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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第三章:波乱な依頼
92/119

92. 同行

「…これは驚いたね」



 裏魔法協会にて、ティピックは目をまん丸とさせて驚いた表情を浮かべていた。

 隣ではウィンが口元を両手の指先で隠しながら、顔を青ざめさせて小刻みに震えている。


 そんな二人の目の前にいる人物達は、カネル率いる魔物討伐特攻隊、そして狐面を外したシルクだ。




「私はシルク君しか此処に来る事を聞いていないのだけど、君達は本当に突然だねぇ。せめて一報入れてくれれば良いのに」


「突発的な事だったもんでね、シルクさんからは一応許可は得ている」



 シルクは無表情ながらも複雑だと言わんばかりの雰囲気を滲み出しており、若干ジト目でカネルの様子を伺う。

 そんなシルクの様子に気付いたウィンは、青ざめさせていた顔をみるみるうちに赤く染め上げた。




「なんて事を…許可を得ただなんて嘘に決まっております!シルク様を脅して無理矢理同行するなんて許せない行為です!貴方達を今すぐ氷漬けにして差し上げます!」


「ウィンさん、私は大丈夫です。脅されていませんから」



 シルクの落ち着いた声を聞くと、声を荒げていたウィンはぴたりと止まってこほんと咳払いしては大人しくなる。

 カネル達は突然荒ぶりだしたウィンの様子に驚いてつい固まってしまった。



「今回はシルク様の温情に免じて、氷漬けにはしないでおきましょう」


「ウィン君落ち着き給え、素が出てしまってるよ」



 ティピックは苦笑いを浮かべ、シルクは安心するように軽く息を吐いた。



 シルクは裏魔法協会に到着するまでの間、ビジネスジェット内にて再び質問攻めにあっていた。

 また始まってしまったか、と半ば諦め状態のまま答えられる範囲で淡々と、時には誤魔化しながら質問に答えていったのである。

 大丈夫だとは言ったものの、もう質問攻めは懲り懲りだと思いながら、追加で密かに溜息を零した。




「秘書さんって無表情で大人しい人だと思ってたけど、これが素なんだ…」


「一瞬気温が下がらなかったか?」



 カネルの後ろ側にいたペーシェとレザンはひそひそ声で言葉を零す。

 ウィンが無表情で大人しい?とシルクは静かに首を傾げるも、瞬きと同時に背筋を正してティピックの前へと足を進めた。



「異常発生されたホワイトウルフの討伐、完了しました」


「あぁ、今回もお疲れ様」



 ティピックは手渡された封筒の中から依頼書を取り出して内容を確認すると、浮遊魔法で依頼書をふわりと浮かせては依頼達成済みの書類の山の上にひらりとのせた。




「それで、例の物は手に入ったのかい?」



 ティピックは好奇心を含んだ瞳でシルクに尋ねる。

 シルクはポシェットに手を突っ込み、中を探る様に腕を動かすと、ゆっくりと目的の物を取り出した。


 その手に握られているのは、布で包まれた細長い棒状のもの。




「はい、パナシアンベリーの枝を無事入手できました」


「流石だねぇ、見つけるのに苦労しただろう」


「山に詳しい者に協力して頂きましたので」




 シルクの言う山に詳しい者とは、スノーコンドルのことである。



 ホワイトウルフ討伐後、シルクはミルティーユ山中腹を目指して歩いていた。

 その途中で見つけたスノーコンドルに異言語魔法で話しかけ、パナシアンベリーが生る場所を特定したのである。

 中腹に近付くにつれて険しい環境になっていく為、途中からはスノーコンドルの背に乗った状態で探索し、無事生息場所に辿り着いた。


 パナシアンベリーの実自体は流石に生っていなかったが、シルクにとって実は目的では無かった。

 地中から生えた頑丈な主軸枝から、更に分かれるように伸びている頑丈な枝の一部。この枝こそがシルクにとっての目的のものだ。



「これを挿し木として使用すれば、パナシアンベリーの栽培を進める事ができます」


「やはりシルク君は特別な何でも屋…万能屋だねぇ。それじゃあ私も張り切っていこうじゃないか」



 ティピックはロッキングチェアから立ち上がり、ぱちんと指を鳴らすと真っ黒なトレンチコート、真っ黒な中折れハットを着用した姿に変化する。

 如何にもこれから外出するという姿に、カネル達は目をぱちくりとさせる。

 ティピックは悪戯を考えている子どものような笑みを浮かべた。




「君達には来て貰って早々で申し訳ないが、私達はこれから魔法薬学会に用があってね。シルク君と共に一旦此処を離れなければならないのだよ」


「魔法薬学会に?」



 パナシアンベリーの枝を入手したのだ、その報告をする為にも魔法薬学会へ向かう必要はある。

 しかしそれをシルクだけではなく、ティピック達も同行する必要性があるのだろうか、とカネルは疑問を浮かべる。


 一体何を企んでいるんだと言う視線を向けられているティピックは、目を細めては笑顔で提案した。




「あぁ、そういえばパナシアンベリーの栽培については一応君も関わっているんだっけ。なら部下達も引き連れて一緒について来るかい?シルク君について来るくらい時間に余裕があるんだろう?」


「…へぇ、ならお言葉に甘えてしまおうか。だが時間に余裕があるというのは語弊があるな。あと、ついて来るじゃなくて送って来る、な?」


「おやおや、随分とご丁寧にどうも。ならついでに私達も送ってくれないかい?」


「勿論だとも。到着まで色々とお話ししようか」




 ティピックとカネルの間で火花が散る。

 そんな二人の様子を部下達は冷や汗を流しながら見守り、ウィンはつんとした表情で静かに溜息をつく。

 シルクは一抹の不安を覚えつつ、ポシェットにパナシアンベリーの枝をしまい込んだ。

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