132. 異変
指定された場所に到着し、午前の時のように討伐内容を確認してから、身を潜めさせやすい場所に各自移動していく。
存在感を消したシルクは箒に乗りながら、カネル達の様子を伺っていた。
そんなシルクの近くで、ガサガサと草が擦れる音が響いた。
そこに視線を移すと、草むらの中に身を潜めさせている小さな存在達が。
シルクは静かにそちらの様子も伺うと、狐面の下で目を丸くさせる。
辺りをぐるりと見渡し、カネル達の姿を追う為にその場を離れた。
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「…これはまた惨い状態だな」
「このパターン久しぶりですね」
カネルは悩ましい表情で、隣でぺーシェはつまらなさそうな表情で呟いた。
目の前に倒れているのは、今回の討伐対象である魔物のうちの1体。争った後の状態で既に息絶えている。
辺りにも同様の魔物が数体横たわっている。
中には僅かに意識を保っているものもいるが、限界に近く呼吸は浅い。
「噛み付かれた痕や引っかき傷の大きさからして、別の魔物による襲撃だな」
「アベル達に無線で連絡しましたけど、向こうはそんな様子は無いみたいです。まだ近くにいるんじゃないですかね」
「かもな…傷の状態からして、ついさっきできたばかりのものだ」
カネルは息耐えようとしている魔物の状態を観察し、静かにナイフを取り出す。
元々討伐対象の魔物である為、そこは割り切って始末する必要があるのだ。
そのまま辺りの魔物が全て動かなくなったことを確認してから、カネルは眉間に皺を寄せて悩ましい表情を続ける。
基本的に討伐対象外の魔物は手出ししてはならないのだ。
遭遇して襲いかかってきたとしても、目眩しで油断させてからその場を離れる等して、必要以上に傷付けないようにしなければならない。
魔物同士の争いはよくあることで、これまでにも何回かその場面に出くわしてきた。
しかしそれはカネル達にとっては不満を抱えるものだった。彼等にとっての本業である討伐を横取りされたような気持ちになるのが、その不満の1つである。
実際に報告の際にも正確な討伐数を報告する必要があり、魔物同士による争いは討伐にカウントされない。実績にも関わってくる為、彼等にとっては宜しくないことなのだ。
だがこれも自然界のルール。
不満を零したところで仕方がないのである。
「20体のうち6体もやられてるとなれば、争った魔物も相当な奴だぞ。姿を確認したら直ぐ共有するようにな」
「了解」
その直後、カネルの無線機が反応する。
ザザと雑音が小さく響いてから、レザンの声が聞こえてくる。
『こちらレザン。近くにペーシェもいますか?』
「こちらカネル、勿論いるぞ」
レザンの声色に焦りが混じっているのが伺えられ、カネルとペーシェは眉を顰める。
レザン達が向かった場所でも同様のことが起こったのだろうか。しかし焦っている様子には違和感を覚える。
『討伐対象の魔物が別の魔物に襲撃されているところを目撃しました。対象外の方は反撃されて崖下に振り落とされたんですが……シルクさんも一緒に崖下に転落した可能性が高いです』
二人は目を見開いたまま、無線機を凝視し固まった。
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数分前、別行動をとっているアベル、レザン、プラットは討伐対象の魔物と対峙し討伐を実行していた。
この時点では普段通り、各自武器を手にして攻撃と防御の繰り返しだった。
そんな中レザンは死角を利用し魔物に狙いを定め、魔力の弾丸を放とうしていた。
その時だった。
狙いを定めていた魔物に何かが勢いよくぶつかり、魔物は吹き飛んだ。
何事かとレザンは目を丸くさせ、吹き飛んだ方向へと視線を移す。
吹き飛ばされてきたのは仲間の魔物であり、傷だらけな上に既に息絶えている状態だ。
そんな仲間の惨状に魔物は困惑しているのか、よろめきながら立ち上がって辺りを見渡す。
アベルとプラットも突然の出来事に驚愕の表情を浮かべ、吹き飛んできた方向に視線を移した。
そこには身体中に傷を負いながらも、強い殺気を放つ魔物の姿。
今回の討伐対象ではない、まったく別の種類の魔物だ。
「おいおい、今回はこのパターンかよ」
「状態から既に何体かとやり合ってるな…一旦引くか?」
討伐対象の魔物程の大きさではないが、鋭い爪や牙が剥き出しの状態で如何にも凶暴な様子。
この辺りに住む魔物でこのようなものがいただろうかと、アベル達は事前に把握していた情報を頭の中で整理しながら警戒を続ける。
傷だらけの魔物が動いたと思えば、アベル達は再び目を丸くさせる。
視界にはアベル達の姿も入っていたのだが、その魔物はアベル達には目もくれず討伐対象の魔物に向かって突進しだしたのだ。
魔物同士の激しいぶつかり合いが始まり、アベル達はそれぞれ身を潜めやすい場所に避難する。
「他にも同様の魔物がいたら厄介だな…」
レザンはカネル達にも情報を共有しようと無線機に手を伸ばす。
そこで再び衝撃音が響き渡り、警戒態勢を続けながらその要因となる場所に視線を移した。
直後、傷を負った魔物は討伐対象の魔物の攻撃によって吹き飛ばされてしまう。
丁度後ろ側は崖となっており、真下までの距離は高い。あの傷を負った状態で更に落下の衝撃が加わればひとたまりもないだろう。
そのまま落下するのをアベル達は身を潜めたまま見届ける筈だった。
しかし途中で異変が起こる。
丁度アベルの目の前に何かが勢いよく横切る。
何かが見えたわけでは無い。だが何かが横切ったことで辺りに風が舞った。
それと同時に、不思議な魔力が通り過ぎたのをアベルは感じ取った。
横切った何かを目で追うようにし、目の前の光景がスローモーションのように遅く感じる。
落下していく魔物の身体が、何かがぶつかったかのような不自然な動きを見せた。
そのまま魔物の姿は見えなくなる。
何秒経過したのだろうか、アベルの近くでカランと音が鳴る。
そこには藁の箒が落ちていた。
シルクが使っている箒だ。
「……は?」
一瞬何が起こったのか分からず、アベルは箒を見てから再び崖の方へと視線を移す。
レザンとプラットも突然のことに固まってしまっていた。
しかし討伐対象の魔物が放った雄叫びによって我に返り、体感温度が下がるような感覚に襲われる。
「今のってまさか、シルクさんも落ちたんじゃないだろうな」
「何やってんだ馬鹿!」
「あ、おいアベル!」
アベルは飛行用の箒を取り出し、そのまま崖から飛び降りてしまう。
プラットとレザンも崖前まで向かおうとするが、討伐対象の魔物が立ちはだかったことで足を止める。
「さっさと仕留めて俺達も下に行くぞ。レザンは隊長に連絡してくれ」
「了解」
再び始まった戦闘の中、プラットは焦りと同時に呆れの表情も浮かべていた。
「…気にしてないとか、やっぱ嘘じゃねぇか彼奴」




