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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
序章:出会い
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3. 掃除

 三階へ案内されると、構造は二階と変わらないが薬品の臭いが多少薄まった気がする。

 廊下を歩いて奥から二番目の扉でグレイは立ち止まった。この扉の先がシルクの部屋のようだ。


 研究で爆発させた部屋の真上ではないことに少し安堵し、シルクは扉を開ける。



 倉庫として扱われていたのもあり、大きめの棚がいくつか設置されていた。

 棚には何も飾られておらず、棚だけを残して他の物は片付けたのだろう。




「この棚は良ければ自由に使って大丈夫だよ、もし必要無かったらまた言ってくれ」


「分かりました。案内ありがとうございます」


「これくらいお安い御用さ。一応ここの管理人でもあるからね」



 グレイはこのアパートの住人兼管理人をやっているようだ。

 アパート内で好き勝手やるのであればせめて掃除して欲しい、と思いながら薄汚れた白衣の後ろ姿を見つめる。この後も研究室に引き籠るのだろう。



 用意された自室に入り、部屋の真ん中で立ち止まりぐるりと見渡す。


 空になった棚が三つ並んで設置されており、高さは2mと大きいサイズ。

 書物を並べるにはサイズ感がアンバランスに感じることから、研究で使用するための物品や素材を入れた容器などが並べられていたのだろう。棚に近付くと微かに薬草の臭いが残っていた。



 振り返って棚から背を向ける。

 設置されている家具らしき物は無く、各部屋に備え付けられている簡易的なキッチンと洗面所、それぞれに繋がる扉が二つあるくらいだ。


 窓から差し込む光がこの部屋の埃っぽさを強調している。

 そんな中でシルクは一人静かに立ち止まったまま、これからやるべきことを考えた。




(まずは掃除しよう)



 腰に巻いているベルトにかかっているポシェットを開き、中をごそごそと漁る。

 中から雑巾、バケツ、はたき、箒と次々と掃除用具が取り出されていく。

 その後バケツに水を溜める為にそのまま洗面所へ向かった。




 シルクは魔法使いだ。

 只の魔法使いだと、本人はそう思っている。


 ポシェットも魔法道具の一つであり、持ち主本人の魔力量によって収納量が変化する代物。

 見た目はそれほど大きいサイズではないが、天口付近でサイズ調整される仕組みとなっており、大きいサイズの物でも出し入れが可能となっている。


 流石に普段の格好のままで掃除するわけにはいかないと思い、ローブとストールを脱いでポシェット内に仕舞い込んだ。

 代わりにエプロンと手拭い、手袋を取り出し、手拭いは埃を吸わないようにと口元を覆って後頭部辺りで結ぶ。



 箒を床と水平にするよう掲げると、ふわりと宙に浮き、軽く腰掛けるように乗ってそのまま空中に浮かぶ。

 天井から汚れが目立っている為、素直に上から下へと順に掃除することにした。




 地道に掃除を進めていき、ふと考える。

 元々この部屋に置かれていた物はどうなったのだろうか。


 必要な物、不必要な物と分別して処分したのか、何もせずそのまま別の部屋に押し込んだのか。

 グレイの様子からして恐らく後者だろうと考えると、妙に苛立ちを感じる。



 シルクはピタリと手を止めた。



(…何故苛立ちを感じるのだろう。)



 至急空き部屋の確保が必要になったのだから、仕方が無いことではないか。

 それなのに妙な、ぐつぐつと煮えたぎるような苛立ちを感じる。



(今考えたところで、直ぐに思い出すことはできないのに)



 軽く溜息をつき、そのまま掃除を再開する。


 設置されている物が少ないお陰で、部屋の掃除は順調に進んだ。

 一箇所にまとめた塵や埃、手袋と茶黒く汚れた雑巾も一緒に袋に包む。

 バケツに入っている水は濁り、どれほど汚れていたのか主張しているようだった。



 軽く呼気を吐いて、新しい手袋を装着する。

 あくまでもこの部屋の掃除を済ませただけで、他にも掃除すべき場所が残っている。


 水を溜める為に向かった洗面所の光景を思い出す。

 長期間掃除されずに放置されており、勿論様々な個所が汚れてしまっていた。

 更に先にあるシャワー室、キッチン、そしてトイレも言わずもがな。



(これはまたやりがいのある掃除だな)



 夕方までには終わらせようと考えながら、洗面所の扉を開けた。

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