7. 大炭草
大炭草は主に酸素濃度の薄い高山や、気温が高く乾燥している場所で自生する。
育った地域によって特性が異なり、酸素濃度が薄いのみの環境で育ったものであれば、火おこしには向かないが養分が多く含まれ、肥料として扱いやすい。
逆に気温が高く乾燥している地域であれば、肥料としては向かないが火おこしの燃料として長持ちしやすい。
どちらも共通して言える特徴は消臭効果があること、そして形状だ。茎から葉まですべて黒く染まっており、細い茎に細長く小振りな葉が特徴的である。
「植物が育つ上で必須となる要素は主に水、養分、光、空気、温度だ。でも大炭草の場合は酸素濃度が低いという条件が無いと育たない特殊な魔法植物。余計に酸素を取り込ませるとどうなるのか実験したことがあるんだけど、見事に成長が止まって枯れてしまったからねぇ。本当面白い植物だよ」
当時の実験の様子を思い出しているのか、グレイは口元を緩ませてにやにやと笑い出す。
白衣と眼鏡を着用してれば怪しい研究者だが、今は着用していないのもあり、只の怪しい変態にしか見えない。
更に何か思い出さないかと言わんばかりにシルクの方を見つめ、シルクは敢えて視線をティーカップの中に移す。
水色のような紫色のような、寒色系の色合いの中に薄っすらと自分の顔が移り込む。
…そういえばあの時もこんな色だったような。
シルクは当時の洞窟の様子を少しずつ思い出していく。
―
――
薄暗い洞窟の中。
奥に進んでいくにつれてからりとした暑さが増す。
汗が滴り、喉の奥が渇いていく。
薄暗い中を目を凝らして歩いているせいか、軽い頭痛と視界のぼやけが気になってくる。
足場が悪く凸凹した地面を踏みしめていくと、薄暗い視界に少しずつ彩りが浮かぶ。
青、紫、緑、黄、薄桃と、色とりどりの淡い光が辺りに散らばっていた。
淡い光が続く洞窟内を更に進んだところ。
一部分が漆黒で埋め尽くされている場所を見つける。
がっしりとした太い茎が天井にまで上り詰め、無数に分かれた茎からは大きい葉が一枚一枚自らを主張するように生えている。中には掌よりも大きいものもあった。
…ふと視線を更に奥、まだまだ続いていく洞窟の先へと向けた。
――
―
(そうだ…確かあの時は、更にその先を目指していたんだ)
途中で見つけた特殊な大炭草はあくまでも偶然見つけた物。
そもそも何故自分はあの洞窟に入っていたのか。
…あぁそうか。あの時自分は、その先にいる―――
「おーい、急にぼーっとしちゃって大丈夫かい?」
シルクははっとして顔を上げる。
それと同時にグレイと視線がぶつかった。
思ったよりも距離が近くなっており、反射的に頭を後ろに引く。
「近いです」
「あはは、時間が止まったように動かなくなるからちょっと心配したけど大丈夫そうだね。更に何か思い出さなかったかい?」
シルクは軽く肩を揺らすも、その後は落ち着いた様子で思い出した光景をグレイに伝えた。
葉が大きいだけでなく茎は太かったと特徴を説明すると、グレイは目を輝かせていた。
「その茎も持ち帰ってたりは…?」
「ありますよ」
「あるのかい!」
座り直したにも関わらず、グレイは再びソファとの距離を離す。
今すぐ見てみたいと言わんばかりに手で虚空をわきわきと掴むような動作をしだし、興味が湧くを通り越して興奮している様子にシルクは更に後ろに退きたくなる。
固定されたソファである為直ぐ後ろに退くことは叶わないのだが。
シルクは手持ちのポシェットに手を伸ばし、ごそごそと中を漁る。
取り出したのは大炭草の葉が入れられているものと同様の小瓶。
中には切り分けられた黒い茎が数本入れられており、どれも直径1㎝程はある。
通常の大炭草の茎でも最大直径5㎜程である為、その倍の大きさとなる。
グレイは差し出された小瓶を手に取り、葉が入っている小瓶と交互に見てから二つをテーブルに優しく置いた。
「この大炭草、今後の研究で使わせてもらっても構わないかい」
「えぇ、大丈夫です」
まだ手持ちにはあるしな、と思いながらシルクは頷く。
その後グレイが再び飛びつかん勢いで近付いてきた為、再び透明の魔法障壁を発動させることになった。




