171. 気付き
雑貨屋に入っていくと、子猫達はシルクの手を引きながら目的のものの前で立ち止まる。
見上げているものにシルクも視線を移すと、そこにはガラス製の小瓶や器が並べられていた。
「シルクの部屋にも沢山あった」
魔法薬を作る際に使用している小瓶のことを言っているのだろう。
子猫達を肩に乗せながら魔法薬を作っていた時のことを思い出し、納得するようにシルクは頷いた。
「あれもあった」
次に指差した場所にはシンプルな花瓶が置かれている。
自室のテーブルに置いている花瓶を思い出し、よく見ているなとシルクはつい感心する。
以前グレイ達から貰った花は数日前には枯れてしまい、魔法薬の材料や肥料として再利用している。
その為今は花瓶には何も入っておらず、少し物寂しくなっていた。
「…新しい花を入れようかな」
「シルクの好きな花?」
「あれも花?」
続いて子猫達が指差した場所にはインテリア用の造花が並べられている。
どれも綺麗に咲き誇っているが、シルクは無表情のまま軽く首を傾けてから子猫達に語り掛けた。
「確かにあれも花だけど、造り物なんだ。本物じゃないんだよ」
「良い香り、何もしない?」
「そうだねぇ、此処に売られているものは香り付きのものじゃなさそうだ」
ティピックも造花に視線を向け、静かに二本の造花を手に取る。
そのまま子猫達にそれぞれ一本ずつ造花を差し出すと、子猫達は素直に受け取って匂いを確認するように鼻を近づけた。
「良い香りしない」
「ちょっと固い」
「はは、確かに造花は本物と違って固めだからねぇ」
更にもう一本の造花を手に取ると、それはシルクの方へとかざす。
花の部分がまるで髪飾りになるように耳元にかざされ、シルクはきょとんとした様子でティピックを見つめる。
「シルク君にはどんな色も似合うね」
「…そうでしょうか?」
シルクの綺麗な黒髪に薄紫色の造花が添えられ、ティピックは優しい笑みを浮かべる。
その後、シルクも一本の造花を手にしてはティピックの胸元に静かにかざした。
「ティピックさんも、いろんな色が似合います」
黒いスーツに白い造花がかざされる。
ティピックは驚くように一瞬目を丸くさせてから、再び笑みを零した。
そのままつられるように、シルクもほんのりと柔らかな笑みを浮かべる。
ティピックはシルクの持っている造花を受け取ろうとシルクの手に自身の手を近づけようとするが、手に触れるギリギリのところで動きを止める。
ぶつけられている視線を察知して斜め下を向くと、子猫達がジト目になって頬を膨らませていた。
シルクも気付いては子猫達に視線を向け、はっとした表情を一瞬浮かべてから別の造花を選んで子猫達に差し出した。
「二人も、いろんな色が似合うね」
「…ふふ」
子猫達は嬉しそうに笑みを零してから、シルクにくっつくように距離を縮めては白く長い髪がさらりと動く。
そのままティピックの方を見上げるように視線を移すと、軽く目を細めながらにんまりと笑う。
ティピックはつい引き攣った笑みを浮かべ、モヤモヤとした嫉妬心を静かに渦巻かせた。
その後造花を元の位置に戻し、シルク達は店内をゆっくりと歩いていく。
一通りの商品を見てまわったところで、ティピックはシルクの隣に近付いた。
子猫達は二人の前に立っており、目の前の商品を興味深そうに見つめている。
位置的に子猫達の姿を背後から隠すような構図となっていた。
「…気付いているかい?」
「はい。二人組ですね」
子猫達には聞こえないよう、小さな声で会話した。
――
――
その頃、会計を済ませたアマレットはご満悦な様子でグレイに購入した衣服の入った紙袋を手渡していた。
グレイは疲れた様子でありながらも、紙袋を素直に受け取る。
「まさかもう支払いを済ませているとは…これも高かったんじゃないの?」
「グレイちゃんは魔力ポーションを提供してくれて、あの子達の助けになったんだから。これくらいお安い御用よ…それにとっても楽しかったし」
語尾に音符がつくような返答と共にウィンクを向けられ、グレイは苦笑いで対応する。
「ただ、シャロンちゃんとミュスカちゃんには申し訳ないわ。貴方達もコーディネートしたかったけど、これ以上は時間が厳しいわね…ごめんなさいねぇ」
「俺達のことは気にすんなよ」
「お気持ちだけでも十分です、寧ろ先生に色々と御指導ありがとうございました」
「ふふ、貴方達は成長期なんだし、これからもっと背も伸びて筋肉もついてくるだろうから…また機会があったらその時は楽しみにしていてちょうだい」
そう言って笑顔を向けるアマレットに、シャロンとミュスカは顔を見合わせてから苦笑いを零した。
直後、アマレットは何かに気付いたように目をぱちくりとさせては、ポケットに仕舞い込んでいたスマートフォンを手に取る。
画面を開いて数秒後、笑顔から真剣な表情に切り替わる。
一通のメールが届いており、相手はティピックであった。
【どうやら尾行されているようでね、子ども達が狙いの可能性が高い。外に誘き寄せるから、後で合流しよう。】
同時にミュスカのスマートフォンにも連絡が届く。
それはシルクからの連絡で、ミュスカだけでなくシャロンも覗き込むように画面を確認した。
【怪しい人物に尾行されています。ティピックさんと対応しますので、皆さんとは後程外で合流しましょう。また連絡します。】
シャロンとミュスカが文面を見て固まったところで、二人の様子に気付いたグレイも頭上から覗き込むように画面を確認する。
アマレットは固い表情のままスマートフォンを仕舞い、その後軽く溜息をついた。
「…大変なことになったわねぇ」
「ちょっと、そんな呑気な感じで言ってる場合ですか!?」
「シルク達が危険な目に遭うかもしれないんだぞ!」
「二人とも落ち着きなさい」
アマレットが自身の口元に人差し指を添え、静かにするように指示する。
シャロンとミュスカは納得いかない様子ながらも口をつぐむと、そんな二人の肩にグレイの手がぽんと置かれる。
「心配なのは分かるけど、シルクは凄い魔法使いなんだから。上手い具合に追手を撒くかもしれないよ?」
「あら、グレイちゃんは冷静に考えられてるのね。…確かにシルクちゃんは冷静に判断して動くタイプだから、あの子達をちゃんと守り通すでしょうね。それにティピックも一緒にいるわけだし…何だか可哀そうになってきたわ」
「可哀そう…?」
グレイ達はアマレットの最後の言葉に対して疑問符を浮かべる。
アマレットは店の外の景色に視線を向けては、気の毒そうな表情で続きの言葉を呟いた。
「あのティピックを敵に回すようなことをするなんて。もし追手が変なことをしだしたらどうなるか…寧ろ同情しちゃうわ」




