168. 洒落
「折角脚が長いんだから、脚の長さをより良く魅せるものが良いわね…このワイドパンツはどうかしら」
「…はい」
「暗めの色なら引き締まってカッコ良い印象を与えるけど、明るめの淡い色で爽やかさを出すのもアリね。このライトグリーンはどう?」
「…綺麗な色ですね」
次々と衣服を目の前にかざされ、シルクは無表情の淡々とした返答、感想を繰り返している。
子猫達はシルクの直ぐ近くの椅子に座りながら眺めており、グレイ達は少し離れたところから見ていた。
獣人族用の服屋を出た後、アマレットは丁度良い店があると宣言してはシルク達を半ば強引に連れ出し、今いる服屋に辿り着いた。
トレンドを意識したものや季節に合わせたものなど、兎に角沢山の衣服の中からシルクに合うものを選んでいく。
そうして二十着程かざしてから、アマレットはジト目をシルクにぶつけた。
「適当に返事してるでしょう。シルクちゃんが着る服なんだから、もう少し真剣に考えたらどう?」
「…お洒落にはあまり興味が湧きません。服自体は綺麗だと思いますが、それが私に似合うかと言われても、よく分からないです」
シルクは困ったように眉を下げながら返答する。
そんな様子に対し、アマレットは呆れたように溜息をついてしまう。
「シルクちゃんって潜入捜査も仕事の一つとして受けているのよね。その時の変装とかどうしてるの?」
「その場に合わせるようにしていますが、基本的にはスーツです。…偶にお洒落な服を着る時もありますが、それはレンタルで済ませています」
「…つまり、普段着としての服でお洒落なものは無い?」
「はい、ありません」
シルクが正直に答える様子に、グレイ達は苦笑いを浮かべてしまう。
以前シルクと服屋に入った時もシルクは興味無さげな様子だったな、とミュスカは思い出しながら辺りの衣服に視線を向けた。
「じゃあ、試しにこれを着てみてちょうだい。実際に肌に合わせてようやく良し悪しが分かるんだから」
「……これですか」
アマレットが差し出したのは襟付きのワンピース。
膝下までの長さで、ウエスト辺りが付属のリボンで絞れるようになっている。
普段からスボンを着用しているシルクにとって、スカートやワンピースは違和感でしかなかった。
しかしアマレットの強い眼差しに気圧されてしまい、渋々受け取って試着室に向かおうとする。
しかしアマレットが足元に視線を動かしてから、即座にシルクを呼び止めた。
「…今履いてる靴も違うものにしてみましょう」
即座に追加の靴をシルクの前に差し出す。
シルクは一瞬目を丸くさせてから、小さくお礼を言いながら靴を受け取った。
そうしてシルクが試着室に入ると、様子を見ていたグレイ達はソワソワと落ち着きなくしだした。
子猫達も静かにしながらも、試着室の方をじーっと見つめては期待に満ちた表情を浮かべている。
その後、試着室のカーテンが開いた。
「お待たせしました」
薄い水色の清楚なワンピース、クリーム色のパンプスを身につけたシルクの姿と対面する。
普段は隠れてしまっている膝下は細くも程良く引き締まっていて、リボンで絞られているウエストは細く、すらりとした体型であるのが強調されている。
「シルク綺麗!」
「凄く似合ってる!」
「…ありがとう」
子猫達はシルクに駆け寄り、キラキラとした瞳で褒め言葉を贈る。
そんな子猫達にシルクは軽く微笑み、頭を優しく撫でると子猫達は嬉しそうに目を細めさせた。
グレイ達もシルクの姿を見ては感嘆の声をあげ、注目されていることに気付いたシルクは、つい視線を逸らしてしまう。
そしてアマレットは軽く目を細めたと思えば、直ぐ別の衣服を手に取る。
シルクはまさかと思いながら冷や汗を流すと、目の前にずいとアマレットが近寄った。
楽しさが溢れ出ている笑顔を向けられ、シルクは拒否するタイミングを失ってしまう。
「もっと他のものも試してみましょう。スタイルの良さを存分に活かさないとね!」
「………はい」
普段よりも小さめの声でゆっくりと頷く様子に、ティピックは苦笑いを浮かべる。
スイッチの入ったアマレットを止めるのは難しく、暫くはこの場で拘束されるだろうな、とこれまでの経験を振り返っていた。
その後シルクの姿を改めて確認し、見惚れているような瞳で優しい笑顔を向けていた。
「随分と見入ってるみたいだねぇ。ティピック君でもあのシルクの姿は新鮮に見えるのかい?」
「…あぁ、いつもの姿で会うことがほとんどだからね。お洒落をすると綺麗だろうなとは思っていたから、実際にこの目で見てより実感したよ」
予想以上だったのか、参ったなと言わんばかりの笑みを零す。
そしてぽつりと、笑顔ながらも真剣な様子で小さく呟いた。
「本当綺麗で…つい閉じ込めてしまいたくなりそうだ」
その呟きはちゃんとグレイ達に聞こえていた。
グレイは笑顔のままぴしりと固まり、シャロンは目を丸くさせてから引き攣った表情を浮かべ、ミュスカは軽く顔を青ざめさせていた。
「…なんてね、冗談だよ」
グレイ達の反応に気付いたティピックは、コロッと営業スマイルに切り替わる。
「声のトーンがガチだった…」
「冗談と言っても半分は本気かもしれないねぇ」
「洒落にならないこと言わないでくださいよ」
冗談には聞こえなかった言葉に冷や汗を流すも、その後グレイ達もアマレットの声がかかり、シルクに似合う衣服の選定を手伝うこととなる。
いつまで続くのだろうか、とシルクは店内の壁に視線をぶつけながら、着せ替え人形の気分になっていた。




