164. 対面
シルクは狐面をつけた状態で広間のソファに座っている。
その両隣に座っている子猫達は、特に気にする様子も無く静かに過ごしていた。
グレイ達も対面するようにソファに座っているが、シャロンとミュスカはそわそわと緊張した様子である。
「その元依頼者の…アマレットさんっていう方はどんな人なんですか?」
「ティピックさんと同じ妖精族の方です。ティピックさんとは昔ながらの付き合いのようですが、私はこの前の依頼で初めて会った方なので…今日は狐面で過ごさせて頂きますね」
「ティピック君も来るとなれば安心だとは思うけど、念には念をってところだねぇ。面白い人だと良いなぁ~」
対してグレイは興味津々な様子であり、にこにこと笑顔を浮かべている。
すると子猫達はアマレットと対面した時のことを思い出したのか、不安そうに猫耳を下げてシルクに寄り添った。
「…大きい人、怖い」
「大きい人…ですか?背が高いんですかね」
「そうですね…ティピックさんと同じくらいの身長だったと思います」
「先生を怖がってるの、白衣だけじゃなくて身長もあるんだろうな」
「身長は仕方が無いじゃないか、気が付いたらここまで伸びてたんだから…シャロンそんなに睨まないでよ」
シャロンの鋭い睨みにグレイは視線を逸らしながら苦笑いを零す。
すると玄関ベルの音が鳴り響き、子猫達は驚いてからシルクの着ているローブの中に隠れるように包まってしまう。
そのお陰でシルクは身動きが取れなくなってしまい、申し訳なさそうに肩を軽く落としてからミュスカに声をかけた。
「すみません、案内を頼んでも良いでしょうか」
「わかりました。ほらシャロン、先生も大人しくしててくださいよ!」
ミュスカは広間を出ると、早歩きで玄関へと向かって行く。
そのまま扉を開けると、目の前には二人の人物が立っていた。
ミュスカはぴしりと固まり、目を丸くさせた。
一人は何度も会っているティピックで、いつものように営業スマイルを浮かべて軽く手を振って挨拶を交わしている。
その隣に立っている人物が、シルクの言っていたアマレットという人物なのだろう。
確かにティピックと同じ背丈であり、ミュスカにとって二人はとても高身長に見えてしまう。
そして同時に、子猫達が言っていた大きいという言葉の意味はもう一つあったのかと理解する。
ティピックは細身に見えるのに対し、アマレットはがっしりと筋肉質な体型であった。
それで圧を感じてしまったのかもしれない。現在進行形でミュスカも圧を感じ取ってしまっている。
「やぁミュスカ君、今日は魔法学校は休みなのかい?」
「は、はい…」
「あらあら、可愛らしい子が出てきたと思ったけど、学生さんなのね?」
ミュスカはついアマレットの方を凝視して固まる。
話し方は上品で女性らしいのだが、低く落ち着いた声が耳に届いてくる。
ふとティピックに視線を向けると、ティピックは吹き出すのを堪えるように若干身体を震わせていた。
「…えっと、中に案内しますね。こ、此方へどうぞ」
「お邪魔しま~す」
「失礼するわね」
ミュスカは頭の中で混乱しながら二人を案内した。
――
――
「ティピック君と昔ながらの付き合いってことは、それだけ長く生きてるってことだよねぇ。魔法植物とか詳しかったりするのかなぁ…」
「そういった話は聞いていませんが…潜入捜査に長けている方ですし、知識を持っていてもおかしくはないと思います」
「おい先生、流石に失礼な態度でドン引きさせるんじゃねぇぞ?」
ミュスカが玄関に向かっている間、グレイは相変わらずわくわくさせながら表情を緩めさせていた。
怪しい笑みを浮かべて伊達眼鏡がきらりと光ると、子猫達はそんなグレイの様子を見てびくりと身体を震わせる。
猫耳はイカ耳状態になり、ジト目のような睨み顔で警戒していた。
直後、子猫達は耳をぴくりと震わせてから広間を出る扉の方へ視線を移す。
人と比べて耳が良い為、複数の足音が近付いてくるのに瞬時に気付いたのだろう。
「…来た」
「大丈夫だよ、ティピックさんもアマレットさんも良い人だから」
シルクが優しく語りかけると、二人は小さな手でローブをぎゅっと掴みながら静かに扉の方を凝視する。
そうして、ミュスカの案内でティピックとアマレットがやって来る。
グレイとシャロンは目をぱちくりとさせてからアマレットの姿を見つめる。
確かに高身長でガタイが良い。
子猫達が怖いと言うのも仕方がないのかもしれないな、と思っているとシルクが声を上げた。
「本日は突然の要求に対応して頂き、ありがとうございます。座った状態のままで申し訳ございません」
そう言って会釈すると、アマレットはシルクの姿を数秒見てからティピックの方を軽く睨んだ。
「ちょっとティピック、まさかシルクちゃんにずっと仮面をつけているように指示してるんじゃないでしょうね?」
「一応これはシルク君の意思だよ。人見知りだから許してくれたまえ」
「何よそれ。…はぁ、綺麗な顔してるのに、ずっと隠すのは勿体ないわ!」
アマレットは呆れるように溜息をつき、自身の頬に片手を添える。
そんな中ミュスカは視線を泳がせ、グレイとシャロンはぽかんとした表情でアマレットを凝視していた。
女性らしい動作と口調だが、声と見た目は明らかに男性である。
そこで、ローブの中に身を潜めていた子猫達が恐る恐ると顔を出す。
子猫達の姿を見ると、アマレットは驚くと同時に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あらまぁ!本当に人の姿に戻ってるじゃなぁい!それにすっごく可愛い子達!」
子猫達は毛を逆立てさせるようにびくりと身体を跳ね上げては、再び姿を隠そうとシルクのローブに包まってしまう。
それでも気にはなるようで、隙間からちらりと様子を伺っては猫耳をぴくりと動かす。
「…おっきいお姉ちゃん」
ぽつりと一人が呟くと、アマレットはご機嫌そうに笑みを零す。
そんな様子にグレイたちは理解が追いついていないようで、思考が停止しているような表情を浮かべていた。
シルクは狐面の下では相変わらず無表情で、ティピックはグレイ達の反応を見ながら静かに笑いを堪えていた。




