160. 魔力ポーション
こうして、子猫達の保護期間が本格的に始まった。
魔力回復は通常の方法では負担を与えてしまう為、少量ずつゆっくりと時間をかけて回復させる必要がある。
そこで、通常の魔力回復用のポーションを薄めたものを使用することになった。
丁度グレイが作成していたものが余っており、それを使用しても良いかとシルクが尋ねると、グレイは即座に了承する。
「薄めて使用するので、まずは一瓶だけお願いします」
「了解〜…そうだ、どうせならシルクも使ってみなよ。昨日は沢山回復魔法を使ったんでしょ。一晩休んだと言えど、魔力はまだ完全に回復してないかもしれないし。効果についてはまた言ってくれ」
そうしてシルクの手元に二つの小瓶が手渡される。
シルク自身魔力ポーションをこれまでに使用したことが無いのもあり、飲まなくても大丈夫ではと思いながらも若干の興味を持たせた。
自室に戻ると、先程まですやすやと眠っていた子猫達は目を覚ましており、シルクを探そうと鳴き声を上げながらベッド上でうろうろしていた。
シルクの気配を感じ取ると直ぐに振り向き、シルクが手を差し伸べるとしがみついて、安心したように身体の震えが治まる。
グレイから貰った魔力ポーションをテーブルの上に置くと、子猫達はそれぞれ片耳をぴくりと動かし、興味を示すように小瓶に視線を向ける。
やはり魔力に敏感なんだな、とシルクは静かに考えていた。
初めて子猫達と出会った際に感じていた気になる点。
それは強い魔力に対して敏感且つ、それを欲するように近付こうとする様子に対してであった。
無意識ながらも普段から魔力を漂わせているシルクに直ぐ近付くのだが、ポーションにも意識を向けたとなれば、やはり子猫達は自身の魔力を補わせようとする為に近付いている傾向にある。
魔力が極端に少なくなっている分、不安が大きいのもあるだろう。
子猫達の魔力が元通りになるように、そして元気になるようにと考えながら、少量のポーションを別の容器に移して希釈する。
希釈したものを少量スポイトで吸い上げてから、子猫達に語りかけた。
「君達は今魔力が不安定だから、それを治していきたいの。少しずつこれを飲んで、魔力を回復させていくよ」
一匹がスポイトの先に鼻を近づけ、すんすんと匂いを確認する。
するとイカ耳状態になり、不満気な様子で鳴き声を上げた。
『薬品臭い…』
『あれはもっと臭い…』
シルクは目をぱちくりとさせ、どうしたものかと軽く眉を下げた。
どうやら小瓶に付いている薬品臭が気に食わないようだ。ふとグレイがとんでもない薬品臭を漂わせていた頃のことを思い出す。
今はだいぶマシになったものの、嗅覚の鋭い獣人族にとってはまだ臭いを強く感じるようだ。
希釈しても感じ取るとは、と嗅覚の鋭さを目の当たりにしては頭を悩ませる。
それでも魔力があるのを分かっているからか、まったく興味を示さない訳では無さそうである。
このまま平行線で過ごす訳にもいかない為、シルクはそれならばと行動に移した。
二つ目の小瓶に手を伸ばし、子猫達の目の前でぐいと飲み干す。
こくり、と喉が鳴った。
子猫達は驚くように耳をピンと上に立たせ、目を丸くさせている。
「…ほら。身体はどこも痛くならないし、苦しくもならない。苦味もまったくないから安心して」
『……本当に?』
子猫達は恐る恐ると、空になった小瓶に不安そうな視線を向ける。
この時、シルクは内心驚いていた。
ポーションを飲んだことで、自身の中で魔力が高まっていく感覚を覚えたのだから。
普段よりも魔力の調子が良くなっているようにも思えてしまう程、シルクの魔力は見事に回復されていた。
魔力により敏感となっている子猫達は、そんなシルクの魔力の流れを感じ取ったのか、シルクを見てから小瓶に向かって強い視線をぶつける。
シルクの飲み干した方ではない、子猫達用としての残っているポーションの原液の方に向かって手を伸ばそうとしたのを、シルクがひょいと小瓶をつまんで阻止する。
「君達はこっちから始めよう。少しずつ慣らして…ね?」
『少しずつ…』
『…分かった』
その後、無事子猫達に希釈したポーションを少量ずつ飲ませることに成功した。
シルクの言う通り苦味がまったく無く、子猫達は大きな抵抗無く舌を動かして飲んでいた。
グレイの作る魔法薬は時によって味が変わるとミュスカとシャロンから聞いていた為、味がついていた時はまた大変だったに違いないと、シルクは心の中で呟いた。
ポーションを飲み終え、身体に魔力が蓄えられたことで子猫達の体力も回復している傾向にあった。
そして相変わらず、より多くの魔力を保持しているシルクにはべったりとくっつくように身を寄せている。
魔力回復にはまだまだ時間をかけていく必要がありそうだ。
「後で博士にお礼を言おうね」
『博士?』
『白い……薬品臭いグレイ?』
「魔法薬学研究者の凄い人なんだよ。だから博士なの」
『…シルクは怖くないの?』
「怖くないよ。不思議な人で、時には驚いたりもするけど…根は優しくて思いやりがあって。信頼できる人だよ」
『優しい眼鏡のミュスカと、頭脳明晰のシャロンも、信頼できる人?』
「そうだよ。皆信頼できる人」
シルクは子猫達を膝の上にのせ、毛並みを整えるように優しくブラッシングしながら会話を続ける。
子猫達は気になっていることを問いかけてはシルクの優しい声に耳を傾けさせ、それを繰り返していくうちにうとうとと眠たそうに目を細めていく。
暫くすると子猫達はシルクの膝の上で安心するように眠ってしまい、シルクは椅子にもたれかかった状態で、膝の上の温もりの心地良さに目を細めさせた。




