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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第七章:邂逅
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159. 懐く度合い

 続いてグレイの紹介に移ろうとするも、子猫達は昨夜のグレイの姿を覚えている為か、ふわっと毛を逆立てさせて固まってしまう。

 シルクの隣に来てすらもいないのに、目が合っただけで警戒されたことにグレイは苦笑いを浮かべて肩を落とした。



「こちらは博士…グレイさん。色んな魔法植物について調べている研究者で、素直で優しい人だよ」



 そこでシルクが手で視線を促しながら、落ち着いた声色でグレイの紹介をする。

 シルクの言葉に反応して子猫達はぴるる、と耳を動かす。それでも毛は逆立てさせたまま、イカ耳状態で鳴き声を上げだした。


 シャロンやミュスカの時と違い、やや激しめの鳴き声である。



「何か文句を言われてる気がする…」


「なぁシルク、何て言ってるんだ?」



 シルクは静かに子猫達の訴えに耳を傾け、訴えの波が和らいできたところで口を動かした。




「グレイさんは悪い実験をしてる人じゃないよ」


「シャーッ!!ヴゥゥ…」


「それは薬品の臭いだね。悪いことをする為に作ってるんじゃ無いんだよ」


「ヴゥ………みぃ…?」



 子猫達はイカ耳状態のままグレイに視線を向ける。

 尻尾が大きく膨らみ、小刻みに身体を震わせているが、シルクの言葉を聞いてからは唸り声を止めた。

 代わりに疑い深くするように睨みだけをきかせている。


 グレイはその場で姿勢を低くさせ、苦笑いを浮かべながら優しく語りかけた。



「昨日は驚かせてごめんねぇ。僕は普段から魔法植物を扱ってる研究者なんだ、君達の言う施設の人とはまったく関係ない人だよ」



 子猫達は身を寄せ合いながら静かにグレイを凝視し、その後逆立っていた毛は少しずつ和らいでいった。



「……みぃ」



 小さく声を上げると、シルクの方に近付いて足元に隠れてしまう。

 そこからちらりと頭だけを見せて、グレイ達の様子を伺いだした。



「…これは納得してくれたのかな?」


「……まだ警戒していますが、当初よりはマシになっているかと」


「そっかー。…ちなみに、この子達の名前ってあるの?」



 シルクはグレイの問いかけに対し、一瞬だけ複雑な表情を浮かべた。

 直ぐ無表情に戻ってから、足元に身を隠している子猫達に視線を送る。



「名前は…あるはずです」


「あるはずって、どういうことですか?」



 ミュスカは首を傾げさせて疑問を浮かべる。

 シルクは異言語魔法で聞き取った子猫達の言葉を脳内に浮かべさせた。




『私、87番』


『88番…』




「この子達は、施設では番号で呼ばれていたようです。その番号を自分の名前だと認識してしまっています…これは本当の名前ではありません」



 自己紹介の際にシルクの表情が固まったのは、子猫達が番号を名前として宣言していたからなのか、とシャロンは納得する。



「この子達の出身地を調べてもらっているところなんです。今頂いてる情報によると、生まれて直ぐ攫われた訳では無さそうでしたので…本当の名前が今後分かるかもしれません」


「攫うなんて酷いことをするね。…名前を番号と認識するくらい、長い期間施設にいたってことだよね?」


「はい。四年ほどいたようです」


「四年って…じゃあ1歳の時に攫われたってことかよ」




 シルク達が話している間、子猫達はシルクの足元にしがみついてよじ登り、腰辺りまで自力で登ってきていた。

 途中で力尽きそうになったところで、シルクが手で身体を支えて持ち上げる。

 すると子猫達は安心するようにシルクの手に擦り寄り、目を閉じて大人しくなった。


 子猫達の年齢を知ってグレイとミュスカは静かに驚愕し、シルクの手の中で丸まっている姿を見つめた。

 5歳にしては身体が小さすぎるように見え、実際痩せ細っている。

 魔力が不安定なせいで人の姿に戻ることができず、小さな身体の状態で実験を繰り返され、毎日怯えて過ごしてきたに違いない。


 地獄のような日々から救い出してくれたシルクの存在は、子猫達にとってとても大きなものである筈だ。

 勿論子猫達だけでなく、他にも囚われていた獣人族達も同様だろう。




「この子達は、特に魔力を扱う実験を繰り返されていたようです。見つけた時点で、他の獣人族達よりも魔力が少ない…吸い取られたような状態でした。なので常に魔力が枯渇している状態とも言えます。この子達が私から離れないのも、私から流れている魔力を欲しているからかと」



 シルクは心配そうに子猫達を見つめる。

 確かに魔力を欲しているという理由も頷けるのだが、純粋にシルクの人柄もあって懐いているんだろうな、とグレイ達は考えていた。


 子猫を撫でる仕草、肩から落とさないように気を配る様子、ミルクを飲んでいる姿を優しい目で見守っている姿を脳裏に浮かべる。

 シルクの優しさと温もりがあるからこそ、子猫達は身を委ねている筈だ。




「…この子達の魔力が元通りになったら、その後はどうなるんですか?」


「保護施設に送ることになります。そういう約束ですので」



 シルクは淡々とした様子でそう宣言する。

 普段から仕事モードでいることが多く、真面目な部分がある為、約束は最後まで真剣に対応して果たすだろう。

 しかし子猫達がそれをどう思うのだろうか。


 無表情でありながらも真剣な様子のシルクに対し、グレイ達は複雑な気持ちになって顔を見合わせた。

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