141. 隠し切れない思い
静けさ漂う森林の中、シルクはとある作業を続けながら思考を巡らせていた。
魔力を解放させて魔物を討伐するのは久しぶりのことであり、意図したと言えど後悔の念が渦巻いていく。
シルクは刀や銃といった武器を使用せずとも、属性のみでの攻撃も難なくこなせる。
武器を使用するのは魔力の調節の為でもあり、今では武器に魔力を込めて攻撃することに慣れているが、昔はあらゆる属性の魔法をそのまま攻撃手段として扱っていた。
一般的な魔法使いとは比較にならない程の高魔力を平然と撃ち込んでいく為、当時は桁違いな強さに周りから恐れられていた。
『どうやったらあんなことができるんだろうな、流石にドン引きっつーか』
『何考えてるのか分からないのも気味が悪いわよ、私達とは別格だとでも思ってるんじゃないの?』
『嫌な奴だなそれ。…まぁ確かに、近付き難い雰囲気だしな。俺は深く関わりたくないね』
『何か薬でも盛ってるんじゃないの?ズルくない?そーいうの良くないと思うんだけど』
『いやいや、貴方様の実力にはとても感銘を受けましたよ。是非私達のチームと共に、悪の魔物を討伐していきませんか?』
『これで少しは楽に……あぁ、何でもありませんわ。よろしくお願い致しますわね!』
『やっぱり無理だあんな化け物!平気で俺達を巻き込むようなことしやがって、殺されるかと思ったぞ!』
『私達のレベルにまったく合わせてくれないじゃない。自分勝手にも程があるんじゃなくて?』
様々な言葉が次々と脳内に響いていく。
冷ややかな視線を向けて距離を置いてきた者。
勘違いを押し付け、自分が正しいとでも言うように見下してきた者。
媚びを売って欲を出し、破滅の道へ辿りかけた者。
どの者達も今ではこの世にはもう存在しないのだが、遠くも苦い過去は脳裏にこびりついている。
反論しても誰も評価を変えず、いつからか反論することもしなくなった。
こういうものだと割り切らせ、何度も自分に言い聞かせた。そうすることで少しでも苦痛を和らげられると思っていたから。
しかし辛いことには変わりなくて。
無表情の裏に隠された暗い影を隠し通し続けても、心の中の本音が悲鳴を上げそうで。
感情を押し殺す日々が続いていき、表に出しにくい感情を心の中でも出しにくくなった時期もあった。
自分は只の魔法使いだ。
呪いの言葉のように何度も言い聞かせ続け、何年の月日が経っただろうか。
その月日すら数えるのが億劫になる程生き続け、遠い記憶から順に記憶はぼやけて忘れてしまっていく。
それでも辛い記憶は脳裏にこびりついていて。
…それでも、誰かの役に立ちたいという気持ちが宿り続けていて。
猛毒の煙が漂っている時、カネル達の顔を顰めた様子を見た瞬間にシルクは体温が下がるような感覚に襲われていた。
責任感を感じたわけでもなく、ただひたすらどうにかしなければという考えが瞬時によぎっていた。
私に毒は効かなくても、皆はそうはいかないじゃないか。
そう考えると同時に蠢くような胸騒ぎにも襲われ、視野を広げる為に狐面を外し風魔法を発動させた。
更に襲いかかってくるであろう猛毒攻撃だけでなく、自分の攻撃に巻き込まれないようにする為にも、カネル達を守る魔法障壁を発動させた。
最終的にはクロムスコーピオンも討伐し、カネル達はほぼ無傷な状態で済んだ。
しかし自分の状態を見て皆はどう感じたのだろうか。
魔力測定機を使用した際に一度警戒されたが、その時よりも遥かに上回る魔力を魔物にぶつけていたのだ。
(…流石に引かれたよね)
作業する手を止めて目を閉じるも、直ぐに作業を再開させる。
一通り作業を終え、目元には狐面をつけて口元はストールで覆い隠す。
狐面の下に潜む瞳は暗いまま、森林の出入口へと足を進める。
箒に乗ってそのまま飛び去ることも考えたが、そのような気分にはなれなかった。
ただ静かに、一人でいる時間が長く欲しくなった。
しかし、出入口付近でシルクは足を止める。
瞳は暗いままでも、驚くように目を見開かせる。
「あ、来ましたよ隊長〜!」
先に戻っている筈のカネル達が出入口で待機していた。
各自近くの木々にもたれかかっていたり、木の上まで登っていたり、低い位置に埋め込まれている岩に座っていたりと様々な様子だ。
木の上に登っていたぺーシェは軽々と跳躍してから地に足をつけ、カネルもシルクの方へと振り向く。
シルクは無表情のまま困惑し、真っ先に出てきた疑問をそのまま口にする。
「…先に戻っていたのでは?」
「あぁ、先に出入口にまで戻ってきていたぞ」
予想外の返答にシルクはぽかんとしてしまう。
てっきり現地解散として裏魔法協会へ向かっていると思い込んでいたのだ。
シルクの反応にカネルは軽く溜息をついてから言葉を付け足した。
「本日の主役を置き去りになんてするわけが無いだろう」
何の企みも無い、どこかスッキリとしたような真剣な表情をしていた。




