表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
94/119

94. 準備完了

 空には太陽が昇り、雲一つない青空が広がっている。


 太陽光に照らされているアパート内にて、グレイは興奮を頑張って抑えようと身体を震わせていた。

 頬は紅潮し瞳をきらきらと輝かせ、テーブルの上に置かれているパナシアンベリーの枝と種を交互に忙しなく瞳を動かしては、それぞれを凝視する。


 シャロンとミュスカはそんなグレイの様子を若干引きながら見守りつつ、テーブルに置かれている二つを物珍しそうに、偶に視線を移したりしている。


 グレイと向き合うようにソファに座っているシルクは無表情のまま口を開いた。




「これで栽培を進められます。博士、よろしくお願いします」


「た、たた、種だけじゃなくて!この枝もそうなんだよね、パナシアンベリーのなんだよね!?」


「はい、無事見つけられて良かったです。魔法薬学会には使用許可を得ていますので、安心して使用してください」



 グレイは白衣のポケットから白い手袋を取り出しては直ぐに着用し、一粒の種を手にのせ、続いて枝を手に持ってと忙しない行動を続ける。

 暫くはこの様子が続くだろうとミュスカは呆れつつ、シルクに視線を向けては息を呑んだ。



「帰ってきて早々で申し訳ないのですが、何がどうなってこうなったのか…説明して頂けませんか?」


「俺も気になる!急に事が進んでて混乱してるんだよ!」



 ミュスカとシャロンはずいと前のめりの状態になってシルクに問いかける。

 シルクがアパートに戻って来たのはつい数分前のことであり、そして現在このような状態なのだ。二人が混乱するのも無理は無い。



 クロテッド社長の邸宅に向かった後、予定通りに魔物討伐へ向かった事。

 討伐先であるミルティーユ山がパナシアンベリーの生息地である為、そのまま探索した事。

 無事生息場所に辿り着いて枝を入手した事。

 裏魔法協会に戻り、ティピック達と共に魔法薬学会へ直談判しに向かった事。


 シルクは一通りを淡々と説明したが、話を聞き終えた二人はまだ理解できていない点がある為か首を傾げている。



「枝を入手して、その使用許可を得られたのは分かりました。ですが種の方ですよ。あの施設長が渋っていたのに、すんなりと許可を出すだなんて」


「やっぱり種も魔法薬学会から直々の許可って事なのか?」


「そうですね…半分合ってます」


「半分?」



 半分とはどういうことなのか。

 途中から話を聞いていたのか、グレイはにやにやとした笑顔のままシルクに視線を向けている。


 一応終わった事ではあるし、言っても良いだろうとシルクは判断して率直に答えを出した。



「結論から言えば、施設長は解雇されました。今後あの関連施設では別の人が新しい施設長に任命されるでしょう」


「解雇ぉ!?」


「あははは!これはまたぶっ飛んだ展開だねぇ、詳しく教えてくれないかい?」



 グレイはお腹を押さえながら大きく笑う。

 再び急展開な話題となった事でミュスカは固まってしまい、シャロンは開いた口が塞がっていない状態である。




「以前私が不貞調査の仕事に向かったのを覚えていますか?」


「あぁ、クイチェで買い物をした後のでしたっけ…え、まさかその不貞調査のターゲットって!」


「はい、その施設長です。依頼人は施設長の奥様で、証拠特定が難航していたという事で私に依頼の話が来たのですが…」





 その依頼は不貞の証拠を複数特定した事で無事遂行された。

 しかし、同時にシルクは不貞以外の情報を入手してしまう。


 関連施設の内部情報、魔法薬学大学にて保管されているであろう貴重な資料を無断で使用している現場を、更には魔法植物の違法取引についての情報を他者と取り扱っている現場を見事に目撃したのだ。

 シルクは証拠として密かに写真を収めたり情報を集め、見事に不貞以外の極秘情報をまとめてしまう。


 ティピックからも、別の何かしらの情報を掴んだ場合もそのまままとめてもらって構わないと言われていた為、その通り遂行したのである。



 不貞情報と同時に提出した情報がまさかここで役立つとは、流石にシルクも予想していなかった。

 しかし魔法防衛省を訪れた日に施設長の話が出ると、シルクは違和感を覚え、不貞調査の事を思い出したのである。


 もしシルクが関連施設に伺っていれば、施設長の顔を見た瞬間に思い出していたのかもしれない。

 しかし調査時にシルクは狐面をつけておらず、変装と言えど完全に素顔を隠しているわけでは無かった。

 直接施設長と対面して会話する事もあった為、やはりあの時関連施設に向かわなくて正解だったな、とさり気なく安堵の息を漏らす。



 一通りの説明を聞き終えると、グレイは満面の笑みを浮かべてぐっと親指を立てる。



「グッジョブだよシルク、本当君は最高だよ。僕の無念を晴らしてくれてありがとうね」


「今回のは本当に偶然でしたので…でも、お役に立てたのなら良かったです」



 シルクは気にしていないが、明らかに私情を含んだお礼にシャロンとミュスカは苦笑いを浮かべる。



 そこで、玄関からベル音が鳴り響いた。

 ミュスカが玄関へと向かう為に広間から出る。


 訪問者についてはグレイ達も把握しており、ソファから立ち上がって訪問者が広間に入ってくるのを待った。



 広間に入ってきたのはカネルと、小柄でほっそりとした女性。

 女性は緊張した様子でカネルの後ろに身を隠す様にしていたが、深呼吸してからシルク達の前に立った。



「えっと…お、お久しぶりですグレイ博士!そして、あ、貴方とは初めましてですよね!」



 身長が高いシルクにとって、目の前であたふたとさせている女性はとても小柄に見える。

 周りに高身長である者が多いというもあるのだが、今この場にいる中ではこの女性が一番身長が低い状況である。



「ランジェ・ティミッドと申します。今回のパナシアンベリーの件では、本当に感謝しかありません。栽培については是非私も協力させてください!」



 よろしくお願いします、と深々とお辞儀をしてから顔を上げると、ランジェは目の前にいるシルクを見上げては緊張して固まってしまう。



「シルクです…よろしくお願いします」



 シルクも挨拶をしてからお辞儀し、顔を上げてはランジェと視線をぶつけあう。

 数秒沈黙が流れたところで、グレイが間に割り込むような形で二人に声をかけた。



「それじゃあ早速にはなるけど、栽培の準備に取り掛かってしまおうか。アパート裏の空き地に向かおう!」




 意気揚々とした様子で枝と種を抱えながら、グレイは小走りで玄関へと向かってしまう。

 シルク達はそんなグレイを追いかけるようについて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ