142. 予想外の反応
まさか待機されているとは思わず困惑するも、シルクはつい警戒心を含めた瞳を向けてしまう。
何か言葉を出そうにも、口がうまく動かなくなる。
脳裏に、罵詈雑言を浴びせてきた者達や恐怖するように避けてきた者達の姿が蘇る。
そんなシルクの前に、ペーシェがずいと近付いた。
「シルクさん…この前の魔物討伐の時、手加減してたでしょ」
狐面の下に隠された暗い瞳にペーシェの姿が映る。
そこでシルクは違和感を感じて眉を顰めた。
ペーシェが不満そうな、納得いかないとでも言うようなふくれっ面を浮かべているのだ。
どうして誘ってくれなかったんだ、と仲間外れされて不機嫌になった子どものような表情にも見えてしまい、シルクは狐面の下で目をぱちくりとさせる。
「あんなに凄い魔法の使い方をするなら言ってよ!武器の使い方も興味深かったけどさ、魔法使いとなれば魔法の扱い方も気になって仕方が無いわけ!シルクさんが物凄い魔力を持っているのは分かっていたけどさ、あの凄まじい戦い方を見てたらもう…!あぁもう、言葉がうまくまとまってない!」
若干興奮気味で言葉を続けるペーシェに対し、シルクは固まって動けなくなる。
ふと視線を逸らしてレザン達の様子も静かに伺うも、そこでシルクは更に困惑した。
納得できないとでも言うような雰囲気が滲み出ているのだが、ペーシェと同様の仲間外れにされたことに対する不満感を抱いているように見える。
つまり、嫌悪感は全く抱いていないように伺えられるのだ。
「…気味悪く思わないんですか」
ついぽつりと、シルクの口から言葉が零れる。
間近で聞いていたペーシェはきょとんとした表情になり、首を傾げる。
「皆さんを危険な目に遭わせかねないような魔法の使い方をして、自分勝手に行動して…もう関わるのは御免だとは思わないんですか」
これまでの経験してきた周りの態度を思い出しつつ、抑揚のない声で淡々と口を動かす。
この冷たさを感じさせる態度も要因なんだろうな、と心の中で自虐させてから視線を伏せる。
きょとんとしていたペーシェは眉間に皺を寄せ、今度は反対側に首を傾げさせた。
「はぁ!?逆に何でそう思っちゃうのさ。目の前の絶好のチャンスを溝に捨てるようなこと、僕は考えられないんだけど!」
「まぁ落ち着け、シルクさんがまた困ってるだろ」
ペーシェの首根っこを軽く掴みながらカネルが溜息交じりにそう語る。
静かに話を聞いていたプラットも横から入り込むように近付き、肩を竦めながら口を開く。
「そりゃ驚きはしたけど、気味が悪いは言い過ぎじゃないか。それがシルクさんの実力ならそれで良いと思うんだが…もしかして昔色々とあったやつ?」
「えぇ…もしそうならそいつら馬鹿すぎでしょ」
これまでの嫌な記憶の者達が馬鹿という言葉で片付けられている。
シルクは拍子抜けしてしまいそうになりつつ、伏せていた視線をゆっくりと上げる。
否定しない辺り肯定だと読み取ったのか、アベルが鋭い視線を向けながら口を開いた。
「一人でいる方が向いているってのは、そういうことだったのかよ」
「…もう慣れていることですから」
「……つまり、俺達もそいつらと同じだと」
アベルは苛立つように眉間に皺を寄せ、棘のあるような低い声をシルクにぶつける。
シルクは静かに目を見開かせ、アベルの鋭い視線に目を逸らせなくなる。
「はっきり言わせてもらうが、そんな下らない奴等と同等だと思われるのは御免だ。もしそう考えていたら許さねぇぞ」
「はいはい、アベルも落ち着けよ。…まぁ確かに同感ではあるな。僕達は生半可な気持ちで特攻隊をやっているわけでは無いし、この仕事に誇りを持っている。中途半端な志を持つ者は蹴落とされるか、下手すれば命を落とす世界…強い者だけが生き残る世界だ」
カネルは落ち着いた声とは裏腹に物騒な言葉を口にする。
そして真剣に語る様子に、シルクはただ黙って聞き続けていく。
「そんな世界で生きていく中で、シルクさんのような存在と出会えたんだ。上には上があるとは聞くが、まさに今がそうだ。ならまずは何をすべきか。…答えは単純、更に上へ目指していくだけだ」
シルクはこれまでカネル達がしつこく探りを入れてきていた様子を脳裏に浮かべる。
向上心の塊が目の前に分かりやすく存在しているような、興味津々に沢山質問してくる姿が次々と浮かんでいく。
どれも純粋に興味を抱いていたり、知識を取り込もうと真剣に向き合おうとする態度だった。
悪意を持たずにそこまで純粋でいられる者が、これまでに何人いただろうか。
ティピックやウィンの姿に続いて、グレイ、シャロン、ミュスカの姿が浮かび上がる。
その中に、カネル達の姿も映り込もうとしている。
狐面の下に隠れている瞳が僅かに歪む。
同時に申し訳なさでいっぱいになりそうになる。
「…ごめんなさい、変なことを聞いてしまいました」
「謝らないでくれよ。実際不安にさせたのは変わりないと言うか…あの後俺達が黙り込んでたのも気にしてたんだろ」
レザンが軽く眉を下げ、視線をそらしつつも申し訳なさそうにそう語る。
討伐終了後の静けさは確かにシルクにとって緊張感が漂うものであったが、そこは仕方が無いよなと割り切っていた。
そこでペーシェが食い入るように割り込み、弁明するようにシルクと向き直る。
「だってあの時は魔力の余韻が凄かったんだから!肌がビリビリするような魔法を間近で見られたわけだし、魔法障壁もあんな使い方ができるとは思ってなかったし。ものすっっごく感動してたの!」
「何気に体術も混ぜた動きをしてたし、見ていてハラハラするところもあったけど…正直魔法障壁無しで近くで見たかったのもある。俺達を巻き込まない為のものだったのは分かってるぞ?」
「もっと近くで見てたら吹き飛ばされてたのかな…逆に気になるかも」
まさかの発言にシルクは遠くの方へと視線を向けそうになる。
グレイが魔法植物に対して異常な興味を示す様に、ペーシェ達は戦いに対する好奇心が異常な程高い。
魔物を討伐している時の様子も踏まえ、つい腑に落ちてしまった。
ぽかんとしてるシルクにカネルが気付き、苦笑いを浮かべてから軽々と言葉を続けた。
「変に驚かせてしまったな。こんな感じだから周りからは戦闘狂集団って呼ばれているくらいなんだ、僕達はその通りだと思ってるし、寧ろ誇らしいぞ…シルクさんも堂々としてて良いんじゃないか」
カネルはそう言ってから笑顔を浮かべた。
眩しく感じてしまいそうな笑顔にシルクは一瞬視線を伏せてしまうも、その後静かに狐面を外した。
鼻先まで覆われていたストールを緩め、素顔が露わになる。
「…善処します」
言葉としては曖昧な返事をされてしまったが、カネルは軽く目を見開かせてから満足そうに微笑む。
戦い方について小さく議論していたペーシェとプラットはシルクの方を見て話すをの止めてしまい、レザンはシルクの方をつい凝視したまま固まり、アベルも目を丸くさせてしまう。
視線は軽く伏せられた状態のままだが、安心したような優しい笑顔を浮かべているシルクの表情に釘付けになった。




