全体、いや、二条の街一帯を強烈に揺るがすほどの、凄まじい大絶叫の叫び声を夜空に向かって一気に張り上げた。


「うわあああーーーっ!?なんだなんだ、いきなり耳元で大声を出しやがって、一体こいつどうしちまったんだよ!?」

晴道はそのあまりにも鼓膜を引き裂かんばかりの凄まじい音量の叫び声に驚愕し、大慌てで両耳を両手で塞ぎながら、その場でガタガタと飛び上がって取り乱す。

「おい、どうしたんだよお前!何か本当にとんでもねえくらい、えらいことでも起こったのか!?」


晴道が驚きと混乱のままに少女を問い詰めようとした、まさにその刹那。

パチパチパチ……ゴオォォォォォッ!――という、夜の静寂を完全に焼き尽くすかのような、不気味で禍々しい強烈な炎の燃え盛る効果音が、遠くの夜空の彼方から重重しく響いてくる。


晴道達がハッとして叫び声のした大通りの方へと一斉に視線を向けると、遥か遠くの方から、現世の物理法則を完全に無視して激しく燃え盛る巨大な『何か』が、凄まじい熱量と破壊の波動を周囲に撒き散らしながら、こちらの神泉苑の鳥居に向かって猛烈なスピードで一直線に近づいて来るのがハッキリと見えた。

その怪しい火炎の接近に伴い、先ほどまでの穏やかな空気は一瞬にして消え去り、夜の京都の街に新たなる未曾有の大騒動の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。


---


###〜魔改造された炎の牛車と、現代社会に適応する怪異達の電子決済〜


激しく夜空を焦がしながら猛烈な勢いで迫り来る燃える何かは、パチパチと周囲の空気を爆ぜさせる恐ろしい効果音を轟かせながら、あっという間に4人の目の前までやって来てその動きをピタッと止めた。


修練を積んできたはずの晴道であったが、現世の常識を遥かに超越したその物々しい光景を間近で突きつけられ、完全に度肝を抜かれて驚いてその場に固まりながらも、本能的にすぐさま実戦空手の鋭い身構えをとる。

目の前に姿を現したのは、凄まじい業火を全身に纏った伝説の「方輪車」の牛車であったが、あろうことか現代風のメカニックな技術によって至る所が不気味に魔改造されており、前面には現世の自動車のようなガラス張りの運転席が不気味に取り付けられているという、この世の者とは思えないあまりにも奇天烈な乗り物であった。


信じられない怪異の出現に、晴道が「クソッ、なんて邪悪な気配だ!」と叫びながらパーカーの懐から一撃必殺の呪符を取り出そうとした、まさにその瞬間。

音を立てて運転席の窓が滑らかに開き、中に座っていた黒いシックな着物姿で、艶のある綺麗な長い黒髪を後ろで美しく束ね、頭にはお洒落なベレー帽をかぶっている、はんなりとした着物美人が、優雅ににこやかにこちらへ向かって手を振って来た。


そのおっとりとした女性の登場を見るや否や、隣にいたえらいこっちゃ嬢が、そのまんまるな目を輝かせて細い両腕を上下左右へとぶんぶん振りながら、大声を張り上げて叫んだ。

「方輪車ねえちゃん、夜遅くの御迎えありがとちゃんの御疲れちゃん!今夜の乗客は、才狐あんちゃんと綱江姉ちゃん、えらいこっちゃな戦闘狂あんちゃんの3名様!行先はえらいこっちゃな美味しいお食事が待ってる『摩訶不思議食堂』!」


えらいこっちゃ嬢の元気な呼びかけに合わせるように、才狐と綱江の二人も全く物怖じすることなく、声を揃えて「「方輪車さん、今晩は」」と親しげに挨拶を交わすと、それに応じるように牛車の側面に備え付けられた客席の重厚な扉が静かに開く。


晴道が未だに「出たな、人を惑わす邪悪な物の怪め!」と全身から霊力を吹き出して臨戦態勢の戦闘態勢のまま牙を剥いていると、運転席から方輪車がクススクと鈴の鳴るような細い声を響かせた。

「こんばんはー♪ふふ、今夜は随分と元気な男の子が一人紛れ込んでいてはりますやん。ウチはただの送迎車やさかい、その指に挟んどるビリビリする痛い御札はどうか堪忍しとくれやすー。ほな、夜道は冷えるさかい、皆様どうぞお乗りやすー♪」


美人の怪異が優しく手招きをした次の瞬間、未だに戦闘モードのまま御札を構え続けている晴道の太い腕を、えらいこっちゃ嬢がその小さな手でガシッと横から鷲掴みにした。

そして、少女は現世の物理法則を無視した凄まじい怪力とものすごい勢いをもって晴道の巨体を強引に引っ張り、抵抗する間も与えずに軽々とその魔改造された牛車の薄暗い奥の中へと放り投げるようにして押し込めていく。


「うわあぁぁっ!?な、なんだこいつ!小っこいくせにめちゃくちゃ力が強えじゃねえか!?」

晴道は情けない叫び声を上げながら、車内の座席の上に不様に転がって頭を打った。


そんな晴道の醜態を他所に、才狐と綱江の二人は何食わぬ顔でスマートに牛車へと乗り込み、最後にえらいこっちゃ嬢がぴょんっと器用に飛び乗ると、開いていた客席の扉がパタンと冷酷に閉まる。

車内に閉じ込められた形となった晴道は、慌てて起き上がるとカチカチにロックされた扉を激しく叩いて叫んだ。

「あ、この化け物、俺を閉じ込めやがったな!汚い真似しやがって、早くここから出しやがれ!」


晴道が車内で激しく喚き散らすと、前方の運転席から方輪車の穏やかな声が聞こえてきた。

「はいはい、お急ぎのようですし、今すぐ出しますえー♪」

方輪車が楽しげにそう言うなり、牛車の車輪がゴオォォッと激しい炎の回転音を響かせ、勢いよく発進して加速を始めた。


身体を激しく揺さぶられた晴道は、前の座席にしがみつきながらさらに声を大にしてツッコミを入れる。

「いや、俺は車を発進させろって意味で言ったんじゃねえよ!この怪しい乗り物の外へ出せって言ってんだよ!」


晴道が全力で抗議していると、今度は客席の暗い天井の隙間から、どこからともなく「御勘定」と墨黒の文字でハッキリと書かれた古風な札を器用にぶら下げた、不気味なほどに白くて長い腕がニューっと生き物のように伸びて来て、晴道の目の前へと静かに降りてきた。

「うわあぁぁっ!?今度は何だ、天井から生白い腕が伸びてきやがったぞ!?どこまで俺を驚かせりゃ気が済むんだ!」


晴道は再び新しい呪符を握りしめて全力で身構えたが、その隣に座っていた綱江は、彼のその余裕のない過剰な慌てっぷりを観て、口元をニヤニヤと楽しそうに歪めて揶揄い始める。

「阿倍野君、さっきから見てたら、今日はいつも以上に騒がしくて面白いね。もしかして、普段は最強の祓術師とか偉そうに粋がってるけど、実はお化け屋敷の類がもの凄く苦手なタイプなん?」


「んなわけねえだろ!お化け屋敷の作り物の人形なんて怖いわけねえだろ!俺は今、目の前にいる本物の物の怪共と命懸けで闘ってんだよ!いや、それよりなんでお前ら二人とも、こんな異常な空間の中でそんなに冷静でいられるんだよ!おかしいだろ!?」


晴道が顔を真っ赤にして喚き散らしているのを完全に他所に才狐は、ポケットから愛用のスマートフォンを静かに取り出した。

そして、目の前にぶら下がっている御勘定札の裏側を覗き込むと、そこに印刷されている現世の最新のQRコードに対して、お財布携帯の機能を迷うことなく滑らかに翳してみせると。


「ピッ――チャリーン♪毎度ありー。」


車内の静寂の中に、現世のコンビニエンスストアでよく聞くような、あまりにも軽快な電子決済の音声が響き渡る。

決済が無事に完了したことを確認した方輪車は、嬉しそうに声を弾ませた。

「毎度ー。きっちり電子決済での御勘定、確かに受け取りましたえー。ほな、お腹を空かせた皆様のために、ここからさらにスピードを上げて一気に加速しまっせー♪」


その言葉と同時に、燃える車輪の回転数がさらに跳ね上がり、牛車は凄まじいGを車内に発生させながら、京都の夜の街をどんどんスピードを上げて疾走し始めた。


あまりにも現世のシステムに順応しすぎている怪異の姿を目の当たりにして、晴道は構えていた呪符を力なく下ろし、驚きを隠せない様子でポツリと呟く。

「マジかよ……物の怪の分際で、普通に現世の電子決済が出来んのかよ。そういやさっき、神社で俺を尻に敷きやがったあの鬼、紅葉だっけか?あの美人な鬼の姉ちゃんも、人間と同じ最新のスマートフォンを持って使いこなしてやがったな……」


晴道が時代の波に取り残されたような顔をしていると、隣の才狐がそのスマートフォンをポケットへと仕舞いながら、淡々とした平坦な声音で語りかけた。

「うん。僕の師匠の妖古さんも、現世の流行や情報をいち早く知るために、あえて最先端のスマートフォンを日常的に使って、僕ら弟子や裏の怪異の仲間達と密に連絡をとり合ったりしてはるよ。今の時代、連絡手段のアップデートは必須やからね」


才狐の言葉に続くようにして、綱江もまた、楽しそうに笑いながら言葉を重ねた。

「そうそう。怪異の皆さんのほうが、私ら現世の人間よりも時代の変化に対してしっかり勉強してアップデートしてはるもんね。私ら若い世代も、あの柔軟な姿勢は見習わんとあかんな」


二人のそのあまりにも達観した、そして怪異を一つの対等な存在としてリスペクトしている会話を聞きながら、晴道は自身の内にあった「怪異はすべて滅ぼすべき悪」という絶対的な固定観念が、内側からガラガラと崩れ去っていくような奇妙な感覚を覚えた。


晴道は二人の横顔をじっと見つめながら、少し声音を落として尋ねた。

「お前ら……実は俺が思っている以上に大物だったりするのか?」


晴道はこれ以上の抵抗は無意味であると悟り、諦めてしっかりと腰を落ち着け、仕方なくふかふかとした座席に大人しく座る事にした。


---


###〜摩訶不思議食堂の暖簾をくぐりて、地蔵店長の温かき慈悲の出迎え〜


常識がガラガラと音を立てて崩れ去るような衝撃を受け、晴道がやっと抵抗を諦めてふかふかの座席に大人しく座っていると、やがて激しく疾走していた炎の牛車が滑らかに減速し始めた。

ガタゴトと心地よい振動を残しながら、夜の京都の片隅に佇む、どこか幻想的で綺麗な木造の建物の前で牛車は完全に停止する。


プシューッという小気味よい空気の抜ける音と共に牛車の客席扉が自動で開くと、待ってましたとばかりに、えらいこっちゃ嬢がその小さな身体で器用にぴょんっと一番に飛び降りた。

続いて才狐が先にひらりと降り立ち、後ろから降りようとする綱江に向かってスッと優しく手を貸して降ろしてあげると、差し出されたその手に触れた綱江は少し両頬をポッと林檎のように染めながら「……有難う」と小さく呟いて地面に降り立つ。


その二人のあまりにも自然で初々しいやり取りを車内から特等席で見せつけられた晴道は、少し羨ましそうな視線を向けながらも、ゴシゴシと頭を掻いた。

「おいおい、随分と熱いところを見せつけてくれるじゃねえかよ」

晴道は不貞腐れたようにそう呟きながらも、これ以上の我儘は言わずに大人しく牛車を降りて二人の後ろに並んだ。


三人が無事に下車したのを確認すると、牛車の客席扉がガラガラと音を立てて静かに閉まり、前面にあるガラス張りの運転席の窓から方輪車の着物美人が満面の笑顔で手を振ってきた。

「毎度ありー♪ほな皆様、その摩訶不思議食堂で楽しい夕食会をゆっくりお過ごしおくれやすー♪」

方輪車がはんなりとした声を響かせると、パタンと運転席の扉が閉まり、燃え盛る車輪がパチパチと火花を散らしながら、颯爽と走り去って行く。


方輪車が去った後、えらいこっちゃ嬢は、目の前にある綺麗な木造の店の扉をガラガラッと勢いよく開け放った。

「ただいま!才狐あんちゃんと綱江姉ちゃん、えらいこっちゃな戦闘狂あんちゃんの3名様ご案内ーーー!」

少女は店内に響き渡るような大声を張り上げてそう叫ぶなり、トトトッと足音を響かせてそのまま店の奥へ元気よく消えていってしまった。


晴道は、新天地でのあまりにも破天荒な送迎の余韻に浸りながら、ふと自分の頭上を不思議そうに見上げた。

すると、夜闇の中に温かい店灯りに照らされて浮かび上がる『摩訶不思議食堂』と達筆な文字で書かれた、どこか味のある木製の看板がしっかりと目にとまる。


「まあ、確かに名前の通り、これ以上ないくらいに摩訶不思議な店っぽいな。送迎の車が物の怪とか怪異の類なんて、普通じゃ絶対にあり得ねえし」


晴道が感心したように看板を見つめていると、才狐と綱江の二人は慣れた様子で暖簾をくぐり、声を揃えて店内に挨拶を投げかけた。

「「今晩は、今夜もお世話になります」」


二人が心地よい出汁の香りがふわりと漂う店の中へと吸い込まれるように入っていくのを見て、晴道もこれ以上、外に一人で立ち尽くしているわけにもいかず、仕方のない様子で二人の頼もしい背中を追ってゆっくりと店に入って行く。


ガラガラと扉を閉めて中に入ると、店内は木造の温もりに満ちあふれた非常に落ち着く空間が広がっており、才狐と綱江の二人は息を合わせるようにして並んでカウンター席に仲良く座った。

晴道はそんな二人の距離感に少しだけ割り込むようにして、綱江のすぐ隣の空いている席にどっしりと腰を下ろす。


三人が席について一息ついた、まさにその瞬間。

厨房と客席を隔てるカウンターの奥の暗がりから、ぬぅっと何とも言えない温かくて穏やかな気配を纏った一つの人影が現れた。


晴道が「お、誰か出てきたな」とその姿をよく見ると、驚きのあまりにその精悍な顔立ちが完全にフリーズしてしまう。

そこに現れたのは、どこからどう見てものっぺりとした石造りのお地蔵さんそのものの頭部を持った存在であり、首から下は青い作務衣を綺麗に着用し、腰に巻くタイプの白いエプロン姿を纏っており、お地蔵さん特有の慈悲深い笑顔を顔いっぱいに浮かべて、にこやかに出迎えてくれていたのである。


目の前に現れた異形の店主に対し、才狐と綱江の二人は全く動じることなく、胸の前で綺麗に手を合わせて「「地蔵店長、今晩は、今夜もお世話になります」」と、合掌してお辞儀をして丁寧な挨拶を交わした。

挨拶を向けられた地蔵店長は、そのお地蔵さん笑顔のまま、お堂の奥から響いてくるような深く穏やかな声を店内に響かせた。


「才狐さん、綱江さん、いらっしゃいまし。今夜もよくお越しくださいましたね。おや、そちらの隣にいらっしゃるのはお二人の大切な御学友の方でしょうか。ようこそ摩訶不思議食堂へお越し下さいました。私はこの店の店長をさせて頂いております。皆さんは親しみを込めて、地蔵店長と呼んで下さいます」


地蔵店長はそう言って、カウンターの向こう側でお地蔵さん笑顔を絶やすことなく、優しく合掌してお辞儀をする。


その底の知れない圧倒的な慈悲の包容力を前にして、晴道は少し圧倒されながらも、グッと自分の胸を張って自己紹介を返した。

「お、おう、地蔵店長さん、宜しく。俺は東京の神社から新しく転校してきた阿倍野晴道だ。由緒正しき物の怪神社の未来の宮司で、いずれ最高にして最強の祓術師になる男だぜ!」


晴道が誇らしげに鼻を鳴らして胸を張って挨拶すると、地蔵店長はその晴道の生意気な態度を優しく包み込むようにして深く頷いた。

「晴道さんですね、ご丁寧な挨拶を有難う御座います。どうぞこれから、宜しくお願い申し上げます」


店長がにこやかに笑顔でお辞儀をする横から、綱江が晴道のあまりにも尊大な自己紹介に対して、その美しい目を少し細めて呆れたようなジト目を向けながら釘を刺した。

「ちょっと阿倍野君、この素敵なお店の中では絶対に暴れたりせんと、大人しくしといてや。まぁ、ほんまは店の外であっても日常的に大人しくしてなあかんねんけどな」


綱江から冷ややかな言葉を向けられた晴道は、心外だと言わんばかりに自分の口をへの字に曲げて思いっきり口をとがらせた。

「おいおい綱江!俺は十分に大人しく座ってるだろうが!流石の俺だってな、こんなに優しくて拝みたくなるようなお地蔵さんにまで、見境なく喧嘩売ったり暴れたりはしねえよ!っていうかさ、綱江って、普段は可愛い顔をしてるくせに、俺に対してだけはなかなか手厳しくていい性格してやがるよな!」


晴道が悔しそうに声を荒らげる中、そんな微笑ましい現世の若人達の賑やかなやり取りを、地蔵店長はまるで我が子を見守るかのような温かい眼差しで微笑みながら、終始優しく見守っているのだった。


---


###〜驚愕の厨房と、人間ならざる名料理人達の日常〜


三人がカウンター席に腰を下ろし、地蔵店長との和やかで丁寧な挨拶を無事に終えた、まさにその直後。

パタパタパタと、厨房の奥から軽快な足音が響いてきたかと思うと、いつの間にか頭の黒いベレー帽はそのままに、シックな黒い作務衣の上に真っ白で清潔な割烹着を完璧に着用したえらいこっちゃ嬢が、何食わぬ顔で姿を現した。

少女はその小さな手で、三人にスッと古風で上質な革張りの御品書きを手際よく手渡していく。


受け取った御品書きの表紙を晴道が興味津々でパッと開くと、そこには達筆な墨黒の文字で、ただ一言「ステーキ膳」とだけ美しく書かれていた。

ガテン系の日雇い労働を終えて腹ペコだった晴道は、その魅力的な文字を目にした瞬間、一気にテンションを跳ね上げてその鋭い両目をギラギラと輝かせる。

「おっ、マジかよ!今夜のメニューはステーキか!こいつは最高にいいじゃねえか!佇まいからして、てっきり完全な和食専門の渋い店かと思ってたけど、こんな洋風ステーキまでガッツリ出すんだな。ってことはよ、やっぱり京都の地元の高級な和牛とかを使ってたりするのか?」


晴道はすでに口の中に広がる肉汁の幻影に極上の笑みを浮かべ、メニューに書かれたサイズの一覧に目を落とした。

御品書きには、食べる量に合わせて親切に「大・中・小」と3つのサイズが分かりやすく表記されている。

「俺はアルバイトで死ぬほど体を動かして腹が減りまくってるから、迷わず一番デカい『大』にするぜ!」


晴道が鼻息を荒くして宣言すると、隣の才狐は自分のお腹の空き具合を冷静に考慮して、「じゃあ、僕は『中』にするよ」と静かに決めた。

最後に綱江が、「ウチは夜遅くに食べ過ぎたら太ってまうから、大人しく一番小ぶりな『小』を食べることにするわ」と言って、三人の注文が綺麗に決定した。


それぞれのサイズが決まり、メニュー表を目の前で待っていたえらいこっちゃ嬢へと丁寧に返すと、少女はそれを受け取るなり、台形の口を大きく開けて厨房の奥へと向かって威勢のいい大声を張り上げた。

「えらいこっちゃな美味ステーキ膳、大中小1セット!猫子さんが真心を込めてじっくり焼いてくれる今夜の特製ステーキは、肉の旨味を極限まで閉じ込めた、えらいこっちゃな極上のウェルダン!」


えらいこっちゃ嬢はリズムよく注文を通しながらタタタッと厨房へ一度戻り、今度は漆塗りの御盆の上に、ほかほかと湯気の立つ真っ白な御絞りを綺麗に並べて再びカウンターへとやって来た。

「まずは手を綺麗に拭きよし。綺麗な手で食べんと、えらいこっちゃ」


えらいこっちゃ嬢は手際よく三人の前に温かい御絞りを手渡していき、才狐も綱江も、そして晴道もそれぞれ「有難う」とお礼の言葉を口にしながら気持ちよく受け取ると、用事を終えたえらいこっちゃ嬢は再びパタパタと足音を響かせて厨房の奥へと戻って行った。


「へえ、料理を作る奴の名前は猫子(ねここ)って言うんだな。猫子だってよ、名前からして絶対に若くて可愛い女の子の料理人確定だよな!間違いないぜ!」

晴道はまだ見ぬ美少女料理人の姿を妄想し、ウキウキと胸を躍らせながら、カウンターの向こうの様子を伺おうと自慢の長い首をグイッと伸ばして厨房の中を覗き込んだ。


すると。


じゅううぅぅぅううう――ッッ!!


肉の表面が激しく爆ぜる、これ以上ないほどに香ばしくて暴力的とも言える肉汁の焼ける最高の重低音が響き渡り、それと同時に芳醇な脂の香りがカウンター全体へと一気に漂ってくる。

晴道は期待に胸を膨らませてその調理場を凝視した、まさにその途端、あまりの衝撃的な光景に言葉を失い、あわあわと口を動かしたまま完全に絶句してしまった。


厨房の中心には、確かに晴道の予想通り、非常に可愛らしくて小柄な女性の料理人が、楽しそうに鼻歌を交じりに極厚のステーキ肉を鉄板の上で鮮快にひっくり返して焼いている。

しかし、その料理人の正体は、現世の普通の人間などでは決してなかった。

艶やかな紅い着物に真っ白な割烹着姿を身に纏い、頭にはぴょこぴょこと動く三角形の猫耳が綺麗に出るタイプの特製の三角巾を頭にしっかりと付けている、艶のある黒髪でどこまでも穏やかな顔立ちをした、その側頭部に本物の猫耳が可愛らしく生えている猫の女性料理人そのものであった。


「ほっほっほっほっ、ほっほっほっほっ♪」

さらに晴道が驚愕に目を見開いていると、その猫子さんのすぐ近くでは、何とも独特で愉快な声をリズムよく響かせながら、付け合わせの人参のグラッセを熱々の鉄板皿の上に手際よく乗せた後に、細かく刻んだ玉ねぎと濃厚なケチャップを絶妙に絡めながら、中華鍋さながらに巨大なフライパンを華麗に振る熟練の料理人の姿があった。

驚くべきことに、その料理人は全身が鮮やかな緑色の肌をしており、緑の作務衣に白い割烹着をがっしりと着ていて、その瞳孔が横一直線になっている独特な穏やかな目をした、どこからどう見てもおたまじゃくしから進化した優しい顔立ちの蛙料理人であった。


現世の常識を遥かに超越した調理場の全貌を目撃してしまい、晴道は椅子から転げ落ちんばかりに目を丸くして、隣の二人を交互に見つめながら驚きを爆発させた。

「ちょ、おい!待て待て待て!なんだよあの調理場は!コックが、コックが二人とも絶対に人間じゃねえぞ!?猫とカエルが普通に割烹着を着てフライパンを振ってやがる!」


晴道が一人で大パニックになって取り乱している横で、才狐は特に驚く様子もなく、お茶をすすりながら、

「ああ、あの二人はね、いつも美味しいご飯を作ってくれる、猫子さんと蛙仙人さんやね」

と、相変わらず無表情のまま淡々とした平坦な声音で紹介してくれた。


隣の綱江もまた、厨房の二人に向かって親しげに手を振りながら、嬉しそうに微笑んだ。

「そうそう!猫子さんは本当にどんなジャンルの料理でも美味しく作れる、料理上手でオールマイティな方で、蛙仙人さんは素晴らしいお野菜を自ら愛情込めて育ててもいてはるし、野菜を使った料理全般がめちゃくちゃ大得意なんやんね」


「え……?お前ら、もしかしてこの店の常連なのかよ?」

二人のあまりにも当たり前すぎる解説を聞き、晴道はさらに頭が混乱し、尋ねながら二人の横顔をまじまじと不審そうに見つめる。


「うん、最近は僕も放課後とか休みの日に、ちょくちょくとここに連れてきてもらう事があるよ」

才狐は静かに頷き、当然のように答えた。


「そ、そうか……お前らにとっては、この人間じゃねえ怪異どもが飯を作って給仕してくれる空間が、普通の日常って事かよ。いや、マジでさ……お前ら二人って、本当は一体何もんなんだ?」


晴道は自分の常識が一切通用しない京都の裏の世界の奥深さと、それを完全に手懐けている目の前の同級生達の底の知れなさに、ただただ圧倒され、最初から最後までずっと驚きっぱなしのままカウンターで大人しく座り続けるしかなかった。



---


###〜厨房の驚愕を忘れる極上ステーキと、心身を癒やす至高の祝詞〜


厨房の中で人間ならざる怪異達が平然とフライパンを振る光景を目の当たりにし、最初は脳の処理が追いつかずに目を丸くして驚きっぱなしだった晴道。

だが、鉄板の上から途切れることなく立ち上る、肉の焼けるこの上なく暴力的に香ばしい香りが鼻腔をくすぐるにつれて、その不機嫌だった顔付きがどんどん幸せそうなものへと良くなっていくのを隠せなかった。

じゅううぅぅぅ――ッッという鼓膜に心地よく響く極上の効果音と共に、じっくりと火が通っていく極厚の肉塊を見つめているだけで、さっきまでの理不尽な敗北感や驚きなどは綺麗にどこかへ吹き飛んでしまう。


晴道は子供の頃から大の肉好きであり、家族で外食に出かけた際にも、メニューを開けば真っ先に肉料理ばかりを好んで注文し、特に網の上でジューシーに焼く焼肉や鉄板の上で豪快に音を立てるステーキこそが人生最大の大好物であった。

実家の厳しい呪術の修行を本格的に始め、さらに己の肉体を極限まで追い込む実戦空手をもやり始めてからは、とにかくがっつりと質の良い肉をこれでもかと大量に食べて、人一倍パワーアップするように日々誰よりも努めていた。

その血の滲むような努力と圧倒的な肉の摂取量のおかげで、今の彼は誰もが羨むような長身で、全身に無駄のない筋肉が美しくついた均整がとれた素晴らしい体格に恵まれることとなり、晴道の胸の中には、これまでの人生で肉を美味しく食べることこそが自分の強い肉体と術の基盤を作っているんだという、確固たる強い思いすらあるほどだった。


そうして、カウンターの向こう側で猫子と蛙仙人の二人が息の合った見事な連携を見せ、やがて視覚からも嗅覚からも完璧な仕上がりを予感させる至高の料理が堂々と完成した。

まずは猫子が才狐の前に「お待たせしました、こちらが『中』ステーキ膳です♪」と穏やかな笑顔で器を置くと、続いてえらいこっちゃ嬢が、その隣の綱江の前に手際よく『小』ステーキ膳を差し出し、最後に蛙仙人が、一番端に座る晴道の前に「さあ、お腹を空かせた若い衆、特大の『大』ステーキ膳をどうぞ」と、ズッシリと重量感のある器をそれぞれの目の前へと丁寧に置いていく。

贅沢な膳が並んだ瞬間、三人は顔を見合わせて「「ありがとうございます」」「有難う」と、調理してくれた料理人達に向かって心からの感謝の言葉を伝え、目の前に並んだ現世の常識を遥かに超える美しい料理の数々にその眼をキラキラと輝かせた。


運ばれてきた料理は、どの大きさの肉も箸を使って簡単に食べやすいように、職人の手によって一口サイズに綺麗に美しく切り分けられており、その断面からは極上の肉汁がじんわりと溢れ出していた。

付け合わせとして添えられている艶やかな人参のグラッセや、優しく火を通されて甘みを引き出された玉ねぎに濃厚なケチャップが美しく絡められたソースは、見ているだけで胃袋を激しく刺激して食欲をそそる見事な色彩を放っている。


さらに驚くべきことに、お椀に盛られたご飯は、綱江が子供の頃から大好きな小豆ご飯が、三人のそれぞれの体格や食べる量に合わせて多すぎず少なすぎず、まさに丁度良く絶妙な加減で盛られており、隣に添えられた味噌汁も具材のバランスが完璧に計算されていた。

これほどまでに一人一人の特徴や好みを細部までよく見て、真心を込めて作られている事が一目で伝わる膳の完成度に、晴道はただただ内側から込み上げる感動に震えた。


さあ食べようと晴道が箸に手を伸ばしかけたその時、隣に座る才狐と綱江の二人が、まるでお手本のように美しく静座して、その居住まいを厳かに正した。

二人は神聖な儀式を執筆するかのように、胸の前で静かに一拝一拍手を綺麗に打ち鳴らし、神々しい空気の中で頂きますをしようとする。

その厳かな雰囲気に気圧され、慌てて晴道も箸を一度置いて同じように両手を合わせ、頂きますのポーズを取る。


才狐と綱江が胸の前でしっかりと合掌しながら、息を完璧に合わせるようにして同時に

「たなつもの、百の木草も、天照す、日の大神の、めぐみえてこそ」

と、大自然の恵みと神々への深い感謝が込められた、伝統的な食前の祝詞を美しく称える。


その凛とした言葉の響きが店内のすべての空気を清らかに清め、最後に三人で一斉に声を揃えて「「「頂きます」」」と力強く言ってから、いよいよ待ちに待った箸をそれぞれが手に取るのだった。


早速、晴道は我慢が限界に達していた様子で、待ちに待った極厚のステーキを箸で一切れ掴み、豪快に口の中へと運んでみた。

モグモグと口を動かした瞬間、晴道の全身に電撃のような衝撃が走り抜けた。

肉はえらいこっちゃ嬢が言っていた通り、中心までウェルダンでしっかり厳重に焼き上げられているのに、焦げ臭さや硬さといったマイナスの要素が一切なく、驚くほどにしっとりと柔らかい肉は、噛み締めるたびにそれ自体が最高級の素材の旨味をじゅわっと溢れ出させてくる。

特製のオリジナルソースがその肉の脂と絡み合うと、口の中で完璧なハーモニーを奏でて実に美味しく、あれだけ尖っていた晴道の心が、思わず「ほっこり」とした温かい気持ちと優しい表情へと一瞬にして変わっていった。


さらに横に添えられた人参のグラッセを口に運べば、人参独特の嫌みのない濃厚な甘みが舌の上を優しく楽しませ、シャキシャキとした食感を絶妙に残した玉ねぎの旨味と程よい辛味に、ケチャップのまろやかな酸味が実によく絡み合って、感動すら覚える。

普段は肉ばかりを好む晴道ですら「野菜ってこんなに美味かったのか」と、その野菜の奥深い美味さにも心からほっこりとする。


そして、これだけ極上の肉料理があれば、当然のように主食のご飯が猛烈な勢いで進むという事で、晴道は茶碗に盛られた小豆ご飯を大きく一口食べてみた。

すると、ふっくらと炊き上げられた小豆ご飯はそれ単体であっても米の甘みと小豆の香ばしさが際立って実に美味しく、ジューシーなステーキと一緒に口の中で合わせて食べてみると、お互いの良さを何倍にも引き立て合う絶妙な相性を感じる。


晴道はあまりの美味さに我を忘れ、狂ったように箸を動かしながら叫んだ。

「これ、どれもめちゃくちゃ美味えぞ!何だこれ、こんなに美味い飯を食わされて常連にならねえ方が絶対におかしいぜ!そりゃ一度でも来たら、病みつきにもなるってもんだよ!」


晴道が最高の笑顔で絶賛しながら次々と料理を胃袋に収めていくと、隣の綱江も大好物の小豆ご飯を口に運んでほっぺたを落としそうなほどに、ほっこりとした笑顔で深く同意した。

「うんうん、その言葉にはウチも完全同意するよ。ほんまに、ここはお肉もご飯もお野菜も、全部が心の底から美味しいよね!」


その二人の賑やかで幸せそうなやり取りを傍らで見つめながら、才狐もまた、自分の中ステーキ膳を綺麗に一切れずつ味わい、その無表情でありながらも、どこか全身からほっこりとした温かい優しい雰囲気を醸し出していた。

「うん、美味しくて栄養も満点やし、僕らの毎日の厳しい鍛練の後に食べるご飯としても、疲労回復に凄く良いよね」


晴道は今自分がいる場所が、ついさっきまで怯えていた怪異御用達の摩訶不思議な店であることも、そして今食べている最高の料理を作ってくれたのが人間ならざる怪異の手によるものであるという事実すらも、そのあまりの美味しさの前にすっかり綺麗に忘れてしまい、人生の大好物であるステーキ膳の至高の味わいを、心ゆくまで思う存分堪能していくのだった。


---


###〜至高の小豆コンビの豆餅と、静かに開かれた驚愕の扉〜


口いっぱいに広がる極上の肉汁を惜しむように何度も噛み締め、晴道が最後の一切れのステーキも綺麗に食べ終わると、まるで精密に計算されていたかのように全く同じくらいの絶妙なタイミングで、隣に座る才狐と綱江の二人も綺麗に料理を食べ終えた。

満足感に満ちた心地よい沈黙の中、才狐と綱江の二人は器の上に箸を美しく揃えて置くと、スッと背筋を伸ばして姿勢を正し、神聖な神職の作法をもって一拝一拍手を厳かに打ち鳴らす。

その流れるような美しい所作を間近で見た晴道も、今度は慌てることなく自然とその動きに習うようにして静かに胸の前で両手を合わせた。


そして、カウンターに漂うステーキの余韻を清めるかのように、才狐と綱江と晴道が声を揃え、合掌しながら「朝よひに、物くふごとに、豊受の、神のめぐみを、思へ世の人」と、大いなる実りの神への感謝を込めた伝統的な食後の祝詞を店内に響かせる。

祝詞の清らかな言霊が優しく木造の壁に染み込んでいくのを感じながら、最後にもう一度だけ深く一拝を捧げ、息を合わせて「「「御馳走様でした」」」と三人で声を揃えて称えた。


厳かな食後の儀式を終えた綱江が、晴道のその素直な様子を見て、フワッと嬉しそうな微笑みを浮かべた。

「ふふ、さっきの食前のお祈りの時はちょっと慌ててはったけれど、阿倍野君も今回は、食後の言葉を私らと一緒に綺麗に称えてくれたね」


綱江から少し褒められた晴道は、照れ隠しをするように頭の後ろをポリポリと掻きながら、自慢の白い歯を見せて豪快に笑った。

「ヘへッ、食う前はさ、目の前に並んだステーキがあまりに美味そうだったから、本能的に食欲が勝って前のめりになっちまっただけだよ。だって、あの猫子さん達が作ってくれた肉、お盆の上に乗って出てきた瞬間から、見た目からしてめちゃくちゃ美味そうだったんだもん。こればっかりは我慢できねえって!」


晴道が美味そうに肉の思い出を語って笑っていると、厨房の奥からトトトッと足音を響かせてえらいこっちゃ嬢と猫子さんの二人がやって来て、カウンターの上に置かれた三人の食べ終わった空の皿を手際よく綺麗に片付けてくれた。

その人間と怪異が共生する温かい給仕に対して、才狐も綱江も、そして晴道も自然と声を合わせて「「「有難う」」」と、心のこもったお礼を優しく言う。


器が片付けられてすっきりとした木製のカウンターへ、今度はえらいこっちゃ嬢が再び厨房からやって来た。

えらいこっちゃ嬢は、三人分の大きな黒豆がこれでもかとぎっしりとした形良く丸められた見事な豆餅と、ほかほかと温かい湯気を立てる濃い緑茶を大きなお盆の上に乗せていて、それぞれの目の前へと丁寧に置いていく。

極上の甘味の登場に対し、三人は再び笑顔を見せ合って「「「有難う」」」と、声を揃えて気持ちよくお礼を言う。


「おっ、まさかあんなに美味いステーキをたらふく食った後に、こんな最高なお茶請けのデザートまで用意されてるなんて、この食堂はマジで最高だぜ!」

晴道は嬉しそうに声を弾ませると、早速目の前の温かい緑茶を一口すすってから、黒豆がぎっしりと詰まった豆餅を大きな口で豪快に食べてみた。


モグモグ、モチィ。


前歯を押し返すようなもっちりとした最高に柔らかい餅の皮の食感と、そこに絶妙な塩加減で埋め込まれた大粒の黒豆の香ばしい歯ごたえが実によく合い、さらに食べ進めると中から溢れ出てくる上品な甘さの漉し餡も決して甘過ぎず、お互いの素材の良さを何倍にも引き立て合っていた。

その想像を絶する和菓子の優しく深い味わいに、晴道の精悍な顔立ちから全ての険しさが完全に消え去り、思わず「ほっこり」とした幸せそうな極上の笑顔が自然とこぼれ落ちてしまう。


「なんだこの豆大福は!こんなにめちゃくちゃ美味い豆大福、冗談抜きで、俺は生まれて初めて食ったぞ!実を言うとさ、俺は東京にいる頃からずっと、生クリームとかの洋菓子派だったんだけど、今夜を境に本格的な和菓子派に完全に乗り換えても良いかもな!」


晴道がそのあまりの味の深さに激しく感動している横で、大の和菓子好きである綱江も、自身の豆餅を大切そうに味わいながらほっこりとした満面の笑顔で楽しそうに言葉を重ねた。

「うん、本当に美味しいね。餅の柔らかさも餡子の甘さも絶妙で、確かに『凄く美味しい』なんてありきたりな言葉じゃ全然足りないくらい美味しい」


三人が至福の和菓子の時間を心ゆくまで楽しむ中、お茶を静かにすすっていた才狐が、ふとその豆餅の圧倒的な小豆の質の高さに、何かを察したように目を細めた。

「これだけ小豆の風味とコクが完璧に引き出されているっていうことは……もしかしてこの豆餅って、小豆洗いさんと、小豆婆さんの二人が作った特製の豆餅かな?」


才狐がその無表情のまま淡々と鋭い考察を口にすると、横で割烹着の裾を揺らしていたえらいこっちゃ嬢が、待ってましたとばかりにそのまんまるな目を輝かせた。

少女は自らの細い両腕を上下左右へとぶんぶん振り回しながら、嬉しそうに大声を張り上げる。

「才狐あんちゃん、大正解!えらいやっちゃな最高小豆コンビの二人が真心を込めて作ったこの豆餅は、えらいこっちゃな最高の逸品!」


えらいこっちゃ嬢の元気な太鼓判を聞き、晴道は「へえ、やっぱり特別な奴らが作って……」と呟きながら、自分の分の豆餅を全て綺麗に食べ終わり、喉を潤そうと温かい緑茶の入った湯呑みを手に取ってお茶を飲もうとしていた、まさにその瞬間。

晴道の脳の思考回路に、先ほど才狐が口にした「小豆洗い」と「小豆婆」という妖怪達の名称が時間差で完全に結びついた。


「そっか、小豆洗いと小豆婆の……って、え?」


晴道はお茶を口に含む直前の姿勢のまま、その動きがピタッと石のように完全に止まってしまった。

「え?いや、待てよ、小豆洗いって、あの川でショキショキ音を立てて人を脅かす妖怪だろ?料理コックの猫とカエルだけじゃなくて、デザートの餅まで本物の物の怪が作ってんのかよ!」


晴道が猛烈なツッコミを入れようとした、まさにその刹那。


ガラガラガラッ――。


夜の静寂に包まれた摩訶不思議食堂の正面の木製の扉が、何の前触れもなく突然として大きな音を立てて勢いよく開く音が店内に重々しく響き渡った。

楽しげだったカウンターの空気が一瞬にして張り詰め、ただならぬ新客の到来を察知した才狐と綱江、そして晴道の三人の高校生術師達は弾かれたように、同時にその扉のある方向へと一斉に視線を向る。


そして、開かれた扉の向こう側から、夜闇を背景にして店内の温かい明かりの中にゆっくりと足を踏み出してきた「ある存在」の姿をその目の中に正確に捉えた瞬間、晴道は持っていた湯呑みを落としそうになるほどに、その両目をこれ以上ないほど限界まで限界まで大きく見開いて驚愕するのだった。


---


###〜暖簾をくぐった金髪の超絶美少女と、戦闘狂の不敵な口説き文句〜


ガラガラガラと木製の引き戸が静かに開き、夜の心地よい風と共に店内に滑り込んできたその人物の姿を捉えた瞬間、晴道は驚きのあまりに持っていた湯呑みを凝視したまま文字通り目を見開いた。


灯火に照らされて現れたのは、現世の常識を遥かに超越した、人であるのか、それとも人ならざる怪異であるのかさえ一瞬では判別がつかないほどの圧倒的な存在感を放つ超絶美少女であった。

そのあまりにも現実離れした完璧な美貌と輝くようなオーラを前にして、それまで料理に興奮冷めやらぬ様子だった晴道の心は、一瞬にしてそのすべてを完全に奪い去られてしまう。


呆然とする晴道のすぐ横で、それまで割烹着を揺らして佇んでいたえらいこっちゃ嬢が、そのまんまるな目をパチクリとさせて嬉しそうにその小さな両腕を上下左右へとぶんぶんと激しく振り始めた。

無表情な顔立ち自体に大きな変化はないものの、その全身から溢れ出る雰囲気は明らかに大好きな姉を歓迎する妹そのものの喜びを醸し出している。

「女鬼ねえちゃん、いらっしゃいの御疲れちゃん!今夜もえらいこっちゃな賑やかな会食、みんなで美味しいステーキ膳も小豆のデザートも綺麗に完食したところ!」


えらいこっちゃ嬢の歓迎の声に合わせるようにして、カウンター席に並んで座っていた才狐と綱江の二人も、至極当然といった様子で座席から綺麗に腰を浮かせた。

二人は息をぴったりと合わせるようにして丁寧にお辞儀をしながら、親しみを込めて声を揃える。

「「女鬼さん、今晩は」」


畏るべき大妖怪に対しても、いつも通りの礼儀を崩さない二人のその極めて自然な様子を見て、ようやく我に返った晴道は、信じられないものを見るかのように視線を走らせた。

「え……?おい、才狐に綱江、まさかこのめっちゃ可愛い子も、お前らの連れなのか?」


晴道は尋ねながらも、自分の視線をどうしても目の前の少女から外すことができず、店に入ってきた女鬼の姿を頭のてっぺんから足の先までまじまじと穴があくほどに見つめ直した。


その姿は、神秘的な輝きを放つ美しい金色の瞳に、頭部からは現世のいかなる造形物よりも鋭く妖しい輝きを放つ黒い二本の鎌状の角が左右に堂々と生え出ている。

波打つような金色の長い髪は、上質なシュシュを使って左側の高い位置でサイドテール上に美しく束ねられており、その全体の雰囲気は現代の最先端をいく洗練されたギャルという風貌そのものであった。

それでいて、その若々しい肉体には、黒を基調とし、鮮やかな金色の花の刺繍が随所にあしらわれた極上の美しい着物を、一分の乱れもなく完璧に着こなしている。


女子高生くらいの年頃にしか見えない若い金髪の超絶美少女は、周囲の空気を一瞬で華やかに変えるような陽気な眩しい笑顔を浮かべながら、一歩一歩と店の奥に向かって入ってきた。

そのギャルのような派手な風貌でありながら、一挙手一投足に現れる所作は信じられないほどに洗練されており、床の上を滑るように歩くその姿さえも、息を呑むほどに美しい。


女鬼はカウンター席にいる面々を見渡すと、その美しい金色の瞳をいたずらっぽく細めてパチッとウインクしてみせた。

「おつー♪みんな、今夜の美味しい晩御飯は、心ゆくまで楽しめたみたいだね♪」


女鬼がそう言って白い手をひらひらと軽快に振ると、その直撃を受けた晴道の心臓は、ドクンと大きな音を立てて思わず激しくドキリと跳ね上がる。


強烈な一目惚れの衝撃に突き動かされた晴道は、すぐさまその端正な顔立ちに満面の笑顔を浮かべ、男として最高の格好をつけながら大声で挨拶を返した。

「お、おう!めちゃくちゃ可愛い女の子がやってきたな!俺は東京から来た阿倍野晴道だ!ええっと、さっき、えらいこっちゃんから女鬼ちゃんって呼ばれてたな、これから宜しくな女鬼ちゃん!頭につけてるその黒い角カチューシャ、本物の鬼みたいでめちゃくちゃリアルで可愛いぜ!」


晴道が鼻息を荒くして褒めちぎると、女鬼はクススクと楽しそうに鈴の鳴るような声を響かせながら、そのまま滑らかな足取りでカウンター席のすぐ近くまでやって来た。

「あはは、はい宜しくねー♪あーしの名前をすぐに覚えてくれてありがと♪だけど晴道君、これってカチューシャなんかじゃなくて、正真正銘のモノホンの角だかんね?あーしはこれでも本物の鬼だし♪」


女鬼が茶目っ気たっぷりに笑うと、晴道は鬼という言葉をただのギャルのジョークだと完全に思い込み、さらに調子に乗って手招きをした。


「あはは、そっかそっか!本物の鬼ね!似合ってる似合ってる、その設定も最高にノリが良くて可愛いじゃねえか!あ、もし良かったら俺の隣の席がちょうど誰もいなくて綺麗に空いてるぜ?ここに座ってゆっくり話そうや!」

晴道が下心を隠そうともせずに隣の椅子をポンポンと叩いて勧めると、女鬼はその金色の瞳を一層楽しげに輝かせる。


「そんじゃ、せっかくのお誘いだし、遠慮なくお隣失礼しちゃおうかな♪」

女鬼はそう言うなり、着物の裾を全く乱すことのない流れるような美しい所作で、晴道のすぐ隣の座席へと静かに腰を下ろした。


隣から漂う高貴な花の香りに鼻の下を伸ばしながら、晴道は身を乗り出すようにして、女鬼の頭部にある黒い角をさらにまじまじと観察し始めた。

「おう、いらっしゃい!それにしても、近くで見れば見るほど本当に可愛いし、それによくできた角カチューシャだよな。ハロウィンの時期の渋谷とかでも色んな仮装の奴を見かけるけど、それってどっかの専門店で売ってる既製品なのか?それとも自分で素材からこだわって作った完全な自作のコスプレ道具?」


晴道がどこまでも人間扱いして質問を重ねると、女鬼は頬杖をつきながら、困ったような笑顔を浮かべて首をかしげた。

「うーん、晴道君ってさー、もしかしてあーしの事、マジモンの鬼だってどうしても認めたくないんかねー?」


「いやいや、だってそうだろうが!古今東西の伝承に出てくる恐ろしい鬼が、こんなに隣にいてドキドキするくらい可愛いわけねえじゃん!ほら、本物の妖怪の鬼って言ったら、眼が顔の真ん中に一つしかなくてギロギロ光ってたり、かと思えば顔中や体中に3つとか、それこそ百個くらい気味の悪い目がびっしり生え出ている奴もいるだろ?もしくは、さっき神泉苑の鳥居のところで俺をノックアウトしやがった、あの紅葉とか朱雀門の鬼達みたいに、やたらと体がでかくて筋肉モリモリの厳つい大男とかだろうし。それに比べて、女鬼ちゃんはこんなに華奢で小柄だし、どこを探したって恐ろしい鬼の要素なんてこれっぽっちもねえだろうが。あ、女鬼ちゃんって見た感じ俺達と丁度同い年ぐらいだよな?普段はどこの高校に通ってんの?」

晴道は自身のオカルト知識を自信満々に披露しながら、完全に女鬼を現世の女子高生として扱い、怒涛の勢いで口説き始めた。


その晴道のあまりにも必死で的外れなナンパの様子を見て、女鬼は思わず吹き出すようにして楽しそうに笑う。

「あは♪体中に目がたくさんあるって、晴道君の想像する鬼のイメージって百々目鬼(どどめき)さんなんだ♪確かにあのインパクトは凄まじいもんね。ほら、綱江ちゃん、鬼の専門家なんだから、あーしの代わりにその辺の正しい鬼の知識を、この戦闘狂の男の子に優しく教えてあげたら?」


女鬼から突然話を振られた綱江は、隣の席で繰り広げられている同級生のあまりにも恥ずかしすぎるナンパ行為に対し、深い深い溜息をハァと一つ吐き出した。

「まあ、阿倍野君の言う通り、百々目鬼や百目鬼と呼ばれる怪異については、古い日本の鬼図鑑とか関連図書を開けば挿絵付きで事細かにその姿が記載されてはいるし、怪異の世界を知らん一般の人が、そういうおどろおどろしいイメージを強く持ってしまうのはわからんでもないけど……」


「ほら見ろ、綱江だってこう言ってるじゃん。女鬼ちゃんは目は綺麗に二つだし、小柄で最高に可愛い、つまり本物の鬼なんかじゃなくて超が付く美少女ってことだよ。そんな可愛い女鬼ちゃんは、いずれ物の怪神社歴代最高の祓術師になる、この俺の隣にいるのが一番お似合いで相応しいんだよ、がっはっは!」

晴道は綱江の呆れ顔の意図を完全に履き違えたまま、自慢の胸を叩いて豪快に大声を上げて笑い飛ばす。


そのあまりにも自信に満ちあふれた、しかし完全に世界の真実から取り残されている哀れな戦闘狂の様子を、周囲の面々はそれぞれの表情で静かに見守っていた。

才狐とえらいこっちゃ嬢の二人は、まるでお地蔵さんのように一ミリも表情を変えない完全な無表情のままその暴走をじっと見つめており、綱江はこれ以上ないほどに冷ややかなジト目を晴道に向けて軽蔑の視線を送っている。


当の女鬼は、自分の正体を頑なに認めようとしない晴道の不器用なアプローチをただただ楽しげに面白がりながらクスクスと笑っており、カウンターの奥からは地蔵店長が、そんな若者達の賑やかで微笑ましい光景を、どこまでも優しいお地蔵さん笑顔を浮かべながら温かく見守っているのだった。


---


###〜すれ違う十代の恋愛模様と、静かに立ち上がる鬼の真実〜


晴道が隣に座る容姿端麗な女鬼に対してこれでもかと熱烈にアプローチを重ね、不器用ながらも必死に口説いていると、カウンターの端でそれを見ていたえらいこっちゃ嬢が、呆れたようにそのまんまるな目を細めた。

「初対面で会ったばかりやのに、いきなり女鬼ねえちゃんのことを全力で口説いとる、えらいこっちゃ」

えらいこっちゃ嬢は作務衣の袖をパタパタと揺らしながら台形の口を開いて、店内に響き渡るような明瞭な声音で言い放つ。


えらいこっちゃ嬢からの直截的な実況を受け、口説かれている当人である女鬼は不快がる風でもなく、その美しい金色の瞳をキラキラと輝かせて楽しそうに笑う。

「あはは♪あーしって今、晴道君からマジで口説かれてんだ♪なんだか新鮮でウケるかも♪」


美少女からポジティブな反応を貰って晴道がますます鼻の下を伸ばしかけたその瞬間、えらいこっちゃ嬢からの容赦のない追撃の言葉が、びしっと晴道の背中に突き刺さった。

「ついさっきまで綱江ねえちゃんにお熱やったのに、もう別の綺麗なおねえやんに鞍替えしよった、えらいこっちゃな節操無し」


「な、おい!人聞きの悪い事を言うんじゃねえよ!俺はな、才狐と綱江の関係については影ながら全力で応援するって心から決めたんだよ!だからこれは鞍替えじゃねえし、もちろん浮気でも不誠実でもねえからな!ってかさ、なんで今日が初対面のはずのえらいこっちゃが、俺が綱江の事好きだったって事をそんな詳細に知ってんだよ!?」

晴道は自分の過去の失恋をバラされたかのように、顔を真っ赤にしてムキになりながら激しく弁明した。


そんな晴道の必死な様子を傍らで見ていた女鬼は、長い綺麗な指先で顎を突きながら、不思議そうに首をかしげた。

「好きだったって過去形にしてるけどさー、今も綱江ちゃんのことが好きなんじゃないの?」


女鬼からの鋭い質問に対し、晴道はすぐにワイルドな笑顔を取り繕うと、隣の女鬼を真っ直ぐに見つめて言い切った。

「そりゃあ、今だって綱江のことは女子として可愛いと思ってるのは変わらねえけどよ、才狐の大事な彼女を横から強引に奪ったりするような無作法な真似はしねえって。今の俺は目の前にいる女鬼ちゃん一筋だからな!」


晴道がこれでもかと豪快に笑いながら愛の告白まがいの言葉を口にすると、その言葉を一番近くで聞いていた綱江は、心底嫌そうな表情を隠そうともせずに、これ以上ないほどの冷ややかなジト目で晴道を睨みつけた。

「うわぁ……。今度は女鬼さんのことを自分の花嫁候補としてターゲッティングしてるし。そりゃあね、女鬼さんは誰が見たって凄く可愛いし最高に美人やけど、だからって出会ったばかりの女の子にその態度はなあ……。それに、何度も言ってるけど、私はまだ才狐君の彼女やないってば」


綱江が少し恥ずかしそうに否定の声を上げたその時、それまで静かにお茶を飲んでいた才狐が、その無表情のまま淡々としたト重重しいトーンで、言葉を真っ直ぐに告げた。

「綱江さんは僕のものやないよ。綱江さんが僕の所有物やなんて、そんな傲慢な事は、僕は絶対にせえへんから」


「あ……。ああ、えっと、才狐君。阿倍野君が今ここで言うてる彼女っていうのんは、そういう男の所有物っていう意味やないんやけど……。でも、いかにも才狐君らしい、どこまでも生真面目な返しやね」

綱江は才狐のそのあまりにも純粋で、しかし男女の恋愛感情から一歩引いたような理路整然とした回答を耳にして、何とも言えない複雑なモヤモヤとした感情を胸の内に抱きながら、困ったように頭を抱えてしまう。


そんな若い二人のどこか噛み合わないやり取りを見ていた女鬼は、その美しい金色の瞳をさらに細めて、からかうように楽しげに笑った。

「あはは♪でもさ、才狐君にとって、綱江ちゃんが他の誰よりも特別で、大事な女の子であることには変わりないよね♪」


女鬼が核心を突くように尋ねると、才狐は一切の躊躇をすることなく、その平坦な聲音のまま真っ直ぐに言葉を返した。

「はい。同じ志を持って調和を守る、本当に大切な人です」


才狐が無表情のまま堂々とそう語ると、綱江の顔は一瞬にして耳の裏まで真っ赤に染まる。

「わ、わかってる、わかってるよ!才狐君はどこまでも真面目で、私に対して一切の邪な下心が無いからこそ、こういう100点満点の真っ直ぐな言い方になるのは、頭では全部わかってるけど……!」

綱江は才狐のその下心のなさに嬉しさを感じつつも、異性としての進展がなかなか見えない現状に対して、やっぱり心の中で激しくモヤモヤと悶えながら頭を抱えて悶絶してしまう。


その綱江の可愛らしい乙女心の苦悩を間近で観察していた女鬼は、自身のサイドテールを軽く揺らしながら、パチッとウインクをして優しくエールを送る。

「あはは♪ここは綱江ちゃんの女の魅せ所だね、あーしも二人のことを応援してるから頑張りなよ♪」


「……うん、私、これくらいじゃ絶対にめげへんもん!」

綱江はそう言って、フンスと気合を込めて鼻息を鳴らすと、両拳を胸の前で力強く握りしめて自らを奮い立たせたが、当の才狐は「?」と、その横で首をかしげて相変わらず彼女の心の動きを全く分かっていない様子であった。


そんな恋愛模様を特等席で見ていた晴道は、一人で深く満足したように大きく頷く。

「まあ、何はともあれ、なんだ。これでこの場にめでたく二組のカップルが誕生したってわけだ。今度の日曜日にでも、みんなで揃って楽しいダブルデートにでも繰り出そうぜ!」


晴道が一人で盛り上がって豪快に大笑いすると、綱江は呆れ果てた溜息を深く吐き出した。

「いつの間に女鬼さんが阿倍野君の彼女になってしもてるんよ。勝手に話を進めんといて」


すると、それまで笑顔で話を聞いていた女鬼が、少しだけその艶やかな声をトーンダウンさせ、どこか意味深な響きを帯びた言葉を口にした。

「あはは、そこまで真っ直ぐにあーしのことを好いてはくれてるってのは、言葉の端々からしっかり伝わってくるね。でもさー、晴道君……」


女鬼はそこまで言うと、カウンターの上で自身の綺麗な金色の瞳を妖しく細め、晴道の顔をじっと見つめた。

そして、夜の静寂を切り裂くかのように、決定的な一言を冷徹に言い放つ。

「あーしってさ、そもそも晴道君の一族の立場、そして何より晴道君からしたら、本来なら見つけ次第すぐに退治するべき対象じゃね?」


「え?いや、だからさっきから言ってるじゃん、女鬼ちゃんはそんな恐ろしい化け物なんかじゃなくて……」

晴道は未だに彼女のことを現世の普通の女子高生だと信じて疑わず、笑顔で言葉を返そうとした。


だが女鬼は、その晴道の言葉を遮るようにして、静かに首を横に振る。

「うーん。口でどれだけ説明しても、晴道君ってば全然あーしの言うことを信じてくれないみたいだし。やっぱ、身体で直接その真実を実感して貰った方が、お互いにとって手っ取り早いかな」


女鬼はそう言うなり、黒い美しい着物の裾を静かに揺らしながら、カウンター席からスッと音もなく立ち上がった。

その瞬間、晴道は何が始まるのだろうかとただただ不思議そうに首をかしげるだけだったが、その横に座っていた綱江の背中には、一瞬にして凍りつくような凄まじい戦慄が走り抜ける。


(嘘……、女鬼さんが本気で動くの!?)


綱江は、晴道があまりにも世界の真実に対して聞き分けが無く、独善的な態度を崩さないことに業を煮やした女鬼が、この神聖な摩訶不思議食堂の中で、今から彼を完全に分からせるための恐ろしい戦闘になるような行動を仕掛けるのではないかと予感し、恐怖でその身体を激しく強張らせるのだった。


---


###〜金色の瞳が示す絶対の断絶と、戦闘狂が平伏せし地獄極楽の頂点〜


カウンターの座席から静かに立ち上がった女鬼は、まるで重力を感じさせないような流れるように美しい足取りでゆっくりと移動し、才狐や綱江、そして晴道の三人から少し離れた店内の開けた位置へと進み、そこに凛として佇む。

その一挙手一投足から目が離せない晴道は、彼女のあまりにも洗練された美しい身のこなしを目の当たりにして、恐怖を覚えるどころか顔をますます緩ませていた。


「お、なんだなんだ?俺のためにわざわざ、本格的な伝統の舞でもここで披露してくれるのかな?」

晴道はこれから始まるであろう極上のアトラクションに対して、胸の鼓動を激しく躍らせながらワクワクと期待に胸を膨らませていた。


しかし、次の瞬間。


凛として佇んでいた女鬼の金色の瞳が、夜の帳を完全に消し飛ばすかのように眩く強烈な光を放ち、その華奢に見える肉体の奥底から、この世のあらゆる生命の存在を根底から否定するような凄まじい暗黒のオーラがドッと地鳴りを立てて立ち上った。

そのあまりにも絶対的な次元の異なる霊圧の奔流の直撃を受け、カウンターに座っていた三人は魂を直接鎖で縛り付けられたかのような凄まじい衝撃を覚え、指の先はおろか眼球一つ動かすことすら叶わず、完全にその場で身動きが取れなくなってしまう。


だが、女鬼は晴道達を傷つけるつもりなど毛頭なく、彼女にとってはほんのわずかな、爪の先ほどにも満たないオーラを一瞬だけ世界に見せたに過ぎなかった。

刹那の間に三人を絶望の淵へと叩き落とした恐るべき瞳の金色の光は、すうっと元の美しい色彩へと戻り、店内を満たしていた地獄の底のようなオーラも何事もなかったかのように一瞬で霧散し、女鬼の口元にはすぐに、フッといつも通りの優しい微笑みを柔らかく浮かべた。


この摩訶不思議食堂で顔を合わせれば、いつも朗らかなギャルのノリで優しく自分達を迎えてくれて、時には歴史や大切なルールをいろいろと丁寧に教えてくれる優しい女鬼が、今まさにその身から解き放った絶対的な鬼の威圧。

それは、京都の地で怪異達と深く関わってきた才狐と綱江の二人にとっても、これまでの人生の中で一度たりとも見たことがない、本物の鬼という種の頂点が見せる真の恐るべき姿の鱗片であった。


一方の晴道に至っては、たった一瞬浴びせられただけの霊圧の残響だけで、脳の三半規管が完全に麻痺してしまい、座っていたカウンターの椅子から床へと無様にずり落ちそうになりながら、肉体の全ての筋肉が恐怖で完全に硬直してしまい、全く動く事が出来なかった。


これまでの晴道は、それがどれほど強力な鬼であろうが、あるいは未知の凶悪な怪異であろうが、物の怪の姿を認識した瞬間、即座に懐に手を伸ばして一撃必殺の呪符を指に挟み、限界まで鍛え上げた強靭な肉体をもって、実戦空手の鋭い構えを見せて闘いに身を投じて来たはずだった。

しかし、この時ばかりは、脳からの命令が神経を一切通らず指一本動かすことが出来ずに、現世の人間がどれほど足掻こうが逆立ちしようが、絶対に到達することすら不可能な、遥かなる高みの存在である本物の鬼、まさに鬼の中の鬼の真髄を間近でまざまざと目の当たりにして、ただただ魂の底から圧倒され、恐怖のあまりに硬直するしかなかった。


すると、静まり返った店内の中で、それまでずっと無表情のまま状況を見守っていたえらいこっちゃ嬢が、割烹着の袖をパタパタと大きく揺らしながら、その台形の口から抑揚のない声を堂々と響かせた。

「地獄の閻魔大王も地獄極楽のお偉いさん達も全員が揃って絶対に頭が上がらん、見事な細マッチョで喧嘩の強さも地獄極楽一の超エリート鬼!どんな任務も完璧にこなす超絶シゴデキ鬼のギャル美少女!舐めてかかると、えらいこっちゃ!」


えらいこっちゃんの、あまりにも規格外すぎる肩書きの説明を耳にして、晴道は喉の奥からヒッ、と小さく引きつった音を漏らしながら、ごくりと乾いた息をのみ込んで、ただただ圧倒される。


横に座る綱江も、その圧倒的な存在感から解放されて激しく乱れた呼吸を必死に整えながら、震える声を絞り出すようにして、やっとの思いで声を外に出すことができた。

「ほ、細マッチョって……。それに、今の凄まじい力の波動が、挨拶代わりすらならへん、ほんのわずかな一部やなんて、信じられへんわ……」


綱江が驚愕の声を漏らすと、女鬼は照れくさそうに頭の後ろを掻きながら、いつもの陽気なギャルらしい声を響かせた。

「あはは、ありがと、えらいこっちゃん♪でも、マッチョ加減についてはそんな大袈裟に紹介しなくてもよくない?あーしの筋肉なんて可愛いもんよ。羅生門さんとか紅葉さんとかの方が、よっぽど筋肉凄いっしょ?」


女鬼はそう言って、黒い美しい着物の袖をスッと少しだけ上の方へと腕まくりしてみせると。

その細いと思っていた腕が露わになった瞬間、三人の目には、先ほど神泉苑の境内で伝説の鬼女紅葉が『女鬼ちゃんには遠く及ばぬ』と言っていたあの言葉の響きが、一ミリの誇張もない完全なる真実であったということが、その肉体を通じて骨の髄まで理解させられることとなった。

着物の袖から覗くその腕には、無駄な脂肪など文字通り一切存在せず、あらゆる対象をただ一撃で跡形もなく完全に消滅させることに特化したと言っても過言ではない、芸術的とさえ言えるほどに美しく、強靭に引き締まった見事な筋肉の繊維が綺麗に観えたのである。


その究極なまでに戦いのための筋肉美を間近で観た才狐が瞳を大きく見開き、無表情でありながらも全身に最大限の畏怖の念を込めた声を静かに絞り出した。

「凄い……。これほどまでに完璧に無駄が削ぎ落とされた肉体と妖気の調和、僕は今までの人生で一度も見たことがあらへん……」


鬼としての圧倒的な力の証明を終えた女鬼は、まくっていた袖を元通りに直すと、少し申し訳なさそうな表情をその超絶美貌に浮かべた。

「あはは、みんな、びっくりさせて本当にごめんね、怖がらせちゃったよね。まあでも、晴道君みたいに妖気や霊気を肌で直接感じ取れるタイプの術者相手だと、あーしの言葉を信じてもらうには、こうやってオーラを見せるのが一番手っ取り早いし♪」


女鬼はフッといつもの優しい笑みを浮かべると、着物の裾を綺麗に揃え、最高級の貴族の礼儀作法すら凌駕するほどの美しい所作で、カウンターの三人に向かって恭しく丁寧に頭を下げて一礼してみせる。


最早、その美しすぎる一礼の姿を前にして、プライドを完全に粉砕された晴道は、喉の奥が完全に張り付いてしまって声の一つも出すことができず、小指の一本、髪の毛の一筋すらも微塵も動かなくなったまま座席でただ硬直していた。

自分が先ほどまで調子に乗って馴れ馴れしく口説き散らしていた金髪の超絶美少女が、自分が並び立つ事なんておこがましいとも言える、世界の天辺に君臨する絶対的な超越存在だという事実を、晴道はその身を以て骨の髄まで完全に思い知らされるのだった。


---


###〜鬼の静かなる問い詰めと、剥がされる戦闘狂のプライド〜


圧倒的な存在感を見せつけた女鬼が、着物の裾を滑らかに整えながら何事もなかったかのようにカウンターの晴道の隣の席へと静かに座り直すと、周囲の凍りついていた霊気もすうっと現世の平穏を取り戻していった。

魂の根底から圧倒され、床へずり落ちそうになっていた晴道も、脂汗を拭いながらガタガタと震える膝に力を込め、ようやくの思いで何とか自分の椅子へと座り直すことができた。


そんな満身創痍の少年を金色の瞳で見つめながら、女鬼は頬杖をつき、どこか楽しげな聲音を響かせる。

「そんでさー、これでようやく、あーしが現世のコスプレイヤーじゃなくってモノホンの鬼だって事がしっかりわかったわけだけど。これからどうする?晴道君は、あーしに向かって自慢の破邪の御札を貼り付けたりはしないん?」


ついさっきまで大口を叩いていた晴道は、隣から漂う圧倒的な無言の圧力に顔を引きつらせながら、喉の奥からやっとの思いで掠れた声を絞り出した。

「そ、そんな事……この至近距離で出来るわけねえだろ……。そもそもさ、俺の今の実力じゃ、女鬼ちゃんにはそんな御札なんか絶対に効かねえだろ?」


晴道が己の無力さを認めて弱々しく答えると、女鬼は「やっぱりね」といった様子でフフッと笑った。

「まあねー。あーしに対する調伏の術式なんて、現世の並の術者が何百人で囲んで掛かってきても意味ないし。っていうか、そのレベルの力だったら、さっき戦った紅葉さんに対しても、その御札って全く効果無かったんじゃね?」


女鬼に戦いの経過を正確に見抜かれ、晴道は恥ずかしそうに視線を泳がせながら、小さな声で白状した。

「……ああ、その通りだよ。身体に届く前に、どういうわけか俺の放った呪符が跡形もなく粉々に千切れ飛んじまったよ」


「だろうねー。紅葉さんってば見た目は凄く綺麗だけど、怒らせるとマジでめちゃくちゃ怖いし、物凄く強い鬼だもん」


女鬼が当然の結果だと笑うと、晴道はゴクリと喉を鳴らし、未だに信じられないといった様子で隣の美少女を見つめた。


「いや、その紅葉……さんが、自分なんか足元にも及ばないって恐れてた女鬼ちゃんは、一体どれだけ底無しに強えんだよ。えらいこっちゃんが地獄極楽一で一番強え鬼だって言ってたけど、俺の想像力の限界を超えてて、最早これっぽっちも想像がつかねえよ」


晴道が完全に怯えきっているのを確認すると、女鬼は口元を三日月のようにフッと歪めて意地悪く笑った。

「そんじゃあさ、晴道君はこれから、あーしに対して絶対に喧嘩を売ったり危ない御札を投げつけたりしないって事でOK?」


「あ、ああ!これから先、天地がひっくり返っても女鬼ちゃんには絶対に喧嘩なんか売らねえから!」


晴道が必死になって首を縦に振ると、女鬼はさらにその金色の瞳を妖しく細めて、逃げ道を塞ぐように問いかけた。


「ふーん。それってさ、あーしが晴道君の阿倍野の家系にとって、本来なら見つけ次第すぐに調伏するべき対象のはずの鬼であっても、本当に見逃してくれるってこと?」


「調伏対象なんかじゃねえから!女鬼ちゃんは可愛い鬼の女の子だから!」


晴道は必死になって両手を大きく左右に振って全力でその事実を否定するが、女鬼の追及の手は一切緩まない。


「だってさー、晴道君にとって、鬼に限らずこの世の怪異とか妖怪、物の怪っていう存在は、出会ったら問答無用で全員倒すべき悪の存在なんだよね?なのに、自分より圧倒的に強い相手だって知った途端、見逃してくれる感じ?じゃあ、紅葉さんはどうすんの?この店を出た後に、リベンジの第2戦をおっぱじめたりしないわけ?」


女鬼が綺麗な首をかしげて核心を突くと、晴道は言葉に詰まって「それは……」と口ごもるしかなかった。

更に女鬼は、その美しい指先でカウンターをトントンと叩きながら、晴道の卑屈な内面を完全に暴き立てるように問い詰める。


「そんでさ、晴道君がいきなり襲い掛かって一方的にいじめてた袖引き君は?神社で平和に過ごしてた唐笠さんとぶらり火さんはどうすんの?」


その聞き覚えのある怪異達の名前に、晴道は「え?」と大きく眼を見開いた。


「相手が自分より圧倒的に強いとわかったら途端に大人しくしておいて、袖引き君みたいに戦闘タイプじゃない無抵抗な怪異に対しては、今後も嬉々としてハンティングを続けるつもりなん?」


女鬼の容赦のない問いかけの連打に対し、晴道は背中に冷たい汗を大量にかきながら、恐る恐る尋ねた。

「……あのさ、もしかして女鬼ちゃんって、あの袖引き小僧のダチだったりするのか?」


「うん。あーしと袖引き君は仲良しのダチだし」


女鬼が短くそう答えた瞬間、晴道は自分の犯した過ちの重大さに気づき、その顔面が段々と青くなっていく。

「……ということは、俺がダチに怪我させて、それで今、めちゃくちゃ怒っていらっしゃる、とか?」


晴道が恐怖で震え始めると、隣に座っていた綱江が、昨日の路地裏での晴道の理不尽な暴挙を思い出して、その両頬をプクッと膨らませて怒り始めた。

「あ、そうやったわ!あの後、阿倍野君がいきなり投げつけた危ない術式のせいで袖引き小僧君が怪我してたのを、才狐君とぶらり火さんが必死になって呪符を剥がしてくれて、丁寧に手当てもしてくれたんやで!本当に怪しからんことするんやから!」


「わ、分かった!俺が悪かったよ!あん時のことは俺が全面的に悪かったから!」

晴道は今すぐここで鬼の制裁が下るのではないかと怯え、胸の前で両手を合わせる合掌のポーズで必死に頭を下げて謝り出し始める。


しかし、その様子を見ていた才狐は、いつも通り無表情のまま、冷淡で淡々とした平坦な声音で現実を突きつけた。

「そんな風に、今ここで僕らに向かって形だけで謝る事やないよ。実際に理不尽に怖くて痛い思いをしたのは、僕らじゃなくて袖引き小僧なんやから。謝る相手が完全に違うよ」


才狐の正論に続くようにして、綱江もまた、少し複雑な表情を浮かべながら言葉を重ねた。

「まあ、私もほんの少し前までは、怪異のすべてを敵やと思い込んでいて、唐笠さんに喧嘩を売ってしもた黒歴史があるから、今の阿倍野君に対して偉そうに叱る資格が無い気がするけど。でも、自分が犯した過ちをちゃんと認めて、今度は唐笠さんとぶらり火さんにも直接会って頭を下げて謝らなあかんと思うで」


「う、うん……。分かった、今度会ったらちゃんと謝るよ……」

綱江からの諭すような言葉を受け、晴道は完全にプライドをへし折られ、カウンターの上で力なくうなだれるしかなかった。


すると、そんな晴道の哀れな様子を見ていたえらいこっちゃ嬢が、割烹着の裾を揺らしながら、容赦のない一言をびしっと言い放った。

「強い相手には手も足も出ずに怯えて、弱い相手にだけ威張り散らす、典型的ないきり雑魚、えらいこっちゃ」


「ちょ、ちょっと待てよ!流石にそれは酷いだろ!俺は絶対に雑魚なんかじゃねえぞ!そりゃあさ、女鬼ちゃんみたいな規格外レベルの鬼には到底及ばねえけどな、術者の中じゃ俺は決して弱くはねえだろ!」


晴道が必死になって自尊心を保とうと反論の声を上げるが、横の綱江からは追い打ちをかけるような呆れた溜息が漏れ出た。


「何言うてるのよ。さっきだって神泉苑で紅葉さんにあっさり返り討ちにあって、地面にうつ伏せにされて椅子代わりに乗っかられてたやんか。それに、自慢の実戦空手のキックだって、唐笠さんにあっさり一本脚の傘キックで止められてたやん」


綱江から過去の敗戦の記録を正確に突きつけられた瞬間、晴道は完全に言葉を失い、自らの頭を両手で激しくかきむしりながら、深くうなだれた。

「そ、それを言うのはマジで勘弁してくれ……。あんな一本脚の唐傘の妖怪に、俺の渾身の空手の技をあっさりと止められたこと、実はあの夜からずっと一人でめちゃくちゃへこんでたんだよ……」


晴道はカウンターの上で完全に小さくなり、怪異達の底知れない実力と己の未熟さを痛感しながら、ただただ静かにうなだれるしかなかった。


---


###〜無明戦闘狂の勘違いと、暴かれる実力差の真実〜


これまでの自信を完全に打ち砕かれ、カウンターの片隅で小さくなって頭を抱えていた晴道が、流石にプライドを完膚なきまでにへし折られたところへ、さらなる冷ややかな追撃が容赦なく浴びせられる事になる。

女鬼の隣に佇んでいたえらいこっちゃ嬢が、そのまん丸な目を晴道に向けたまま、何とも言えないニュアンスを含んだ深い溜息を漏らした。

「えらいこちっちゃー……」


「ちょ、ちょっと待てよ!今のあからさまに呆れ果てたような溜息は一体なんだよ!さっきから聞いてりゃさ、えらいこっちゃんって俺に対してだけやたらと当たりがきつくねえか!?」

晴道は情けない姿のまま、カウンターを軽く叩いて大声で喚き散らした。


そんな晴道の見苦しい抗議を聞いて、隣に腰掛けている女鬼は、その美しい金色の瞳を一層楽しげに細めてクススクと声を立てて笑った。

「あはは♪そうかなあ?今の晴道君ってば、中身が伴ってないせいで完全に残念イケメン君になっちゃってるし、えらいこっちゃちゃんのそれは凄く真っ当な反応だと思うよ?ねー、えらいこっちゃん♪」


女鬼はそう言って、すぐ近くまでやって来たえらいこっちゃ嬢の黒いベレー帽の上から、その小さな頭を優しく撫でてあげる。

すると、えらいこっちゃ嬢は表情自体は一ミリも変えないままであったが、全身から嬉しそうな雰囲気をこれでもかと醸し出しながら、細い両腕を上下左右へとぶんぶんと激しく振って喜びを表現してみせた。


「女鬼ちゃんまでそんな酷えこと言うなよ!残念って何だよ残念って!俺は自慢じゃねえけど、この場にいる三人の中じゃ間違いなく一番強えし、顔だって才狐なんかよりよっぽどイケメンだろうが!」


晴道が自分の容姿と実力へのプライドだけを必死に盾にして叫ぶと、それを聞いた綱江が両頬をぷくーっと膨らませて怒りの表情を露わにする。

「ちょっと阿倍野君!自分が不利になったからって、どさくさに紛れて才狐君のことをディスらんといてよ!」


すると、そんな賑やかな高校生達のやり取りを冷徹に見つめていたえらいこっちゃ嬢から、追い打ちをかけるような決定的な一言がびしっと店内に響き渡る。

「物事の本質が何一つ見えとらん、完全に無明戦闘狂、えらいこっちゃ」

少女はそう言って、またしても深く呆れたような溜息を吐き出した。


「あはは!無明戦闘狂って、どんぴしゃりだねー!相変わらず上手い事言うじゃん、流石はえらいこっちゃん♪」


女鬼が楽しそうに手を叩いて笑うと、晴道は言われた言葉の意味が全く理解できず、その端正な顔立ちを不審そうに歪めて首をかしげた。


「おい、さっきから何なんだよ?その無明戦闘狂ってのは、一体どういう意味だ?」


晴道からの素朴な疑問に対し、女鬼はフッとその笑みを少しだけ引っ込めると、ピっと人差し指を綺麗に立てて晴道の鼻先に向け、術者としての知識を授けるように語りかけた。

「無明っていうのはね、物事の真理や、あるがままの正しき姿、そういう真実に対して無知であったり、都合の悪いものが何も観えてない、あるいは最初から観ようともしてないって事だよ」


女鬼のそのあまりにも本質を突いた冷徹な解説を耳にして、晴道は「え?」と大きく眼を見開いたまま、言葉を失って一瞬だけ完全に固まってしまう。


そんな晴道の様子を見て、女鬼は今度こそ完全に冗談抜きの真面目なトーンに声を切り替えて、静かな問いを投げかけた。

「ねえ、晴道君。自分は才狐君と綱江ちゃんよりも圧倒的に強いって本気で思い込んでるよね?じゃあさ、その絶対的な自信の根拠って一体どこにあんの?」


女鬼から正面から根拠を問われた晴道は、待っていましたとばかりに失いかけていた自信を急激に取り戻したかのように、その広い胸を堂々と張ってみせた。

「そんなの決まってんだろ!この二人だって術が多少は使えるみたいだけど、身体から出てるそういったオーラが圧倒的に弱いって言うかさ。ほら、俺の身体からは霊力とか霊気がビンビンと感じられるだろ?こいつらからも、一応はそういった術者の気配は出てるけどさ、俺の持ってる膨大なエネルギーの量に比べたら、その気配が明らかに何倍も弱えじゃねえか」

晴道は自らの感覚の正しさを確信し、得意満面な笑みを浮かべて言い放つ。


すると、その晴道の自信満々な発言を聞いた瞬間、才狐と綱江の二人は全く同時に「「え?」」とお互いの顔をひどく奇妙なものを見るかのように見合わせる。


「なんだよその反応は?お前らだって、自分の隣にいるこの俺の圧倒的な強さの霊力は肌でビリビリと感じ取ってるんじゃねえのか?あ、もしかして、それすらも正確に感じ取れないくらい、お前らの実力ってのは低いって事なのかよ」


晴道が更に調子に乗って上から目線で言葉を重ねると、隣の女鬼と、厨房の前に立つえらいこっちゃ嬢の二人が、今度こそ完全に救いようのない愚者を見るかのような深い深い溜息を同時にハァとついた。


その二人のあまりにも冷ややかな様子を間近で見て、晴道は流石に自分の直感が外れているのではないかと不安になり、

「え?なんだよその空気は……。俺、なんかそんなに変な事言ったか?」

と、尋ねながら再び不思議そうに首をかしげるしかなかった。


そんな晴道の致命的な無知に対して、えらいこっちゃ嬢は哀れみの視線を隠そうともせず、冷酷な言葉を容赦なく言い放つ。

「己の無知にすら気づいてへんその姿、最早、雑魚の典型まっしぐら、えらいこっちゃ」


「だから!なんで俺の今の極めて真っ当な発言から、俺が雑魚って事になるんだよ!おかしいだろ!」


晴道は訳が分からず、どれだけ頭をひねっても何故自分がここまで周囲から雑魚扱いされるのか、その本当の理由を何一つ理解できずにただただカウンターの上で口をとがらせて憤慨するしかなかった。


---


###〜隠された真実の霊力と、音を立てて崩れ去る戦闘狂の誇り〜


何故自分がここまで雑魚扱いされるのか理解できずに憤慨する晴道に対し、隣に座る女鬼は、その美しい金色の瞳に大人の余裕を湛えながら静かに新たな問いを投げかけた。

「じゃあ、ここで晴道君に簡単な質問。今、あーしはさっきみたいにオーラをこれっぽっちも出してないよね?でもさ、もしも今ここで晴道君があーしにガチで喧嘩を売って戦ったら、最終的な結果が一体どうなるのかくらいは、ちゃんとわかるよね?」


正面からそう諭されるように問われ、晴道は先ほどの魂を直接縛り付けられたかのような恐ろしい霊圧の残響を思い出し、喉をゴクリと鳴らす。

「そ、それはまあ、あんな圧倒的な次元の違う力の差をこれでもかと見せつけられた後なんだからさ……。俺が逆立ちしたって勝てねえことくらいは、素直に認めるよ」

晴道は悔しそうに顔を歪めながらも、そうボソボソと声を絞り出して口ごもるしかなかった。


晴道が自身の敗北を認めると、女鬼は待ってましたとばかりに、その艶やかな声をさらに畳み掛けるようにして問いを重ねる。

「じゃあ、次の質問ね。紅葉さんと朱雀門さんはどうだった?もしあの二人が娑婆の常識を無視して高い鳥居の上に座ってなかったら、あの二人のことを本物の鬼だって正確に判別できたかな?それにさ、羅生門さんに至っては、額から角を出すその瞬間まで、鬼の気配すらこれっぽっちも感じ取れなかったんじゃね?」


女鬼から過去の出来事を理路整然と指摘された瞬間、晴道の脳裏に、夜の御池通での出来事が鮮明にフラッシュバックした。

「あ……。そういえば、あのごつい筋肉質のおっさん、羅生門の鬼だっけか。確かに、あいつが自分の額から本物の角をニョキッと生やして見せるその瞬間まで、俺はあいつの正体が本物の鬼だってことに全く気付かなかった……」


晴道は自分が優れた術者の目を自負していながら、裏の世界の強者達の気配を何一つ正確に掴めていなかったという残酷な事実に、今になってようやく気づいて戦慄する。


「OK、それをしっかりと踏まえた上でね……。うーん、ここにいる二人に協力してもらえれば、話は一番手っ取り早くて早いんだけど、才狐君と綱江ちゃんの本当の力を、おいそれと暴露しちゃうのは、あーしとしてはちょっと気が引けるかなー」


女鬼がカウンター席に座る二人の様子を窺いながらそう呟くと、それまで静かにお茶をすすっていた才狐が、その無表情のままゆっくりと湯呑みを置いた。

「女鬼さんの考えてはる意図は、お話を聞いていて大体わかります。僕としては、これからのためにも一度ここでしっかりと、阿倍野君が自分を見つめ直す良い機会として、協力したいと思います」


才狐がその平坦な聲音のまま真っ直ぐに告げると、綱江も力強く深く頷いた。

「私も才狐君と全く同じ意見です。えっと、要するに阿倍野君の持っているその自慢の霊気や霊力を、今ここで上回るレベルまで解放すればいいんですよね?」

二人はそう言うなり、カウンターの座席から静かに立ち上がった。


二人の頼もしい申し出に対し、女鬼は満面の眩しい笑顔を浮かべ、胸の前で綺麗に手を合わせた。

「あはは♪話が早くて本当に助かるよ、有難うね二人共♪」


女鬼が合掌してお辞儀をしてお礼を言う横で、展開についていけない晴道は、未だに事の重大さに気づかずに不思議そうに首をかしげるだけだった。

「え?おい、お前ら急に立ち上がって一体何が始まるんだ?」


だが、次の瞬間。


立ち上がった才狐と綱江の二人の肉体から、それまで現世の日常に溶け込ませるために極限まで完全に隠蔽されていた真の霊力が、ドッと凄まじい音を立てて一気に店内に解き放たれた。

その二人の身体から立ち昇る霊気と霊力は、晴道が自慢していたエネルギーの量を凌駕し、彼よりも幾分か強力な、文字通り圧倒的なレベルまで一瞬にして跳ね上がる。

空間がピリピリと激しく震えるほどの本物の術者の波動を正面から浴びせられ、晴道は「な、なんだこれ……!?」と驚愕のあまりにその両目を限界まで大きく見開いて、ただただ目の前の光景に言葉を失って固まった。


晴道が自分と二人の間にある決定的な霊気・霊力の実力差を頭と身体で完全に理解したのを見届けると、才狐と綱江の二人はすぐにその凄まじい力を綺麗に静め、何事もなかったかのように再び椅子に座り直した。


張り詰めていた空気が一瞬で元に戻る中、隣の女鬼が人差し指をピッと綺麗に立てて、晴道の鼻先へと向ける。

「ほら、これでようやく自分の目で見て肌で感じてわかった?自分よりも圧倒的に弱いと勝手に決めつけて見下していたその二人はね、本当は晴道君よりも強い術者だって事。本当の強者っていうのはね、無駄に霊力を周囲にビンビンに撒き散らしたりせず、気配を隠せるものなんよ。それがこれっぽっちもわからなかったから、物事の本質が見えていない無明の戦闘狂ってわけ、おわかり?」


「お前ら……。さっきまであんなに大人しくしておきながら、まさかこれほどまでの化け物じみた霊力を、最初から隠し持ってたのかよ……」

晴道は自分のこれまでの常識が一切通用しない京都の術者達の底知れなさに、全身の血の気が引いていくほどの衝撃を受けながらただただ驚愕するしかなかった。


すると才狐は、相変わらず一ミリも表情を変えない完全な無表情のままで、淡々とした平坦な声音のまま語りかけた。

「化け物じみてはいないよ、やっと初級とか初心者を脱したところかな。僕はまだまだ修行中の未熟な身やから、もっともっと上を目指して精進せなあかんけどね」


才狐のその傲慢さの欠片もないあまりにも生真面目で真っ直ぐな言葉の響きは、晴道の胸の奥底へと鋭く突き刺さった。

晴道は、自分が転校してきた初日から、心のどこかで完全に見下して雑魚扱いしていた同級生の二人が、実際には自分の遥か先を走っていたという冷酷な現実を突きつけられ、これまで培ってきたすべての自信やプライドがガラガラと音を立てて完全に崩れていき、己のあまりの未熟さと無知の恥ずかしさを、その身を以て骨の髄まで思い知らされるのだった。


---


###〜紡がれる修行の年月と、戦闘狂の早すぎる完全復活〜


自慢の霊力を完全に上回る同級生達の圧倒的な輝きを目の当たりにし、晴道はカウンター席の上で魂が抜けたかのように愕然としていた。

自分が積み重ねてきた努力や、阿倍野の家系としての絶対的なプライドが、京都にやって来てわずか数日で音を立てて粉々に崩れ去っていく。


あまりの衝撃に言葉も出ず、ただただ自分の膝を見つめて、どん底まで落ち込んでいる晴道の様子を見て、隣に座り直した女鬼は優しく微笑む。

そして女鬼は、その美しい金色の瞳をいたずらっぽく細めると、落ち込む少年の顔を覗き込むようにして明るい声を響かせた。


「ねえ晴道君、そんなに分かりやすく落ち込まないの。君だって術者としては、もう初心者レベルはとっくに卒業してるし、立派に中級レベルには入ってるんだから、そんなに深くへこむ事無いじゃん。これからこれから♪」

女鬼はそう言って、元気づけるようにパチッと可愛らしくウインクをして見せた。


しかし、一度へし折られた戦闘狂のプライドは簡単には修復されず、晴道は首を横に振る元気もなく、ただただ小さくなってうなだれるしかなかった。

「で、でもよう……。中級レベルとか言われたって、こいつらはあんなに怪物じみた力を隠してたんだぞ。俺のやってきたことが全部否定されたみたいで、前を向けねえよ」


晴道がこれまでにないほど弱気な声を絞り出すと、静かにお茶を飲んでいた才狐が、いつも通りの無表情のまま淡々とした平坦な声音で自身の過去を明かし始めた。

「僕らの間には、晴道君が思っているほどの絶望的な実力の大差はそれほどないと思うよ、むしろあんまり変わらんレベルやと思う。僕かて、本格的に術の世界に足を踏み入れてから、まだたったの5年やし」


才狐が何気なく放ったその驚愕の事実に、晴道は思わずハッとして顔を上げた。


才狐の言葉に続くようにして、その隣に座る綱江もまた、温かい緑茶の湯呑みを両手で包み込みながら、優しく微笑みかけて言葉を重ねる。

「そうそう。私かて、意識してこの道に入ったんが小学6年生の頃で、本当に本格で実戦的な修業をし始めたんは中学生になってからやから、修行期間としては才狐君とほとんど同じくらいやね。もちろん、実際の実力は才狐君の方が何枚も上やけど、だからこそ私は、彼に追いつきたくて『もっと精進しよ』って毎日思うてるもん」


二人の口から語られたあまりにも短すぎる修行の年数を耳にして、晴道は信じられないものを見るかのようにその両目を大きく見開いた。


「な、何だと?お前らマジかよ。俺だって、本格的に実戦的な修業をし始めたのは中学に上がってからだけどさ、この怪異の世界に最初に入って来たのは7歳の頃からだから、合計したらもう10年だぜ?期間だけで言ったらお前らの倍は長く修行してるはずなのに、それでもお前らの方が明らかに実力が上とか、流石にへこむよ」

晴道は自分の10年という歳月の重みが、二人の天才的な才能の前に軽々と凌駕されていたという事実に、ますます頭を抱えてうなだれてしまう。


そんな晴道のどこか繊細で、しかし真っ直ぐに強さを求めている内面を察した女鬼は、少し意外そうな表情を浮かべる。

「あはは♪晴道君ってば、普段はあんなに威勢が良いのに、意外とこういう部分ではメンタルに深くきちゃうタイプなんだね。でもさ、そんなに自分を卑屈に扱ってちゃ勿体ないから、さっさと元気出しな♪」


女鬼はそう言うなり、隣に座る晴道の短い黒髪を、まるで小さな子供をあやすかのようにその白い手で優しく何度も撫でてあげた。

頭の上に触れる女鬼の優しくて温かい手の感触と、隣から漂う高貴な花の香りに、晴道の心臓はドクンと大きな音を立てて思わず激しくドキッとしてしまう。


晴道が赤くなって固まっているのを見て、綱江も彼がただの悪人ではなく、ただ強さに執着しているだけの不器用な同級生なのだと理解し、少し声を和らげて励ます。

「才狐君も言うてるやんか、そこまで実力差はないし、同レベルくらいやって。これからの自分の修行次第で、いくらでも未来は変わるやん。せっかく同じ学校の同じ学年になったんやし、これからは一緒に踏ん張って行こうよ」


綱江からの温かいエールを受け、女鬼も嬉しそうに何度も深く頷いた。

「ほらほら、綱江ちゃんもこうやって君のことを優しく励ましてくれてるし。まあ、術者として、ここからさらに化け物じみて強くなるためには、本当に尊敬できる師匠とか、自分の生涯の目標となる人が身近にいるかどうかってのも大事な要素かな。晴道君にとって、これから人生の目標となる素敵な人との出会いがあると良いね♪」


女鬼は隣に座る晴道に向かって、再びその美しい金色の瞳を輝かせて優しくウインクをして見せた。

その大人の色気と少女のような可愛らしさが同居した至近距離での攻撃に、晴道は再び脳の処理が追いつかなくなり、胸の奥で何度も激しくドキッとときめいてしまう。


そんな晴道の一連の分かりやすすぎる挙動を観察していた綱江は、それまでの温かい同情の目を一瞬にして消し去ると、これ以上ないほどの冷ややかなジト目を晴道に向けて鋭く突っ込んだ。

「……ちょっと阿倍野君。さっきから見ていれば、女鬼さんに対してときめき過ぎやで。顔が真っ赤になって鼻の下が伸びてんの、完全にバレバレやからね?」


「い、いいだろ別に!誰がどう見たって超絶可愛い女の子に、こんな至近距離で優しく頭を撫でられて励まされたら痛えくらいに心臓バクバクになっちまうし、男なら誰だって本能的にこうなるんだよ!なあ、才狐だって俺のこの真っ直ぐな気持ちが分かるだろ!?」

晴道は自分の恥ずかしい動揺を隠すための照れ隠しに、才狐へと無理やり話を振って助けを求める。


しかし、突然話を振られた才狐は、自身の湯呑みを持ったまま、その無表情の顔を僅かに傾げて不思議そうに首をかしげるだけだった。

「そうなん?僕は女の子に頭を撫でられても、特にそんな風に心臓が痛くなったりはせえへんよ」


才狐のそのあまりにも浮世離れした天然な回答を耳にして、晴道はニヤニヤとした意地悪な笑みをその端正な顔立ちに復活させた。

「なんだよお前、冷てえ奴だな!あ、そうかそうか!やっぱお前は他のどんな美少女に言い寄られたって、隣にいる綱江一筋ってわけか!いやぁ、本当にごちそうさまでお熱いこったな!」

晴道が大きな声で茶化すと、それを聞いた綱江の顔が、再びみるみるうちに耳の裏まで真っ赤に染まっていく。


周囲を巻き込んで散々大騒ぎしたおかげで、晴道の胸の内にあった暗い澱みは完全にどこかへと消し去られていた。

晴道はいつの間にか完全に元気を取り戻すと、カウンター席から勢いよく立ち上がり、自慢の胸を張ってフンスと力強く鼻を鳴らした。


「よっしゃあ!モヤモヤしてたのはもう全部終わりだ!俺、これから死ぬ気で修行して、いつか必ずお前ら二人を完璧に超えて、最強の祓術師になってやるからな!首を長くして待ってろよ!」


「あはは♪一瞬で完全に復活してるし♪そのくらいの圧倒的なポジティブさと意気込みがある方が、未来ある若人としてはいいんじゃね?その意気その意気♪」

女鬼が晴道の単純さを面白がり、手を叩いて陽気に囃し立てて笑う。


その様子を厨房の前で見ていたえらいこっちゃ嬢は、呆れたようにそのまんまるな目を白割烹着の下で細めると、細い両腕を上下左右へとぶんぶんと激しく振り回した。

「落ち込むのも立ち直るのも一瞬、これぞまさに、えらいこっちゃな単細胞で単純脳みそ!」


そんな摩訶不思議食堂のカウンターで繰り広げられる、現世の若者達と裏の世界の住人達の賑やかで愛おしいやり取りのすべてを、カウンターの奥から地蔵店長は終始変わらない優しいお地蔵さん笑顔を浮かべながら、どこまでも暖かな慈悲の眼差しを静かに向けて見守っているのだった。


---


###〜地蔵店長が諭す力の真意と、戦闘狂の心を照らす道標の灯〜


単純明快な脳みそで見事な大復活を遂げ、カウンター席の横で元気いっぱいに吠える晴道の姿を、隣に座る女鬼はどこまでも微笑ましそうな表情で見つめていた。

しかし、彼女はただ面白がっているだけではなく、平穏を真に願う超越者としての深い慈愛をその瞳に宿すと、立ち上がった晴道を優しく着席させる。


「晴道君がそうやって肉体的な強さとか、戦闘力って意味での圧倒的な強さを純粋に求めるのもいいんだけどさ。でもね、それと同じくらいに自分の内面的な強さも大事だと思うんだよね」

女鬼は優しく微笑みながら言うと、フッとカウンターの奥に佇む地蔵店長を見上げる。

その女鬼の視線の動きに合わせるようにして、白割烹着を着たえらいこっちゃ嬢もまた、静かに地蔵店長を見上げる。


その場にいる強者達が、一斉に同じ方向へ意識を向けた様子を見た三人の高校生術師達は、何か大切な話が始まるのを肌で察知し、同じく視線をゆっくりと地蔵店長の方へと移した。

店内の全ての視線が集まる中、カウンターの奥に立つ地蔵店長は、慈悲深いお地蔵さん笑顔で胸の前で綺麗に合掌し、彼らに対してゆっくりと丁寧にお辞儀を返す。

その一連の動作には、あらゆる喧騒を鎮めてしまうかのような、不思議な静けさと温かさが満ち満ちていた。


そして、地蔵店長は晴道の目を真っ直ぐに見つめると、その深く穏やかな声を店内に響かせた。

「晴道さんはこれまで、ご自身の一族の期待に応えるため、ずっと前を向いて全速力で走り続けられました。それにより、一人の術者としての確かな力をしっかりと身に付けられた事は、今の晴道さんの御姿と、そこから醸し出す力強いオーラからも十分に見て取る事が出来ます。己を磨くために日々精進する事、それ自体は本当にとても素晴らしい事で御座います」


地蔵店長はお地蔵さん笑顔のまま、まずは晴道がこれまで積み重ねてきた努力の歳月と成果を優しく肯定した。

しかし、地蔵店長はそこで言葉を区切ると、その優しい笑顔のなかに、世界の調和を守る者としての絶対的な厳しさを静かに含ませて言葉を続けた。


「ただ、女鬼さんが仰る通り、その鍛え上げた強き力を、一体誰に向けるべきなのか、そしてその力をどのようにして己で制御して駆るのか。その最も大切である根本の部分を置き去りにして、心のままに暴走させてしまうと、その力は正しい術ではなく、時には単なる理不尽な暴力となり、取り返しのつかない最悪な事になりかねません」


店長が優しい笑顔で厳しく諭すと、すかさず隣の女鬼が自身のサイドテールを軽く揺らしながら、現実の恐ろしさを付け加えた。


「そうそう。実際問題、さっき神泉苑の境内で、もしも羅生門さん達が止めに入ってくれてなかったら、晴道君は紅葉さんにマジで首を引っこ抜かれてたかもしんないからね」

女鬼のその一ミリの誇張もない冷徹な指摘を耳にした瞬間、晴道は背筋にぞくりと凍りつくような冷たい寒気が走り、思わず言葉を失って身を震わせた。


晴道が静まり返る中、地蔵店長は彼を優しく包み込むようなトーンでさらに深く諭すように言った。

「ご家族からの大きな期待や、代々血筋に伝わる尊い技の継承、そしてご自身の家の歴史を命懸けで守るという強い使命感。それを大切に思い、若くして一人で行動する事、それ自体は本当に素晴らしい事で御座います。ただ、今の晴道さんはあまりにも強さを急ぐあまり、その過程で培った強大な力が暴走してしまう恐れが御座います」


地蔵店長はカウンター越しに晴道の顔をじっと見つめると、彼のこれからの未来を救うための救いの手を差し伸べるように語りかけた。


「晴道さんが、これから先の未来で道を誤って引き返せなくなってしまわぬよう、時に迷いそうな心を正しく導くための道標となる灯を、この摩訶不思議食堂での大切なご縁を通してお持ち頂きたく思うのですが、如何でありましょうかねえ」


地蔵店長はお地蔵さん笑顔のまま、どこまでも優しく晴道の心の奥底へと問いかけると。

大好物のステーキの余韻が残る温かい店内で、店長からの予期せぬ温かい言葉を受け、晴道は小さく息を漏らす。


「俺の、道標……」

晴道は生まれて初めて、自分の力ではなく、自分の内面を導いてくれる存在の必要性について考え、その言葉をぽつりと呟いた。


地蔵店長は深く頷き、合掌した手を崩さないまま言葉を重ねた。

「左様で御座います。これから先、最高、最強の術者を目指して歩む道中には、時にご自身の力に迷い、進むべき方向に深く苦しむ事も御座いましょう。そんな時に、自分の心の軸となる正しい灯が一つでもあると、暗闇の中でも道を踏み外す可能性を大きく下げる事が出来ます」


そして、地蔵店長はカウンターの向こう側から、これ以上ないほどに優しいお地蔵さん笑顔を浮かべると、胸の前で再び合掌して深く丁寧にお辞儀をした。

「それでは、これまでの晴道さんが一人の人間として歩まれた道をゆっくりと振り返りつつ、これからの人生の確かな灯となるような、大切なお話を致しましょうか」


店長がそう告げた瞬間、店内の空気はさらに穏やかで神聖なものへと変わり、未熟な戦闘狂の少年の心を正しい光で導くための準備が、この摩訶不思議食堂のカウンターで静かに調った。


---


###〜地蔵店長が説く『慢過慢』の教えと、赤面に染まる戦闘狂の気づき〜


木造の温もりに満ちた店内に静かな調和の空気が満ちる中、地蔵店長はカウンターの奥から、その終始変わらない優しい笑顔を晴道へと向けながら、静かに仏の深遠なる教えを説き始めた。

地蔵店長は胸の前で綺麗に合わせられた手をそのままに、まるでお堂の奥から響くような心地よい声を店内に響かせる。


「才狐さんも綱江さんも、そして晴道さんも、皆様は神道の神々にお仕えする神社の方と言う事で、普段は仏教や仏様の教えにはあまり馴染みが無いかもしれません。ただ、御自身の中に深く宿る一つの価値体系とは全く別の価値体系を頭の片隅に置いておくと、物事を全く別の視点から広々と観ることが出来ますゆえ、今夜はどうか、そのような柔らかい受け取り方をして頂けますと、大変嬉しゅう御座います」


地蔵店長はお地蔵さん笑顔のまま、まずは術者達の立場を思いやりながら、優しく言葉の端を紡いだ。

そして、地蔵店長はその穏やかな目を僅かに細めると、晴道のこれまでの行動の核心へと触れていく。

「晴道さんはこれまで京都へやって来てからも、目の前に現れた怪異に対し、その背景を知ることもなく、見境なく戦を挑まれましたねえ」


その店長からの言葉に対し、晴道はどこか弁明するような口調になりながらも、自身の過去の記憶を遡って実直に言葉を返した。

「それは……俺の実家では、ずっとそういう風に怪異を倒せって教わってきたんだよ。それに、実際に俺が7歳の時だって、目の前で俺のことを激しく脅かしてきた不気味な怪異を、大人の術者達が追い払って守ってくれたことがあってさ。だから怪異なんてものは出会ったら即座にぶっ倒すのが正解で、そういうもんだってずっと頑なに思い込んでたんだ」


「御自身の幼い頃の大切な体験から、そのように怪異を敵とみなす考えに至ったのは、現世の人間として無理もない事でありましょう」


地蔵店長は晴道の言葉を遮ることなく、まずはその心情に対して深い理解を示してみせた。

しかし、地蔵店長はそこで優しくも、調和を預かる者としての誤魔化しを許さない厳しさを含んだ問いを投げかけた。


「ただ、その7歳の頃の体験から時が流れ、ご自身がこれほど立派に成長されるまでの間、ご自身の内面や考え方の定点観測、つまり現代の現世の言葉で言うなれば、客観的な自己分析と価値観のアップデートを怠らずになさって来られたかどうか、その点について、御自身で今、どのように思われますかねえ」


地蔵店長から優しくも鋭く問われた晴道は、「それは……」と言葉を詰まらせたまま、カウンターの上で完全にフリーズしてしまう。

晴道はこれまでの人生において、「怪異はすべて一残らず倒すべき人類の敵である」という、実家から植え付けられた絶対的な価値観に対して、疑うことすら一度としてしなかったという自身の内面の盲点に、今この瞬間になって初めて気づかされた。


地蔵店長は静かに深く頷くと、晴道が自らの力に溺れていた部分について、さらに深く問いただしていった。

「また、一人の術者として日々鍛練を積み、肉体や術が強くなると、誰しもその力を試したくなる事もありましょう。ただ、その晴道さんの力の試し方と言うのは、本当に正しいものであったかどうか。他者に対してあまりにも乱暴なやり方であったり、一方的で暴力的でなかったか。今一度、御自身のこれまでの歩みを振り返ると、如何でありましょうか?」


地蔵店長はどこまでも穏やかなお地蔵さん笑顔を浮かべながらも、晴道が自らの都合の良い言い訳で逃げることを決して赦さない、仏の智慧に満ちた圧倒的な厳しさをもって少年の魂へと迫る。

その重々しい問いかけの前に、晴道は完全に言い返す言葉を失い、自らの拳を痛そうに握りしめながら、ポツリと小さな声を絞り出した。


「……袖引き小僧のことを言ってるなら、俺は本当に悪いことをしちまったって、今になって心から思ってるよ。確かに、あの時の俺のやり方は、言い訳のしようがねえくらいに乱暴で暴力的だった」

晴道は自らの慢心が引き起こした暴挙の事実から目を背けることなく、深く反省の弁を口にした。


「勿論、何の抵抗もしない袖引き小僧さんに対する仕打ちは、深く猛省すべき事で御座います。しかし、晴道さんはそれ以外にも、怪異の姿とみれば見境なく手を出されていましたねえ。それこそ今夜、神泉苑の境内において、ご自身の力では到底かなわぬ伝説の鬼である紅葉さんと言う存在に対しても、自分の方が強いと思い込みながら、無謀にも戦いを挑んでおられました」


地蔵店長は笑顔のまま、晴道の心の中に巣食っていた最も醜く危険な精神の病を、容赦なく正確に言葉にして言い放つ。

そして、店長はカウンターの向こう側から、仏法の真理を諭すように厳かに告げた。


「今の晴道さんは、仏教で言うところの『慢(まん)』と言う、己を高く見積もって他者を侮る恐ろしい煩悩が激しく燃え盛っている状態で御座います。特に、御自身よりも遥かに強き者に対しても、自分の方が優れていると都合よく錯覚してしまう『慢過慢(まんかまん)』という、実に厄介な煩悩の炎が、その身で激しく燃え盛っています」


笑顔のまま告げられた未知の言葉に対し、晴道は混乱しながらも、「まん、かまん?」と不器用につぶやいて首をかしげた。


「左様で御座います。『慢過慢』とは、己よりも遙かに優れた力量や徳を持つ絶対的な相手に対し、その圧倒的な実力差を正確に看破することすらできず、なお『自分の方が相手よりも優れている』と独善的に錯覚してしまう事であると、仏様は私達に教えて下さいます」


地蔵店長はその慈悲深いお地蔵さん笑顔のまま、晴道の凝り固まった心を解きほぐすように、至高の仏法を優しく丁寧に伝えていく。

その言葉の一つ一つが晴道の胸に深く染み渡り、彼は深くうなだれながらその事実を認めた。


「……確かに言われてみればその通りだ。俺はさっき、あの紅葉さんに対して、自分より強いだなんて戦う前はこれっぽっちも考えてなかったし、それを見抜く術者の目すら、今の俺には全く備わっていなかった」

晴道は自分の無知を、今度こそ誤魔化すことなく素直に認めて頭を下げた。


すると、その晴道の潔い態度を見ていた隣の女鬼が、柔らかく優しい微笑みを浮かべて言葉を補足する。

「紅葉さんに対しては勿論なんだけどさ、才狐君と綱江ちゃんの事に対しても、全く同じことが言えるんじゃないかな?」


女鬼からのそのあまりにも優しい、しかし決定的な指摘を耳にした瞬間、晴道はハッとして隣の二人の姿を見た。

晴道は、才狐と綱江の二人が、先程のカウンターの前で自分よりも遥かに強力で底知れない真の霊力を一瞬にして解き放ってみせるその瞬間まで、彼らのことを「気配の弱い大したことのない雑魚」だと、完全に小馬鹿にして見下していた過去の自分の態度を鮮明に思い出した。


(俺はなんて愚かで、なんて恥知らずで傲慢な勘違いをしていたんだ……)

己の圧倒的な無知と、あまりにも身の程知らずな傲慢さに対する激しい恥ずかしさが一気に胸の内に込み上げ、晴道の精悍な顔付きはみるみるうちに恥ずかしさで真っ赤に染まっていく。


赤面して小さくなる晴道の様子を見届けた地蔵店長は、彼を突き放すことなく、その胸の前で再び静かに合掌して語り掛ける。

「今、晴道さんがご自身の過去の行いと無知を、心の底から恥じていらっしゃるならば、それこそがご自身の目が開き、真実に気付くことができた確かな証左と言えましょう。己の未熟さに深く気づくことは智慧の第一歩であり、ここから心を入れ替えて、善き道を一歩ずつ歩む事が、何よりも肝要で御座います」


地蔵店長はそう言って、どこまでも優しいお地蔵さん笑顔を浮かべながら、晴道のこれからの成長を祝福するように、カウンター越しに合掌して深く丁寧にお辞儀した。


---



地蔵店長は、自身の大きな体躯から放たれる圧倒的な慈悲の気配でカウンターを包み込みながら、未熟な晴道を厳しくも優しく正しい方向へと導いていく。


これまで誰も教えてくれなかった世界の真実と、己の内に潜んでいた傲慢な煩悩を正確に突きつけられた晴道は、これまでの不遜な態度を完全に改め、喉の奥から震える声を絞り出した。

「善き道って……俺は、これからどうすれば、いい……どうすればいいんですか?」

晴道は生まれて初めて、目上の存在に対してしっかりと自らの言葉を正し、教えを乞うように頭を下げた。


晴道の、その素直な変化を見届けた地蔵店長は、満足そうに目を細めながらも、すぐに安易な答えを与えるような真似はしなかった。

「どのようにこれからの道を歩まれるか、その具体的な歩み方につきましては、晴道さん御自身が、時には深く迷い苦しみながらも、御自身の頭でしっかりと考えながら一歩ずつ歩むほかありません。私から晴道さんに対して、これだっと言う明確な答えを簡単に授ける事は出来ません」


地蔵店長はそう言って諭すと、カウンター越しに晴道の顔を優しく見つめた。

「ただ、すぐに役立つわかりやすい答えはお渡し出来ませんが、先程申しました通り、晴道さんが闇の中で迷わぬための、道標となる智慧をお渡しする事なら出来ます」

地蔵店長はそう語りかけ、変わらない優しいお地蔵さん笑顔を浮かべた。


「道標……何ですか、それは?」

晴道は店長から差し出されるであろう未知の智慧を、一つでも多く聞き漏らすまいと、真剣な表情になって身を乗り出すようにして次の言葉を待った。


地蔵店長は胸の前で綺麗に合掌したまま、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

「今、晴道さんはご自身の内にあった慢の煩悩に、しっかりと気づく事が出来ました。まずは、日々の生活の中で御自身で、他者に対して傲慢さが出ていないか、慢の煩悩が心の中で激しく燃え盛っていないか、それを常に意識して、自分自身でいち早く気付こうとする事に御座います。さすれば、これまでのようには、むやみやたらと相手を見下したり、自分から無謀な戦を仕掛ける事も、自ずと減って行く事でありましょう」


地蔵店長はお地蔵さん笑顔のまま、まずは晴道が自らの心の動きを客観的に観察することの重要性を優しく諭していく。

店長の言葉は、晴道の凝り固まった価値観の殻を内側から優しく砕いていくようだった。


「はい。俺、これからはちゃんと自分の内面とか、心の動きというものを、行動に移す前に、一歩立ち止まって静観して観るようにします」

晴道は自らの未熟さをしっかりと受け入れ、これからの成長を誓うように力強く宣言した。


「素晴らしい心がけですね。また、先程ご自身からむやみに戦を仕掛けていると言いましたが、これにつきましても、やはりこれからのために正す事が必要です」


地蔵店長がそう言葉を続けると、晴道は自身のこれまでの行動を思い返して、少しばつが悪そうに頭を掻いた。


「あー……それって、街中で怪異を見つけたら、何も考えずに速攻で喧嘩をふっ掛けるなって事ですか?」


「勿論、今仰った事も含みます。しかし、さらに大きな視点から物事を観てみると、晴道さんは、常に誰彼構わず力試しをしたがり、戦いたがっていらっしゃいますが、それは一体何故でしょう?自分が立てた手柄、正確には手柄と思い込んでいる事を、ご家族に報告されるためでしょうか?それとも、争いに勝って悦に浸りたい為でありましょうか?」

地蔵店長は穏やかなお地蔵さん笑顔を絶やさないまま、晴道が自ら目を背けていた戦いへの執着の理由について、優しくも鋭くその核心を問う。


店長から真っ直ぐに内面を射抜かれ、晴道は少し視線を泳がせながらも、自らの本音を包み隠さず正直に打ち明けた。

「えっと、それは……正直に言うなら両方です。俺が大きな手柄を立てれば、東京にいる家族だって、俺が立派になったって心から喜んでくれたり、たくさん褒めてくれるから」


「誰かに喜んで頂きたい、誰かに褒められたいという欲求は、多かれ少なかれ人である以上は誰にでも御座いましょう。ただ、その承認を求める気持ちが強くなりすぎてしまうと、もっともっと欲しいと承認欲求が膨らみ、承認を得る事が目的化して、更には闘う事自体が目的化するという変貌を遂げるかもしれません。そうなれば、怒りや嫉妬、そして終わりなき争いが絶えない『修羅道』と呼ばれる恐ろしい世界を、生涯歩み続けることになります」

地蔵店長のその深く重みのある言葉は、晴道の胸の奥底へと厳かに響き渡った。


「修羅道……」

晴道はその言葉の持つ不気味な響きに、思わず小さく呟く。


地蔵店長は深く深く頷くと、晴道がこれまで周囲からどのように見られていたのか、その真実の理由を優しく伝えた。

「先ほど、女鬼さんと、えらいこっちゃんが、晴道さんのことを『戦闘狂』と表現された本当の理由は、まさにこの部分にあります。絶え間なく他者と戦い続け、心休まる事が一切無いその修羅道の状態、それは本当に晴道さんの望みでありましょうか?」

地蔵店長はお地蔵さん笑顔を浮かべながらも、少年の本当の幸せを願うように優しくも厳しく問いかける。


「……いや、そんなわけねえよ……ありません。俺だって、そりゃあ毎日を平和にくらせりゃそれに越したことはねえし、良いと思う。でも……そうだよな、よくよく考えてみれば、俺が京都に来てから出会った怪異達に対して、いきなり喧嘩を吹っ掛けて、最悪な戦闘状態に持ち込んだのって、全部俺の方からだったもんな。確かに、客観的に見たら、俺はただの戦闘狂だ」

晴道はこれまでの自分の独善的な暴挙の数々を顧みて、心の底から深く反省する。


自らの非を完全に認めた晴道に対して、地蔵店長は包み込むような温かい微笑みを浮かべた。

「そこに御自身で気づかれたのであれば、ここからいくらでも道を正す事が出来ます。勿論、時には望まぬ争いに強引に巻き込まれる事も御座いましょう。その時、ご自身の鍛え上げたどのように力を使うか、そもそも今ここで力を使うべきなのか。あるいは、力を使わずに言葉や心で円満に導く事が出来るか。これを為す事は最初はなかなか難しく、実際の現場ではそのような隙や時間も全く無い場合もありましょうが、まずは日頃から意識するところから始めてみては如何でありましょうかねえ」

地蔵店長はどこまでも優しく仏の智慧の教えを説き、最後にもう一度、満面のお地蔵さん笑顔で胸の前で合掌して丁寧にお辞儀をする。


最近の晴道は、年齢的にもいわゆる反抗期の多感な年頃と言う事もあり、東京の実家にいる頃は両親や厳格な祖父母の言う事に対しても、素直に聞くことができずに反発ばかりしてしまう事もあった。

だが、この摩訶不思議食堂の静かなカウンターで、自分のこれまでの全てを優しく肯定した上で、過ちを正してくれた地蔵店長の教えは、不思議なほどにスッと素直に晴道の心の中へと入って来て、彼は人生の中で初めて、自分自身の内面を顧みることの大切さが心の底から身に染みていた。


---


###〜己を省みる謝罪の言葉と、心を縛る『三つの髻』の教え〜


地蔵店長からの慈悲深き教えが心の奥底まで染み渡り、己の無知と傲慢さを心から自覚した晴道は、カウンター席からスッと静かに立ち上がった。

そして、それまでどこか小馬鹿にして見下してしまっていた才狐と綱江の二人に向き直ると、実戦空手の手をつく作法のように、腰を深く折って真っ直ぐに頭を下げる。

これまでの戦闘狂としての傲慢なプライドをすべて捨て去り、一人の不器用な少年として、晴道は自らの口から真摯な謝罪の言葉をしっかりと紡ぎ出した。


「才狐、綱江、本当にごめん。俺は京都の学校に転校してきてから、2人の事を見くびって、失礼な事もいっぱい言っちまった。自分の未熟さに気づいて、今は本気で反省してる」


深々と頭を下げる晴道のその潔い謝罪の姿に対し、才狐は、相変わらず一ミリも表情を変えない完全な無表情のままであったが、その底の知れない瞳の奥には確かな温かい光が宿っており、いつも通りの淡々とした平坦な声音で、晴道の謝罪を優しく受け入れた。

「僕は気にしてへんよ。晴道君が自分で自分の内面に気づけたのなら、それで十分やと思う」


才狐の言葉に続くようにして、隣に座る綱江もまた、柔らかく晴れやかな笑顔を浮かべた。

「阿倍野君が、そうやって本気で反省してるって言葉と態度でしっかりとわかったから、私も、もう気にせえへんよ。それにね、私かて阿倍野君に対して、そんな偉そうな事は言えへんもん」


「え?」

予想外に優しい言葉をかけられた晴道は、驚いたように小さく声を上げてゆっくりと顔を上げた。


綱江は目の前で戸惑っている同級生の様子を見て、自身の過去の恥ずかしい失敗を思い出すようにクスッと小さく微笑んだ。

「実はね、私もほんの少し前に、今の阿倍野君と全く同じように、このお店で地蔵店長さんからあり方について、色々と優しく教えて貰ったんや。それで、自分の未熟さを反省しきりやったんよ。その時にね、店長さんから『名聞(みょうもん)』と『利養(りよう)』って言う、とっても大切な仏様の教えを頂いたんや」


「みょうもん?りよう?なんだそりゃ?」

聞き慣れない仏教の専門用語を耳にして、晴道は頭の上にいくつもの疑問符を浮かべながら、首をかしげてゆっくりと自分の椅子に座り直す。


すると、カウンターの奥で二人の成長を嬉しそうに眺めていた地蔵店長が、その胸の前で静かに合掌した。

「綱江さん、以前にお話し致しました言葉を、今もそのようにしっかりと心に留めて覚えて下さり、本当に嬉しゅう御座います」


地蔵店長は満面のお地蔵さん笑顔を浮かべると、晴道にも分かりやすいようにその言葉の意味を丁寧に紐解き始めた。

「晴道さん、今、綱江さんが仰った『名聞』と『利養』とは、現世を生きる人間が誰しも抱えている、自己顕示欲や承認欲求の根源にあたるもので御座います」


店長からの解説を受け、綱江は以前の授業を思い出すようにして、真剣な表情で言葉を重ねた。

「利養は『自分の利益や名誉を優先して貪り求める事』、でしたよね。そして勝他(しょうた)は『自分の方が他者よりも優れていたい』という張り合う気持ちのことでした」


「左様で御座います、綱江さん。そして、それに『勝他』と言う、自分の方が優れていたい、人より勝っていたいという張り合う事を合わせて、仏法では『三つの髻(もとどり)』と言います」


地蔵店長はお地蔵さん笑顔のまま、晴道の乾いた心に染み渡るように、尊い仏の教えを優しく説いていく。


「髻とは、髪を頭の上で束ねる髪型のことで御座いますが、この三つの心が頭の上で固く結ばれてしまうと、人は自らの力に溺れ、他者との果てしない争いから抜け出せなくなってしまうので御座います」


地蔵店長から告げられたその精神の病の正体は、あまりにも的確に晴道の内面を抉り出した。

「名聞に、利養に、勝他……。それ、どれを聞いたって完璧にまんま俺の事じゃねえかよ。俺って、自分で気づいてなかっただけで、本当はただの承認欲求の塊だったのか」


晴道は自らの心の底に巣食っていた醜い欲求の正体を突きつけられ、カウンターの上で愕然として言葉を失った。

そんな晴道のショックを優しく和らげるように、地蔵店長は包み込むような温かい声で言葉を続ける。


「他者に認められたい、周囲よりも優れていたいと言う強い欲求は、程度の差はあれ、現世を生きる人間である以上は、誰しもが持っている事で御座います。肝要は、そういった欲求を持っている己を否定することではなく、欲求とこれからどのようにして上手につき合っていくか、暴走させないように心のバランスを調えて行くかと言う事で御座います」


地蔵店長はどこまでも優しいお地蔵さん笑顔を浮かべると、胸の前で再び合掌して深く丁寧にお辞儀をすると。


「「「はい」」」


店長の深い智慧の言葉に導かれ、カウンターに並んだ才狐と綱江、そして晴道の三人は、自然と声を綺麗に揃えて真っ直ぐな返事を返した。

店内に響き渡ったその素直な返事には、一人の術者として、そして人間として一歩成長した彼らの確かな決意が込められていた。


三人が神聖な空気の中で深く頷き合っていると、それまでずっと静かに様子を窺っていたえらいこっちゃ嬢が、トトトッと短い足音を響かせて動き出した。

えらいこっちゃ嬢は女鬼の膝の上に向かって、その小さな身体でぴょんっと器用に飛び乗ってちょこんと座ると、そこから細い腕をぐいーっと伸ばして、隣に座る晴道の大きな体を強引に引っ張ってその頭を自分の手元まで低くさせる。

そして、えらいこっちゃ嬢は黒いベレー帽の下でその小さな手を使って、晴道の短い黒髪をよしよしと優しく撫で回し始めた。


「自分の非をちゃんと認めて、素直になりよった。えらいやっちゃ、えらいやっちゃ」


「ははは、そうか、えらいやっちゃ、か。えらいこっちゃん、褒めてくれてありがとよ」

少女の予想外のコミカルなスキンシップに対し、晴道はこれまでの険しい表情を完全に崩し、少し気恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、嬉しそうな照れ笑いを浮かべて大人しく頭を撫でられ続けた。


そんな摩訶不思議食堂のカウンターで繰り広げられる、雨降って地固まった若者達の微笑ましく温かい和解の光景を、隣に座る女鬼も、そしてカウンターの奥に立つ地蔵店長も、どこまでも穏やかで暖かな慈悲の眼で見守りながら、静かに微笑みを交わし合うのだった。


---


###〜お布施のQRコードと、新天地で踏み出す神職の絆〜


すっかりと心が洗われ、心地よい和解の空気がカウンターを包み込む中、晴道は湯呑みに残っていた温かい緑茶を最後の一滴まで一気に喉へと飲み干した。

ぷはぁと満足そうな息を漏らすと、椅子の背もたれからスッと勢いよく立ち上がり、黒いズボンのポケットから愛用のスマートフォンを滑らかに取り出す。


「さてと。極上の美味い飯もたらふく食ったし、心の中のもやもやも綺麗に晴れたことだし、夜も更けてきたからそろそろ帰るとするか。あ、今日のこの店の会計は全部、俺が持つからな、お前らは財布を引っ込めておいてくれよ」

晴道はそう言ってニカッと豪快な笑みを浮かべながら、手にしたスマートフォンを誇らしげに高く掲げてみせた。


突然の男気溢れる晴道の申し出に対し、綱江は驚いたようにその美しい目を丸くして、慌てて押しとどめるように手を振った。

「えっ、阿倍野君、そんなん流石に悪いよ。ここはちゃんと三人で綺麗に割り勘にせえへんと」


「いいんだよ、気にするなって!今まの迷惑料って事にでもしといてくれ!」

晴道はこれまでの自分の非を完全に水に流すかのように、ガハハといつもの調子で豪快に大笑いして綱江の遠慮を突っぱねた。


その晴道の真っ直ぐで不器用な誠意を感じ取った才狐と綱江の二人は、それ以上の無理な遠慮はやめることにして、並んで座席から立ち上がると胸の前で綺麗に合掌してお辞儀をした。

「「有難う、御馳走様です、阿倍野君」」


二人の丁寧な感謝の声を受け、晴道がレジの場所を探そうと視線を巡らせると、カウンターの奥から地蔵店長がその終始変わらない優しいお地蔵さん笑顔を浮かべ、胸の前で静かに合掌してお辞儀をした。

「当摩訶不思議食堂には、決まった定価のメニューというものは存在しておらず、お客様が受け取った満足度や御気持ちをそのまま納めて頂く、御布施形式にしております」


「ははは!なるほどな、御布施形式ね!送迎が物の怪の車で、コックが猫とカエルなんだから、会計が御布施ってのも、いかにもこの摩訶不思議食堂らしいユニークなシステムだ」


晴道がなるほどと納得して笑っていると、それを見計らったかのように、女鬼の膝の上から飛び降りたえらいこっちゃ嬢が、レジの奥から何やら長方形の物体を大切そうに抱えてトトトッとやって来た。

少女がスッと晴道の目の前に差し出したのは、古風で趣のある木製の板であり、驚くべきことにその中央には現代的な電子決済用のQRコードがくっきりと鮮明に書かれている。


「ええっ!?おいおい、こんな怪異専門の店の中にまで、バッチリとQRコードが用意されてあるんだな!マジで現世の最先端技術にアップデートしまくりじゃねえかよ!」


晴道はあまりのギャップに思わず笑いながらも、手慣れた様子でスマートフォンの画面を起動してお財布携帯の機能を近づけて掲げた。

すると、ピッという軽快な反応音と共に、スマートフォンの画面に自由な金額を入力するための金額入力欄が分かりやすく表示される。

晴道は一瞬の躊躇をすることもなく、画面のキーボードを叩いて「15000円」という数字を迷わずに力強く入力し、決済確定のボタンを親指でカチリとタップした。

直後、店内に「毎度ありー」という、どこかはんなりとした京都のイントネーションを含んだ電子音が心地よく響き渡った。


「よし、これで会計はバッチリ完了だ!ちなみに今の15000円はさ、俺が京都にやって来てから働いて稼いだ、記念すべき京都での初バイト代の全額そのものなんだぜ!綺麗にすっからかんになっちまったから、こっからまた明日から、しっかり稼がなきゃな!」

晴道は京都に来て自分が汗水たらして稼いだ全額を失ったというのに、全く悔しがる風でもなく、胸を張って爽快に笑い飛ばした。


その晴道の男気あふれる驚きのお金の使い方を耳にして、綱江は感心したようにその目を瞬かせた。

「御馳走様でした、阿倍野君。それにしても、阿倍野君って学校が終わった後にアルバイトをしてたんやね」


「おうよ!ちなみに今日も、学校が終わった後にすぐ二条の駅前の商業施設まで行って、ガテン系の力仕事をガッツリとこなしてきたんだ。あ、そうだ才狐に綱江!もしお前らの実家の神社とかその周囲の神社で、人手が足りなくて急なバイトの募集とかしてたら、いつでも遠慮なく俺の事を呼んでくれよな。これでも俺は東京の実家の神社で、神職の手伝いやら雑用やらを小学生の頃からやって来たからさ、境内の掃除から儀式の準備まで、一通りの仕事は全部完璧にできるんだぜ?神職の仕事ならお手のもんってやつだ!」

晴道は自らの実力を売り込むように、自慢げに鼻を鳴らして豪快に笑った。

その晴道の頼もしい言葉を聞いて、才狐と綱江の二人はこれからの新しい共同生活や修行の毎日に、確かな信頼の絆が芽生え始めているのを強く実感する。


そうして、大満足の最高の夕食会を全て終えた三人は、カウンターの向こう側で見守ってくれている地蔵店長、妖しくも優しく諭してくれた女鬼、そして最後までコミカルに給仕をしてくれたえらいこっちゃ嬢の三人に向かって、揃って深く丁寧にお辞儀をして心からの感謝とお礼の言葉を伝えた。

そこから木造の温もりが漂う通路をゆっくりと歩き、お店の正面にある綺麗な木製の扉の前までたどり着くと、三人は店を出る最後にもう一度だけ一斉に振り返り、感謝を込めて深々とお辞儀をしてから、店を後にした。


三人の若者達が夜闇へと消えていくその後ろ姿を見送りながら、地蔵店長はカウンターの奥から、その終始変わらない慈悲に満ちたお地蔵さん笑顔を浮かべ、胸の前で静かに合掌して深く丁寧にお辞儀をする。


「今夜の御来店、誠に有難う御座いました。またいつでも、今度は皆さん揃って仲良くお店にお越し下さいまし」


地蔵店長はその深く穏やかな声を夜風に乗せるように響かせながら、これからの未来を担う輝かしい三人の若人を、どこまでも温かな眼差しでいつまでも見送るのであった。


---


###〜同じ釜の飯を食った絆と、夜闇を駆ける新たな目標〜


地蔵店長達の温かい見送りを受けながら三人が摩訶不思議食堂の木製の扉を開けて一歩外に出ると、夜の静謐な空気の中に、方輪車がまるで三人を待ち受けていたかのように、タイミングよく店の真ん前に静かに停車していた。

車輪の周囲で揺らめく不気味ながらも温かい炎が、暗い足元を仄かに照らし出している。


三人が車体へとゆっくり近づくと、カチリと音を立てて牛車の客席扉が自動で滑らかに開き、誘われるようにして晴道、才狐、綱江の順番で車内の心地よい畳敷きの客席へと乗り込んでいき、全員が着席したのを見計らうようにして客席扉が静かに閉まる。

すると、前方の御簾の隙間から、真っ白な腕がニューっと滑らかな動きで伸びて来て、支払いを促すように三人の前に御勘定札を提示してきた。


客席の中で、綱江が自身のカバンからスマートフォンを取り出しながら、晴道と才狐の顔を見て柔らかく微笑んだ。

「往路の運賃は才狐君が払ってくれたし、さっきの食事代は阿倍野君……晴道君が気前よく全部出してくれたからね。だから、この帰りの送りのお代金に関しては私に全部任せといて」


綱江はそう言って胸を張ると、差し出された御勘定札のQRコードに向かって、自身のお財布携帯をピッとなじませるように優しく翳すと。

直後、車内に「チャリーン♪毎度ありー」という、現世のコンビニさながらの実に軽快で陽気な電子音が小気味よく響き渡る。


運賃の決済が無事に完了したのを確認すると、前方の暗闇から方輪車の低く粋な声音が陽気に響いてきた。

「毎度ー♪御利用、誠に有難うございますー。ほな、皆様を安全に現世の日常までお送りするために、出発しまっせー♪」

方輪車が威勢よくそう声を上げると同時に、ゴトゴトと心地よい振動を伴いながら、巨大な牛車がゆっくりと滑らかに発進した。


流れる夜景を窓から眺めながら、晴道はどこか感慨深そうな、照れくさそうな笑みをその端正な顔立ちに浮かべた。

「なあ、綱江。俺のことを『阿倍野君』じゃなくて、初めて『晴道君』って名前で呼んだな」


晴道から指摘された綱江は、少しだけ頬を赤く染めながらも、優しい微笑みを返した。

「ふふ、まあね。こういうのを『同じ釜の飯を食った仲』って言うんかな。今夜の美味しいステーキ膳と豆餅を一緒に食べて、お互いの事をちゃんと知る事ができたから、よそよそしく苗字じゃなくて、名前で呼んでもええかなって思ったんよ」


「おう!そう言ってもらえるとマジで嬉しいぜ!それじゃあ改めて、これから宜しくな、才狐、綱江!」

晴道は心の底から嬉しそうに、白い歯を見せてガハハと豪快に笑った。

その晴道の真っ直ぐな言葉に対し、隣に座る才狐と綱江の二人も、お互いに対等な仲間として認め合うように優しい声を揃えて返した。

「「こちらこそ、改めて宜しく、晴道君」」


心地よい車内の静寂の中、晴道はシートに深く身体を預けながら、先ほどまでいた摩訶不思議食堂の温もりを思い出すようにして呟く。

「それにしても……本当にいい店だったな。飯が美味いのはもちろんだけど、地蔵店長さんの言葉には、なんだか魂を直接揺さぶられるような不思議な力があったぜ」


晴道がしみじみと余韻に浸っていると、綱江が楽しげにその美しい目を細めてクスッと笑った。

「ふふ、あれだけ大絶賛してるってことは、これで晴道君も、あのお店の常連確定やね。」


「ああ、当然だ!あんなに美味い肉が食えて、おまけに大切な智慧まで教えてもらったんだから、これから毎日でも通いたいくらいだよ。あ、でもさ、これからあのお店に自分達だけで行きたい時って、一体どうやって行けばいいんだ?今回みたいに方輪車さんに、毎回こうやって迎えに来て乗せてもらわなきゃ、あの摩訶不思議食堂には行けねえのか?」


晴道が前方の御簾に向かって素朴な疑問を尋ねると、暗闇の向こうから方輪車のクスクスという妖艶な含み笑いが返ってきた。

「ふふふ、私を呼んでくれはっても宜しゅうおすー。もしくは、晴道さんがこれから京都の街で出会う様々な怪異連中に対して、可愛くおねだりでもしたら、摩訶不思議食堂まで優しく連れて行って貰えるかもしれませんえ?」


方輪車がからかうようにそう言って笑うと、晴道は途端にバツが悪そうに自らの短い黒髪をガリガリと掻きむしる。

「ええ……。怪異におねだりって言われてもさ、俺ってば京都に来てからの数日間で、出会った怪異達に問答無用で喧嘩を売りまくってたからなあ。もう怪異ネットワークで、俺の最悪な噂が広まりまくってて、とっくに全員から嫌われてんじゃねえのか?」


晴道が本気で困惑している様子を見て、綱江は自業自得だと言いたげに少し苦笑いを浮かべながら、優しく諭すように言葉をかけた。

「もし本当に自分でそう思うんやったら、自分がこれまでにやってしもた理不尽な暴挙を、ちゃんと深く反省した上で、今度その怪異達に出会った時に、誠心誠意を込めてしっかりと頭を下げて謝りよし」


「お、おう……。そうだな、今度会ったらちゃんと謝るよ……」


綱江からの真っ直ぐな言葉に、晴道は自らの過去の行いを思い出して、再び小さくなって頭をかくしかなかった。

すると、神妙に反省していたはずの晴道が、何か突拍子もないことを思いついたかのように、突然その顔を跳ね上げて綱江を凝視する。


「あ、そうだ!なあ綱江、才狐、ちょっと聞きたいんだけどさ。女鬼ちゃんって、実際のところ彼氏とかいたりすんのか?」


「え!?いや、私はそこまでは知らんけど……。っていうか晴道君、さっき目の前で、あれだけ圧倒的な絶対強者のオーラを見せつけられたんだから、流石に女鬼さんの事については綺麗に諦めたんとちゃうん?」

綱江は晴道のあまりにもブレない節操のなさに、驚きを通り越して呆れたように首をかしげた。


「いやいや、あの凄まじいオーラを間近で観た時は、流石の俺も人生最大レベルでビビッて、マジで心臓が止まって死ぬかと思ったよ!でもな、それを差し引いたって女鬼ちゃんってめちゃくちゃ可愛いし、それに俺が落ち込んでる時に優しく頭を撫でて励ましてくれたりして、中身だって凄く優しくて良い子じゃねえか!あのギャップを目の当たりにして、俺は諦めるどころか、出会った時よりもさらに何倍も深く惚れ直したぜ!」

晴道は自らの熱い胸の内を証明するように、目を輝かせながら熱弁を振るう。


「うわぁ……。女鬼さんが本当に優しくて素敵なお姉さんなのは私も心の底から同意するけど……。晴道君ってば、本当に手のつけられない筋金入りの面食いやね」

綱江はハァと本日何度目か分からない深い溜息を漏らし、完全に呆れ返る。


しかし、そんな綱江の呆れ顔など一切気にすることなく、晴道は車内で自らの右拳を天井に向かって力強く突き上げると、熱い決意を店内の空間に宣言した。

「よし、俺のこれからの人生の目標は完全に決まったぞ!俺はこれから、もっともっと強くなって、誰もが認める一人前の最高の祓術師になってやる!そんでもって、地蔵店長から言われた通りに、内面とか男としての器もバッチリ磨いて、いつかあの女鬼ちゃんが本気で俺に振り向いてくれるような、最高の男になってやるからな!」


晴道がフンスと鼻を鳴らして熱く叫ぶと、綱江は自らの頭を優しく抱えながら、先ほどの店内のやり取りを思い返した。

「はあ……。まあ、さっきお店の中で女鬼さんも、晴道君にとってこれから人生の目標となる素敵な人と出会えるといいねって言うてはったけど。まさか、その目標となる存在っていうのが、女鬼さん自身の事になるとは思ってもみなかったわ。……まあ、志だけは立派やから、一応は応援くらいはしておこうと思うよ」

綱江は呆れながらも、その晴道のどこまでも前向きで真っ直ぐなエネルギーに対し、クスッと温かい微笑みを浮かべてその恋路を応援してあげることにした。


そんな若者達の賑やかで微笑ましい語らいの様子を、終始一言も発することなくジーっと観察するように、相変わらず一ミリも表情を変えない完全な無表情のまま静かに見つめていた才狐。

その底の知れない瞳の奥にどのような感情が渦巻いているのかは誰にも分からなかったが、彼はただ静かに、新しく仲間となった晴道を見つめ続けていた。


夜の京都の街を静かに、そして力強く疾走していく巨大な方輪車は、そんな若者達の未来への希望に満ちた賑やかな語らいの声を、前方のバックミラー越しに微笑ましく一瞥して確認すると、車輪の炎を優しく揺らめかせながら、静寂に包まれた古都の夜闇の中をどこまでも滑らかに走り去って行くのだった。


---


###〜同じ釜の飯を食った新しい絆と、和解へ向けた静かな夜〜


ガタゴトと心地よい音を立てて夜の古都を駆けていた巨大な牛車は、やがて速度を落とし、出発地点であった神泉苑の静まり返った境内へと無事に到着した。

定位置にピタリと停車すると、カチリと小気味よい音を立てて牛車の客席扉が開き、晴道、才狐、綱江の三人は順番に慣れ親しんだ境内の地面へと降りていく。


三人の足が完全に地面についたのを見届けてから、牛車の客席扉が再びスーッと静かに閉まり、前方の運転席から方輪車がひらひらと真っ白な手を振って、にこやかな笑顔を彼らへと向けた。

「毎度ありー♪ほな、皆様お休みなさいましー♪」


方輪車は粋な声を響かせると、車輪の炎を夜闇に美しくたなびかせながら、またしても颯爽と夜の街へ向かって走り去って行く。

三人は走り去るその後ろ姿に向かって、声を揃えて「「「有難う御座いました」」」と丁寧にお辞儀をして気持ちよく見送った。


車輪の音が遠ざかり、再び静寂を取り戻した境内で、群青の作務衣の袖を整えた才狐が、いつも通りの無表情のまま静かに口を開いた。

「ほな、僕らもそろそろそれぞれの家に帰ろか」


才狐が淡々と帰宅を促すと、晴道は「そうだな」と同意しつつも、ハッと思いついたように何かを躊躇う素振りを見せてから、思い切って言葉を続ける。

「あ、そうだ。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど……二人は袖引き小僧とか唐笠お化けとか、あと何だっけか、あの面白え顔をした火の鳥みたいな奴。あいつらの、大切なダチなんだよな?」


晴道から突然飛び出した怪異達の名前に、綱江は少し意外そうな表情を浮かべながらも微笑んで頷いた。

「え?うん、仲良うさせてもろてるよ。火の鳥みたいなんは、ぶらり火さんやね」


綱江が正確な名前を教えてあげると、晴道は自らの狼藉を恥じるように頭を掻いた。

「そっか、ぶらり火っていうのか。そんでさ……俺、あいつらにしちまった乱暴な事を、ちゃんと本人達に直接会って謝りたいんだ。だから、何とか二人の力で俺とあいつらの間を取り持ってくれねえかな?」

晴道はそう言って、胸の前で両手をぴったりと合わせる合掌のポーズを作り、同級生の二人に心からの真摯な願いを込めて頼み込む。


頭を下げる晴道のその実直な反省の姿を見て、才狐は声を少しだけ柔らかくして淡々と告げた。

「わかった。晴道君がそこまで本気で反省して謝りたいって言うなら、僕から彼らに声をかけてみるよ。それじゃあ、僕の師匠にも一度そのことを相談してみるから、少しだけ待ってて」


「お、マジか!ありがとな、才狐、綱江!本当に助かるぜ!あ、そしたらこれからの連絡のために、連絡先を交換しとこうぜ」


晴道が嬉しそうに声を弾ませて提案すると、三人はそれぞれのポケットからスマートフォンを取り出し、画面を近づけ合って手際よく連絡先の交換を済ませる。

そうして連絡先を繋いだ三人は、神泉苑の境内を出てすぐの場所から、それぞれの自宅へと向かう夜の路線バスへと乗り込み、それぞれの自宅がある最寄り駅に到着したところで順番に下車していった。


才狐と綱江の二人と別れてから、晴道は一人、京都での新しい生活の拠点であるマンションへ向かって静かな夜道を歩いていく。

玄関の扉を開けて中に入ると、今日の激しい疲れと満腹感からくる心地良い気怠さを感じながら、そのまま浴室へ向かって温かいシャワーを浴び、お気に入りのスウェットへと着替えて寝る前の静かなリラックスタイムをのんびりと寛いでいた。


すると、静まり返った部屋の中に、ピロンとスマートフォンの小気味よいメッセージ音が鳴り響いた。

晴道がソファに寝転んだままスマートフォンを手に取って画面を観ると、そこには先ほど連絡先を交換したばかりの才狐からのメッセージが届いていた。

画面には「明日の朝、指定した時間に、貴船神社に皆さんが集まってくれる事になった」という嬉しい知らせと共に、それぞれの怪異達が普段から特に好んでいる、現世の特別なお土産の情報が事細かに丁寧に書き記されていた。


才狐からの迅速で頼もしいメッセージを確認した晴道は、すぐに「本当にありがとう、助かった!」と、感謝を込めたお礼のメッセージを画面を叩いて返信した。

スマートフォンをサイドテーブルに置いた晴道は、天井を見上げながら小さな声で呟いた。

「よし……。明日は朝一で、美味え御土産をしっかりと買いに行かねえとな」


晴道は自らの心の動きを顧みることの大切さが身に染みながら、明日という新しい一日に向けて、静かに心地よい眠りへとついていくのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。