152. 安心する記憶
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――
すすり泣くような声が聞こえる。
その声には聞き覚えがあった。
暗闇の中、声がする方へ向かって歩いていく。
視界の先にぼやけた景色が浮かび上がり、シルクは足を止めた。
「…ごめんな、さい、……ごめん、なさい」
毛布を被り、横になったまま蹲っている少女の姿。
身体の成長が止まる前の、過去のシルクの姿だ。
最後に見た夢の続きなのだろうか、とシルクは固い無表情のままそう考える。
そこで、ガチャッと扉が開く音が鳴り響いた。
景色の奥に見えていた扉がゆっくりと開いたと思えば、一人の人物が顔を出す。
腰を曲げた白髪の高齢な女性だ。
顔はぼやけてよく分からないが、この姿には見覚えがあった。
「”――”、大丈夫?ものすごい怒鳴り声だったわよねぇ」
少女はすすり泣きながらも、顔まで隠していた顔を少し出しては更に涙を流していく。
白髪の女性は少女に近付くと、正座をして少女の手を優しく握った。
「あの人はもう外出したから。今は安心してゆっくりおやすみなさい」
「うん…ごめんね、おばあちゃん」
「謝る必要なんて無いわよ。”――”はよく頑張ってるもの。学校で沢山勉強して、宿題もしっかりやってて、部活にも精を出して…私はとても誇らしいわ。それに、人間だれしも体調を崩してしまうのは当たり前のことなの。何にも悪いことは無い」
穏やかで優しい声が、シルクの耳にも届いては胸が熱くなっていく。
ぼやけていた女性の顔は段々はっきりとしていき、シルクは目を丸くさせてから安心するように目を細めた。
あぁそうだ、思い出した。
この人は正真正銘、私のおばあちゃんだ。
優しい笑顔に、穏やかで懐かしい声に、握られている手から伝わる温もり。
少女の手元の温かさが、そのままシルクにも伝わっていくようだった。
どうしてこんなに大切な記憶を忘れていたんだろう。
シルクの目からも涙が溢れていき、頬を伝って落ちていく。
少女の目からも次々と涙が零れていき、くしゃりと顔を歪ませながら頷いていた。
「迷惑だなんて思っちゃいないわよ。私は、”――”の味方よ。勿論おじいちゃんもね」
「っ…、うん。…ありがとう、おばあちゃん」
少女は沢山の涙を流しながら笑っていた。
おばあちゃんに頭を撫でられ、おやすみなさいと言われるとそのまま目を閉じる。
ゆっくりと呼吸し、少女は静かに眠ってしまった。
少女が眠ったのを確認してから、おばあちゃんはゆっくりと立ち上がって扉の方へと向かって行く。
シルクは扉が最後まで閉まるのを見届けてから、景色に向かって足を踏み入れた。
涙の跡を残したまま静かに眠っている、過去の自分の頭にそっと手を伸ばす。
実際に触れることはできないが、おばあちゃんの時のように静かに頭を撫でるように手を動かした。
「…私にも、安心できる家族がいたんだね」
この時、シルクは優しい笑みを浮かべていた。
視界が少しずつぼやけていく。
しかし不安な気持ちにはならず、寧ろ落ち着くようにそのまま目を閉じる。
そうして、視界は真っ暗に染まった。
――
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窓から差し込む太陽の光を浴び、シルクはゆっくりと目を覚ます。
身体を起き上がらせ、ぼんやりとした思考のまま部屋の中をぐるりと見渡した。
「……夢」
再び夢を見たことで、今回は気絶ではなくちゃんとした睡眠であったと認識する。
これまでの嫌な夢とは違い、安心する夢であったからか不安な気持ちには襲われていない。
夢の内容は自分の記憶の鍵になることを改めて認識し、静かにベッドから離れる。
そのまま身支度を整え、部屋を出た。
食卓に向かうと、ミュスカの後ろ姿を見つける。
いつものように朝食の準備をしているが、ふと後ろに振り向いたことでミュスカは目を丸くさせながら手を止めた。
「シルクさん!」
「…おはようございます」
「おはようございます。もう体調の方は大丈夫ですか?」
「はい、よく眠れました」
ミュスカは安心するように肩を落とし、シルクに先に座るよう促す。
そこでシャロンも食卓に顔を出し、シルクの姿を見てはミュスカと同様に体調を確認する。
心配させてしまったと反省しながらも、シルクは温かな気持ちに包まれたのであった。
――
――
シャロンとミュスカは魔法学校へ登校し、シルクは遅めに起きてきたグレイと広間で過ごしていた。
シルクは外の景色をぼんやりと見つめていたが、グレイから声をかけられるとそちらに視線を向ける。
「ねぇシルク、聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「はい、何でしょうか?」
「シルクって最近熱心に読んでる本があるでしょ。題名は分からないんだけど、分厚い本をさ」
シルクは目をぱちくりとさせてから、あぁ、と声を漏らしてから縦に頷いた。
「はい。荷物を整理していた時に見つけて…私に魔力の扱い方を教えてくださった方から頂いた本なんです」
「てことは、この前シルクが言っていた師匠の!?」
「…そうなりますかね」
本当に師匠だったのかはまだ不明ではあるのだが、思い出した記憶の一部では本を渡された光景が浮かび上がっていた。その時の本が、今シルクの部屋に置かれている分厚い本である。
「まだ完全に思い出したわけではありません。でももしかしたら…博士の言う通り、師匠と呼べる人だったのかもしれません。あの本には色んな魔法について書き記されていますし、読んでいると何だか懐かしくも思えるんです」
「そうなんだね…良ければ僕にも読ませてくれないかい?」
「はい、良いですよ」
そこで玄関の呼び出し音が鳴り響く。
グレイは思い出したかのように立ち上がると、シルクに待っててくれと声をかけてから広間を出た。
シルクは疑問符を浮かべながら素直にソファに座って待っていると、複数人の足音が近付いて来るのに気付く。
グレイに続いて私服姿のカネルとアベルが広間に入り、シルクは驚いたように目を丸くさせてから首を傾げた。




