154. 小さきものたちの目撃
薄暗くて、じめじめした部屋。
私達は此処で順番を待ってる。
順番が近付いて来ると思うと、身体の震えが止まらなくなる。
でもいかないといけない。これは決まりだから。
私達だけじゃない、皆がそうだから。
「84番」
ドアが開いて、白い人が名前を呼ぶ。
呼ばれた友達の身体は震えていたけど、白い人に無理矢理手を引かれて連れて行かれた。
嫌だと言ったら怒鳴られるから、叩かれるから。
連れて行かれた先で結局痛いことをされるけど、大人しくしていれば、余計に痛い目に遭わないで済むから。
友達皆、包帯を巻いてて、見ていると私達もズキズキする。
そんな私達にも包帯が巻かれてる。痛いけど我慢する。
「85番、86番」
また白い人が来て、他の友達の名前が呼ばれる。
もうすぐ私達の名前。身体の震えが強くなる。
泣きたいけど泣いちゃ駄目。
泣いたらぶたれる。痛いのは嫌だ。
「87番、88番」
身体がびくりと跳ね上がる。
嫌だ、怖い、行きたくない、逃げたい。
でも逆らえない、行かなきゃ、逃げちゃ駄目だ。
白い人の手がこっちに伸びてくる。
身体が思うように動かない。
ごめんなさい、痛いことしないでください。
―――――バツンッ
薄暗い部屋が、真っ暗になる。
皆が驚いて声を上げる。
白い人も慌てたように驚いてる。
何か良くないことが起こったらしい。
もっと体調が良かったら、真っ暗な中でも動けるのに。
今は思うように動かなくて、いろんな所が痛い。
私達、どうなっちゃうんだろう。
怖い。怖い。
…誰か助けて。
「まずい、研究室は先回りされたぞ!」
「データはもう捨てろ!兎に角逃げるのが優先だ!」
「待て!そっちにも別の追手が…うわあああッ!!」
ドアの先から白い人達の声が聞こえる。
何かがぶつかる音、割れる音、落ちる音。
キンッ、キンッ、と高い音が鳴る。
そしたらドアに真っ直ぐな線がいくつか浮かび上がって、音を立てて崩れた。
「ひぃッ…な、何なんだお前は!?」
部屋にいた白い人が震えた声を上げる。
崩れたドアから知らない、見たことの無い人が入って来る。
全身真っ黒。
でもよく見たら、顔は真っ黒じゃない。
不思議な模様が描かれた、狐さんの白いお面。
狐さんは白い人を睨んでる。
白い人の身体が震えてる。
「こ…こっちに来るなッ!」
白い人が狐さんに向かって、魔法を出そうとする。
でも魔法は出なかった。
白い人の足元から、黒い紐のようなものが出てきて、白い人の身体に巻き付いたから。
白い人はその場に倒れ込む。
顎を強く打ってて痛そう。
狐さんは白い人の前で立ち止まる。
そのまましゃがんで手を伸ばす。手には何か握られていて、白い人に向かって何かが吹きかけられた。
「な、何を…し……」
白い人は何も話さなくなった。
身体は動いてて息はしている。ただ眠っただけみたい。
狐さんが白い人を眠らせちゃった。
狐さんが私達の方に振り向いた。
身体がまた震えだす。
白い人は悪い人。そんな悪い人を、狐さんは退治してる。
狐さんは良い人?それとも別の悪い人?
怖い。怖い。怖い。
「…酷い怪我」
狐さんが声を出す。
落ち着いた、優しい声。
狐さんは私達の前まで来て、しゃがんで手を伸ばす。手には何も握られていない。
温かい光が私達の身体を包み込む。
痛いところが楽になっていく。
優しい。温かい。気持ち良い。
光が和らぐと、狐さんはお面に手をつけて、そのままゆっくり外しちゃった。
黒くて吸い込まれそうな、綺麗な目。
狐さんは立ち上がって、周りをぐるりと見渡してる。
私達以外にも、怪我してる友達が沢山いるのに気が付いたみたい。
皆順番に、あの温かい光を浴びていく。
皆気持ち良さそうに、安心した顔をしてる。
狐さんは良い人だ。
そう思うと、傍にいてほしくて堪らなくなってくる。
此処には白い人が沢山いる。
また別の白い人が来たら、またあの部屋に連れて行かれたら。
嫌だ、怖い。此処から逃げたい。
狐さんは、私達を此処から逃がしてくれるの?
「一旦此処に魔法障壁を貼るから、皆は此処で待ってて。また直ぐに助けが来るから安心して」
狐の人は眠った白い人を浮かせながらそう言って、部屋から出ようとする。
待って。置いて行かないで。
怖くて出ていなかった声を、振り絞って上げた。
「………み、みゃう」




