191. 増員
シャロンとミュスカは気まずそうに視線を泳がせ、グレイは購入した魔法植物を大切そうに抱えながら苦笑いを浮かべている。
目の前には無表情のまま見つめてくるシルクの姿。
尾行していたことがバレてしまっており、しかも洋菓子店にいる時から気付いていたという事実にグレイ達はシルクへの敵わなさを実感した。
「別に悪気は無かったんだよ。ただ純粋に気になったというか、僕達もレザン君のことが心配でね」
「そういう割には心配してそうな表情には見えませんけどね…」
「先生のことだから面白半分に決まってるだろ」
「やだなぁシャロン、僕は本当に心配して……えっと、ごめんなさい」
誤魔化すようにヘラりと笑みを浮かべたグレイだったが、無言で見つめるシルクから妙に圧を感じてしまい、しょぼんと肩を落として謝罪する。
シルクは軽く視線を伏せて小さく溜息をついてから口を開いた。
「同行したいなら正直に言ってください。隠れてついてこようにも、視線と気配で分かります。確か洋菓子店ではフレッチェさんと横に並んでましたよね」
「そうだったの!?……あ、言われてみればその格好の人が店にいたような!」
「…流石に気付いてると思っていたのですが、フレッチェさんも気付いていなかったんですか」
シルクはきょとんとした様子からジト目になってペーシェの方へ向く。
ペーシェは誤魔化すような笑みを浮かべ、軽く頭を掻いてから改めてグレイの格好を確認した。
「だってグレイさんっていつも白衣と眼鏡をつけてるじゃん?それ以外の格好をこれまでに見たことなかったし、何より臭いがまったくなかったし…隣にいてもあの独特な臭いがしなかったんだもん」
「先生って本当、白衣と眼鏡と薬品臭の三要素で判別されてますよね。日頃の行いのせいではありますけど」
「やだなぁ、僕はどんな姿になろうとも僕には変わりないんだから」
グレイはシャロンにかけさせていた伊達眼鏡を受け取り、自身に着用する。
すると顔だけはいつものグレイだと判別がつくが、顔を隠して首から下のお洒落な服装だけを見れば別人だとペーシェとレザンは感じてしまい冷や汗を流す。
シルクは呆れるように肩を竦め、グレイ達に視線を向けては無表情で淡々と口を動かした。
「尾行していたのであれば、遠目からでも状況は理解していますよね?」
「まぁ、それなりには…具体的な会話は流石に聞こえてねぇけど」
「フュジルさんの女性慣れしない理由についても確か御存知で?」
「簡単には聞いてるよ~。お兄さんから大人向けのものを見せられて興奮したってやつでしょ」
「変な言い方しないでもらえます!?」
レザンはやかんが沸騰する如く勢いよく顔を真っ赤にさせ、ハッとしてからぎこちなくシルクの様子を伺う。
シルクは変わらず無表情のままである為、こうも無反応だと逆に反応に困ってしまうものである。
代わりにグレイの方を睨むことしかできず、グレイは視線を逸らしてわざとらしく小さく口笛を吹かせた。
そんな中でも、シルクは更に淡々と口を動かしては一つの提案を促した。
「では、皆さんにもフュジルさんの女性慣れの手助けに協力してもらいましょうか」
この提案にはグレイ達は目を丸くさせ、ペーシェとレザンは複雑そうに互いの顔を見合わせてからシルクに視線を送る。
人手を増やして意見を多く集めると宣言された時は疑問になっていたが、グレイ達に尾行されていることを教えられた後にまさかと考えては、その予想は当たっていた。
確かに人数が多い分意見はより集まるだろう、しかしグレイがいるという点が二人にとってはどうも複雑で嫌な予感しかしないのだ。
「それって、僕達がシルクさんの依頼に介入するということになりますよね…良いんですか?」
「皆さんの方が私よりもフュジルさんの事情を知っていますからね。依頼を完遂させる為に活用できることはとことん活用させていただきます。…それに、私達から声をかけなくても最後まで尾行していたでしょうし、ならいっそのこと合流してしまった方が気が楽です」
無表情にジト目が加わり、それほど気配を気にしていたようだ。
グレイ達は改めて反省するようにしょぼんと肩を落とし、それと同時に依頼完遂というシルクの徹底ぶりに少し緊張感を抱いた。
「御二人もよろしいですか?」
「まぁ、シルクさんがいれば大丈夫かな…?」
「グレイさんが暴走しないよう見張っていてくれるのなら…」
「僕凄く警戒されてるじゃん」
「日頃の行いのせいですね」
直後、ぐぅとくぐもったような低い音が響く。
音がした方へと皆が視線を向け、それらの視線はシャロンのお腹に集中した。
シャロンも自身のお腹に視線を向けており、数秒経ってから顔を上げて少々恥ずかしそうに呟く。
「悪い…腹が減ってきた」
「あんなに洋菓子を食べたのに、もう消化されたんですか!?」
「仕方がねぇだろ沢山歩いて集中力使ったんだし」
「見事な音だったねぇ、流石食べ盛り。その調子で背もぐんぐん伸びれば…な~んてね」
ペーシェの揶揄うような笑みに対し、シャロンは身長について触れられたことに睨みを効かせた。
流石に人通りが多いところで話し続けるわけにもいかない為、何処か軽食を摂れる場所に移動しようかと提案するも、大人数の座席を確保できる店が近辺にあるだろうかとペーシェはスマートフォンを操作しながら調べていく。
しかし調べる店はどれも人が多く、予約なしで入れるとしても席確保の為に待たされる可能性が高い。
さてどうしようかと悩んでいると、シルクが軽く手を挙げた。
「今から向かっても空いているかもしれないお店、一つ心当たりがあります」
「え、それって何処のお店?」
「喫茶店です。博士達も行ったことのある店です」
グレイ達は目をぱちくりとさせてから、そういえばと大通りからは離れた場所にある喫茶店の風景を脳内に蘇らせた。




