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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
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93. 直談判

 広々とした先の長い廊下をティピック達は歩いていく。

 ふと視線を窓の方へ向けると、空は暗い夜空で染められているが、少しずつ明るみを帯びようとしている。


 ティピックを先頭に、ウィンとシルク、続いてカネル達魔物討伐特攻隊が静かに前へと進んでいく。



 此処は魔法薬学会本部。

 夜明け前という時間外であるにも関わらず、ティピックの連絡一本によって案内が無事進められていた。


 流石は数多の情報網、連絡網を使いこなしているだけはあるな、とシルクは無表情のまま改めて感心する。

 同時に、ティピックが「緊急の事なんだから仕方が無いだろう?」と敢えてカネル達の方を見ながらそう言っていたのを思い出し、背後からの視線をやたらと感じては溜息を零した。


 特に部下達からの視線がティピックの方へと鋭く向けられており、カネルを煽りに煽る態度が気に食わないのもあるのだろう。

 それでもティピックは平然とした様子で前を向いて、全く気にせず余裕な態度であった。



 大きな扉の前に辿り着くと、扉は開かれて中の様子が露わになる。

 威厳を漂わせた数名の男女が座席に座っており、一斉に此方の方へと視線を向けた。



「ティピック殿本人が伺いにやって来るとはな。緊急の要件と聞いているが、どのような要件かね」


「わざわざこのような時間帯に集まっていただき、心より感謝申し上げます」



 ティピックはうやうやしくお辞儀をしながら言葉を述べる。

 同時にウィンとシルクも頭を下げ、釣られるようにカネル達も同様に頭を下げる。


 相手は魔法薬学会会長、その周りには幹部達。

 皆威厳のある佇まいと魔力を備え持っており、緊張感で汗が滲み出そうになる。



 そんな中、ティピックは唯一にこりと営業スマイルを浮かべながら顔を上げた。

 そのまま右手を動かし、斜め後ろにいるシルクに視線が向くよう促す。




「まずは一つ目の要件について…パナシアンベリーに関する要望でございます」



 シルクは静かにティピックの隣まで歩みを進めて立ち止まる。

 ポシェットから布に包まれたパナシアンベリーの枝を取り出すと、幹部達は一瞬騒めいた。



「此方は何でも屋を営む魔法使いでして、今回の依頼先にて偶然パナシアンベリーの株を発見し、その一部として枝を入手する事に成功しました」



 偶然という言葉を強調し、カネルはつい苦笑いを浮かべる。




「あの過酷な環境である場所から株を発見したとは、40年前に発見された時以来じゃないか」


「でも実ではなく枝を持ち帰るとは…それでも保護対象にはなるかしら」


「…ティピック殿は要望と言ったね。詳しい要望を教えてくれ給え」



 幹部達が若干興奮気味に言葉を交わしていく中、会長の言葉によって再びティピックに注目が移る。

 ティピックは営業スマイルから真剣な表情に切り替わった。




「パナシアンベリーの栽培を試みる為、此方の枝の使用許可を頂きたいのです」



 再び幹部達が騒めき、会長は黙ってティピックの様子を伺う。

 黙っている様子は続きの言葉を待っているようにも伺え、ティピックはそのまま続きの言葉を述べた。




「希少で滅多に実る事のないパナシアンベリーではありますが、現在、そのパナシアンベリーの実を必要としている者がおります。その者の為にも栽培の許可が必要なのです」


「…それは、パナシアンベリーの価値を承知の上で言っているのかね」



 会長の低い声が室内に響く。


 パナシアンベリーの一つの株から生る実は最大三つと言われており、実一つだけでも十分効果を発揮する魔法の果実だ。

 栽培の事例が無いと言えど、もし仮に栽培が成功すればどうなるのか。

 良い可能性だけでなく、悪い可能性も考慮する必要がある。



「勿論でございます。万能薬として扱われるパナシアンベリーは、場合によっては悪用される可能性もあるでしょう…しかし、現時点でパナシアンベリーについて理解できている事はどれほどの物でしょうか」



 会長の片眉がぴくりと上がる。




「過去に入手された実は40年前の物であり、そちらは種として施設で保管されています。保管されている期間の中で、パナシアンベリーについての研究はどのようにか進められていたのでしょうか」



 幹部達も黙って言葉を発さない。

 実際パナシアンベリーの種が保管されてから、パナシアンベリーについての新たな情報は何も送られていないのだ。

 万能薬として扱われるという情報は、40年前の情報で止まっているのが現状である。


 厳重保管された施設は栽培施設であるにも関わらず、その希少性から手を出すのを恐れ続けられてきたのだ。




「私としては、このまま新たな情報が出ずに時が流れて行く方が…知らないままでいる事の方が、今後大きなリスクを伴いやすいのではと考えています。無知ほど恐ろしいものはございません」


「…その栽培は、現在種が保管されている施設にて行われるのかね」




 ティピックは口角を上げ、一瞬ギラリと瞳を輝かせた。



「栽培については、魔法薬学研究者であるグレイ・ケミスティア氏の元で行われます。勿論関連施設の研究員も動員されます」



 会長は軽く俯いて数秒考えるように沈黙するも、その後顔を上げては落ち着いた声色で告げた。




「…分かった、許可しよう。栽培が成功した際、使用された実の種と余った実についてはこちらが一度回収するという条件付きになるがね」




 ティピックが感謝の言葉を述べ、再びお辞儀をする。

 カネル達が静かに安堵の息を漏らすも、ふと視線を上げた時にシルクがティピックの前へと足を進めるのを見て、一瞬身体を強張らせる。


 前に出てきたシルクに会長と幹部達は注目する。

 ティピックは特に声をかけず、好奇心を含んだ瞳でシルクの後ろ姿を見つめていた。




「パナシアンベリーの栽培について、もう一つ許可を頂きたいことがございます」


「ほう、言ってごらんなさい」



 シルクの無表情さを真剣な表情だと思い込み、会長はそのまま言葉を促す。



「私の入手した枝だけでなく、現在施設にて保管されている種も使用させてください」


「枝さえあれば挿し木として利用できるのに、種も使うと言うのか」


「はい。栽培事例を多く残す事も今後の貢献になるかと。それに、一株で栽培するよりも二株以上で栽培する方が、受粉効率が上がりますので」


「…栽培事例が無い中で、君は失敗の可能性を考慮しているかい」



 敢えて厳しい言葉を振りかけてくる会長に向かい、シルクは真っ直ぐと視線を向けて宣言した。





「失敗の可能性を優先しては何もできません。それに博士…グレイさん達ならやり遂げると信じています」


「ははは!やる遂げるのはシルク君も一緒に、だろう」



 ティピックはつい笑い声を漏らしながらシルクの隣に立つ。

 会長はシルクの方をじっと見つめ、肩の力を抜くようにふうと呼気を吐いてから薄っすらと笑みを浮かべる。



「成程…まさかティピック殿の元にこのような頼もしい魔法使いがいたとはね。そのやり遂げると言う可能性に賭けてみよう」


「ありがとうございます」



 シルクは深々とお辞儀をし、心の中で安堵の息を漏らす。

 そのまま振り返り、頬を紅潮させて感動しているような表情を浮かべているウィンの隣に戻った。



 さて、ここでようやく一つ目の要件を伝え終えた。

 一つ目の時点で驚愕される内容であったが、続いての二つ目については、どう思うだろうか。

 シルクは背後からティピックに注目する。




「では種については関連施設の方で許可を得る必要があるな…そちらに声はかかっているのかね」



 カネルは関連施設での施設長の対応を思い出し、複雑そうな表情を浮かべる。

 しかし今目の前にいるのは魔法薬学会会長と幹部達。

 施設長よりも、更には魔法薬学大学関係者よりも上の立場の方々だ。

 これはもしかしたらいけるかもしれない、そう考えていた。


 しかし、カネルの考えとは違った方向で話が進む事になる。




「その関連施設の施設長について、お伝えしなければならない事がございます。こちら、二つ目の要件になります」



 ティピックは手元に一つの封筒を召喚させる。

 中には何枚もの書類が入っているのであろう、封筒は分厚くなっている。


 会長と幹部達は封筒に注目する。

 ティピックは真剣さを保とうとするも、つい怪しい笑みを零しては営業スマイルに切り替えて誤魔化した。





「こちら、何でも屋がとある依頼の最中に入手した”極秘情報”でございます。是非皆様に目を通していただき…適切な判断をしていただけると幸いです」

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