198. 何でも屋の評価
翌日、魔法防衛省にて。
レザンは受付ロビーから会議室へと向かうまでの間、いつもとは違う感覚を覚えていた。
魔物討伐特攻隊は戦闘狂集団であるというイメージが印象付けられているのもあり、魔法防衛省内ですれ違う社員達は大体が僅かながらも距離を置くような素振りを見せる。
それでもレザンの場合は女性慣れしていないことから、女性社員と目が合いそうになれば先にレザンの方から視線を逸らすことが多かった。
しかし、今ではすれ違う女性社員に大きな緊張感を抱くことなく平然と過ごせている。
完全に緊張感が無くなった訳ではないのだが、余計な意識をしなくなった分気持ちが軽やかになったような、不思議な感じだなとレザンは通路を歩きながら考える。
シルクと共に時間を過ごしたことも大きいが、アマレットと関わった時のことも思い出してはつい静かに苦笑いを浮かべる。
男性でありながらも女性らしい振る舞いを目の当たりにしたことで、レザンの中での女性の概念に多少なりとも影響があった。
そのまま会議室の前に辿り着き、扉を開いていつものように挨拶を交わす。
そうなる筈だったのだが、挨拶の途中でレザンは身体を強張らせて固まってしまう。
テーブルに両肘をつき顔の前で両手を組ませているカネルと、軽いジト目をぶつけてきているプラットの姿が扉を開けた瞬間に視界に飛び込んできたのだから。
「おはようご…ざい、ます」
「おはようレザン。…昨日は楽しそうにしていたようじゃないか」
カネルはわざとらしい程爽やかな笑顔をつくっているが、口角は軽く引き攣っている。
そう言えばペーシェが隊長に報告してたんだった、とレザンは脳内で頭を抱えて悲鳴を上げる。
プラットの様子からして、恐らく話を聞いているのだろう。
ペーシェ自らが報告したとなれば、自動的にアベルにも話が渡っていることにもなる。
あ、俺終わったかもしれない。そう考えては眩暈が襲い掛かって来た。
「話は俺も大体把握してるよ。昨日隊長と此処で書類整理とかしてたからな」
「そ、そうなのか…」
プラットが軽く溜息をついてからそう言い、ペーシェから伝えられたわけでは無いのかと分かりレザンはほっとする。
しかし安心するのも束の間、プラットは再びジト目になって口を動かした。
「それにしても隊長、あれはどう見てもデートですよね」
レザンはビシッと音が出る勢いで石のように固まってしまう。
カネルは自身のスマートフォンを静かに取りだし、レザンに見えるように画面を表示させた。
そこにはシルクとレザンが横に並んだまま歩いている様子が写し出されており、レザンにとっては撮られた覚えのないものであった。
そういえば偶にぺーシェがわざとらしく歩くスピードを遅めて背後にまわっている時があったような、まさかその時か、とレザンは冷や汗を滝のように流し出す。
「あのレザンが女性と横に並んで歩けるようになるとは、僕は純粋にその成長は喜ばしいと思っている…だがこれはどう見てもなぁ」
「待って下さい隊長、これは依頼で関わったのであって決してデートという訳では!」
「まぁ、この後ろ姿なら初見ではシルクさんとは分からないだろ」
そこで再び扉が開き、ぺーシェが元気良く挨拶しながら入ってくる。
レザン達が即座に振り返ったことでぺーシェは驚き、肩を軽く跳ね上げさせた。
「おはようございま〜す…え、皆どうしたの?」
「おはようぺーシェ。昨日はとても楽しんでいたようだな」
「あはは〜、それはもう楽しませて頂きました〜」
カネルの作り笑いには流石にぺーシェも苦笑いで対応する。
しかし直ぐに明るい表情に切り替わると、これを見てくれと言わんばかりにスマートフォンをカネル達の前へ掲げた。
画面にはシルクが振り向いた直後の写真が写されていた。
昨日のお洒落な私服姿で、下ろされた髪がふわりとなびいている。
「見て下さいよこれ、すっごく良い感じに撮れてるでしょ!」
「お前…よく撮れたな」
「ちゃんと許可を貰った上でだからねぇ。後でレザンに送るね」
「え」
レザンだけでなくカネルとプラットも驚いた表情で固まる。
「これもレザンの女性慣れの一環だよ。写真でも見慣れていこうってアドバイス貰ったでしょ?」
「確かに言ってたけど、シルクさんじゃなくても良いだろ!?」
「えぇー何だよ、シルクさんじゃ不満だって言うの?酷いなぁ〜」
「そ、そういう訳じゃ…」
ぺーシェはわざとらしい態度で非難し、レザンは肩を縮めさせて口篭る。
しまいにはとどめを刺すように、笑顔のままぺーシェは口を動かした。
「さっきアベルにも見せたんだけど、珍しく褒めてたんだよねぇ。ちょっとぶっきらぼうだったけど、朝から良いもの見れた気分だよ」
「え」
「は?」
「うわ、お前やりやがったな」
「何なのその反応!?隊長まで凄い顔してますけど!?」
レザンは両手で頭を抱えて顔を青ざめさせる。
カネルとプラットも危惧していたことを堂々と宣言されたことに軽いショックを受けていた。
「…もしかして、昨日の依頼のこともアベルに話したのか?」
「うん、話したよ」
何度でも言うが、アベルがシルクに惚れていることをぺーシェは知らない。
その上で昨日の出来事を話したとなれば、アベルの心境が今どうなっているのかを想像してはレザンは震えが止まらなくなる。
「…おはようございます」
背後から聞き慣れた低い声が聞こえ、レザンは分かりやすく肩を跳ね上げさせる。
ぎこちない動きでゆっくり振り向くとアベルの姿があった。
普段から目付きは悪いのだが、更に睨みを効かせているように見えてしまって仕方が無い。
カネルが若干引き攣った笑顔で挨拶を返し、アベルは軽く会釈してからレザンとばちりと目を合わせる。
気に食わないとでも言いたげな様子なのが丸わかりで、レザンの冷や汗は止まらない。
女性でもないのに視線を逸らしては室内の壁を凝視する。
「あ~あぁ、アベルったら不機嫌になっちゃって」
それはお前のせいだろ!とレザンはペーシェに向かって心の中で叫ぶ。
依頼と言えど意中の相手がお洒落な格好をして同僚と出掛けていたのだ、しかも恋心を自覚した後に揶揄いの言葉を投げかけてきた者がだ。
敵視されてもおかしくない状況にレザンの震えは止まらない。
流石に気の毒に思ったプラットは宥めるようにアベルに声をかける。
「目付きが凄いことになってるぞ、一旦落ち着けよ。恨むならペーシェを恨め」
「ちょっと!どうして僕なの!?」
「事の発端だからだよ」
プラットがわざとらしく視線を逸らしながら呟く中、アベルはずいとレザンに一歩近付く。
カネルはいざという時は止めに入らないとなと覚悟する。
「おいレザン。お前…さり気なく抜け駆けしやがったな」
「えっと、昨日のはあくまでも依頼であって…!」
「依頼ってのは聞いてるが気に食わねぇ。シルクさんが銃専門になったらどうしてくれるんだよ」
レザンは体感温度が下がる中、予想外の言葉が聞こえては疑問符を浮かべる。
カネルとプラットもどういうことだと首を傾げさせると、ペーシェが再び口を開いた。
「そうそう、レザンがお礼として銃のメンテナンスキットを贈ったんですよ。どうやら昨日早速使ったみたいです」
ペーシェはスマートフォンの画面を操作してはカネル達に見えるように掲げる。
そこにはシルクから送られてきたメールの文章が表示されていた。
【昨日は素敵な贈り物をありがとうございました。早速使わせて頂きました。とても手入れしやすく、討伐で使うのが楽しみです。いずれ直接お伝えできればと思っていますが、レザンさんに先にお礼を伝えてくだされば幸いです。】
文面を見終わると、カネルとプラットは軽くジト目になってレザンの方へ向く。
「これは流石に僕も見過ごせないな」
「何でも扱うシルクさんに銃を勧めるとは、まさかここまで積極的だったとは」
「いや、そりゃ俺は銃専門ですし!これは純粋に依頼のお礼として贈っただけですから!」
「あとこれはペーシェにも言えることだが、シルクさんから魔法のコツとか聞き出してるだろ」
アベルの発言にはペーシェもぎくりと肩を揺らせる。
カネルは一瞬真顔になってからにこりと笑みを浮かべ、ペーシェとレザンの肩にぽんと手を置いた。
「抜け目がないなぁ二人とも。僕達を差し置いて知識を得るとは…今日の二人の特訓メニューを少しいじってやろうか?」
「隊長、流石にそれは鬼畜が過ぎませんかねぇ!?」
「筋肉痛不可避だ…」
ペーシェまでもが顔を青ざめさせてカネルに抗議する中、プラットはさり気なくアベルに近付き声をかける。
武器や魔法の知識のことを指摘していたものの、実際聞き出したいのはそれだけではないだろうと察しての声掛けであり、勿論揶揄い目的も含まれている。
「ところで、シルクさんの写真を見てどう思った?」
「………何も思ってねぇよ」
数秒の無言の時間があった時点でプラットはつい揶揄いの笑みを軽く浮かべる。
「何も、ねぇ…ペーシェからは褒めてたって聞いてるんだが?」
「うるせぇ何も聞くな」
アベルはぶっきらぼうに返答しそっぽを向くが、若干耳が赤くなっている。
そのままレザンの方を横目で睨んでいたが、先程とは違った嫉妬の念が含まれているように伺えられ、プラットはつい溜息を零す。
「お前からもアピールしないと振り向かれないぞ」
「…チッ」
照れ隠しのように舌打ちで返されるが、珍しい反応を見れたことでプラットは内心満足していたのであった。
―――
―――
「今日の依頼も高難易度なものになる。同時進行で素材集めもよろしく頼んだよ」
「承知しました」
裏魔法協会にて。
シルクは依頼書の内容を確認してからポシェットに仕舞い、無表情のまま一礼してからその場を後にする。
ティピックは笑顔の余韻を残したまま仕事机の端に積まれている書類に手を伸ばしては内容を一読する。
ウィンも書類整理の為に事務所を後にすると、入れ違いでアマレットが姿を現した。
「おはようアマレット君。丁度君への依頼について確認していたところだよ」
「あら、それは丁度良いタイミングね。また気難しい内容でしょうけど」
浮遊魔法で浮かされた依頼書を受け取り、アマレットは内容を確認してから軽く溜息を零す。
本日も裏魔法協会ではいつも通りの日常が繰り広げられる。
そう思っていた矢先に、アマレットがふと思い出したかのように顔を上げてティピックと目を合わせた。
「そうだ。シルクちゃんってまだ来てない?」
「いいや、既に依頼を託して向かわせているよ」
「あらそうだったの。ちょっと聞きたいことがあったんだけど…代わりにアンタに聞いても良いかしら?」
一体何の用だとティピックは軽く眉間に皺を寄せる。
シルクについてのことをあまり深掘りされたくないのが見え見えであり、アマレットは呆れた表情を浮かべるも直ぐに真剣な表情に切り替える。
「単刀直入に聞くけど、シルクちゃんって何者なのかしら?」
「何者って、シルク君は何でも屋の魔法使いだよ」
「白々しいこと言わないで頂戴。一応これでも真剣に聞いてるのよ…200年前にボルケニードラゴンに関連した依頼を取り扱っていたのを覚えてる?」
ティピックは軽く目を見開かせて固まるも、直ぐに目を伏せさせ小さく溜息をつく。
「あぁ覚えているよ。活火山の異常大規模噴火を防ぐ目的で取り扱っていたね。それがどうかしたのかい?」
「当時のことは特報で耳に入れていたけど、誰によって鎮静されたのか、具体的なことはあやふやなまま流れてしまっていたでしょう。…シルクちゃんによるものだったのね」
「…何故そう考えたんだい?」
「隠そうとしても意味無いわよ。シルクちゃん本人から聞いたことだから」
ティピックは再び固まってから、今度は深い溜息をつく。
あからさまに不機嫌な様子であるも、アマレットは構わず口を動かした。
「無理矢理聞き出したわけじゃないから、そこは勘違いしないでね。戦闘能力や知識は申し分ないくらいだし、何より出会った時から不思議な魔力をまとわせてるのが印象的だったもの。その依頼をこなすこと自体には何も追加で言うことは無いわ。…ボルケニードラゴンが暴走したのはその200年前の依頼が最後だということに視点を置いてるの。シルクちゃんって人間なのよね?」
「…そうだね、人間だよ。……何か問題でも?」
「非難するつもりなんて一切無いわよ。一旦その駄々洩れの魔力を落ち着かせなさい」
アマレットはジト目のまま訴えるが、ティピックは瞳が笑っていない笑顔のままロッキングチェアにぐっともたれかかる。
「…アンタは本当、あの子のことを隠したがるわねぇ」
「シルク君の”目立つのは嫌だ”という意見を尊重しているまでだよ。…どういう経緯で話を聞いたのか気になるけど、嘘は言ってないようだし…はぁ」
ティピックは気持ちを誤魔化すように書類作業の準備に取り掛かるも、ペンを片手に同時進行で口も動かしていく。
「詳しいことを知りたいとしても、私から言えることは何も無いよ。そんなに聞きたいならお得意の情報収集で調べれば良いが…それでシルク君がアマレット君をどう思うかだね」
「随分と嫌な言い方をするじゃない。確かに情報収集は得意分野ではあるけど、シルクちゃんのことについてはアンタのお陰で情報がほとんど出てこない状況よ。…でも、一つは確信を持って言えることがあるわ」
ティピックはペンを動かしていた手を止める。
視線だけをアマレットの方へ向け、軽く目を細めさせた。
「当時私からアンタにその依頼について聞き出そうとしたことがあったでしょ。その時も結局あやふやに返答された訳だけど、確かこう言ってたわよね…”万能屋には感謝しないとね”って。シルクちゃんのことを”何でも屋”だって言い張ってるけど、本当は”万能屋”が正しいんじゃないの?」
「……何でそれを思い出すかなぁ」
ティピックは片肘をついて溜息をつく。
当時のことを思い出させながらつい苦笑いを浮かべ、降参するように肩を竦めさせた。
「今から言うことはシルク君には内緒にしておいてくれたまえよ。…確かに当時、私はシルク君のことを万能屋だと言っていた。無茶難題な依頼でさえもこなしてしまう行動力に大きく評価していたからね。…でもシルク君がその名称を拒否したんだ。最終的には何でも屋という形で収まったんだよ」
「あら、本人の希望だったのね。確かに何でも屋なら、そう宣言している魔法使いが今でも沢山いるくらいだし、紛れ込めるでしょうけど…シルクちゃんの場合はその中でも群を抜いてるでしょう」
「あぁ勿論そうだとも。でも目立ちたくないからって頑なに拒否するんだよ。今でも偶に万能屋って言っちゃう時があるんだけど、その時のシルク君ったらちょっと不機嫌そうにむっとするんだよねぇ」
「あんた最低ね」
ティピックの悪戯っぽい笑みに対し、アマレットは引くようにジト目を向ける。
不機嫌そうな表情と言っても傍から見ればほぼ無表情なのだが、長年の付き合いであるティピックだからこそ気付けるレベルの表情の変化である。
シルクから不機嫌な表情を向けられたとしても、ティピックにとっては表情の変化を見られたことの嬉しさが勝ってしまうのであった。
「まったく…あまり意地悪してたら嫌われちゃうわよ。それにぐずぐずしてる間に他の男に取られちゃうかもだし?」
「随分と棘のある言葉をかけるじゃないか、酷いもんだねぇ」
「余裕ぶってられるのも今のうちかしらね……シルクちゃん、昨日知らない男と出掛けてたわよ」
パキン、と小さな音が事務所内に響く。
ティピックの手にしているペンの先端が折れた音である。
「…それは見間違いなんじゃないかい?」
「ちゃんと本人よ、その時にボルケニードラゴンのことを聞いたんだから。…私がコーディネートした服をちゃんと着こなしてくれてて嬉しかったわぁ。化粧もしててとっても見栄えが良かったわよ」
アマレットは頬に片手を添えながら、わざとらしく嬉しそうな声色で語る。
折れたペン先からインクが滲み出ているが、ティピックは手を動かさずに引き攣った笑みで耳を傾けていた。
「シルク君が外で仕事の話をするなんてねぇ…しかも知らない男の前で…へぇ?」
「単に私がその男のことを詳しく知らないってだけよ。でも良い男だったわよぉ、私程の背丈は無いけど筋肉質で、うぶな反応をするのが可愛くて…シルクちゃんも強い人だって褒めてたくらいよ」
ミシ、と軋む音が小さく響く。
ティピックは笑顔を固定しているが、手元は明らかに力が込められておりペンが悲鳴を上げている。
「シルク君が実力を認めるとなれば大方予想がついてきたねぇ。…アマレット君のことだから名前くらい聞いてるだろう、そいつの名前を教えて貰えるかい?」
「あらヤダ、そろそろ時間ね。じゃあ私は依頼に行って来るわ」
「アマレット君?」
「…あ、最後にこれだけ」
アマレットはわざとらしい態度で扉の方を向くが、数歩進んでからちらっとティピックの方へ振り向く。
怪しい笑みをほんのりと浮かべさせながらとどめの言葉を放った。
「シルクちゃん、その男からプレゼントを貰ってたんだけど…嬉しそうにしてたわよ。あの子の笑顔って本当素敵よねぇ。隠すのが勿体ないくらいだわ」
その後アマレットは満足そうに小さく鼻歌を歌いながら事務所を後にする。
扉が閉まるのと同時に、バキンッ、とペンの悲鳴が強く鳴り響いた。
ティピックの右手がインクで黒く染まっており、真っ二つに割れたペンを中心として書類にも広範囲にインクが漏れ出ている。
「…社長、手元が素晴らしいことになっていますね。しかも魔力まで漏れ出ていますよ」
そこで入れ違いでウィンが事務所に戻って来る。
ペンを破壊した状態のまま固まっている様子にウィンは軽く引いた目をしていた。
「…あぁいけない。考え事をしてたらこうなっちゃったよ」
「しっかりして下さいよ。これから進めて頂く書類整理の中には重要なものも含まれているのですから…特にこちらは厳重に保管する必要があるものです」
インクまみれになった仕事机を魔法で綺麗にしていく中、ティピックはウィンから一つの封筒を目の前に差し出される。
手についたインクを拭き取りながら、浮遊魔法で封筒を受け取っては差出人を確認し目を丸くさせる。
そのまま封を開けると、中から一粒の丸い光が生き物のように飛び出し宙を舞う。
突然のことにウィンも目を丸くさせて身構えるが、差出人を把握しているのもあって強い警戒心は抱かない。
光の粒はぐにゃりと変化し、一羽の白い鳥となって翼を羽ばたかせながら数秒程ティピックとウィンの頭上を舞い続ける。
その後白い鳥は分かりやすく首を傾げさせ、封筒の中に自ら吸い込まれるように入ってしまった。
勝手に封は閉じられ、綺麗になった仕事机の上にパサリと封筒が落ちる。
「…勝手に仕事を増やされたのですが、これはどういうことでしょうか」
「どうやら私達が目的ではないようだ。…此処に来た時点で依頼であることは明確なんだけどねぇ」
辺りに散らばっている白い羽を一つ拾い上げ、静かに見つめる。
その羽を手にしたまま、ティピックは封筒に刻まれている差出人の名称を改めて確認した。
マーガレット・ダージリン。
王都を中心とし、国を治め続けている王家の現王女の名である。




