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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
序章:出会い
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6. 辿る

 物寂しさを感じられる一階の広間にて、シルクとグレイは数時間前の時と同様にソファに座っている。


 異なる点があるとすれば、テーブルの真ん中に大炭草(おおすみぐさ)が入れられた小瓶が一つ、各手前にティーカップが置かれていること。

 そしてグレイがシャワー上がりで白衣を着用していないことくらいだ。



「久しぶりにまともに身体を洗った気がする」


「普段から清潔を保つようにしてください」



 シルクは冷ややかな視線を向けながら、淹れられた薄いハーブティーを口にする。

 グレイは苦笑いしながら微妙に視線を逸らした。




 しばらく洗わず放置されていた髪に対し、初めは洗髪剤がなかなか泡立たず、雑に済ませて上がろう考えていた。

 しかしシルクからのごみを見るような視線を思い出し、やはりまともに洗おうと追加で洗髪剤に手を伸ばしたのを思い出す。


 そうしてグレイにとって普段より比較的長い時間をかけてシャワーを終わらせた。一苦労したと感じると同時にさっぱりした気もしている。

 シャワーを終えて再び白衣を着用しようとするも、綺麗になったところに薄汚れたままの白衣を着用するのは流石にどうかと思い、諦めて洗濯用の籠に突っ込んだ。


 白衣はグレイにとってのアイデンティティの一つであるため、複雑な表情をしながら自室を後にしていた。



 シルクの部屋に再び訪室すると、新たにすり潰した薬草を瓶に詰めている光景を目にしては飛び掛かる勢いで近付き、見えない壁のようなもので阻止された。

 見えない壁というのはその名の通りであり、シルクが瞬時に発動させた魔法障壁である。



 そんなこんなで二人は話し合いをする為に広間に移動し、現在に至る。




「聞きたいことが山ほどあるけど、まずは凄く気になるこれから聞こうかな」



 グレイはテーブルに置かれた大炭草の小瓶を手に持つ。

 きらきらと瞳を輝かせながら持つその様子は、まるで無邪気な子どものようだ。




「本当に自生していた場所は覚えていないのかい?」


「はい、旅の最中に偶然見つけたので」


「どんな環境だったかも思い出せないのかい?山の中とか、乾燥した場所だったとか…ちょっとしたことでも良いんだ」




 はて、とシルクは頭上に記憶を浮かべるように考える素振りをする。


 シルクは様々な国や地域を跨いで旅をしながら仕事をしていた。

 その動機は世界を一周したいだとか、新しい発見をしたいだとか、そういった純粋なものではない。


 単に仕事だから。それだけのことであった。



 現在は個人的に依頼を引き受けてこなしていく、何でも屋として活動している。

 各国に置かれている魔法協会には多くの依頼が集められており、内容は多種多様。中には物珍しい薬草の調達も含まれたりする。


 しかし今回の大炭草に関しては、仕事とは関係無く偶然見つけたものであった。

 ぼんやりとした記憶を少しずつ辿り、大炭草を見つけた時の光景を思い出そうとする。




「確か…洞窟だった気がします」


「洞窟に自生しているとは…これはまた興味深いね」



 グレイは小瓶を持ち上げて中に入っている大炭草をじっくり観察する。

 そんな様子にシルクは少し違和感を感じるが、直ぐに違和感の原因に気付いた。

 今のグレイは眼鏡をかけていないのだ。



「眼鏡をかけた方が見えやすいのでは」


「あぁ、あれ伊達眼鏡なんだよね。シャワー上がりだし部屋に置いてきちゃった」




 グレイは形から入るタイプのようだ。

 今はシャワー上がりで汚れた白衣を着るのを諦めているが、いざ研究者という立場を自覚すると白衣に続いて眼鏡が無いと落ち着かなくなる性分でもある。


 普段から伊達眼鏡を付けているからか、偶に鼻あてに当たる部分に軽く触れようとしては離している。



(不思議な人だなぁ)



 ぎらりと眼鏡を光らせて迫ってきた時の様子を思い出し、今はそんな地味に眩しい思いをすることは無いなと適当な感想を勝手に心の中で述べる。



 そこで、「あ」と何かを思い出したかのように声を漏らした。

 小さな声であったがグレイには聞きとられてしまったようだ。




「何か思い出したのかい!」



 本当に些細なことであったとしても嬉しいのだろう、瞳を輝かせて身を乗り出すようにシルクに問いかける。

 眼鏡が無くても眩しい思いをすることになるとは、と心の隅で考えつつシルクは思い出した内容を口に出した。




「その洞窟には自然発光する鉱石がありました。青や緑と色の種類は沢山ありましたね」


「自然発光する鉱石…フローライトかな」




 フローライトは本来無色だが、不純物が混ざることで黄や青、緑、紫などの様々な色を持ち、紫外線や加熱によって発光する。

 時には割れて弾け飛び、その光弾ける様子がまるで蛍に見える。

 それが由来し蛍石と呼ばれることもある。




「そこは太陽光が入りやすい浅い場所?」


「いや…結構奥深くまで入った記憶があります。太陽の光が入らない程奥に進んだかと」


「それなら熱によって発光していたことになるね。そうなると地熱…火山帯付近かな」




 グレイは手元で小瓶をころころと回転させながらぶつぶつと呟き考える。

 シルクはハーブティを一口飲み、当時の洞窟での様子を思い出そうと宙を眺めた。

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