137. チタンスコーピオン
シルクの依頼に同行というのもあり、移動手段は箒で現地に向かうことになる。
カネル達は覚悟していたものの、シルクの相変わらずの箒の乗りこなしに各自思い思いの表情を浮かべていた。
今回の討伐場所となる湿気の強い森林の奥深くまで辿り着くと、シルクは箒から降りてぐるりと辺りを見渡す。
辺りに標的がいないことを確認してから、カネル達に視線を移して口を動かした。
「今回の標的となるチタンスコーピオンは猛毒を持ち、素早い動きが特徴的です。身の周りの振動や匂いを感知しながら動く魔物ですので、皆さんもお気を付けください」
「了解…となると慎重に動く必要があるな。この木の多さじゃ箒で移動するのも苦労するだろうし、皆警戒して動くように」
カネルの声掛け部下達は静かに頷く。
多くの木々が密集している地帯であり、身を潜めながら行動しやすい点はシルク達だけでなく魔物側にとっても同様である。
互いに身を潜め合いながらの戦いとなる為、そのような環境をどのようにこなしていくのか。
シルクの戦いぶりにカネル達は興味を示すが、そちらに集中してばかりではいられない。
自分の身は自分で守る。シルクの依頼だからといって責任を負わせるつもりは毛頭ない。
シルクの右手の中指に嵌めてある指輪がきらりと光り、一本の小刀が召喚される。
そのまま静かに辺りを警戒しながら足を進めていく。
カネル達も同様に静かに動きながら、必要以上の音を立てないように動くシルクの素振りをしっかり観察する。
カサリ、とシルクの頭上で音が鳴った。
直後、高い木の上からいくつもの紫色の液体が降り注いだ。
シルクは小刀を口にくわえてからバク転するように液体の雨を避け、地面に着地すると同時に視線を上に向ける。
「…目標を確認」
木の上には長い尾の鋭い針先をシルクの方へと向けている、複数のチタンスコーピオンの姿。
尾を震わせると先端が膨らみ、再び毒の液体を発射させる。
それらをシルクは軽い身のこなしでかわしていき、並んだ木を利用して跳躍しながら上へと駆け上がった。
そうしてチタンスコーピオンとの距離が縮まったと思えば、小刀を素早く構えてチタンスコーピオンとすれ違う。
シルクが地面に着地すると同時に、チタンスコーピオンの尾の先が切り離された。
攻撃手段の1つを奪われたことに驚くように、大きな鋏を振り回しながら地面へと落下していく。
「やっぱり動きが速過ぎる…!」
「おい、俺達も此処で立ち止まってはいられないぞ」
ペーシェが瞳をきらきらと輝かせながら観察するも、アベルの指摘によって後ろへと振り向く。
木の上で待ち構えているチタンスコーピオンの姿が目に入り、毒の尾の先端をアベル達にも向けていた。
毒の雨が降り注ぐ前にカネル達はその場から散るように離れ、その直後に地面に紫色の液体が広がる。
液体が降り注いだ地面はボコボコと気泡を発しながら溶けてしまい、薄い紫色の煙を漂わせては空中で消えていく。
次々と姿を現すチタンスコーピオンの攻撃を避けながら森の中を駆け回っていく。
硬い殻を身にまとうチタンスコーピオンであるが、シルクの一振りの攻撃には抗えず尾の先端を切り落とされていき、金属同士がぶつかり合うような音が何度も響き渡っていく。
プラットが瞬時に木の影に隠れて辺りの様子を伺うが、丁度死角となる場所では鋭い鋏の先をプラットに向けている存在が。
気配に気付いて振り向くと、1体のチタンスコーピオンが跳躍してプラットに勢いよく近付いた。
すかさず魔法障壁を貼ろうとしたところで、目の前まで飛んできたチタンスコーピオンの身体に小刀がどすりと突き刺さった。
頑丈な殻の節と節の間を狙うように向けられた小刀は見事に内側まで到達し、数回痙攣してから力無くぐったりと動かなくなってしまった。
そのまま直ぐに小刀を引き抜き、他のチタンスコーピオンを仕留める為にシルクはその場から離れる。
あまりにも素早い行動にプラットは冷や汗を流し、目の前での仕留める瞬間を振り返りながらシルクの後ろ姿を見つめる。
「急所も的確過ぎる…視覚魔法使ってなかったよな?」
動かなくなったチタンスコーピオンの状態を見てから、プラットもその場から離れてシルクを追った。
「……27」
暫くして、シルクは討伐した数を呟いてから小刀についた汚れを振り払う。
目標の討伐数は30体であり、残りは3体。
静かになった森林の中、呼吸を潜めて辺りの警戒を続ける。
カネル達も同様に辺りを警戒するが、チタンスコーピオンは姿を見せない。
何処かに身を潜めている筈なのだがと周辺を見渡し続けていると、レザンが視線を下に向けたところで何かを見つける。
それはチタンスコーピオンの殻だった。
シルクが仕留めたような状態では無く、抜け殻のような状態でその場に落ちている。
何故このようなものが、とレザンは眉間に皺を寄せながら抜け殻を見つめる。
その直後、近くにいたアベルがレザンの腕を勢いよく引っ張った。
レザンは驚いた表情を浮かべるも、先程自分がいた場所に視線を向けてから更に目を丸くさせる。
ばしゃり、とバケツから中身をひっくり返したような大量の紫色の液体が降り注いできたのだ。
地面はどろりと溶け、大きな穴ができあがってしまう。
「おいおいマジかよ…」
近くにいたカネルも異様な攻撃に気付き、上へ視線を移してから小さく呟いた。
アベルとレザンも上の存在に気付いては言葉を失うかのように驚愕の表情を浮かべる。
「……しまった」
シルクもその存在に気付き、冷や汗を流した。
ギラリと光沢を帯びた頑丈な殻を身にまとい、螺旋状に巻かれている長い尾の先には鋭く尖った針を剥き出しにさせ、頑丈なものでさえも切り落としてしまいそうな大きい鋏をもつ存在。
チタンスコーピオンよりも一回り大きな身体の魔物が木の上で佇んでいた。
「…標的の一部が、クロムスコーピオンに進化しているのを確認」
シルクは小刀をもう一本召喚し、両手に一本ずつ握った状態で警戒態勢をとった。




