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44. 喫茶店にて

様々な店が並び、多くの人々が入り込んだ大通りから離れた場所。

人通りが少なく静かな印象且つ落ち着いた雰囲気が漂うとある一本道。


そんな道の途中にある喫茶店にシルク達は足を踏み入れていた。



「クイチェにこういったお店があったんですね」


「いつも大通り辺りしか行ってなかったからな」



ミュスカとシャロンは初めて入る喫茶店に緊張した様子である。

グレイにとっても初めての入店となるが、2人とは違って普段通りのけろっとした表情のままだ。


シルクはと言うと、きょろきょろと視線だけを動かして周りを伺っている。表情は固まっていて緊張している状態だ。

そんなシルクの様子に気付いたティピックは軽く笑いながら語り掛ける。




「安心しなよ、この時間帯は客の出入りが少ない。基本的に此処は夜の方が賑わう店だからね」




ティピックは慣れた様子で店員に声をかけ、店員もティピックとは顔馴染みなのか慣れた動作で席へと案内していく。



4人掛けのテーブルと2人掛けのテーブルを合わせた状態の席が準備され、シルク達はその席に腰をかける。ソファ席にティピック、シルク、ウィンの順で、椅子席にミュスカ、グレイ、シャロンの順で着席した。


ウィンはシルクに詰め寄り肩をくっつけた状態でメニュー表を一緒に眺めている。



「シルク様と食事を共にするのは久しぶりです。何か気になるものはありますか、私はこちらをお勧めします」


「量が多すぎるものはまだ…」


「その様子だとまた断食していたのかい、相変わらずだねぇ」


「…シルクの体質を知っているのかい?」


「あぁ、長い付き合いだからね」




ティピックは流れるようにシルクの食事事情を話す。

長い付き合いという言葉も気になり、グレイはティピック達を見ながらうずうずしだす始末だ。


その後店員がメニューを伺いにやって来た為、それぞれ好きな物、気になった物を注文していく。

先に飲み物が運ばれ、店員が去ったところでグレイが話を切り出した。




「それじゃあ聞かせてもらおうか…まず、ヘリオスフラワーって何処で手に入れたものなんだい」


「おいグレイ待てや」


「先に聞くことはそれでは無いでしょう」


「冗談だよ痛い痛い」



テーブルの下でシャロンとミュスカがグレイに軽く蹴りを入れる。

グレイの普段通りの様子である為か、シャロンとミュスカの緊張感はほぐれていく。


早速ティピックとウィンのシルクとの関係についての話題となると、ティピックは1枚の名刺をテーブルに置いた。





「まずは簡単な自己紹介からだね。私はティピック・ノエ。裏魔法協会の代表取締役社長として活動しているよ」


「私はウィン・ヘーゼ。同じく裏魔法協会所属で、社長の秘書をしております」


「魔法協会じゃなくて、”裏”魔法協会?」




シャロンは名刺を見ながら聞きなれない名称に疑問符を浮かべる。

名刺にはBMCという略された名称、名前の斜め下に連絡先が書かれており、更に花のデザインが黒で縁どられている。




「魔法協会で扱いきれない高難易度な依頼や、特殊な依頼を主に扱っているんだよ。シルク君にはそういった依頼を引き受けてもらっていてね、いつも世話になっているよ」


「シルク様は一度引き受けた依頼はどれも完遂される素晴らしい御方なのです。中には厄介な輩と関わるようなものもありますが、シルク様の手にかかれば一網打尽でございます、とてもお強いんですから!」




ウィンは誇らしげな表情をして、生クリームの入った珈琲を一口飲む。

所々気になる言葉が出てきてはミュスカとシャロンの片眉が動いた。

シルクはカフェオレを静かに飲み、「そこまで強くは…」と視線を斜め下に逸らす。




「なるほど…で、君達はシルクと長い付き合いだって言ったけど、実際にどれくらいの付き合いなんだい?」


「それを答えるには…そうだね、君達がシルク君の事をどれだけ知っているかで答えが変わってくるかな」



シルクの事とは、つまり体質の事である。

長い間同じ姿でいる事、睡眠と食事をせずとも過ごせている事、魔力の事。

シルクの口から聞いたことすべてをグレイ達が話し、ティピックは少々驚いた様子でシルクに視線を移した。



「会って間もない関係にも関わらず、まさか本当にシルク君から事情を聞いているとはねぇ」


「まさか無理矢理話させたなんてことはありませんよね?」


「無理矢理ではないですよ。私が大丈夫だと判断して話しましたから…皆さんは信頼できます」


「へぇ…何だか君達に興味が湧いてきたかも」


「おやおや、光栄なことだね」




ティピックがグレイ達に笑顔を向けると、グレイもへらりと笑って言葉を返す。


シャロンとミュスカは薄々と感じていたことをこの場で強く実感した。

ティピックとグレイ、2人には何処か似ている雰囲気があるのだ。何を企んでいるのか分からないような笑顔、興味がある事に対する好奇心の視線。話し方も何となく似ているところがある。


違いがあるとすれば見た目、立ち振る舞い、清潔感だろうか。

この2人を会わせて本当に良かったのか?とつい冷や汗が流れてしまう。






「…そうそう、シルク君との付き合いの長さだよね。私は今年で350歳だけど、シルク君と出会ったのは100歳くらいの時だったから…約250年の付き合いだねぇ」


「は?」


「ん?」


「おっとぉ?」




ミュスカ、シャロン、グレイの順で声が漏れ出た。


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