161. 近況報告
シルクが子猫達を保護してから一週間経過した。
裏魔法教会で事務作業を進めているウィンは淡々とした様子の中、時折溜息をついては誰かを想いながら憂いの表情を浮かべる。
その相手は勿論シルクである。
「シルク様…あの獣人族の子達の保護を続けていますが、無理をされていないでしょうか」
「そこまで心配しなくとも、シルク君は順調にやっているようだよ」
ウィンはむっとした表情に切り替わってティピックにジト目を向ける。
ティピックはスルーするように手持ちの書類を眺めていた。
「社長がそう言えるのは、シルク様からの報告を個人的に受けているからでしょう。私には一切教えてくれないじゃないですか、不公平ですよ!」
「違法実験に関わっていた獣人族という、下手に外部に漏らす訳にはいかない内容でもあるからね。厳重且つこまめに情報を扱わないとだろう?」
「それはそうですが、せめてシルク様が無事であるかどうかを知りたいのです。魔力の暴走に巻き込まれたりしていればと思うと、夜も眠れなくなりそうです」
「実際巻き込まれてはいないよ。写真を見た感じ、シルク君には従順のようだからねぇ」
「写真…?」
そこでティピックは、自らのスマートフォンの画面をウィンの方に向ける。
画面には二匹の子猫が黒い布に包まって眠っている姿が映し出されていた。
何とも可愛らしく微笑ましい写真なのだが、ウィンは片眉をぴくりと動かしてから不機嫌そうな表情に変化していく。
子猫達が包まっている黒い布、それはシルクのストールであった。
「シルク様のストールが毛まみれに…!なんてことを…ッ!?」
「相当気に入ってるみたいだよ。それでもやっぱりシルク君本人がいないと、探そうと動き回るみたいで…基本的にシルク君から離れない状態が続いてるね」
他にも何枚か写真が送られており、中にはグレイ達も映っている写真がある。
グレイに対して威嚇のポーズを向けている写真、シャロンの差し出した指先に鼻をつけている写真、ミュスカのつけているエプロンの結び紐をくわえて引っ張ろうとしている写真などなど。
【やはり白衣を着ている人は警戒してしまうようです。】
【少しずつ他者との交流に慣れてきました。】
【体力も少しずつ戻ってきているようです。食事量も当初と比べて増加傾向にあります。】
グレイ達の映っている写真を見たことで、一日中ずっとシルクにべったりとくっついている訳ではないと分かり、ウィンは軽く胸をなでおろす。
しかし次の写真を見た時は、肩を跳ね上がらせる且つ食い入るような勢いで画面を凝視した。
そこに映っているのは、子猫達がそれぞれシルクの肩に座り、目を細めて頬ずりしているものであった。
写真の撮られ方からして、自撮りではなくグレイ達の誰かから撮って貰ったのだろう。
シルクはくすぐったそうに表情を軽く崩しており、ある意味奇跡の一枚といえるものかもしれない。
【魔力も安定してきています。このまま順調にいけば、人の姿に戻れるようになるかもしれません。】
報告文も添えられているが、ウィンは写真にばかり目がいってしまっている。
勿論シルクにしか焦点を合わせていない。
「社長、その写真ください」
「えぇ~どうしよっかな~…一応厳重に扱わないといけない情報でもあるからなぁ」
「そうやって独り占めしようとして…!心配せずとも、しっかり加工してシルク様だけの写真としますので」
「それはそれでどうなんだい?」
そこで、事務所の扉を叩く音が鳴る。
直ぐにウィンは真剣な表情に切り替わり、ティピックも仕事モードになってスマートフォンを仕事机の隅に置いた。
ウィンの案内で入ってきたのは、以前シルクと共に施設に潜入し獣人族の救出を行った依頼者、アマレットであった。
「お疲れ様。あれから追加で情報を得られたかい?」
「えぇ勿論よ、一人一人しっかり情報を吐いてもらったわ。それと、この書類をシルクちゃんに渡してもらえないかしら」
一枚の封筒が浮遊魔法によってふわりと浮かび、ティピックの手元に滑り込むように渡った。
「シルクちゃんが保護してる子達の出身地についてまとめた資料よ。…これもあんたを経由してじゃないと渡せないの、どうにかならない?」
「そういう決まりだからね」
アマレットは納得いかないとでも言うようにジト目を向け、そのまま溜息をついた。
その直後、仕事机に置かれているティピックのスマートフォンが振動する。
ティピックは素直に手に取って画面を確認すると、軽く目を丸くさせてから一瞬だけ固まった。
それはシルクからの連絡であった。
【お仕事中失礼します。突然ですが、ティピックさんの知り合いの中で獣人族用の子供服に詳しい方はいませんか?】
ティピックはちらりと、目の前に立っているアマレットに視線を向ける。
アマレットは軽く眉を顰めさせ、どうしたんだと首を傾げさせた。
「…アマレット君ってファッション系に詳しいよね」
「何よ突然分かり切ったことを…そういった依頼が入り込んできたの?」
ティピックは表面上では営業スマイルを浮かべ、内心では頭を抱えた。
今回は仕方が無いと自身に言い聞かせてから、アマレットに事情を説明したのであった。




