172. 尾行
「雑貨屋から出てきたぞ」
「よし…そのまま追うか」
一人の男は曲がり角に隠れるように身を潜めさせ、もう一人の男は近くにあるベンチで新聞を読むように顔を隠した状態で座っていた。
それぞれの手にはスマートフォンが添えられており、通話状態となっている。
新聞には小さい穴が開けられており、その穴を覗き込んだ先にはシルク達の姿。
シルクの両側には子猫達がそれぞれ手を握っており、シルクを見上げては嬉しそうに笑っている。
そんなシルク達の斜め前にティピックが立ち、軽く言葉を交わしながら歩いて行く。
曲がり角にいた男はそのままで、新聞を読んでいた男は新聞を折りたたんでから立ち上がる。
新聞を片手に、男はシルク達と一定の距離を保ちつつ、近くの店の商品を眺めるふりをしながら足を進めていた。
ショーウィンドウが鏡のように反射し、薄っすらとシルク達の姿が映り込む。
その映り込んでいる姿のなかで、男は子猫達に注目していた。
男達にとって、子猫達のことはただの子どもとしか認識しておらず、獣人族とは気付いていない。
「どうやらこのまま館内から出るようだな」
「了解、そのまま気付かれないように追っててくれ。少ししたら俺も出る」
「はいよ~」
男は通話画面を保ちながら、スマートフォンをポケットに仕舞って歩き続ける。
曲がり角で待機している男は、歩いて行った男の姿を見届けてからにやりと怪しい笑みを浮かべた。
「見た目は悪くないし、双子となれば値も上がるだろうよ」
――
――
シルク達は外に出て、前を向いた状態で進んでは偶に歩く速度を下げたり、時には立ち止まったりとしながら動いていく。
その動きに合わせるように、男も注意深く一定の距離を保って進んでいく。
男達にとっての狙いである子猫達はシルクとティピックの方や前方しか見ておらず、後ろにはまったく振り向こうとしない。
シルクとティピックも一切後ろに振り向かず、互いに言葉を交わしながら歩いている。
男は偶にスマートフォンの画面を見るふりをしては、顔に近付けて小さめの声で通話を再開させた。
「今のところ、特に気付いている様子は無い。外に出て東に真っ直ぐ、大通りに沿って進んでるところだ」
『その辺りはまだ人通りが多いからな…少なくなったところに行くまで粘ってくれ』
「おう、焦らずじっくりな」
暫く歩き、シルク達が立ち止まったところで男は近くの物陰に身を隠すように移動する。
何やら子猫達が不満そうに頬を膨らませており、シルクが宥めるように二人の頭を撫で、ティピックは苦笑いを浮かべている。
子どもの機嫌に振り回されるとは、親も大変だよな。
いや、そもそも髪色が違うし親子じゃ無いか?と男は軽く考えながらシルク達の様子を静かに観察する。
子猫達の幼さとシルクの若くも大人っぽい雰囲気から、仲の良い姉妹よりは親子と言った方がしっくりきていた。
そして、一緒にいるティピックのシルクに向けている柔らかい表情。
親しみを込めた視線を向けながら語り掛ける様子は、第三者目線から見ても好意があるものだと判断してしまう程であった。
男達はシルク達を本物の親子だと勘違いしたまま、その子どもの誘拐を企んでいた。
シルクが凄腕の魔法使い、ティピックが妖精族、子ども達が獣人族であることを一切知らないまま、このまま事が進むと思い込んでいた。
その直後、男は驚いた表情を浮かべることとなる。
シルクとティピック、それぞれが子猫達を一人ずつ片腕に抱えてから、二手に分かれるように別行動をとったのだ。
「おいおいマジかよ…!」
『どうした、まさか気付かれたか?』
「二手に分かれやがった。走ってはいないから、完全に気付かれたとは言い難いが…グレーゾーンだな。五つ目の曲がり角を女の方が向かって行った。男はそのまま大通りを真っ直ぐだ」
『了解。俺がそのまま真っ直ぐ男の方を追おう。女の方は任せたぞ』
男はスマートフォンをポケットに仕舞い、シルクが曲がって行った通りを数秒経ってから同様に曲がって行った。
少し歩いた先、大通りを真っ直ぐ歩いていたティピックは途中で立ち止まり、振り返っては軽く目を細めさせる。
「さて、どうしてやろうか…」
ティピックは真隣から強い視線を感じ、横目で視線を動かす。
子猫がジト目を向けており、口はへの字になって不機嫌丸出しな表情になっていた。
「別々になるの嫌。私達、いつも一緒」
「今だけ我慢してくれたまえ、後で合流するからさ」
「…それに、シルクの方が良かった」
「…本当シルク君のことが好きだねぇ」
「シルクは私達を助けてくれた。それに凄く優しい、大好き」
「はは、何だかウィン君の時と似てるねぇ」
ティピックは子猫を抱えたまま近くの壁にもたれかかる。
浮かべていた笑顔は、思い出し笑いから愛おしむようなものに変化していった。
「私だって大好きだよ。誰にも負けないくらい…独り占めしたくなるくらいね」




