195. 真剣なプレゼント
ぺーシェとレザンは軽く打ち合わせをした後、直ぐに戻ってくるからとシルク達に告げてから二人で喫茶店を後にした。
シルクはカウンター席に座ったまま追加で注文したブレンド珈琲を静かに飲んで二人を待っている。
そんなシルクの隣にシャロンが近付いては隣に座った。
「どうせなら女性慣れの手伝いの一環として、一緒について行けば良かったのに」
「フュジルさんは当初と比べればもうだいぶ慣れてきていると思いますから。今は会話が成立していますし、目を合わせても完全に固まることはありません。それに、ずっと緊張されていましたし…息抜きをすることも大切です」
「確かに、レザンさんったら何回も顔を真っ赤にさせてガチガチに緊張してましたね」
ブラック珈琲から漂う湯気を見つめながら答えると、ミュスカもカウンター席に近付きシャロンとは反対側の席へ座る。
シルクはふとテーブル席の方へと視線を向け、そこではぐったりと半分ほど魂が抜けていそうなグレイと、そんなグレイに熱い眼差しを向けながら語りかけているアマレットが隣り合って座っていた。
アマレットは強引にグレイの腕に自身の腕を絡ませて固定しており、グレイは抜け出そうにも抜け出せない状態となっている。
「先生のことは心配しなくて大丈夫ですよ」
「…見たことが無い程青ざめているように見えますが本当に大丈夫でしょうか」
「いつもは青ざめさせる側だからな。まぁ…あの距離の近さは俺でも流石に引くけど」
気の毒そうにグレイの様子を伺っていたが、落ち着いたベルの音が鳴り響いたことで自然と扉の方へと視線を移す。
急いで戻った来たのか、レザンとペーシェは軽く肩で呼吸しながら店の扉を開いていた。
レザンは一つの包装袋を手に持っており、それが例のプレゼントであることはシャロン達から見ても理解できた。
「二人ともお帰りなさい。シルクちゃんへのプレゼントは無事買えた?」
アマレットは興味津々な様子で立ち上がり、解放されたグレイは脱力した状態でそのままテーブルに突っ伏してしまう。
グレイの状態にペーシェはつい驚きを入り混ぜた同情の目を向けてから、軽いジト目をレザンにちらと向けては苦笑いを浮かべた。
「あはは~、買えたには買えたんですけど…」
「あら、何だか不服そうねぇ。レザンちゃんは一体何を買ったの?」
「まぁ見てのお楽しみですね。一応真剣に考えて選んでたので」
ペーシェはレザンの背中を軽く叩き、シルクの前へ向かうように視線でも促す。
レザンは緊張しながらもシルクの方へと近付いて行き、シルクはカウンター席から降りて一歩前へ出た。
「その…これ、気に入ってくれると思って…」
包装袋をずいと差し出され、シルクは素直に受け取る。
開けても良いかと尋ねるとレザンは気恥ずかしそうにしながらも縦に頷いた。
包装を丁寧に開いていくと、シンプルな箱が現れる。
更に箱を開け、シルクは軽く目を見開かせた。
中に入っているのは、特殊な形をしたものやシンプルな見た目のブラシが数種類、スプレー式のオイル、洗浄剤らしきボトル、ステンレス製の細長い棒状のものなど。
シャロンとミュスカは隣から覗き込むようにそれらを見て、頭上に疑問符を浮かべる。
「…何だこれ」
「これはブラシでしょうか、あまり見ない形をしてますけど」
「銃のメンテナンスキットですね」
シルクが無表情のまま淡々と答えると、シャロンとミュスカは衝撃を受けるようにぴしりと固まり、レザンに対して嘘だろとでも言うような視線をぶつけてしまう。
それでもレザンは緊張しているからか、二人からの視線に気付かないままプレゼントについて話し出した。
「その…シルクさんって沢山武器を使ってるだろ?どれも使い慣れてて、手入れも行き届いてるようにも見えたんだけど…沢山持ってる分手入れ用の物品は消耗しやすいんじゃないかと思ってさ。俺は銃専門だからこれしか選べなかったんだけど、俺がこれまで使ってきた中で一番使いやすかったものだから…良ければ使ってみて…下さい」
シルクの目を見て話せていたが、気恥ずかしさが勝ってしまい最終的には敬語になって視線を逸らしてしまう。
レザンにとって人生初めての女性へのプレゼントとなるのだが、あまりにも予想外な内容にアマレットとグレイも真顔になってしまっている。
シルクは箱の中に入っているメンテナンスツールに視線を落としてから再びレザンと目を合わせる。
「銃のプロであるフュジルさんが選んだ物となると、安心して使えますね。ありがとうございます」
ふわりと笑みを浮かべながら礼を言われたことで、レザンは一瞬驚いてから安心したようにほっと息をつく。
シルクの表情から本心であることを察したシャロンとミュスカはつい苦笑いを零した。
「レザンちゃんなりに真剣に考えたプレゼントなんでしょうけど…もっと乙女心に配慮したプレゼントでも良かったんじゃないかしら?」
「僕はちゃんとアドバイスしたんですよ、装飾品とか花とか…。それなのにレザンったら、そういったお店は無視して魔法道具店に直行して。今回はシルクさんが相手だから良かったけどさぁ」
ペーシェは呆れたように溜息をつきながら語るも、シルクの反応を見たのもあって何とも複雑な気持ちになってしまう。
装飾品の場合はシルクはほぼ無関心である為、心から喜ぶかどうかは怪しいところではあるが、花についてはシルクの好きな物である。
レザンは一瞬花を贈ることに賛同しかけたのだが、それはアベルがやるべきだと脳内で結論付けた。
もしここで花を贈ってしまえばそれこそ勘違いが生まれてしまいそうで、ペーシェが更に追い打ちをかけてくる可能性もある。
代わりに喜びそうなものをレザンなりに考えていく中、シルクが仕事中に扱っていた武器についてふと着目したことで、プレゼント内容をメンテナンスキットに決めたのだ。
「シルクったら嬉しそうじゃないか。これはレザン君の株が上がったねぇ~…銃の扱いに磨きがかかっちゃったりして」
シルクの僅かな表情の変化に気付いているグレイは脱力しながらもそう言葉を零す。
するとペーシェが片眉を軽く上げて反応し、レザンに視線をぶつけては不満気に頬を膨らませた。
「成程そういうことか…銃の手入れを勧めて更に扱わせることで、次指導してもらう際には更に磨きがかかった技を教えて貰おうっていう魂胆だなぁ!」
「いや、別にそこまで考えていた訳じゃ……まぁ、それはそれでアリか」
「ちゃっかりしちゃって!だったら僕もお勧めのメンテナンスキットを買えば良かった~!」
何気に武器について指導してもらう気満々な様子にシルクは目をぱちくりとさせる。
以前の魔物討伐同行だけでは正直足りないと宣言しており、更に同行ではなく共闘を願い出ているくらいだ。
それについてはティピックは渋々保留という形で了承したのだが、未だに共闘については何も聞かされていない。
ペーシェ達は今か今かと待ち望んでいるものの、新たな返答が無いことに不満を抱いているだろう。
アパートに招待し知識を披露した日があったが、魔物討伐特攻隊の好奇心の強さを踏まえればそれだけでは足りないよなぁと考え、シルクは心の中で苦笑いを浮かべた。




