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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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97. 好奇心旺盛な二人

 パナシアンベリーの栽培が開始され、グレイとランジェはビニールハウス内に籠るようになった。


 時には交代しながら休憩をとっているが、基本的に二人同時でビニールハウス内にいる事が多い。

 食事はミュスカが準備した弁当を持参し、しまいには寝袋までも持参して張り込むように日夜関係なく栽培を続けている状態だ。


 寝袋に関してはランジェは栽培当日から持参しており、どうやら関連施設でも寝袋を持参しては自宅にほとんど帰っていなかったという。

 その事実を聞いたカネルは頭を抱え、賛同の言葉を挙げたグレイに向かって無言で蹴りを入れた。



 魔力放出機に対しては、定期的に魔力貯蔵機に魔力を補充していく必要がある。

 その為シルクが毎日魔力を補充し続け、お陰で魔力放出機はフル稼働状態だ。


 しかも魔力放出機は一台では足りないと判断され、急遽もう一台取り寄せてほしいというグレイの要望が出ては、それを見越していたかのようにクロテッド社長から追加の魔力放出機が送られた。

 お陰で二台の魔力放出機を扱う事になり、貯蔵機への魔力補充の頻度が増えてしまったのだが、それでもシルクはお構いなしに魔力補充を行った。



 ビニールハウス内は高濃度な酸素と高濃度な魔力で充満しており、グレイとランジェは中毒にならない為に専用の防護服を着用したまま栽培を続けていく。


 栽培の成果は順調であり、パナシアンベリーの種は見事に発芽し、枝は挿し木として効果を発揮し無事成長を進めている。




「ふへへ…パナシアンベリーの花をこの目で見るのも初になるんだよね。楽しみで仕方が無いよ」


「そのだらしない笑顔どうにかならないのか…」



 丁度休憩の時間となったグレイはビニールハウスの外に設置されているガーデンチェアに腰掛け、定期的に様子を見に来るカネルも同様に隣に並ぶガーデンチェアに腰掛けた。


 ミュスカお手製の弁当であるサンドイッチを食べながら、ビニールハウス内で作業を続けているランジェの姿を見つめる。




「あの子もなかなか見どころのある新人だねぇ。魔法植物の知識は勿論の事、素直で熱心だから教え甲斐があるよ」


「それは良かった。何気に博士呼びさせているのはどうかと思うがな」


「良いじゃないか、その方が僕は気分が上がるし研究を思うように進められるし。本当、どうして皆素直に博士って呼んでくれないのかねぇ。呼んでくれるのはシルクとランジェくらいだよ?」


「どうしてだろうなぁ、鏡に向かって問いかけてみてくれ」



 カネルは不貞腐れながらサンドイッチを頬張るグレイに視線を向け、突然ではあるが気になっていたことをぽつりと問いかけた。




「なぁグレイ、シルクさんは何者なんだ?」


「んー…カネルはシルクの様子を何処まで見たんだい?」



 質問を質問で返されるも、カネルは記憶を辿りながら答えていく。


 魔力が高いのは勿論の事、魔物を急所で仕留めていたらしき事。

 異言語魔法を使いこなしている事、疲れを全く見せない事。




「あとは…何と言うか、感情をあまり表に出さない人だなとも思ったな。何を考えてるのか分からなくなる」


「成程ねぇ…一応シルクにも感情はあるよ。笑う時はそれはもう綺麗な笑顔でね」


「見た事があるのか?」



 カネルは驚いた表情をグレイに向ける。

 グレイは得意げな笑みを浮かべながら言葉を続けた。



「一度だけだけどねぇ。感情を表に出さなくなったのは、これまでの人間関係で疲弊しちゃった代償みたいなものだと思うよ」


「人間関係で疲弊、ね…流石にあまり深く詮索する訳にはいかないか。まだ若いのに、一体どんな人生を送ってきたのやら」


「うーん…若い…か」



 グレイが言葉を濁すように呟いたのをカネルは聞き逃さなかった。

 カネルはまさかと思い、目を軽く細めてグレイに問いかける。



「もしかしてシルクさんは妖精族だったりするのか?」


「いいや?シルクは正真正銘の人間だよ」


「じゃあなんだよさっきの言い方は…ちなみにシルクさんの年齢を知っているのか?」


「いいや、知らないよ」


「はぁ?」



 カネルはジト目を向けるも、その後目をぱちくりとさせて固まる。

 グレイの真剣な横顔から、嘘を言っているように見えなかったのだ。




「実を言うと、僕もシルクについては分からない事だらけなんだよね。シルクが此処に越してきてからもうすぐ1ヵ月になるかな。その間、仕事以外は顔を合わせて話をしているんだけど、分からない事が判明するどころか、新たに謎が出てくるばかりさ」


「…それなのに、信用はしているんだな」


「まぁね。シルクは素直だし、一緒にいると飽きないし面白いんだよ」


「成程…確かに好奇心旺盛なグレイとは相性が良さそうだな」



 カネルはクロテッド社長の邸宅での出来事を思い出す。

 シルクの落ち着いた振る舞いや、そこからは予想できない程の堂々とした宣言。

 迷いのない、揺るがない真剣な表情で言葉を述べる姿。


 グレイの事を好奇心旺盛だと言ったカネルだが、それは自身に対しても言える言葉であった。




「是非シルクさんの討伐姿を見させてもらいたいな。何でも屋である事を明かしてくれたし、裏魔法協会を通さなくても直談判すればいけるか?」


「あまりシルクを困らせないでくれよ…?一応シルクは人見知りであるのには変わりないんだからさぁ」


「あぁ、善処するよ」



 シルクの詳しい事は結局分からずじまいになったが、カネルは満足気な表情を浮かべていた。


 グレイの様子からして、他にも知っている事はあるのだろう。

 しかしそれを簡単に言わないところはグレイの優しさだとカネルは知っている。


 何でも屋である事は判明したのだ、依頼として関わりが増える可能性は十分ある。

 ならばその関わりの中でシルクの事を知っていけば良いだけだ。




「グレイ博士、カネル先輩も!此方に来て下さい!」



 ビニールハウスからランジェが遮光眼鏡を外しながら顔を出し、二人に向かって大きな声をかける。

 グレイは直ぐに立ち上がっては小走りでビニールハウスに向かい、その後をカネルも続いて追う。


 ランジェはやや興奮気味に、ビニールハウスの中心で育てられているパナシアンベリー二株を指す。

 それぞれの株には開花寸前の小さな蕾が出来上がっていた。

 それを見た瞬間グレイも興奮気味になり、ビニールハウスから飛び出てはカネルの両手を握って激しく上下に振りかざした。



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