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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第六章:体質
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134. 理由

 手当てが終わったタイミングで、カネル達も箒に乗って崖下まで降りてくる。


 暴れ狂っていた魔物が大人しくなっているのに驚いたのは勿論のこと、シルクが負傷したことにはもっと驚いていた。

 そこまで驚かなくても、とシルクは申し訳なさそうに若干眉を下げる。


 討伐はどうやら終わったようで、しっかり見届けることができなかったことに対してもシルクは申し訳なさを感じてしまい、肩を軽く落とした。



「皆さんに御迷惑をおかけしました、申し訳ございません」


「迷惑だなんて思っちゃいないさ。だが、理由は聞かせてくれないか」


「はい……その前に、この魔物を上に戻しても良いでしょうか」



 シルクはちらと魔物の方へ視線を向ける。

 きょろきょろと辺りを見回して落ち着かない様子の魔物に、また暴れられては大変だとカネルは了承する。



 落下した衝撃で外れてしまっていた狐面はそのまま流されることなく、岸辺近くで引っかかっていた。

 シルクはほっと胸を撫で下ろしながら狐面を拾い上げ、割れていないことを確認してからポシェットに仕舞う。


 プラットから藁の箒を受け取って礼を言い、魔力を込めてふわりと箒が浮かぶ。

 魔物に寄り添うように横に並ぶと、浮遊魔法を発動させてシルクと共に魔物もふわりと浮かんだ。



『あの子達、無事かしら…』


「安全な場所に隠れてるから大丈夫だよ」



 異言語魔法で魔物と会話しつつ、シルクは目的の場所に向かって行った。



 目的の場所は丁度カネル達と依頼の確認をしていた、身を潜めやすい場所。

 辿り着くとシルクは浮遊魔法を解除し、箒から降りると草むらからガサガサと音が響いた。


 草むらには数匹の小さな子どもの魔物が身を潜めていた。

 その中の1体は大きな傷を負い、力無く動かない。そんな1体を守るように子ども達は身を寄せ合って固まり、身体を震わせていた。


 しかし親の姿を見た瞬間、子ども達は緊張の糸が切れたように小さな声を上げだす。

 親の魔物は子ども達に近付くと、身を寄せ合っては毛繕いを始めた。


 特に亡くなってしまった子どもには何度も声をかけていた。もしかしたらまだ生きているのではないか、と確認するように。




「あの魔物の子どもが、今回の討伐対象の魔物に襲われたんです。それで仇をとろうと次々と襲って……丁度その後に私達が此処に到着したんです」


「そういうことだったのか…だがこの地帯では見かけない魔物だぞ」


「季節毎に大移動する性質がありますからね。数も多くなく、とても希少な魔物になります」



 希少という言葉にカネル達は目をぱちくりとさせる。

 シルクはそのまま淡々と魔物について話し出した。



「クリアウルフと呼ばれる魔物です。討伐対象外の魔物で、寧ろ保護対象として分類されます。生え変わりで取れる爪や牙には希少な成分が含まれていて、魔法素材として扱われることもあります。滅多に人前には現れませんし、大移動して生活しているので場所を特定するのは困難な魔物でもあります」


「そんな希少な魔物と俺達出会っちゃったんだな…」


「はい……色んな偶然が重なってしまいました」



 シルクの表情には心做しか陰りが入っており、亡くなった子どもに視線を向ける。


 自然界において、魔物が別の魔物に襲われることは珍しくない。

 起こってしまったことは仕方がない。それが残酷なことだったとしても、受け入れるしかない。




 クリアウルフは子ども達に優しく語りかけると、子ども達はシルク達の方へと視線を向ける。

 子ども達は小さな声を上げると、シルクは静かに頷いた。

 カネル達には鳴き声としか聞き取られないが、シルクの様子からお礼の言葉を言っているのではないかと伺えられた。


 クリアウルフはシルクの目の前まで歩み寄り、小さく鼻をスンと鳴らしながら片方の前脚を軽く挙げる。

 シルクは目を丸くさせ、挙げられた前脚の下に自身の手を差し出した。



 ぽとりとシルクの手に何かが落ちる。

 それはクリアウルフの狼爪(ろうそう)で、取れた箇所からは新たな爪が生え変わろうとしている状態だった。



「…いいの?」


『先祖から代々言われていることなんだけど、人間って私達の爪や牙を欲しがってるんでしょ?貴方のような心優しい人間にならあげても良いわ。…助けてくれてありがとう』



 そう言ってからクリアウルフは鼻先をシルクの鼻先にちょんとくっつける。

 その後子どもの亡骸を優しくくわえ、子ども達を引き連れてその場から離れて行った。



 シルク達はクリアウルフの姿が見えなくなるまで見届け、シルクは手元で光る半透明の狼爪を見つめた。




「希少な素材を手に入れちゃって、流石シルクさんだね」



 ペーシェが隣にまでやってくると、狼爪を珍しそうに眺めながらそう語り掛ける。


 この希少な素材はシルクでなければ手に入ることは無かっただろう。

 シルクの魔物との触れ合い方をこの目で見たからこそ、そう断言できることだった。




 ――

 ――


「今日は色々とありがとうございました」



 帰りの馬車の中でシルクはカネル達に頭を下げて礼を言う。

 カネルは困ったような笑みを浮かべながらシルクに顔を上げるよう促す。



「お礼は此方から言わせてくれ。僕達の我儘に付き合ってくれてありがとうな」


「そうそう、実際にアドバイスを貰えて参考になったし。…想定外なこともあったけど、ちなみにそこは大丈夫なのかな?」



 ペーシェは若干ジト目になりながらシルクの左腕辺りに視線を移す。


 現在シルクは着替え魔法によって新しい白シャツを着ているが、着替え前は血で汚れボロボロな状態であった。

 シャツの袖から巻かれた包帯がちらと見えているが、シルクはローブの中に腕を隠してしまう。



「これは私の自己責任ですので気になさらないでください。ティピックさんへの報告も不要です」



 カネルはシルクに怪我を負わせてしまったことも報告に入れようと考えていた為、シルクの発言に軽く目を見開かせてから悩むように目を細める。

 アベルも反応し、眉間に皺を寄せてつい睨むような目付きになる。



「クリアウルフに遭遇した報告は確定事項なんだ。しかも保護対象となる存在となれば、子どもがやられたことも報告する必要がある。特にシルクさんは僕達よりもクリアウルフと関わったんだ。一からしっかりと報告するべきじゃないか」


「ではせめて、私が負傷したことは伏せておいてください」


「…何でそこまでして隠そうとするんだよ」



 苛立ちを含めた声色でアベルが問いかける。

 シルクは無表情のまま視線を逸らしてしまい、その行為がアベルを更に苛立たせた。


 そこでレザンが宥めるように落ち着いた声で割り込んだ。




「まぁ落ち着けよ。…何となくだけど、俺も怪我については一旦伏せといたほうが良い気がする」


「え、レザンまで何でそう思うの?」



 ペーシェとプラットは予想外だと言わんばかりに目を丸くさせる。

 レザンはアベルからの鋭い視線に冷や汗を流し、難しそうな表情で言葉を続けた。




「だってほら…俺達がシルクさんと関われないように無茶苦茶なスケジュールを組んできたあの人だぞ?シルクさんが引き受けた依頼で怪我を負ったってなればそれこそ自己責任になるかもだけど、今回はそうじゃないわけで。…もし正直に報告してしまえば、あの人のことだから何かしらしてくるんじゃないかな」



 カネルは深い溜息をついた。

 シルクはきょとんとした様子で目をぱちくりとさせているが、ティピックがシルクのことを大層気に入っているのをカネル達は嫌と言う程知っている。


 ティピックは渋々今回の同行を許可したというのもあり、自分達の依頼でシルクに怪我を負わせたと知られてしまえばどうなるか。

 今後控えているシルクの依頼の同行が無しになるだけでなく、再び関わりが無くなるように仕向けてくる可能性は十分考えられるのだ。




「複雑な気持ちではあるが、今回はシルクさんの意向に沿おう」


「…ありがとうございます」



 シルクは申し訳なさそうに眉を下げるも、どこか安心したように肩を下ろした。


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